Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百三十三話

 次の扉に入り、閃光が落ち着いた時、目の前に広がっていた光景は我らが学び舎のIS学園。

 今は休憩時間中なのか多くの生徒たちが廊下を歩いているが少しだけ違和感を感じ、自分は一組の教室へと向かい、中を覗き込む。

 

「……もしかして」

 

 隣の二組へと向かい、窓から教室を覗き込むが確信した。

 このIS学園には鈴もいないし、ラウラやシャルなんかの自分が入学したことをきっかけに転入してきた組が存在していない。

 となればもちろん自分も存在していないIS学園だ。

 だから一組の座席数が二十九しかなかったんだ。

 その時、後ろからヒソヒソと囁く声が聞こえ、振り返ると皆の視線が前方を歩いてくる生徒に集中していた。

 そこにいたのはセシリア―――でもどこかその雰囲気は最初の尊大なものに戻っている。

 ただ気になるのは周囲の生徒たちがセシリアのことを見る視線、囁くように喋る、そしてどこか小ばかにしたような笑みを浮かべていること。

 嫌な予感がした自分はセシリアの後を追いかけて一組の教室へと入る。

 

「みなさん、織斑先生から連絡ですわ。次の授業教室は一組教室ではなく情報室に変更とのことですわ」

 

 セシリアがこの役割を担っているということは一組のクラス代表は彼女になった世界線なんだろう。

 しかし、彼女の伝達をクラスメイト達は一瞬、静かになるがさも聞いていないかのように再び友人との雑談に戻り、移動をするそぶりを見せない。

 

「み、皆さん聞いておりますの? 次の教室は」

「偉そうに言わないでほしいよね」

「ぇ?」

 

 ぼそっとそんな呟きが聞こえ、声がした方向を向くが誰しもがにやにやと嫌な感じのする笑みを浮かべていて教室に満ち溢れる空気感が最悪だ。

 セシリアも自分が考えていなかった反応を目の当たりにして立ちすくんでいる。

 

『きっとこの世界は―――がISを動かさなかった世界』

「……つまり、セシリアが本来辿るはずだった最悪の未来」

 

 自分がISを動かしたものはイレギュラーのようなものなのでこの世界が本来、彼女が歩むはずだった世界なのかもしれない。

 ふと、外側の座席に箒が座っているのが見えるがセシリアとは対照的に周りには多くの友人が集まっており、楽しく談笑している。

 

『この世界では箒とセシリアが……模擬戦をしたみたい』

「そうなのか」

 

 もう一度、セシリアが連絡事項を発しようとするがそれを見越してかぞろぞろと授業の準備をもって教室を出ていく。

 誰もセシリアの傍を通らず、一緒に行こうと誘うこともない。

 

「篠ノ之さん、一緒に行こ」

「しのっちとれっつご~」

 

 対照的に箒を何人ものクラスメイトが誘い、のほほんさんはいつもの柔らかい明るい笑顔を振りまきながら箒と手を繋いで歩いて行く。

 それはまるでセシリアに見せつけるかのように。

 正直、見てられない光景すぎてセシリアに触れようとするが何かに阻まれるかのようにバチッ! と電流が迸り、彼女に触れることができない。

 

「なんで……鈴の時は触れられたのに」

『多分、タイミングがあるんだと思う……考えられるのは……世界が分岐するタイミングでの介入。おそらくこの世界は絶望を……ループさせている』

「……皆が絶望する様を見なきゃいけないのか」

 

 彼女たちを助けたいのは事実だけどその度に絶望する様を見せつけられるのは心苦しい。

 セシリアが肩を落としながら移動を始めたので自分もその後を追いかけていくが彼女の背中は悲壮感に包まれており、今すぐにでも触れたい。

 

「っっ……出てきたか」

 

 セシリアが情報室へ入った瞬間、自分を遮る壁のように黒い何かが現れ、巨大な壁を形成する。

 剣を握り締めて壁に一太刀浴びせるが開いた傷はすぐさま修復される。

 直後、壁から触手が伸びて自分めがけて振るわれるがそれを回避しつつ、距離を取ると黒い壁は攻撃をやめ、自分の行動を監視するかのように動かない。

 

「一撃で吹き飛ばさないとダメか」

『だったらこれを使って』

 

 自分のすぐそばにウィンドウが表示されてある武器が表示されたのでデバイスを取り出して武器をタッチすると目の前に粒子が集まり、具現化する。

 四基の青いビットとスターライトmkⅢが現れる。

 

「自分、射撃は大の苦手なんだけどな」

『敵は壁……よっぽどのことがなければ当たる』

「そうだよな……よーし」

 

 スターライトmkⅢを持ち、銃口を壁に向けて引き金を引く―――しかし、青いレーザーは放たれるや否やあらぬ方向へと飛んでいき、壁に直撃してしまう。

 

『……き、気にしちゃダメ……ISの補助がないから』

「慰めはいらない……ビット集合!」

 

