Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百三十二話

 姉さんに教えられた道を通っていくと目の前に扉が見えてきた。

 扉の前に立ったその時、奥から何かの音が聞こえてきて聞き耳を立てると甲高い叫びのような悲鳴のようなものが僅かながらに聞こえてきた。

 嫌な予感がした自分はすぐにドアノブを握り、扉を開けると真っ白な部屋の中に絶望の悲鳴が充満しており、鈴やセシリア、シャル、ラウラが眠りながら叫んでいた。

 でもなぜか箒だけがニコニコと幸せそうな笑顔を浮かべている。

 

「な、なんだよこの状況……」

「一夏……」

 

 後ろから声が聞こえ、振り返ると部屋の角で両耳を手で押さえながら震えて座っている簪の姿があり、コンソールだけを起動している。

 きっとこの状況を何とかしようと尽力してくれたんだろう。

 恐怖に震える彼女の傍に向かい、しゃがみこんで彼女を優しく抱きしめると簪は肩を震わせ、泣き始める。

 

「遅れてごめん……簪」

「一夏……やっぱり来てくれた」

「今の状況を教えてくれ」

 

 そう言うと簪は涙をぬぐい、立ち上がって五枚のディスプレイを空間に投影する。

 そこには映し出されていたのは何の変哲もないただの扉だけどその周辺には何もなく、真っ暗な空間がただ無意味に広がっているだけだった。

 

「今、IS学園は……敵の電子攻撃によって……無力化されている。みんなは電脳ダイブを使って……基幹システムを復旧しようとしたけど……敵の罠にはまった」

「……」

 

 電脳ダイブだの電子攻撃だのとよく分からない単語が並べられて理解が追い付かないが要するに今、IS学園は襲撃に遭っていて仲間が危機に瀕しているということはわかった。

 つまりみんなを救うには自分も同じ方法でみんなのもとへ行く必要がある。

 みんなの方を見るとみんなが横になっているベッドチェアが一台だけ使われずに余っている。

 

「あれを使えばみんなのところに」

「いける……でも気を付けて……相手はかなり強者」

「どんなに強い奴でも……仲間を傷つける奴は消すだけだ」

「い、いち……か?」

「……あ、ごめん……で、どうやって電脳ダイブをするんだ?」

 

 簪は自分の手を取ると、ベッドチェアに案内する。

 案内のままに横になるとヘッドギアを装着し、簪はキーボードを叩き始めるが徐々にその指の動きがゆっくりになっていくとともに表情がこわばっていく。

 すると簪はじーっと自分のことを見てくる。

 

「ど、どうした?」

「……どうやらこのダイブマシンは……故障しているみたい」

「う、ウソだろ」

「本来ならヘッドギアを通して……脳波がスキャンされて睡眠パターンに……合わせるように微小な電流が送られる……でもその電流が発生しない」

「じゃあどうやって電脳ダイブを」

 

 そこまで言いかけた時にどこからともなく簪はスタンガンと非常によく似た道具を取り出し、自分に見せつけるようにバチバチィッ! と電気を迸らせる。

 何故だか眼鏡の奥に見えているはずの簪の目が見えない―――それはまるでアニメの描写のように目の色を悟らせないための不自然な眼鏡の反射のようだ。

 スタンガンに非常に似た装置から放たれる電流の輝きがほんのわずかに簪の顔を照らす。

 照らされる彼女の横顔はどこか暗い何かが見えた。

 

「あ、あの簪さん? そ、それは」

「スタンガン型電撃拘束具……強烈な電流を瞬時に流すことで……神経系を瞬時に抑制する道具」

「う、うん……か、簪さん? 簪さん!? 簪さーん!」

 

―――バリバリバリバリィッ!

 

「アババババババババッ!」

 

 首元に装置をあてられた瞬間、激痛と同時に目の前を電流が迸り、一瞬にして目の前が真っ暗になるとともに引き込まれるような感覚と同時に浮遊感を感じる。

 目を開くと周囲は真っ暗闇でゆっくりと自分の体が落ちていくが暗闇過ぎて上下左右の感覚がうまく取ることができない。

 

「ここが……電脳空間」

 

 徐々に落ちていく速さがゆっくりとなっていくのを感じるとともに五つの扉が見え始め、何もない場所に静かに降り立った。

 恐らくこの先にみんなはいるはず。

 

『気を付けて……向こう側に入れば敵の支配下……何が起こるか分からない』

「それでみんなも支配されたわけか」

『完全に断絶された空間……皆を連れ戻してくれれば……こちらの操作でみんなを現実世界に引き戻すことができるからお願い』

「分かった……皆を連れて帰ってくる」

 

 手始めに自分は右端の扉を開け、中へと入っていく。

 眩い閃光とともに徐々に景色が構成されていき、自分の目の前に見覚えのある景色が構成されていく。

 

「……ここは……小学校?」

 

