Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

129 / 198
第百二十七話

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 気が付いた時には机を強く叩きながらみんなの前で勇ましく声を上げていた。

 なんとなく周囲を見渡してみるとそこは見知ったIS学園一年一組の教室であり、普段と何ら変わらないクラスメイト達が座っていた。

 唯一違う点は五人×六列という奇麗な座席構成だったはずが五人×五列と四人が一列というぽっかりと空席が一つ空いた構成になっていたこと。

 

『ワールド・パージ』

(なぜ、わたくしはこれに違和感を感じましたの? 最初から一組は二十九人学級のはず)

 

 ふと思い出した。

 今の時間は入学当初に恒例のクラス代表を決める時間帯であり、確かついさっき始まったがISの生みの親である篠ノ之束の妹がいるからというくだらない理由で代表が決まりかけていた。

 実力・名声ともにイギリス代表候補生である自分の方がふさわしいという怒りにも似た感情と自薦をするという意味も込めて立ち上がった。

 

「第一、篠ノ之博士の妹というだけでクラス代表にするのは断じて反対ですわ! 実力的に見れば新入生主席のこのわたくしが就任するべきなのは自明! 素人当然の人間がわたくしの上に立つなど屈辱以外の何物でもありませんわ!」

「候補者が二人いれば模擬戦で決めようと思うが異論はないな?」

 

 担任の千冬がそれをクラス全体に確認するが面倒ごとには関わりたくないという意思の表れなのか誰も異論を発することもなく、ただぼーっと一点を見つめるのみ。

 そんなこんなで模擬戦の日程も決まり、授業が進んでき、あっという間に休み時間となった。

 

「……」

 

 休み時間になった瞬間、無意識のうちに立ち上がって前方の座席へと向かっていたが途中でふと我に返り、教室の中途半端な位置で考え込んでしまう。

 なぜ、自分は立ち上がっているのかと。

 

(わたくしは前の席の方に用などないはず……何故立ち上がって)

 

 セシリアの脳裏にふとノート、という三文字が浮かび上がり、前方の座席へと視線を向けるがこのICT教育全盛期と言われている時代にノートで勉強という化石のような勉強法を実践している者などいない。

 少なくともこのIS学園では全生徒にタブレット端末が配布されており、全ての学習内容はタブレットで実施されているはず。

 だから全員、タブレット端末を持っているわけである。

 

(なぜ、わたくしはノートなどという前時代の遺物を考えて)

 

 その時、始業を告げるチャイムが鳴り響き、全員が座席につくとともに千冬が出席簿を片手に入室し、授業が開始されるがセシリアは違和感しか感じていなかった。

 

(な、なんですの……この違和感は……何か欠けているような)

 

 授業がスムーズに進んでいくのは当然。

 義務教育の時代からIS教育を受けている彼女たちにとって入学当初に行われる授業内容はこれまでの復習内容であり、真新しいことなど何もない。

 だから誰も質問をしないし、千冬の言っていることを全て理解し、追いついている。

 しかし、そのスムーズに進んでいく授業が異常なまでにおかしかった。

 

(なぜこんなにもスムーズに……まぁ、当然ですわね)

 

 自分にそう言い聞かせてタッチペンをタブレットの画面に走らせようとしたその時、ふと場面が変わって第一アリーナの上空へと移る。

 ポーっとしていると観客席からまばらな声が響き渡るがあまりいい内容ではなかった。

 

―――いくらなんでもやりすぎじゃない?

 

―――代表候補生ってみんなあんあに上から目線なわけ?

 

―――模擬戦の最中に鼻歌歌うとかちょっとやばくない?

 

―――篠ノ之さん、可哀想

 

 

 目の前には訓練機である打鉄を装備した箒が膝をついているがその装甲はボロボロであり、たいして自分の専用機であるブルー・ティアーズの装甲はほとんど無傷だ。

 そしてふと思い出すのは先ほどまでの模擬戦の様子。

 

『二十七分……耐えた方ですわね』

『ブルー・ティアーズの攻撃を初見でここまで耐えたのはあなたが初めてですわ。褒めて差し上げます』

『ですが……篠ノ之博士の妹にしては操作技術は素人ですのね』

『ISの生みの親の親族としてプライドはありませんの?』

『わたくしはあなたとは違って国の名声を背負い、オルコット家の名誉を背負っておりますの! あなたのようにただ有名人だからということで贔屓されているわけではありませんのよ!』

 

 何らおかしなことは何もなく、ただただいつものように話をしながら相手の隙に向けて狙撃を行い、圧倒的なまでの勝利を収めてきた。

 ただ少しやりすぎたのは篠ノ之博士の妹ということで少し期待していたがただの素人だったのでそれを指摘しただけのこと。

 

(なのに……何故、皆さんはわたくしを批判しておりますの?)