 気恥ずかしさをかき消すように大きな声を上げるとビットたちが集結し、スターライトmkⅢの銃口に接続されていく。

 銃口を目の前の壁に向けるとターゲットスコープが現れて目印が表示される。

 腰を落とし、足に力を入れたと同時に引き金を引いた瞬間、凄まじい反動とともに廊下が青い閃光で満たされるほどの強烈な一撃が放たれる。

 自分の体は衝撃のあまり後ろへと引きずられていく。

 極大の一撃は壁に直撃するや否や一瞬にして消し飛ばし、巨大な穴をあける。

 

「待ってろよセシリア!」

 

 スターライトmkⅢを投げ捨て、開いた大穴へと飛び込むと同時に情報室の扉を開き、ドアを閉める。

 教室内は情報実習の最中でみんなが眉間にしわを寄せながらキーボードを叩き、画面を睨みつけているがセシリアだけが涼しい顔をしている。

 その時、セシリアは立ち上がると手が止まっているクラスメイトのもとへと向かう。

 

「よろしくて? もし、詰まっているのでしたら教えて差し上げますわよ」

「あ~……大丈夫」

 

 セシリアは親切心のつもりで話しかけたんだろうけどこの世界じゃそれすらもマイナスに取られる。

 彼女はそんな反応が返ってくるとは思っていなかったのか理解できないと言いたげな表情とともに驚きの様相を浮かべ、立ち尽くす。

 

「ぇ? で、ですが課題は」

「え!? 本音もう完成させたの!?」

「うん~。ポチポチってしたらできた~」

「教えてー!」

 

 隣にいたのほほんさんに見せつけるかのように頼りに行く。

 自分をのけ者にするようなみんなの行動に我慢の限界が来たのかセシリアは握りこぶしを作り、そして感情のままデスクを叩きつける。 

 

「なんですのその態度は!? クラス代表たるわたくしが教えて差し上げると言っているのですからそれ相応の態度を取るべきではありませんの!?」

 

 我慢ならなかった怒りの感情をすべて吐き出してからようやくセシリアは気づく。

 一組全員が自分に対して敵意を持った視線を向けていることに。

 

「オルコットさんってかなり上から目線だよね」

「え?」

「なんか偉そうすぎるし、言い方もムカつく」

「え?」

「代表候補生ってみんなそうなの?」

「あんな代表候補生の面汚しと一緒にしないで」

「み、皆さん何を言って」

 

 一点から始まったセシリアへの冷たい言葉はやがて教室全体へと広がっていき、教師が止めに入っても止められないほどの勢いとなっていく。

 

「ていうか私たち、オルコットさんのクラス代表も認めてないから」

「な、なぜ」

「オルコットさんがクラス代表だと一組みんなが偉そうだって思われるし」

「調子乗るなって感じ」

「篠ノ之さんがクラス代表だったらな~」

「や、やめてください……やめてください!」

 

 セシリアは耳をふさぎ、その場にしゃがみこむけどみんなからの罵倒はやまない。

 その時、彼女の足元から黒い何かが噴出し、彼女を一瞬にして包み込むと周囲に景色もそれに合わせるかのように黒く染まっていき、姿を変えていく。

 情報室だった教室は舞台を変え、一年一組の教室へと姿を変える。

 

「……入学式の日か」

 

 教室にいる生徒たちはどこかよそよそしい雰囲気を醸し出しており、一目で入学式初日だと気づいた。

 そうなればきっとこの日がセシリアの世界の分岐点。

 恐らく分岐点はクラス代表を決める話し合いの場だ。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 クラスのみんなが篠ノ之博士の妹だからという理由で箒をクラス代表へと押し上げようとしたところにセシリアが怒りをあらわにしながら立ち上がる。

 介入しようとしたところでふとあることに気付いた。

 

(確か元の世界じゃクラス投票になったはず……この雰囲気じゃ投票なんて)

「では貴様も立候補するというのか? セシリア・オルコット」

「ええ、もちろんですわ! イギリス代表候補生であり、新入生主席の実力を持つわたくしこそがクラス代表にふさわしい実力の持ち主ですもの」

「他はいないな? では一週間後、両名による模擬戦でクラス代表を決定する!」

 

 自分の予想通り、クラス投票には入らずに模擬戦で決定することになってしまった。

 今、自分の手元に白式はないからISがドンパチやりあっている模擬戦の中に生身で乱入するほどのぶっ飛んだ度胸はない。

 

『そんなこともあろうかと』

「……まじか」

 

 どこかの防衛隊よろしくの言葉が聞こえると同時に自分の腰元の辺りにカードケースのようなものが現れ、中身を見てみると三枚のカードが入っている。

 絵柄はもちろん自分の専用機である白式。

 

『ただし……あくまで白式に見える鎧を装着するだけ……浮遊も飛行もできるけどスペックを完全再現しているわけじゃないから気を付けて』

「ありがと……最高だ、簪」

『…うん』

 