 目の前に広がる場所は箒や鈴とともに過ごした自分の母校である小学校だった。

 今は授業時間なのか廊下には人っ子一人おらず、とても静かだけど窓から中を覗いてみるがどうやら必要最低限な要素しか構成していないらしく教室には誰もいない。

 

「ということは……ここには鈴か箒がいるのか」

 

 誰もいない静かな廊下をゆっくりと歩きながら探索していく。

 昔の記憶を思い出しながら自分が在籍していたクラスを目指して階段を上っていき、曲がり角を曲がると見覚えのある女の子が教室の前にいた。

 その子は不安そうな表情を浮かべていて怖いのか、スカートの端をギュッと握っている。

 

「あれ……鈴、だよな」

 

 見覚えしかないツインテールの髪形は転入当初から変わらない彼女のトレードマークだ。

 すると教室の扉が開き、担任の女性が顔を覗かせて彼女に入るように促すが鈴はその場に竦んで動けない様子で女性は仕方なく手を取って教室へと引き入れる。

 後を追いかけ、窓から中を覗き込んだ瞬間、あまりの光景に自分は言葉を失った。

 

「なん……だよ……これ」

 

 教室の中は黒い何かで構成されている人型の物体が真っ黒な球体を囲うようにしてゆらゆらと蠢いており、何か聞き取れない言葉をずっと吐き続けている。

 その時、一体と目があったかと思えば突然形を変えて猛スピードでこちらへと飛んできた。

 

「うぉぉっ!?」

 

 窓をいとも簡単に突き破ったそれを横に飛びのいて回避するが次々と形を変えた真っ黒な何かが自分に襲い掛かってきてその場から駆け出す。

 ほかの教室からも次々と飛び出してくる黒い何かを避けていくが鈴が入ったであろう教室からどんどん離れていってしまう。

 

「どうすればいいんだ」

『―――って!』

 

 その時、ほんのわずかに簪の声が聞こえたかと思うと自分の足元すぐのところに一本の剣が現れる。

 それを握り締め、とびかかってくる黒い何かを切り裂くと黒い霧となって消滅する。

 

「待ってろ鈴……今迎えに行くからな!」

 

 剣を握り締め、ゆっくりと歩を進めながら黒い何かを切り伏せていく。

 ただ後ろからどんどん黒い何かの数は増えていくのでどれだけ切り伏せていってもそれを補われていくからなかなか前に進めない。

 

「ISもここじゃ使えないし……どうすれば」

『これ―――って!』

「簪?」

 

 途切れ途切れの簪の声が聞こえたかと思うと上から小さなイヤホン型の装置が落ちてくる。

 それを受け取り、耳に装着すると―――

 

『―――、聞こえる?』

「……」

『あ、あれ?』

「あ、ご、ごめん! 聞こえるぞ、簪」

『よかった……急ピッチで作ったけど……電脳空間用通信デバイス。うまく機能してくれた』

 

 自分が電脳ダイブしてからまだ十分も経っていないのにこんな優れものを作るとは、やっぱり簪の情報処理能力は段違いだ。

 その時、視界の上の方で小さな発光を感じるとともに一つの箱が落ちてくる。

 それを受け取り、黒い影を蹴り飛ばし、一度距離を取ってから箱を開けてみると中にはミニサイズのタブレット端末が入れられていた。

 

「これは」

『それも電脳ダイブ用デバイス……現実世界のIS用武器を電脳世界でも使える……でも使えるのは一つの武器につき三分間が限界』

「分かった……三分あれば十分だ」

 

 デバイスを起動させると画面に見知ったIS用武器がずらりと表示され、その中に鈴が使っている双天我月が見えたのでそれをタッチすると目の前に光の粒子が集まり、具現化する。

 二本をそれぞれ握り締め、黒い何かの軍団へ突っ込んでいく。

 

「そこをどけぇぇぇぇ!」

 

 バッサバッサと黒い何かを切り倒していき、少しずつ鈴がいるであろう教室へと近づいていく。

 二つを結合させ、勢いよく投げつけると黒い何かを一瞬で切り倒していきながら教室までの一本道が出来上がり、その中を全速力で駆け抜けていく。

 再生し終えた個体が後ろから自分を追いかけ、前からも道をつぶそうと多数の黒い何かが迫ってくる。

 

「うおぉぉぉっ!」

 

 開いていた扉に飛び込むようにして教室へと入り、急いで扉を閉める。

 どうやら教室の中と外は扉一枚で隔絶されているのか黒い何かは中に入ろうとせず、教室の前で立ち往生するようにうごめいている。

 

「ふぅ……お待たせ」

 

 黒い球体に少しだけ触れた瞬間、弾けるようにして黒い何かが消え去るが同時に彼女の周囲を囲むようにして黒い影が伸び、人の形へと変わっていく。

 それにつられる様に周囲の景色も変わっていき、昔懐かしい教室へと変貌する。

 

