Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

126 / 198
土曜日はガブの映画を朝一で見に行くぞー!
SNSは封印するぞー!


第百二十四話

「……そんな馬鹿な」

 

 歩兵隊の長を務める男性の声が静かに響く。

 IS学園のシステムダウンを確認した特殊部隊のアンネイムドはすぐさま学園への侵入を開始し、隊長の女性はすでに専用機を纏って学園内部へと侵入している。

 彼ら歩兵たちの役割は慌てふためいている学園生徒たちの制圧―――しかし、学園の敷地内に侵入した矢先に遭遇したのは学園最強の更識楯無。

 

「待っていたわよ、名もなき兵隊(アンネイムド)さん」

「そこまで素性がバレているか」

「対暗部用暗部を舐めないで頂戴」

 

 歩兵隊の数は十人、それに対して目の前にいるのは十代の少女が一人だけ。

 人数だけ見れば圧倒的に侵入者の方が多いが装備だけでその圧倒的なまでの数の優位性を覆してしまい、戦いにすらならないだろう。

 しかし、名もなき兵隊(アンネイムド)たちは落ち着き払っている。

 

「貴様のIS……部分展開しかできないことはすでに把握している」

「あら、侵入者も意外と情報通なのね」

「こちらの装備はすべて対IS用だ……どこまで戦えるかな?」

 

――――――☆――――――

 

 侵入者の男が言うように今、楯無の専用機であるミステリアス・レイディは部分展開しかできないほどに損傷しており、大幅に戦力はダウンしている。

 PICもまともに機能しておらず、空中に浮遊することさえできない。

 唯一の救いはISの重量をいつも通りに無視できること。

 相手がただのごろつき程度であれば難なく処理できるが相手は特殊部隊、そして装備している武器は対IS用ときている。

 

(なんとしても歩兵隊はここで食い止める……ISの方は織斑先生が叩く)

 

 相手に悟られないように視界に機体ステータスを表示し、使用可能な機能を確認するが正直、不安が増すだけの情報しか出てこない。

 清き熱情(クリア・パッション)、ラスティー・ネイルと左側だけのアクア・クリスタルとそこから構成されている水のヴェール。

 しかし、水のヴェールの防御性能も半減。

 

「かかってきなさい……学園の平和を乱す存在は私が叩き潰すわ」

「ふん……散開!」

 

 班長の号令の下、隊員たちが散り尻に動き始める―――同時に楯無は指を軽くパチンと鳴らす。

 次の瞬間、複数の地面が爆音を響かせながら大きく爆ぜて数人の隊員を大きく吹き飛ばし、一撃をもってしてその意識を刈り取る。

 

(今ので四人無力化……残り六人)

「っと」

 

 しかし、土煙に隠れながら侵入者たちは楯無めがけて対IS用の特殊合金製の弾丸を用いた銃撃をお見舞いするがそれらはすべて水のヴェールで速度を半減させられ、いとも簡単に回避される。

 通常であれば水のヴェールで包み込み、無力させるが今は性能が半減となっている以上、速度を鈍化させることが限界だった。

 背後に気配を感じた楯無はバック宙をしながら上空へと舞い上がると隠密に後方へと回っていた隊員の頭上を飛び越える。

 その時、背中に鋭い痛みが走り、楯無は空中でわずかながらにバランスを崩す。

 

(この程度の痛み!)

「はぁぁぁっ!」

「がはっ!」

(残り五人!)

 ラスティー・ネイルの面の部分を隊員の頭部に全力で叩きつけ、一撃で意識を刈り取るとすぐさまその隊員を首根っこを掴んで近くの隊員めがけて投げつける。

 

「ぐぅぇっ!」

「弾けなさい」

 

 パチンともう一度、指を鳴らすと同時に地面が大きく爆ぜて二人の隊員が空中に飛び上がり、そのまま地面めがけて頭から落ち、意識を失う。

 

(残り四人!)

 

 直後、四人が同時に手りゅう弾を楯無めがけて放り投げる。

 楯無はすぐさま後ろへと大きく飛びのき、爆風の範囲外へと出ようとするがISのハイパーセンサーが隊員たちの僅かな表情の変化をとらえる。

 

(ちがうっ! これは手榴弾じゃ)

「遅い」

 

 地面に手榴弾が触れた瞬間、凄まじい光量の発光が発生し、ハイパーセンサーによって感度が上がっている楯無の両の目を僅かの時間だけ暗闇で包み込む。

 視界を奪われた楯無はすぐさまその場から移動しようとするが背中に強烈な衝撃が何発も全身を響かせると同時に裂傷が開く嫌な音が聞こえた。

 振り向きざまにラスティー・ネイルを振るうがその一撃は空を切り、同時に右方より弾丸が直撃するが先ほどとは違うものだと一瞬にして悟る。

 

(吸着型爆弾!?)

