Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百三十一話

「んぅぅぅっー! んー!」

 

 膝蹴りを食らわせた男は歯が折れた激痛でまともに喋ることもできないのか流れ出てくる血を手で押さえながらEOSを装備している男たちに手で指示を出す。

 EOSは何機、集まろうがISには敵わないけど後ろに足手まといがいるからそれを使って、的な作戦なんだろうけどそれごと叩き潰す。

 

「死ねぇ!」

 

 ランドローラーの駆動音を響かせながら一機のEOSが自分めがけて突っ込んでくるが右手だけを部分展開させてEOSの突進を片手で受け止める。

 その時、後ろにもう一機のEOSが回り込んできて傷だらけで動けない楯無さんめがけて腕を振り下ろそうとするけどその動きはすぐに止まる。

 既に雪羅のエネルギーチャージが終わっていて荷電粒子砲の輝きが放たれているからだろう。

 

「まっ―――」

「待たない」

 

 最大チャージの雪羅の荷電粒子砲がEOSの真正面をえぐる様にして放たれ、操縦者がいなくなったその機体は膝から崩れ落ち、動かなくなってしまう。

 EOSの上半身が吹き飛んで搭乗者の姿が見当たらないけど特段問題じゃない。

 今、優先するべきことは楯無さんを守ることだから。

 

「き、消えた……き、きさまぁぁぁぁ!」

 

 仲間をやられて激昂の叫びをあげながらEOSの腕が振り上げられるが左手だけでEOSのパンチを受け止めると今度は逆方向から拳が振り下ろされる。

 でもそれすらも片手で受け止める。

 

「EOSで勝てると思ってるのか」

「戦場じゃ人質はお荷物だぜ!」

 

 自分たちの頭上を飛び越えるように最後のEOSが飛翔する。

 その手には実弾が入ったアサルトライフルが握られており、銃口は動けない楯無さんへと向けられているのが見えたので目の前の一機に蹴りを入れ、その勢いで後方へと下がり、飛び越えたEOSの足を掴む。

 

「うぉぉぉぉぉっ!」

 

 そしてそのまま力任せに地面に勢いよく叩き付けると装甲の破片が飛び散る。

 一度だけでは済まさずもう一度、持ち上げて勢いよく叩き付けると破砕音とともに搭乗者を保護する装甲が粉々に砕け散り、搭乗者が露わになる。

 

「ま、待ってくれ! 俺は何もしていない! 俺は見ていただけなんだ!」

「昔、小学校で習わなかったか?」

「え?」

「いじめは……見ているだけでもその場にいれば同罪だってな」

「うわぁぁぁっ!?」

 

 そう言いながらEOSを思いっきり上空高くへと放り投げる。

 搭乗者が露わになっている状態で地面に叩き落とされればEOSの装甲の重量から目も当てられない状態になるだろうけど楯無さんはこれ以上の苦痛を与えられた。

 楯無さんだけじゃない―――みんなもだ。

 最後のEOSへと視線を移すと同時くらいに背後でグシャッという音が鳴った気がしたけど見向きすらせずに目の前の敵を睨みつける。

 

「ぐもぉぉぉぉっ!」

 

 口から多量の血を吐き出し、粉々に砕け散った歯をのぞかせて狂気に支配された表情を浮かべながら最高速度でEOSが自分めがけて突っ込んでくる。

 右手を軽く広げると手中に納まるように雪片弐型が展開される。

 

「楯無さん……あなたを一人になんかしません」

「いち……かくん」

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

「自分の仲間に手を出したやつは……許さない」

 

 雪片弐型をゆっくりと持ち上げ、勢いよく振り下ろした瞬間、前方のEOSが真っ二つに切断されて自分の両脇を通過していき、爆炎を上げる。

 すれ違った時に頬に血しぶきが付着してしまったがそれをふき取らずに楯無さんのもとへと向かう。

 

「これで……お揃いです」

 

 彼女の頬についた返り血を優しく撫でながらそう言うと一気に顔を赤くした楯無さんは自分の胸元に飛び込んでくると顔を胸にうずめる。

 楯無さんはずっと一人だった。

 周りを巻き込まないために友達以上の存在を作らず、一定の距離を周囲と取りながらも学園のみんなを守るために身を粉にして戦ってきた。

 

