Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百二十九話

 耳に入ってくる何かの騒音によってラウラの意識が徐々に覚醒し始め、目をゆっくりと開くと目の前にはIS学園のアリーナが広がっていた。

 気づけばラウラは専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンを纏っており、誰かと戦っている様子だがその肝心の相手が近くにいない。

 

「お前を倒す力……お前は俺の言葉を信じるか?」

 

 そんな聞き覚えのある声が聞こえ、声がした方向を向くとそこにはBoost・Timeを発動させた白式を纏う一夏の姿があった。

 そしてようやくラウラは自分が置かれている状況を思い出した。

 

(そうだ……私は学年別トーナメントで戦っているんだ)

『ワールド・パージ』

 

 ギュォォッ! というエンジン音を吹かせながら超音速で移動を開始した一夏はその場から消え去り、ラウラの脇腹あたりに凄まじい衝撃とともに打撃音がアリーナに響きわたる。

 ラウラは衝撃の方向を見るがそこには誰もおらず、自分の周囲のフィールドの砂が爆ぜているのに気付き、周辺を織斑一夏が移動しているのだと感づいた。

 

(さすがの速度だな……何故、私はこの速さを知っている)

 

 突然の既視感に戸惑いを覚えるがそれはすぐに消えていき、超音速で移動する一夏めがけてワイヤーブレードを放つがいとも簡単に追跡を振り切られる。

 全く相手の姿が見えず、ただ好き勝手に全身のいたるところを殴られ、思わずラウラはスラスターを吹かして上空へと飛び上がると目の前に一夏が現れる。

 

「はぁぁっ!」

 

 プラズマ手刀を展開し、一夏めがけて突き刺そうとするが一瞬でその場から消え去ったかと思うと背後を取られ、一夏の超音速の拳が突き出されようとする。

 慌ててAICを起動させて止めようとするが超音速の前では展開しきれない。

 

「っっっ」

 

 しかし、一瞬で場面が切り替わり、なぜかラウラは地面に空いた大穴の中で横になっており、視界にはアリーナの天井が見えていた。

 突然の場面転換に理解が追い付いていないラウラに追い打ちをかけるかのように全身に電流が迸り、シュヴァルツェア・レーゲンの装甲が融解し、体を包み込んでいく。

 不思議とそんな異常事態でもラウラは落ち着き払っており、思考も視界もクリアだ。

 それに対して目の前の一夏は慌てふためいており、何かを叫んでいるがラウラの耳には何の言葉も届かず、圧倒的な速さで一夏との距離を詰め、彼を地面にたたきつける。

 

(織斑一夏……ここでお前を倒せば私が最強だ)

 

 そう―――自分の居場所を作るには力が必要であり、軍にいる時からそうやって圧倒的なまでの力を使って自分の居場所を作り上げてきた。

 自分を虐げていた仲間もそうやって叩き潰してきた。

 これからもそれは変わらない―――はずなのになぜかラウラの胸が痛む。

 

(なんだ……この胸の苦しみは……この違和感は)

 

 今までと変わらないやり方で自分の居場所を作ろうとしているだけだというのに酷くラウラの胸は痛み、さらには頭が割れるほどの頭痛すら出てくる。

 そんな激痛を振り払うかのように握り締めていたブレードを勢いよく振り下ろすと一夏は怒りに表情を歪ませてラウラめがけて叫び散らかす。

 

(……うるさいハエだ……違う、あれは……あれは一夏だ!)

 

 突然、頭に電流が迸ったかと思えばこれまでの楽しかった彼との大切な思い出が噴水のようにあふれ出てきて彼女の心を満たしていく。

 違和感や頭痛、胸の苦しみなどは洗い流されていく。

 しかし、取り戻したのは思い出と思考だけであり、体は勝手に動いていく。

 

(この後私はブレードを振り上げる)

 

 ラウラの予想通り、自分の体が勝手に動き出してブレードを握り締めた腕をまっすぐに振り上げ、標的を一夏に定めるがその先の光景もラウラは予想済みだった。

 仮にブレードを振り下ろしたとしても一夏は死なない。

 

(大丈夫だ……シャルロットが間に入り、一夏を救い出し……箒との連携で私の攻撃をいなして……最後は蒼炎瞬時加速(ブルー・イグニッション)で私を救ってくれるんだ)

 