「ぐぅぅっ!」

 

 体の右側にくっついた複数の爆弾を振り払おうとしたその時、的確に左腕に弾丸が直撃して大きく左腕が逸らされてしまう。

 直後、連続した爆発が発生し、水のヴェールがはじけ飛んでしまう。

 

(今の爆発でヴェールが維持生成できなくなっちゃったか……でもナノマシンは生きている)

 

 回復した両眼を開き、地面に落ちようとするナノマシン入りの水をラスティー・ネイルで掬い上げ、それを広い範囲に散布する。

 

「各員、濡れた個所には近づくな」

「「「了解」」」

(ミステリアス・レイディの能力も収集済みってわけね)

「ふぅっ……はぁっ」

 

 先ほどから背中の鋭い痛みが断続的に楯無の意識に響いており、思考をかき乱す。

 吸着型爆弾によるダメージが想定以上に大きく、各所にエラーが起きていることをいくつものウィンドウが示してくるがそれを薙ぎ払う。

 

「まだ傷も癒えておらず、機体も回復していない状態でここまでよく戦えたものだ」

「これでも……生徒会長よ。舐めないで」

「ガキがあまり強い口調を大人に使わない方がいい」

 

 四方向を囲まれ、銃口を向けられている楯無は背中の痛みに耐えながら必死にこの状況を覆す策を考えるべく思考を張り巡らせるが痛みによって思考がまとまらない。

 

(残されているのはアクア・クリスタルと最後に撒いた清き熱情(クリア・パッション)……背中の傷もバレている以上……いいえ、敢えてこれを囮にすれば)

「何を考えているかは知らないが……お前の負けだ」

「さあ……それはどうかしらね」

「ほぅ……背中の痛みに耐えながら笑えるか」

「流石は日本の暗部だな……本当に十七か? 良い体つきしてるぜ」

 

 男特有の不愉快な言葉を無視して楯無はラスティー・ネイルを握り締める。

 

(私は対暗部用暗部の更識家の当主であり、楯無の名を継ぐもの―――同時にIS学園の生徒会長であり、学園の治安を守る使命がある……彼が私を助けてくれたように……)

「この学園は……私が守る!」

「言ってろ」

 

 複数の発砲音が同時に鳴り響く―――楯無はラスティー・ネイルで叩き落そうとするがすぐに気付く。

 左右と前方の銃は空砲であり、本命は―――

 

「後ろだ」

 

 楯無の背中に弾丸が直撃すると同時に全身に激痛が走り、悲鳴を上げたくなるが必死に歯を食いしばってこらえるが背中を血が伝う感覚が彼女を襲う。

 もう絶対防御すらまともに機能していないISなどISと呼べるのか、と自問自答しながらゆっくりと前のめりに倒れていく。

 

(これがラストアタック!)

「っっ!? こいつまだっ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 楯無は手に握っていたアクア・クリスタルを手放すと同時にラスティー・ネイルでアクア・クリスタルを真っ二つに切り裂く。

 次の瞬間、勢いよくアクア・クリスタルからナノマシン入りの水が周囲へと爆ぜ、隊員たちの足や手などの隊服に付着する。

 

「しまっ」

清き熱情(クリア・パッション)!」

 

 楯無の叫びと同時に男たちの隊服で爆発が発生し、男たち―――いや、さっきの瞬間まで生命だった肉塊たちがあたり一面に肉片を弾けさせながら飛んでいく。

 その中心地にいた楯無の綺麗な顔や手、足などに男たちの返り血が付着する。

 

「……」

 

 任務の度に嗅いでいたこの死体の匂い。

 IS学園の生徒会長についてから久しく嗅いでいなかったが久しぶりに彼女の鼻腔を刺激するその悪臭は楯無の思い出したくない記憶を吊り上げる。

 対暗部用暗部である以上、血を見てきたことは山ほどある。

 死体も見てきた。

 この国の平和を守るためならばと自らの手で法の外にいる連中を亡き者にだってしてきた。

 更識家は唯一、国家を脅かす存在の殺人を許可されている。

 周囲に転がる無残な死体を目にした瞬間、楯無の脳裏に彼の顔が浮かび上がり、途端に胸がずきりと痛み、まるで締め付けられるように苦しい。

 それは楯無が今まで考えないようにしてきた答えだった。

 

「……やっぱり愛しちゃったか……あの人のこと」

 

 楯無である以上、次の世代に引き継がねばならない。

 女としてこの家に生まれたからには後継ぎとなる子を産まなければならず、その子こそが次のこの国の平和を守る楯無となる。

 

「今の私を見て……あの人は何て言うかな」

 

 状況を見れば彼は察しはするだろうが今まで表の世界で生きてきた一般人である彼が楯無のすべてを理解することはあり得ない。

 きっと殺人者という気持ちは少なからず出てくるだろう。

 そして千冬との契約により、彼を裏の世界に引き込むなと言われている。

 彼が表で生きていく以上、裏を生きる楯無が彼と同じ時間を過ごすことは物理的に不可能であり、楯無が望む未来は決して来ない。

 むしろ来てはいけない。

 

「あ~あ……好きになっちゃ……ダメなのにな~」

 

 楯無はずっとこらえてきた思いがあふれ出し、両目から大粒の涙が次々と頬を伝って地面へと落ちていく。

 楯無という立場がある以上、絶対に叶うはずのない恋をしてしまい、胸がズタズタに切り裂かれる苦しみをこらえられずに涙が止まらない。

 

「大好き……大好きだよぉ、一夏君」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。