Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百二十六話

「ここがアクセスルームですの?」

 

 最初に言葉を発したのはセシリアでそのあとに続いて口々に部屋を見た感想を告げる。

 部屋の中には計六台のベッドチェアが設置されており、枕元にはISのヘッドギアにも似たパーツが置かれていてそこから何本ものケーブルが伸びている。

 

「みんなは……チェアに楽な姿勢で。私がデスクでサポートする」

「う、うむ……この部屋と言い、先のオペレーションルームと言い……この学園は一体なんなんだ」

 

 ラウラのつぶやきに全員が同意の表情を見せる。

 明らかにIS操縦者を育成するための教育機関とは思えないほどに秘密の施設がありすぎるこの場所に対して疑念を感じえないが今はそれどころではない。

 簪を除くメンバーがヘッドギアを装備し、ベッドチェアに横たわる。

 確認した簪は打鉄弐式を起動させ、コンソールだけを呼び出して目の前にずらりとキーボードを展開させる。

 

「みんなはISコア・ネットワークに接続するために……ソフトウェア優先処理モードに移行を」

「バックアップは頼んだよ、簪」

「……任せて」

「しかし、電脳ダイブとはどのような感じなんだ」

「ダイブする際は入眠するように負荷無く入れるからご安心を」

「そ、そうか」

「まぁ、不安は不安よね」

「無駄口は叩かない」

 

 簪のぴしゃりとした切り捨てに一瞬、戸惑いを見せるがすぐさまその理由に気付き、五人は黙る。

 

「……ごめんなさい」

「仕方がありませんわ。お姉さんが一人で戦っていますもの」

「そうよね……ちゃちゃっとシステム復旧させて生徒会長を助けに行くわよ!」

「……ありがとう」

 

 簪はズラリと並べたキーボードを目にもとまらぬ速度で叩いていき、電脳ダイブの準備を完了させていく。

 学園のシステムを早急に再起動させなければ楯無が危ない―――簪の頭の中はそれでいっぱいだった。

 

「電脳ダイブ後は仮想現実として視覚化される……ただ相手もダイブしている以上油断は禁物」

「了解した。簪、頼む」

「では……ダイブ開始!」

 

 簪が電脳ダイブシステムを起動した瞬間、五人の意識がまるで眠りに入るようにスムーズに落ちていき、アクセスルームは物音ひとつしなくなった。

 

「……皆、頑張って」

 

 

――――――☆――――――

 真っ暗な闇の中を落ちていく五人だったが徐々にその速度がゆっくりになっていくのを感じ、数秒後には地面へと降り立つ。

 五人が顔を上げると目の前には五つの扉が設置されている。

 

「ダイブは五人、扉も五つ」

「簪、これは一体何なの~?」

『IS学園の基幹システムは五つの領域に分散させて管理している模様……企業や国家などに関わる対外システム、成績処理などの生徒に関わる管理システム。IS管理システムに生徒や教員が使用するデバイス管理のためのシステム、そして学園の警備に関するシステム。これらは大本の基幹システムとリンクしているから』

「一つがやられれば芋ずる式でやられるというわけだね」

『そう……だから一人一つずつシステムを開放しなければ学園は復旧しない』

 

 誰がどれというくだらない相談をすることもなく彼女たちはそれぞれの扉の前に立ち、互いの顔を見あい、突入のために心を落ち着かせる。

 敵も電脳ダイブしている以上、扉を開けた先で戦闘に陥る可能性は十分にあり得る。

 

「みんな……準備は良いな?」

 

 ラウラの確認の問いかけに全員が静かに、強く首を縦に振る。

 そして全員がそれぞれのドアノブを握り、同時に扉を開いて中へと入っていった次の瞬間、ほんの一瞬だけ閃光が放たれる。

 

『みん―――! 応答―――! み―――』

 

 簪の声はもう誰にも届かない。

 

――――――☆――――――

「……ここは」

 

 扉をくぐるとともにまぶしい閃光が放たれ、思わず鈴は目を閉じるが閃光が収まったのを感じ、目を開くと目の前には教室の扉があった。

 

「……あれ? 誰もいない」

 

 鈴はキョロキョロと周囲を見渡すが周りには誰もおらず、壁に掛けられている時計を探すがどこにも時間を確認できるものはなかった。

 しかし、よく耳を澄ましてみると目の前の扉からほんの少しだけ声が漏れており、どうやら朝の会をしている様子だったことは何とか分かった。

 

「……あ、そうだ。あたしが転校した日だ」

【ワールド・パージ】

 

 ほんの一瞬だけ声が聞こえた気がして後ろを振り返るが誰もいない。

 それに少しだけ遅れて教室の扉が開かれて優しそうな女性が彼女を手招きしており、それに従って一歩踏み出そうとした瞬間、鈴の胸の内から全身にかけてひんやりとした何かがあふれ出し始める。

 

(な、なに……この感覚……足が……動かない)

 

 頭は一歩踏み出せと命令しているのに足が全く動かず、女性がしゃがみこんで視線の高さを合わせながら頭を優しくなでて声をかけてくれるがなんと言ったのか聞こえなかった。

 指が小さく小刻みに震え始め、口内の水分がサーっと引いていき、喉が異常に乾く。

 

(ぁ……怖いんだ)

 