「自分にも……やらせてください。あなたがずっと抱えてきたことを」

「……バカ……バカぁ」

『応答しろ……地上部隊』

 

 その時、どこかからそんな通信の声が聞こえ、音がした方を向くと最初に顔面を蹴りつけた男の装備の中に通信機が見え、そこから音が出ていた。

 

「おい、起きろ」

 

 男の顔を少しだけ小突くが起きる気配がなかったので仰向けにして全力で腹部を踏み抜くと大きく息を吐いて目を見開き、意識を取り戻す。

 すぐさま脇腹を蹴り飛ばして腹ばいにして男の背中に座り、髪の毛を掴んで男に通信機を見せつける。

 

「これ、どうやって使うんだ」

「はっ……言うとでも」

 

 男が抵抗する意思を見せたので自分は男の顔をそのまま地面に叩きつける。

 諦めたのか男は額から血を流しながら通信機のボタンを指さしたので指示通りにそのボタンを押すとザザッと音が流れるとともに向こうの声色が変わる。

 

『生きていたか、地上部隊。状況は』

「あんたが親玉か」

 

 

――――――☆――――――

 名もなき兵たちの隊長が目を覚ましたころにはすでに千冬と真耶によって拘束された後だった。

 

「目を覚ましたか」

「……何故、殺さない」

「お前にはまだ利用価値がある……上の連中は知らないがな」

「はっ……地上部隊は対IS戦闘に特化した訓練を積んでいる。完全展開もできず、傷を負っている搭乗者相手ならば作戦次第では勝てる」

「だったら聞いてみるといい」

 

 いつのまにか取り上げたのか千冬は通信機を起動させて隊長の口元へと近づけてくる。

 千冬の顔には自信しか見えない。

 確かに地上部隊の最後の通信では学園最強の更識楯無と交戦中という報告を受けていたが相手は機体の修繕が間に合わず、搭乗者自体の傷も癒えていない相手。

 そんな相手に撒けることなどありえはしない―――なのに千冬の自信に満ちた表情が隊長の不安を強くあおってくる。

 

「地上部隊、応答しろ」

 

 隊長の声の後、少しして向こうの通信機と接続され、地上の音が聞こえてくる。

 少しして聞こえてきたのは―――

 

『あんたが親玉か』

「「「っっっ!?」」」

 

 通信機から聞こえてきた声に隊長はおろかその場にいた千冬や真耶までもが驚きを露わにし、通信機から聞こえてくる声に集中する。

 この戦いに一夏を巻き込まないために更識の家に半軟禁状態にし、倉持技研に送る際にも護衛を今まで以上につけるなどしてIS学園から離した。

 それなのになぜ、彼がここにいるのかが理解できない。

 作戦の概要などは一切一夏には漏れ出ていないはずであり、専用機持ちたちにも緘口令を敷き、破った際の処分もちらつかせた。

 

「貴様は……私の仲間はどうした」

『た、隊長』

 

 通信機から聞こえてきた弱弱しい仲間の声にほんの少しだけ安堵の表情を浮かべる隊長だったが直後に聞こえてきたのは痛みに悶える悲鳴だった。

 

『があぁぁぁっ!』

「な、なにを……織斑君は何をして」

 

 通信機から聞こえてくるのは男の悲鳴だけであり、地上で何が行われているのかは分からない。

 ただ悲鳴のレベルからして拷問に近いことが行われていることを真耶は察するがそれを行っているのが一夏であることを信じられなかった。

 それは千冬も同じだった。

 その時、あれほど響いていた悲鳴が徐々に小さくなっていき、やがては全く聞こえなくなったかと思うとドサッという地面に何かが落ちる音が聞こえた。

 

『お前は仲間に手を出した……今からそっちに行く』

「っっ」

 

 今まで表世界で生きてきたとは思えないほどにとても冷たく、殺意しか籠っていない声に思わず隊長は身じろぎし、通信機から少しでも離れようとする。

 今、彼女を支配しているのはまさに恐怖だった。

 

『そっちから先に手を出したんだ……逃げるなよ。たとえお前が地獄の底まで逃げようが絶対に追いかけてやる。追いかけて……IS学園のみんなを傷つけたこと、楯無さんを泣かせたこと……そして自分の仲間を泣かせた罪を償わせてやる』

 