 再び景色が変わっていき、教室が第一アリーナのビット内へと変貌する。

 ビット内には姉さんと山田先生の二人しかおらず、もちろん自分の存在など感知すらしていない。

 取り付けられたモニターを見てみると打鉄を装備した箒とブルー・ティアーズを装備したセシリアが対面しており、今にも模擬戦が始まりそうだった。

 

「んじゃさっそく……使わせてもらうぞ」

 

 カードケースから一枚カードを取り出し、それをかざすとカードが発光し、自分の体が一瞬にして白式の白い装甲に包まれる。

 手には雪片弐型ではなくただの剣を握り締め、スラスターを吹かせて今にも閉まろうとしていたゲートからフィールドへと抜け出る。

 

「その試合ちょっと待ったー!」

 

 自分がそう叫んだ瞬間、凄まじい反応速度で箒が振り返るや否や両目が妖しく輝き始め、その手にブレードを握り締めて自分に向かって突撃してくる。

 恐らく邪魔者の自分を排除するように侵入者が指示しているんだろう。

 

「偽物は―――消えてろ!」

 

 一太刀のもと、箒の偽物を切り伏せてセシリアのもとへと突っ込んでいくが四基のビットが射出されて自分めがけて青いレーザーを放ってくる。

 スラスターを吹かし、右に左に回転回避でかわしていくが白式のスペックがすべて再現されているわけじゃないので動きと自分の思考がマッチしきらない。

 

「懐かしいなぁ! 四月の時もこうやって模擬戦したっけな!」

 

 スラスターを全開に吹かし、すれ違いざまに一基のビットを切り捨てると直接、スターライトmkⅢを向けて自分を叩き落そうと一撃を放つ。

 その一撃を剣で叩き落す。

 

「セシリアー!」

 

 ビットによる多角的で隙のない射撃を回避しながらセシリアに向かって一直線に突き進んでいく。

 やばいと感じたのか突如としてセシリアを覆うように黒い何かが噴出し、彼女を飲み込もうとするがそんなこと自分が許すはずもない。

 

「退け!」

 

 強烈な振り下ろしによる一撃で黒い何かを切り裂き、セシリアを露わにすると光のない彼女の目と視線が合い、自分は彼女に向かって手を差し伸べ、叫ぶ。

 

「帰ってこい! セシリア―!」

「…――さん?」

 

 目に光が戻ったセシリアがゆっくりと手を伸ばしてくる。

 自分は手を限界いっぱいまで伸ばし、彼女の手を優しく取ると同時に勢いよく引っ張り上げ、黒い何かから引き上げると同時に距離を取る。

 

「―――さん……―――さん!」

「っと」

 

 ようやく現実に意識が戻り切ったのかセシリアは目に涙を浮かべながら自分に抱き着き、胸に顔をうずめて肩を震わせて泣き始めてしまう。

 自分が希望になれるんだったら喜んで彼女たちの希望になりたい。

 

「ずっと……ずっと待っていましたわ」

「ごめんな、遅れて」

「ほんとですわ……待ちすぎて崩壊するところでしたわ」

「それは困る……さて、こっからどうすっかな」

 

 周囲の観客たちが次々に黒い何かに形を変えていき、自分たちの周囲が黒い何かの大軍団に囲まれ始め、その数がどんどん増していく。

 もう一度、スターライトmkⅢを具現化させてビットを装着させるとセシリアの手が自分を支えるようにして回り、互いに目が合う。

 

「わたくしも支えますわ」

「……じゃ、一緒に帰るか」

「はい……どこまでもお供しますわ」

「「Blue Tear Singularity!」」

 

 互いに叫んだ瞬間、引き金を引き、黒い影の軍団を一瞬にして蹴散らしていく。

 極大の青い輝きがすべてを包み込みながら吹き飛ばしていく様はまさに圧巻であり、セシリアを苦しめていた悪夢のすべてが消し去っていく。

 全てを飲み込んだのち、彼女の絶望の世界は崩壊を始めていく。

 

「―――さん……ごめんなさい」

「なんでセシリアが謝るんだよ」

「……あなたを一人にさせてしまいましたもの……苦しみ、悩んでいるときに」

「自分に……皆に相談する勇気がなかっただけだ」

「それを言うならわたくしにも……あなたの悩みを聞く勇気がありませんでした。そっとしておくことが正しいやり方だと勘違いして」

 

 セシリアを抱きしめながら頭を優しくなでると徐々に彼女の体が光の粒子となりはじめ、元の世界への帰還が始まりだした。

 

「先に戻っていますわ」

「あぁ。自分もあとで行く」

「はい……」

 

 セシリアは消える寸前、自分の頬にキスを一つ落とし、一足先に現実の世界へと戻っていった。

 世界の崩壊が終わり、元の扉の前へと戻ってくると二つ目の扉が消滅した。

 

「……次の世界に行こう」

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