 生まれてからずっと中国で暮らし、友達も多数いた鈴だったが両親の仕事の都合により日本へと引っ越してきたが不安の連続だった。

 ちゃんと友人を作れるのかどうか、日本での生活になじむことができるのかどうか。

 鈴は女性に手を引かれるがままに教室へと一歩、踏み込むと全身がハチの巣になるかの勢いで教室全体から奇異なものでも見るかのような視線を向けられる。

 

「さっきも言ったように今日からこの教室に新しい仲間が加わります。自己紹介、お願いできる?」

 

 女性の優しい言葉に小さく頷いた鈴は意を決して前を見るが全員と視線がパチリと合ってしまい、胸がきゅっと強く締め付けられる。

 

「ふぁ、(ファン)鈴音(リンイン)です」

 

 自己紹介をしただけだというのに教室の生徒たちは口々に呟き始め、それらはすべてハッキリと嫌になるくらいに鈴の耳にも届く。

 

―――本物の外国人だ~

 

―――日本語喋れるんだ~

 

―――ファンリンインってどっからが名字?

 

 頭に直接響くかのような呟きたちが脳内に反響し、鈴は目に涙をためながらスカートの裾をキュッと握りしめて視線を下に逸らしてしまう。

 その後のことはよく覚えておらず、女性に手を引かれながら自分の座席に座り、朝礼を受けたような気がするが定かではなかった。

 そして授業が始まっていくがまだ教科書ももらっておらず、あまつさえ周りとは違う制服を着ていることで孤独感や孤立感が彼女を包み込む。

 それは休み時間になっても続く。

 誰も話しかけてこない。

 みな、興味はあるようでチラチラとみてきたりするがそれだけであって話しかけようとはせず、少し距離を開けて友人たちと喋っている。

 

―――ほら、あの子が転校生

 

―――へ~、女の子じゃん

 

 窓から聞こえる声に反応し、視線を向けるとよそのクラスから噂を聞き付けたであろう男子たちが集まってきており、ジーっと鈴のことを見ていた。

 その様子はまるで動物園のようだ。

 

(怖い……怖いよ)

 

 スカートをぎゅっと握りしめ、必死に襲い掛かってくる恐怖と戦う鈴だがほんの一瞬だけ脳裏に誰かの顔が浮かび上がった。

 恐る恐る顔を上げて周りを見渡すが誰とも目が合わないし、なぜ顔を上げたのかもわからなかった。

 

「お前は今日からファンファンだ!」

「ぇ?」

 

 突然、降ってきた声に驚き、顔を上げるといつのまにか夕暮れ時になっており、鈴の周りにはニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべている男子が二人ほどいた。

 その手にはなぜか雑草が握られている。

 

「ほら、この前ニュースになってただろ! 中国からパンダのリンリンが来たって!」

「同じ中国だし名前もパンダみたいだからファンファン! ほら笹だぞ!」

「や、やっ……やめてっ」

 

 笹と言い張るその辺から引きちぎってきたであろう雑草を口元に近づけられ、必死に押し返そうとするが男子たちはしつこく草を近づけてくる。

 

「もうやめてよ! あたしはパンダじゃないもん!」

「わ~、ファンファンが怒った~」

「ファンファンが怒った~」

 

 わざとらしく声を上げながら男子たちはなおもちょっかいをかけ続ける。

 鈴は泣くのを必死に唇をかみしめて耐えるがすでに心は崩壊しかかっていた。

 

(助けて……助けていち……あれ?)

 

 無意識のうちに何かに助けを求めていたような気がするがすぐにその思考は流れていき、男子たちのからかいの声が脳内を支配する。

 

「うぅっ……もうやだっ!」

 

 鈴はその場にしゃがみこんで泣きじゃくり始めるがそれでもなお男子たちはからかうのを辞めず、鈴は耳をふさぐが今度は頭の中で大きく反響する。

 それはまるで心を削り取るかのように。

 

「ファンファンが泣いたぞ~!」

「パンダってどう泣くんだ?」

「さあ?」

「お腹空いてんのか? 笹、食えよ」

「やだっ! やだやだやだやだっ!」

 

 鈴は必死に耳をふさぎながら声をかき消すかのように大きな声で泣きじゃくるがそれを上回る音量で男子たちのからかいが響き渡る。

 鈴は頭を左右に振りながら泣き叫ぶ。

 そして彼女が気付かないうちに周辺の景色がぐにゃりと歪み、一つの穴が生まれるとそこから銀髪の少女―――クロエ・クロニクルが現れる。

 

「あなたの絶望のトリガーは織斑一夏がいないこと。それにより、あなたは虐めから救われることなくやがては不登校となって部屋に引きこもる」

 

 クロエが状況を冷静に分析してそう言うが鈴の耳にはそんな声は届いていない。

 ただただ、早くこの地獄が終わるのを待ち続け、永遠に苛めを受け続ける幻を見続ける。

 本来であればこのいじめから織斑一夏が鈴を救い出し、そこから物語が始まるがここは織斑一夏が存在しないクロエが作り出した幻の世界。

 

「この最悪の世界で絶望し、一生彷徨うと良い……悪夢は終わらない……ワールド・パージ完了」

 

 クロエがそう呟くと同時に鈴の周辺の床が徐々に黒ずんでいき、真っ黒な闇が出来上がるとそこから闇が彼女を包み込むようにして伸びていく。

 

「絶望という闇に落ち、覚めない悪夢を……おやすみなさい」

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