「結局、千冬さんに零落白夜のことは聞かなかったのか?」
「あぁ……今はそれよりもクラス対抗戦のことかなって」
「では一夏さん、明日の放課後はわたくしと模擬戦をしましょう。最後の調整ですわ」
「あぁ、よろしく頼む……ところでさ」
「私も明日は打鉄の使用許可も出ている。私とも模擬戦だ」
「あぁ、それはかなり助かる……ところでなんだけどさ……何で俺の部屋に集まってるんだ?」
クラス対抗戦まで残り3日に差し迫った木曜日の晩、何故か俺の部屋(兼千冬姉の部屋)にセシリアと箒が集結して明日以降の打ち合わせをしていた。
一応、教員部屋でもあるんだけどどうやら千冬姉は許可を出したらしい。
「仕方がないだろう。一夏は織斑先生と同部屋なのだからここに集まるしかあるまい」
「それはそうなんだけどさ……良く許可下りたな」
部屋には千冬姉の重要書類などは一切ないとはいえ、教師の部屋に生徒が入りびたるなど中々無い状況だし、厳格な千冬姉が許可を出すことにも驚きしかない。
何やら箒とセシリアは遠い目をしながら変な方向を見ているが触れないでおこう。
「ではまず、勝つための一歩として相手の情報を知るところからですわ」
そう言いながらセシリアは自分のタブレット端末(ゴテゴテのきらめき仕様)を俺に見せるとそこには鈴の写真と専用機の詳細な機体データが表示されていた。
IS学園に登録されているISは全てワールドISデータバンクというwebサイトに掲載されている。とはいっても載っているのは各国が出しているカタログスペック。
全て理想環境下における最大稼働時のデータだ。
「鈴さんの専用ISは第三世代、
――――――ピンポーン
セシリアのIS解説が熱を帯びてきたところで来客を知らせるインターホンが鳴り響き、モニターで確認するとドアの前には鈴の姿があった。
ドアを開けるといつもの明るい笑顔を浮かべる。
「おう、鈴」
「やっほ。遊びに来ちゃった。あんたのことだから授業の復習でもしてるんでしょ?」
「正解。よく分かったな」
「そりゃ、あんたの幼馴染だもん……ま、まぁ、今週末に戦うかもしれない相手とはいえ、ISの知識で詰まっているだろうからお、教えてあげても良いわよ?」
鈴は顔をうっすらと赤くしながらモジモジと体をちじこませる。その手にはエコバッグに入れられた何冊もの参考書や教材が見えた。
付箋も多数貼られており、俺のためにかなり準備してくれたみたいだ。
「い、今千冬さんいないでしょ? だ、だからあたしが」
「一夏、何をして……げぇ」
「いったい何の……うぇ」
「げぇ!? な、なんであんた達がここにいんのよ!」
後ろからヒョコッと顔を出した箒、セシリアペアと鈴は全く同じ顔をする。
「明日からの特訓スケジュールを考えていましたの」
「ふ、ふ~ん……ま、あんたたちがスケジュールをどう組もうがあたしは強いわよ?」
「俺だっておいそれと負ける気はないぞ?」
「それは楽しみね……と、ところでさ、一夏」
「ん?」
「その……えっと……」
鈴らしくなくハッキリとしない感覚に違和感を感じる。
「約束、覚えてる?」
鈴は少し気恥ずかしそうにしながら上目遣いでそう言ってくる。すぐさま俺の記憶力を駆使して過去の記憶を引っ張り出していく。
“約束”という単語で検索をかけ、必死に思い出しているとふと、あの日の光景を思い出す。
そう―――それは鈴が転校するという話を俺に打ち明けてくれた日のことだ。
――――――☆――――――
「え!? 鈴、中国に帰るのか?」
「うん……ほら、あたしも女だしさ、ISを学ばないといけないでしょ? 国の方からさ、育成指定を受けちゃったから帰らないといけなくなったのよ」
「育成指定……要するに認められたってことだよな? 鈴の才能が」
「うん……」
「凄いじゃねえか! ISで国から認められるってそうそうないんだろ?」
「……一夏はさ、あたしが引っ越したら……寂しい?」
「そりゃ、幼馴染が引っ越したら寂しいぞ……女子で気さくに話せる数少ない女子だったからさ」
「ふ、ふ~ん……そっか……寂しいか」
「お、おう」
「じゃ、じゃあさ一夏! 寂しくならないように約束、しよ」
「約束?」
「あんたは藍越学園の進学を目指す。で、あたしはあんたの合格祝いに中華料理のフルコース□□□□!」
「うげっ!」
「あー! あんた今嫌そうな顔したわね!?」
「だ、だってこの前、鈴が作ってくれた□□、酸っぱすぎたし」
「カッチーン。言ったわね!? あたしの料理がまずいって言ったわね!?」