 その直後に向こうから破砕音が響くと同時に接続が切れ、砂嵐のような音だけとなった。

 隊長はようやく理解した―――自分たちは手を出してはいけない連中に手を出してしまったことを、そしてIS学園には二人の存在があることを。

 一人は生身でISと渡り合う化け物のようなフィジカルを持つ世界最強の織斑千冬。

 そしてもう一人は自分の仲間を傷つけられれば相手の命をも奪う覚悟を持つ最狂の織斑一夏。

 もし、命からがらここから逃げることができれば彼女はきっと上層部に事のすべてを話し、二度とIS学園には手を出さないようにと伝えるだろう。

 

「織斑千冬……弟にどんな教育をしたんだ……」

「……何もしていないさ……どんな状況であれ……あいつは私の弟だ。世界最強の弟が……私の弟がただの一般人なはずもないだろう」

 

 そう話す千冬の表情はどこか悲しさの色を含んだものだった。

 

――――――☆――――――

「いったい何が起きているんですか?」

 

 男の首筋に刺したナイフを抜き取り、血を振り落としながらそう尋ねる。

 ここに到着した時から気になっていたのはその辺に死体が転がっていたり、乱闘が起きていたりするのに悲鳴の一つもしないし、やけに静かだ。

 それに窓には防護壁が下りていて中の様子が見て取れない。

 

「ちょっと特殊作戦の最中でね……ふぅ」

「動けますか?」

「ん~、ちょっと厳しいかな。私は良いから地下に」

 

 楯無さんが言い切る前に姫抱きして立ち上がると顔を真っ赤にしたので顔を覗き込むようにして彼女の様子をうかがうがぐいっと手で顔を遠ざけようとする。

 

「むぎゅぅ……た、楯無さん?」

「ちょ、ちょっと近い……い、今やられるとその……耐えられないというか」

「は、はぁ……と、とりあえず案内を」

「え、ええ……そうね」

 

 白式を完全展開し、楯無さんをお姫様抱っこしながらスラスターを吹かして防護シャッターを蹴り破り、校内へと侵入するが明かりが一つもついておらず、真っ暗だ。

 楯無さんが言う特殊作戦っていうのは学園全体を巻き込んだ壮大なスケールの物らしい。

 まるで道案内でもしているかのように不自然に防護シャッターが閉じていない一本道を突き進んでいき、地下区画と降りていく。

 

「なんなんだ……この地下」

「色々あるのよ……この学園も……この扉は私が解除するわ」

 

 目の前に現れた扉の近くにあるパネルへと楯無さんを近づけると慣れた手つきでパスワードを打ち込んでいくと物の数秒で扉のロックが解除される。

 その扉を蹴り破って無理やり開けると中には姉さんと山田先生がいた。

 

「今何か隠しました?」

「い、いいえ! 何も! そ、それよりも―――君はどうしてここにいるんですか?」

「……」

「あなたのことよ」

 

 ぼそっと楯無さんが耳打ちしてくれ、必死に言い訳を考える。

 三途の川一歩手前のこともそうだし、白騎士や暮桜のことを言うわけにもいかないし、仮に言ったとしても信じてくれないだろう。

 

「あ、え、えっと……呼ばれたというか」

「誰もお前を呼んではいないんだがな……」

 

 その時、姉さんは何かを見つけたかのように自分に近づいてくるとそのまま手を伸ばし、頬に付着していたであろう血痕に触れる。

 何か言われるかもと、覚悟したが姉さんは何も言わずにただ少し悲しそうな表情をしてくるりと自分たちに背を向ける。

 

「お前に特殊任務を与える。篠ノ之や鳳たちを助けてこい」

「あ、あぁ……もちろんそのつもりだけど」

「更識さんは私がもらいますので」

「ぁ」

 

 山田先生に引き渡した時、小さな声とともに楯無さんが自分の制服の裾を掴む。

 ふっ、と小さく笑いながら彼女の手を優しく握りしめて裾から離すと優しく彼女の青髪をなでる。

 

「ちゃんと帰ってきます」

「……もうっ……お姉さんの方が年上なんだけど」

「そうでしたね……じゃ、行ってきます」

「うん……待ってる」

 

 

――――――☆――――――

「末永くよろしくお願いします。お義姉さま」

「……今日一日でコロコロ状況が変わりすぎだ」

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