 殺戮を楽しむ心を拒絶していた自分の弱い心を救ってくれた一夏との思い出は彼女の中で確かに蘇っており、安心感を与えてくれる。

 そしてゆっくりとブレードが振り下ろされていく。

 

(大丈夫だ……私はこの後、一夏に救われる……そして私は一夏に恋を―――)

 

 振り下ろしたブレードは何物にも阻まれることはなくまっすぐ一夏の首元へと向かうとサクッ、という聞きたくない音とともにわずかばかりの引っ掛かりを覚える。

 しかし、ISの力からすればそんな引っ掛かりなどあってないようなもの。

 まるで刺身を切るかのように斜めに振り下ろされたブレードは一夏の首をスパッと一瞬にして切断するとラウラの目の前で記憶のない光景が広がる。

 切り傷から吹き上がる膨大な量の血しぶきがラウラへと降り注ぎ、徐々に真っ赤に染まりあがっていく。

 

(ぁ……ぇ……ぁっ)

 

 呆然としていると足に何かが当たった感覚がして視線を降ろしてみるとそこには切断された一夏の首が転がっており、その表情は切断された瞬間のまま固定されている。

 光のない目は―――まっすぐラウラを見ていた。

 誰かの悲鳴が耳に聞こえる気がするし、怒号があたりに響き渡ったような気がするがラウラにとってはそのようなことはどうでもよかった。

 

(い……いち……か)

 

 

 

 

――――――殺した。

 

 

 

 たった今、自分は愛してやまないはずの男をこの手で殺した。

 その事実が彼女に重くのしかかる。

 

「っっっ……ぁっ……あぁぁっ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 のしかかる事実に耐えきれず、ラウラは上げたこともないような声量で叫び声をあげ、酷く慟哭し、頭を抱えて涙を流す。

 殺した―――自らのこの手で愛する一夏を殺した。

 その捻じ曲げられた事実がラウラの正常な意識を歪ませ、彼女の心に闇を植え付けるとともに間違った真実が脳内に埋め込まれていく。

 

「―――っっ!?」

 

 再び場面が変わった―――いや、場面が戻り、目の前に生きている一夏の姿が見えた。

 

(い、今のは……夢?)

 

 そんなことを考えていると何かを切り裂いた感触がブレードから伝わり、顔を上げると横なぎに振るったブレードが一夏の上半身と下半身を切り分けていた。

 ラウラの手から力が抜け、ブレードが落ちる――――

 

「ま、またっっ」

 

 再び場面が戻り、目の前に一夏が現れるが今度はまっすぐに振り下ろされたブレードによって一夏を真っ二つに切り裂き、左右に切り分ける。

 次は心臓を一突き、次は体を斜めに切り裂き、次は両足を切断した後、頭を一刺しした。

 そのどれもが一夏をむごたらしく、凄惨に殺す場面であり、ラウラの心を完全に打ち砕くまで続けられるのは明確だった。

 

「やめろやめろやめろ! もうやめてくれ!」

 

 何度も血しぶきが舞い上がり、一夏の死体が出来上がっていく様を前にラウラは姿が見えない何かに必死に許しを請うが終わりのない地獄はまだ始まったばかり。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! もう嫌だ! 殺したくない!」

 

 泣き叫びながらブレードを振り下ろす腕を止めようとするがラウラの意思に反するように腕が動き、一夏を一瞬にして何度も命を刈り取っていく。

 何度も―――何度も何度も何度も、まるでラウラの心を粉々に踏み砕くように愛する一夏を切り殺していく光景が無限に続いていく。

 

「いやだぁぁぁっ! もうやめてくれぇぇぇっ!」

 

 何度も―――何度も何度も一夏の命を奪うたびに彼女の心が崩壊していき、徐々に闇が覆っていくがそれでもなお地獄は終わらない。

 そして十度目かの殺人の後―――ラウラの意識はすべてを放棄し、心を―――捨て去った。

 景色が歪み、穴が開くとそこからクロエが現れる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……完成形も容易かったものですね。警戒して少しばかり強めにしましたが……あなたの絶望のトリガーは織斑一夏をその手で始末すること。あの時、邪魔が入らなければあなたは織斑一夏を殺していた。しかし、あなたは強い……だから少しばかり手を加えました。ほんの少しだけ希望をぶらさげ、意識があるままに絶望させた……絶望という闇に落ち、覚めない悪夢を……おやすみなさい」

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