Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百二十五話

 ――――――数刻前、IS学園地下特別区画

 

 地上部隊より更識楯無との戦闘が始まった報告を受けた名もなき兵たち(アンネイムド)の隊長を務める女性は何の感情も抱かずただ悠然と特別区画を進んでいく。

 彼女が纏う専用機は『ファング・クエイク』ではあるがアメリカの代表操縦者であるイーリスが使用するファング・クエイクとはデザインも違うが何より、モデルが異なっていた。

 強襲仕様高速格闘モデルのイーリスに対して名もなき兵たち(アンネイムド)の隊長が纏うのはステルス仕様、つまり隠密作戦モデルになる。

 それこそ彼女を現す戦闘モデルだった。

 名もなき兵たち(アンネイムド)に所属する隊員には名前、国籍、宗教などありとあらゆる個人情報が存在しておらず、まさに隠れ、密に戦う存在。

 

「…………」

 

 隊長はただ一つの目的のために薄暗い廊下を進んでいく。

 IS学園の地下深くに保管されているという未登録のISコアの奪取。

 それがすべての国家が喉から手が出るほど欲しているのは理解しているが正直なところ本当に学園に保管されているのかが怪しい。

 歴史は繰り返す。最初は悲劇として、次は喜劇として―――ドイツのある哲学者の言葉にあるようにまた繰り返すのではないかと。

 自分たちはただ与えられた任務をこなすための存在。

 しかし、いまだに拭えない不安と言葉では言い表せない何かの感情が彼女の胸の内を埋め尽くしている。

 

(噂によれば完全自立無人機のISコアだと聞くが……その情報を一体どこから)

 

 完全自立無人のISなどまだこの世界には生み出されていない技術であり、そもそも人が乗った状態でさえまだ完成していないというのにそんな余裕がある国などどこにもないはず。

 しかし、米国にとってISの数を秘密裏に増やすことよりもその新技術を独占することができれば“ある計画”は完成するという。

 

(計画が完成すれば世界地図を塗り替えられるというが……)

 

 その時、ISからの通知が送られ、隊長はファング・クエイクの浮遊による前進を停止し、前方の闇の中で立ちふさがっている存在に目をやる。

 その存在は太ももに左右三対の日本刀を鞘に納めており、さらには両手に二本の刀を握り締めていた。

 その時、通路に設置されている非常灯がいくつか点灯され、淡く目の前の存在の顔を浮かび上がらせる。

 肉眼では全体像をとらえきれない彩度でもISのハイパーセンサーであれば捉えられる。

 

「貴様はッッ!」

「世界に存在し得ない特殊部隊にまで名が知れているとは光栄だな」

「貴様を知らぬ人間などこの世界にいるものか……織斑千冬!」

「そうだな……行くぞ」

 

 その瞬間、一迅の風が吹き荒れたかと思いきやファング・クエイクの脇腹の装甲から甲高い金属音と火花が散り、影が隊長の頭上を飛び越える。

 その身体能力も目を見張るが何より相手が纏っている装備が異常だった。

 装備している刀は対IS用だと一目で分かるが纏っているスーツは明らかに対通常兵器用であり、とてもじゃないがISに立ち向かえる装備ではない。

 

「どうした? ぼーっとして」

「っっ!?」

 

 声が聞こえるとともに前方から千冬の姿が消えた途端、ファング・クエイクが縦に勢い良く切り裂かれ、慌てて拳を振り下ろすが股下をすり抜けられ、拳は回避される。

 

「ふむっ。二撃程度で刃こぼれか……仕方あるまい」

 

 そう言いながら千冬は刃こぼれした二本を通路に突き刺し、鞘から新たに二本の刀を抜き取り、構えを取る。

 隊長はISのステータスを確認するがほんのわずかにエネルギーが減少しただけであり、装甲に至ってはほとんど無傷の状態だ。

 

「生身でISに勝つつもりか?」

「ISのような欠陥機に後れを取る気はない……ところで米国の特殊部隊とやらも随分と暇な部隊なのだな」

「なに?」

「わざわざ部隊を引っ提げて極東の国にまで旅行とは……狙いは例の残骸だけではあるまい」

「そこまで分かっているのであれば何を考えている!」

 

 怒声を上げながら隊長はスラスターを吹かして千冬へと一気に接近し、回し蹴りを放つ。

 常人であればISの速度に反応できずに回し蹴りをまともに食らって即死―――しかし、千冬は回し蹴りを見切ってバク転をしながらそれを回避する。

 続いて繰り出される回転からの踵落としをその場から壁に向かって駆け出し、回避したかと思えばそのまま壁を忍者のように走って隊長の後ろを取り、二本の刀で交差に切り裂き、一瞬で距離を取る。

 

「ジャパニーズニンジャがまだ実在したとはな」

「この程度、朝飯前だ」

 

 直後、通路内に凄まじい踏み抜き音が響いたかと思えば一気にファング・クエイクとの距離を詰める。

 

(バ、バカな! 一瞬、センサーから消えたぞ!?)