「いやいや! まずくはないぞ? まずくはないんだけど……酸っぱい」
「だったらあたしが日本に帰ってきたら□□□□□□□□□□あげるわよ!」
「□□□□□□□□□□□□□□やるよ」
「っっっっ!」
「ん? 顔赤いぞ、鈴」
「う、うるさいうるさいうるさい!」
――――――☆――――――
「あぁ、覚えてるぞ! 約束な!」
「そうそう! 約束!」
「お前が転校するって言ってくれた日の放課後に言ってくれ奴だよな!」
「そうそう!」
先程の不安そうな感情とは打って変わり、いつも以上に明るい鈴の笑顔が現れる。
「日本に帰ってきたら」
「うんうん!」
「俺の合格祝いに中華のフルコース食いに行こうってやつだよな?」
一部、記憶があいまいな部分はあったが鈴との約束はこれのはずだ。あの時の鈴の料理は壊滅とまではいわないけど味の節々が極端な味付けだった。
と、そんなことを考えていると何故だか部屋の空気が一変する―――その原因は目の前の鈴の怒りのオーラによるものだった。
眉間にしわを寄せ、怒りにワナワナと体を震わせながらその目に溜まっている涙が零れ落ちないようにきゅっと唇を噛みしめている―――だがそれも束の間、あっという間に堤防は決壊し、涙が洪水のように鈴の瞳から零れ落ちていく。
「り、鈴? 何で泣いて」
「あたしが……あたしがこの一年間何を目標に頑張ってきたと思ってんのよ……バカ」
「え?」
「バカバカバカバカ! あんたにとってあの約束はその程度だったってことね!」
「い、いやお前何怒って」
「うるさいうるさいうるさい! いいわ! あんたなんかISでボッコボコのギッタンギッタンにしてやるんだから! 謝ったって許さない! この記憶容量32MB男!」
最後によく分からない捨て台詞を吐きながら鈴はバンッッ! と確実に二部屋隣まで響いたであろう勢いでドアを締めながら去っていった。
「……お、怒らせちまった」
二人に助けを求めようと後ろを振り返ると――――――
「馬に蹴られた方がいいのかもしれない」
「実家で馬を飼っていますので空輸させましょうか」
「頼む。レースで優勝経験馬が良いかもしれない」
どうやら動物によるショック療法をお勧めされているらしい。
馬に蹴られる覚悟を決めようとしていた時、メッセージ着信を知らせる通知音が三十に重なって音を発した。
各々がタブレット端末を操作し、メッセージを開くとこの場にいる三人が同じ声を発した。
「来週のクラス対抗戦の組み合わせ……こんなのありか」
「予想はしていましたが……まさかこの組み合わせになってしまうだなんて」
「……」
そのメッセージに表示されていた組み合わせは――――――1組代表:織斑一夏 対 2組代表:鳳 鈴音。
――――――☆――――――
「織斑先生」
「どうした、山田先生」
「クラス対抗戦の組み合わせ……本当にこれでよろしいんですか?」
「何か不満がある表情だな」
「不満と言いますか……ここ1カ月の織斑先生の行動が腑に落ちなくて」
「たとえば?」
「この前の白式の搬入先のミスもそうです。織斑先生が担当してくださったのにこのような初歩的なミスが起きました。今回の対抗戦の組み合わせもそうです。そして織斑君への指導もISに関わることの深堀はさせなくていいって朝礼で言っていましたし」
「……」
「何より織斑君の事前課題や教材が届いていなかったというのも全部……まるで織斑君が不利な状況になるように仕向けている、じゃないですけど……こう、何か大きなことがある感じがするんです」
真耶の指摘に千冬は何も答えない―――その視線はどこか別の方向を向いている。
「山田君、一つ抜けている」
「え?」
「織斑に専用機のことを伝えていなかったこともだ」
突然の告白に真耶は驚きの疑念に満ちた表情を浮かべるがじっと千冬を見続ける。
「織斑先生にはお考えがあっての行動だと思いますが……教師としては腑に落ちません」
「……それでいい」
「え?」
千冬は立ち上がり、真耶の肩に手を置く。
「君は良い教師になる……私と違って」
「……」
「自制はかけているつもりだ。だがもし……君の目から見て一線を越えていると判断した時は1組副担任として私を止めてほしい。それほどに大事なことがあるんだ」
「……分かりました。1組の担任は織斑先生です。副担任の仕事は担任の補助と支えになることですから」
「ありがとう」
「ただし止める時は容赦なく止めますからね」
「お手柔らかにな」
久しぶりの作品投稿でまた小説熱が再燃してしまいました。感想お待ちしています。