 

 本当に分からなかった。

 

「あれ?」

 

 再び場面が変わり、目の前に一組の教室の扉が現れ、いつのまにか制服を着て立っていた。

 そこで思い出した。

 クラス代表として初めての仕事を担任の千冬から与えられ、授業場所の変更を伝えに来たのだと。

 教室の自動ドアが開き、教室に一歩踏み出した瞬間、教室の雰囲気が酷く冷たいものに変わったのを感じて周囲を見渡すと全員が同じ視線を向けてきていた。

 それは距離を置くような視線、そしてそれはひどく冷たいものだった。

 全員からそんな視線を向けられ、一瞬たじろぐセシリアだったが胸に手を当て、クラス代表としての最初の仕事を全うするために口を開く。

 

「みなさん、織斑先生から連絡ですわ。次の授業教室は一組教室ではなく情報室に変更とのことですわ」

 

 クラス代表としての連絡事項に皆が返事をし、準備をもって情報室へと向かう―――そんな光景を想像していたが実際に広がっている光景は全く違うものだった。

 誰もセシリアの話に耳を貸そうとはせず、誰一人として返事をする者はいなかった。

 

「み、皆さん聞いておりますの? 次の教室は」

「偉そうに言わないでほしいよね」

「ぇ?」

 

 ぼそっと誰かが呟いた言葉が聞こえ、小さく声を発するが誰もセシリアと視線を合わせようとしないので誰が言ったのかもわからない。

 

「篠ノ之さん、一緒に行こ」

「しのっちとれっつご~」

 

 セシリアには誰も見向きもせず、皆が一様に箒の傍に集まって彼女を中心としてグループが構成されて授業の準備をもって情報室へと向かう。

 誰もいなくなった教室でセシリアは動けなかった。

 自分が模擬戦に勝利したから自分がクラス代表のはず―――しかし、誰も自分の言葉には耳も貸さず、逆に敗者のはずの箒に皆が集まっていく。

 

「……どう……してですの」

 

 再び場面が変わり、情報室に移る。

 この時間帯は情報実技の授業であり、皆画面に表示されているプログラミングの課題に対して眉間にしわを寄せながら必死にキーボードを叩く。

 ふと、画面に目をやるとすでに用意されている全ての課題が終わっていた。

 

(そうですわ……わたくし、この授業の課題を十分で終わらせていましたわね)

 

 周囲を見てみると頭を抱えて唸っているクラスメイトが数人見えた。

 こういう時こそクラス代表の出番だと思い、セシリアは頭を抱えているクラスメイトのもとへと向かう。

 

「よろしくて? もし、詰まっているのでしたら教えて差し上げますわよ」

「あ~……大丈夫」

「ぇ? で、ですが課題は」

「え!? 本音もう完成させたの!?」

「うん~。ポチポチってしたらできた~」

「教えてー!」

 

 なぜ、自分の指南を受けようとしないのかが理解できないとともにその態度に無性に腹が立ったセシリアは机を思いっきり叩く。

 

「なんですのその態度は!? クラス代表たるわたくしが教えて差し上げると言っているのですからそれ相応の態度を取るべきではありませんの!?」

 

 我慢ならなかった怒りの感情をすべて吐き出してからようやくセシリアは気づく。

 一組全員が自分に対して敵意を持った視線を向けていることに。

 

「オルコットさんってかなり上から目線だよね」

「え?」

「なんか偉そうすぎるし、言い方もムカつく」

「え?」

「代表候補生ってみんなそうなの?」

「あんな代表候補生の面汚しと一緒にしないで」

「み、皆さん何を言って」

 

 一点から始まったセシリアへの冷たい言葉はやがて教室全体へと広がっていき、教師が止めに入っても止められないほどの勢いとなっていく。

 

「ていうか私たち、オルコットさんのクラス代表も認めてないから」

「な、なぜ」

「オルコットさんがクラス代表だと一組みんなが偉そうだって思われるし」

「調子乗るなって感じ」

「篠ノ之さんがクラス代表だったらな~」

「や、やめてください……やめてください!」

 

 ここに自分の味方はいないと瞬時に理解し、聞こえてくる自分を罵倒する言葉を両耳をふさいで聞こえなくするが頭の中に直接木霊する。

 徐々に自分を構成していた何かが崩れ落ちていくのを感じ、セシリアは両耳を抑えながらその場に蹲り、肩を震わせる。

 

「いや……いやですの! わたくしはただ皆さんを!」

「クラス代表辞めなよ。向いてないって」

「オルコットさんの家族もみんなあんな感じなの?」

「いや……いや!」

 

 自分の立ち位置がここには無い―――いや、あったが自分の手で気づかないうちに壊してしまい、全員が敵となってしまった。

 こんな環境で三年間も過ごすことを考えると気が狂いそうになる。

 蹲って泣きじゃくるセシリアのすぐ後ろの景色がぐにゃりと歪み、一つの穴が生まれるとそこからクロエが見下した表情を浮かべながら現れる。

 

「セシリア・オルコット……あなたの絶望のトリガーは自己の崩壊。今まで積み上げてきた栄光が崩壊する様はまさに圧巻でした。本来であれば織斑一夏によって矯正されたその性格があなたを破滅へと導く。あなたはこれから仲間もできず、友達もできずに誰からも助けてもらえずに孤独に生きていく。織斑一夏がいなければ鳳鈴音が転入してくることもなければシャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒが来ることもない」

 

 セシリアは床に蹲りながら周りの声をかき消すように泣き叫ぶ。

 そんな彼女を周囲に闇が生まれて包み込むようにして広がると一瞬にして彼女を取り込んでしまった。

 

「ワールド・パージ完了……絶望という闇に落ち、覚めない悪夢を……おやすみなさい」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。