Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百二十八話

「……ん……ぁれ?」

 

 まぶしい日光とともに懐かしい匂いを感じ、目を開いたシャルロット。

 彼女の視界に広がっていたのはデュノアに引き取られて以降、暮らしていた小屋の光景であり、使い古したボロボロの家具には誇りが積みあがっており、カビ臭さが充満している。

 自分が着ている服を確認するが一応、ちゃんとした服を着ていた。

 

「……」

 

 まだ覚醒しきっていない頭が状況を理解しきれていなかったので扉を開けて外に出てみると見慣れたデュノア社の建物とすぐ近くに本宅が見えた。

 そこでようやく思い出した。

 

『ワールド・パージ』

「……なんで私、ここが日本だって思ったんだろ」

 

 同時に自分が発した言葉に何とも言えない違和感を感じる。

 今まで通りに言葉を発したつもりだったが何かに引っ掛かりを感じており、胸の中をぐるぐるとその違和感が回り続けている。

 その時、いつもの日課をしようと思い、使っていた布団を窓にかけて日光が当たるようにし、使い古した雑巾を使って家具に積もりに積もった誇りをふき取っていく。

 これが日課だった。

 デュノアの姓を持つ者であれば等しくあの豪華な本宅に住み、豪華な食事を食べ、上等な服を着て、周りのことは召使たちが行ってくれる。

 

「ん~……今日もいい天気だよ、お母さん」

 

 胸に輝くペンダントに収められている亡き母の写真を見ながらそう呟いたシャルロットはふとあることを思い出し、日付を確認する。

 

「そうだ……今日は誕生日……何歳だっけ?」

『十八歳』

「あ、そうだ。十八歳だった。私ったら自分の年齢を忘れるなんて」

 

 そう自分に言い聞かせて小屋の掃除を再開するがやはり自分の胸の内に巣くう違和感を拭えず、小屋の清掃に集中することができない。

 デュノア社に引き取られてから数年間、この小屋で過ごしてきた。

 最近は自ら雑草取りなどの雑用を進んでやるようになったがそれ以外のことは何も任されず、月に一回あるかないか父親との面談もほんの数分で終わってしまう。

 シャルロットは抹消された存在であり、デュノア社の社員でも彼女のことを知る存在はほんの一握りであり、時折本宅に社員が来ればシャルロットはその日一日、小屋からは出ない。

 

「今日……本宅に呼ばれてるんだよね」

 

 十八歳の今日を迎えることがどれほど嫌だったか。

 恐らくこの先に待っているのは自分という存在を完全に抹消するべく会社存続のための駒として別の大企業の御曹司と無理やり結婚をさせられるのだろう。

 それほどにまでデュノア社は窮地に立たされている。

 

「第三世代型ISを作れないだけで会社一つがつぶれるなんて……」

 

 仮にもデュノア社はラファール・リヴァイヴを開発し、多数のシェアを獲得した超が付く大企業だがそんな大企業ですら倒産してしまう世界は何と残酷か。

 

「そろそろ……時間だね」

 

 一応、本宅に入るための正装を貰っているシャルロットは着ていた肌着を脱ぐ―――その瞬間、ガチャリとドアが開く音がするとともに勢いよく押し倒される。

 

「やっ! やめっ! んんっ! んぅぅぅぅっ!」

「喚くな」

 

 ちょうど顔に被さっていた肌着を顔に押し付けられ、必死の抵抗を見せるシャルロットだが耳元に響く冷たい男の声に恐怖し、抵抗を弱める。

 顔を確認するかのように口を押さえつけたまま肌着を刃物で切り裂かれ、顔を露わにされるとスーツに身を包んだ男性たちが三人ほどいた。

 

(この人たち……デュノア社の社章を)

「間違いないか?」

「あぁ、間違いない……シャルロット・デュノアだ」

「これが社長が隠したがっていた負の遺産か……なかなか良い体つきをしてるじゃないか」

 

 男たちの視線が下に向けられているのに気付き、下着が露わになっているのに気付いたシャルロットは再び抵抗しようとするが男の強い力に押さえつけられる。

 足をばたつかせようとするが男二人に足を抑えられるとともに厭らしい手つきで太ももや足の付け根をなでられ、不快感が込み上げてくる。

 

(やだっ……誰か……助けて)

 

 助けを求めたその時、彼女の脳裏に誰かの顔が思い浮かぶがすぐにその映像は消え去る。

 

「こいつは社長を脅す材料だ。傷をつけるなよ」

「分かってるさ……味見は良いだろ?」

「お前はそう言っていつも娼婦に手を上げているだろ」

 

 男たちが話している内容から自分の身に少し先の未来で降りかかる最悪の光景を想像し、逃げたい一心で体を動かすが屈強な男たちの拘束には抗えない。

 

「今やデュノア社は倒産の危機だ」

「噂じゃイタリアのIS企業に買収される可能性があるって」

「デュノア社を存続させるためには……上を変えるしかない。フランスがIS分野で世界の先頭に立つにはより強いデュノア社が必要だからな……お前にはそのための材料になってもらう」

 

 恐らく男たちは今のデュノア社の社長の経営方針や手腕に不平不満を持つ者たちであり、失脚を画策している不穏分子の一部だろう。

 父親が必死に情報統制し、隠し続けていたのはデュノア社社長という座を守るため。

 

(所詮……私は日陰の子……使いまわされてゴミ箱行き……かな)

 

 この後の展開はもう読めている。

 男たちに味見と称されて女性の尊厳を汚され、ボロ雑巾のように男たちにまわされながら性の捌け口とされてからデュノア社社長の手土産として本宅に乗り込むのだろう。

 全身をまさぐられ、最初は不愉快極まりなかったが自分の人生の終着点だと悟ると不思議と全ての感覚が途切れたかのように不愉快な感覚が消える。

 男たちの荒い鼻息も、男臭い匂いも何も感じなくなってしまった。

 

(こんなことなら……生まれなきゃよかったな)

 

 生まれた瞬間から日陰で生きてきた自分が碌な人生を歩まず、普通の幸せなど得られないと思ってはいたがまさかこんな最低最悪のゴールだとは思わなかった。

 いくら女性優遇社会と言われようともその網から漏れ出る存在は必ずいる―――それが自分だった。

 

(……会いたかったな)

 

 口に何かをねじ込まれたことで息苦しさを感じるがシャルロットは抵抗一つしない。

 ただ、思わず心の中で呟いたその一言は一体、誰に向けた言葉なのかが分からなかった。

 今は亡き、母親に対してなのか、それともまた別の誰かなのかは今となっては考える気すら起きないがとりあえず今はこの男たちのお楽しみが早く終わってくれるだけを祈るのみ。

 

(……こんな……こんな人生って……そんなの……ないよ)

 

 絶望に支配されながらゆっくりと目を閉じたシャルロットの瞳から一筋の涙が落ちる。

 しかし、その涙は彼女の下に広がっている闇に飲み込まれ、一瞬にしてシャルロットの全身を包み込むようにして闇が噴出した。

 空間がぐにゃりと歪み、鼻をつまんだクロエが現れる。

 

「シャルロット・デュノア。あなたの絶望のトリガーは織斑一夏が存在しないこと。彼が存在しなければあなたの人生はごみ溜めの人生だった。あなたの命を狙うデュノア社の不穏分子によって社長失脚の駒として使われ、ボロ雑巾のようにまわされてその生涯を終える……まさに一生、日陰暮らしだ」

 

 獣のように腰を振っていた男たちの姿が霧のように消え去る。

 

「絶望という闇に落ち、覚めない悪夢を……おやすみなさい」

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