 

 慌てて拳を突き出すが千冬は姿勢を低くしてスライディングの体勢で地面を滑りながら正拳突きを回避して股下を潜り抜け、すれ違いざまに膝関節の裏側を切り裂く。

 潜り抜けたと同時に日本刀を逆手に持ち替え、隊長が振り返ると同時に再び股下を潜り抜け、膝関節部分を勢い良く切り裂く。

 その鋭さは火花が散るほど。

 

「ちっ! 化け物(モンスター)が!」

「私にとっては誉め言葉だ……刃こぼれか」

 

 小さく舌打ちをする千冬は刃こぼれを起こした刀を今度は左右の壁に向けて勢いよく放り投げて突き刺し、新たな刀を抜く。

 通常兵器による攻撃などISの装甲には傷一つつかない―――しかし、隊長は目の前の存在に徐々にある感情を抱き始めていた。

 

(なぜだ……明らかにこちらが優位なはずなのに押されていると錯覚する)

 

 ヒュンヒュンと空気を切り裂きながら刀を勢いよく振り回し、構えを取る千冬からは尋常ではないほどの殺気を感じてしまう。

 圧倒的に優勢なのはこちらのはずなのに。

 

(こんな……こんなバカなことがあるか……ISが生身の人間に押されるなど!)

「死ねぇぇっ!」

 

 その場から一瞬にしてファング・クエイクの姿が消え去る―――瞬時加速(イグニッション・ブースト)を生身の人間に対して発動した隊長は残像を残しながら距離を一瞬で詰め、拳を―――

 

「い、いない!?」

 

 突き出したころにはすでにそこに千冬の姿はなく、ただ慟哭する隊長の声だけが響くがその時、視界の端でわずかながらに光の反射を見つける。

 ハイパーセンサーでその正体を探るとそれは肉眼では決してとらえられないほどに極細のワイヤー。

 それを追いかけると壁に突き刺さった両方の鞘へとたどり着くとともにワイヤーによって天井に両足をつけている千冬の姿を見つける。

 

(そうか……鞘から伸びるワイヤーを私の機体の膝へと巻き付かせ、行動の勢いで天井に……い、いや待て)

「き、貴様……生身で瞬時加速と同等の速度で天井に張り付いて無傷、だというのか!?」

「そのためのスーツだ」

 

 千冬は涼しい顔でそう言いながら天井から通路へと降り立つ。

 重力や重圧に耐えるためのスーツを纏っているとしても瞬時加速の速度に耐えられるなどまずありえない。

 

「こ、これが世界最強ッッ!」

「違うな……今の私はそんな生温い存在ではない。今の私は」

「っっ! はぁぁっ!」

 

 隊長はスラスターを全開で吹かし、殴りかかる―――しかし、千冬は落ち着いて左方向へと大きくサイドステップを踏むと同時に二本の刀をわき腹めがけて振りぬく。

 

「一人の姉であり、悪魔だ」

 

 凄まじい金属音と火花が散るが装甲には傷はついておらず、逆に千冬の持つ刀ばかりが刃こぼれを起こしていき、武器が徐々にその数を減らしていく。

 千冬は再び刃こぼれした刀を通路に突き刺す。

 

「う、うぉぉぉぉぉっ!」

「恐怖に支配された獣ほどよく吠え、動きが単調になる」

 

 千冬は大きく後ろへと飛びのく―――次の瞬間、隊長は突き刺さった刀たちから赤熱反応を起こしていることに気付き、慌てて止まろうとするが時すでに押し。

 

「さらばだ」

 

 直後、全ての刀が次々に大爆発を起こしていき、壁も床も天井に一気に崩壊を始めるが千冬は腕を組んだまま火の手が上がる目の前の光景を見るだけ。

 連続的な爆発により多少のエネルギーは削られた隊長だが任務続行に支障はないと判断し、僅かに震える手を握り締めて千冬へと殴りかかる。

 

「その覚悟は誉めてやろう……だがここは敵の巣だ。それを忘れたお前は」

「っっ!」

 

 ハイパーセンサーが隊長にある情報を伝える。

 それはロックオンされているという最悪の情報であり、空いた大穴を見てみると超大型ガトリングを四基装備したラファール・リヴァイヴがいた。

 

(クアッド・ファランクス!? センサーには)

 

 そこまで考えたところでリヴァイブの足元にステルスマントが目に入る。

 そう―――最初から隊長は

 

「敗者だ」

「いっけぇぇぇぇぇ!」

 

 高らかに響き渡る真耶の叫びをかき消すようにして超大型ガトリングから隙間なく断続的な爆音とともに無数の鋼鉄の弾丸が隊長に降り注ぐ。

 その威力はISの絶対防御をも飽和させるほどの威力。

 目の前の圧巻な光景を見ながら千冬は通路にペッと唾を吐き捨てると若干、血が混じっていた。

 

「むっ……天井に張り付いた際に舌を軽く嚙んでいたか」

 

 数分間続いた鋼鉄の弾丸の豪雨が止んだころにはボロ雑巾のようにズタズタに破壊されたファング・クエイクが倒れていた。

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