『パンダってどう泣くんだよ。教えてくれよ、ファンファン!』

『パンダだから笹食うんだろ? ほ~れ、ご飯だぞ~』

 

 鈴が転校してきた初日、外国から来たということと日本人とは違う名前を面白がってからかう悪ガキどもがいたことを思い出した。

 この後に自分が悪ガキどもを殴り飛ばして鈴を助けて―――そこから鈴との交流が始まったんだったな。

 でも鈴が床にしゃがみこんで泣きじゃくっているということは自分が間に入らなかった別の未来を見せられているということなんだろうか。

 

「都合のいいように最悪の未来を見せられるのか?」

『それはISの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)かもしれない』

「……電脳空間特化型のIS? そんなの生み出して何に……」

 

 思い浮かぶのは稀代の天才。

 自分を殺すことに全てをかけているあの人ならば自分の周囲を手にかけ、絶望させてから本丸を叩き潰す、なんてこともするかもしれない。

 

『今、みんなは絶望の未来を見せられているとすれば……解除方法は……希望を見せること』

「希望……」

 

 今の自分が希望になれるのか、とも思ったが自分が戦う理由を思い出し、拳を握り締める。

 みんなを守る理由に自分は関係ない―――あるのは守りたいという想いのみ。

 

(あの時もこうやって殴り飛ばしたっけな)

「人を虐めてんじゃねえよ!」

 

 

――――――☆――――――

『人を虐めてんじゃねえよ!』

「っっ!」

 

 初めて聞こえたからかい以外の声に鈴は目を大きく見開く。

 耳を抑えていても確かに聞こえたその声は聞き覚えがあってずっと聞きたいと思っていた声で、いつも助けてくれる大好きなあの人の声だった。

 あの時もそうだった。

 男子に虐められていたあの時も今のように相手の顔面を殴り飛ばして間に入ってくれていじめっ子から救ってくれた。

 あの時から日本での生活が本当の意味で始まった。

 勇気を振りしぼり、顔を上げるとそこには待ち望んだ景色が広がっていた。

 

「大丈夫か?」

 

 あの時も、そしてこれからも彼はきっと笑いながら手を差し伸べてくれる。

 

「一夏……一夏ぁ!」

「っと」

 

 ずっと会いたかった人の胸に勢いよく飛び込んだ鈴は涙を流すことも我慢せずに大好きな彼の胸の中で泣き続け、彼の温もりを感じる。

 それに応えるように彼も鈴を優しく抱きしめる。

 

「ばかっ……ずっと待ってた」

「ごめん……待たせ過ぎた」

「……でも信じてた……絶対に来てくれるって」

「当たり前だろ……皆は自分が守るって」

 

 数日の間だけ一夏と距離を離していただけだというのに気付かないうちに寂しさを募らせていたのだと思うと同時に鈴はようやく気付いた。

 確かに今の一夏は何か不調を抱えている。

 でも―――

 

(そっとしておく必要なんかない……あたしたちはいつも通りに接すればよかったんだ……いつも通りに一夏と話して……笑って……どんなこいつでも受け入れてあげればそれでよかったんだ)

「ごめんね」

「? なんで謝るんだよ」

「……あんたも苦しかったんでしょ?」

「……」

「そっとしておくのがいいって勝手に思ってた……でもそれが逆にあんたを苦しめてた……一夏、全部話してほしいなんて思わない……だけどあたしたちの傍に居続けて」

「…鈴」

「あたしたちの傍にいてくれるだけでいいから……あんたが何に苦しんでるとか悩んでるのとか……あんたのことだからずかずかと入らないから……傍にいて。それだけでいいから」

 

――――――☆――――――

 鈴の言葉に少しだけ心の重りがまた取れた気がする。

 自分が何者かなんて気にしなくていいんだ。

 たとえ自分自身を奪われたからと言ってこれまでに築き上げてきた皆との思い出なんかが失われるわけじゃないし、これからだってずっと続く。

 

「ありがと……さあ、帰るぞ」

「うん」

 

 手に剣を呼び出し、片手で鈴を抱きしめながら横なぎに大きく剣を振るうと空間が切り裂かれ、そこから亀裂が全体に広がっていく。

 黒い何かが覆っていた空間が崩壊していき、白くて暖かい光が自分たちを包み込んでいく。

 気づいた時には五つの扉の前に自分たちは立っていた。

 後ろを振り返ると鈴が入っていた扉が崩壊を始めており、ほんの数秒足らずで粒子となって扉が自分たちの目の前から消え去った。

 

「先に戻っててくれ……皆を助けてくる」

「うん……待ってる」

 

 鈴の両手が自分の顔を包み込んだかと思えばゆっくりと鈴の顔が近づいてきて頬のあたりに柔らかい感触が一瞬だけ現れる。

 恥ずかしそうにはにかみながら鈴は光の粒子となってき去り、元の世界へと戻っていった。

 

「……うし、行くか」

 

 自分は次なる扉へと入った。

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