Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百三十四話

 三つ目の扉に入ると建物内ではなく外の景色が広がっていた。

 それも見覚えのない風景が広がっていてとてもじゃないが日本の風景には見えず、外国のお金持ちの屋敷に入り込んだ感じがする。

 その証拠に目の前には広大な敷地内に立つ大きな建物が聳え立っており、少し先には巨大な社屋が見えていて忙しそうなスーツ姿の人が出入りしている。

 

「ここ……どこだ?」

『風景写真で検索すると……フランスのパリ』

「フランス……シャルの故郷か」

『あと、向こうに見える会社はデュノア社』

 

 それを聞き、シャルの境遇や彼女に対して行ってきたデュノア社の行為を思い出し、怒りの感情が煮えくり返るが今の目的を思いだし、デュノア社に背を向ける。

 デュノア社に殴り込みをかけるのは今じゃない。

 

『……隠れた方がいいかも』

「お、おう」

 

 簪の指示に従い、建物のゲート前に身を屈めると警備員らしき男性が通り過ぎていく。

 少しだけ顔を出してゲートの奥を覗いてみると明らかに平時の警備レベルではない数の警備員が配置されており、まるでゲームのNPCのようにうろちょろしている。

 この数の警備ではさすがに正面突破は難しい。

 

「早くいかないとシャルが」

『ここは……囮に注意を引いてもらう』

「お、囮?」

 

 その時、デバイスが軽く震えたのを感じ、取り出してみるとアイテム受信メッセージが表示されており、それをタップすると画面が移り変わる。

 そこにはドローンが複数機、表示されており、名前が甲龍・ティアーズ・弐式と明らかにみんなの専用機を意識した機体名とカラーリングをしている。

 

『私がドローンを操作する……一夏はその間に中に』

「オッケー」

 

 ドローンをそれぞれタッチすると目の前に粒子が集まり、三機のドローンが具現化される。

 ドローンと言っても人型のドローンと言うべきものであり、それぞれの専用機を完全装甲型ISに変えたような姿をしている。

 

『ちなみに人を気絶させる威力の兵器持ち』

「な、なかなか殺傷能力が高いドローンだな」

『これもご愛敬……では出陣』

 

 三機のドローンが上空へと舞い上がると警備員に見つかるようにわざと正面から侵入すると早速、男性の野太い声が響き渡り、騒ぎとなり始める。

 三機は縦横無尽に飛び回りつつ、警備員たちをゲート前から離していく。

 

「よし」

 

 警備員の意識がドローンへと向いている間にゲートを飛び越えて敷地内へと侵入し、シャルがいる場所を捜索するがそう易々とは見つからない。

 

「……この世界がシャルの過去を再現しているなら……」

 

 シャルが前に話してくれた境遇を思い出し、彼女がいるであろう場所を推測する。

 彼女はデュノア社に引き取られてから小屋で過ごしていたと言っていたのを思い出し、あたりを見渡すとそれらしき小屋が見つかる。

 シャルの表現だけだと思っていたけどどうやら本当に小屋に住んでいたらしい―――だけどおんぼろや小汚いといったイメージの小屋ではなくシャルが住むから、というだけで建てたような気もする。

 それくらいにその小屋は奇麗だった。

 それにその小屋の周りにはコスモスの花が植えられており、そのどれもがきれいに手入れされていて全て満開に花を咲かせている。

 

「雑草も綺麗に刈られている」

 

 何より小屋がある位置はおそらく本宅になるであろう建物からもよく見える位置にあるし、警備員たちが常駐しているゲートからもほど近い。

 シャルの境遇は本物だろうし、シャルの父親がやったことも絶対に許されないことだ。

 自分の娘を情報を仕入れる道具としてしか見なさず、女であることを武器にして潜入させるなんてどう見たってくずのやる所業だ。

 でも―――この小屋の様子を見る限り、全てが悪の所業かと言われたら首を縦に振れない。

 

「扉が」

 

 扉が開いたのを確認し、小屋の後ろへと身を隠す。

 扉から出てきたのはシャルだったけどその背丈はどこか自分が知っている彼女の背丈よりも少し高く、雰囲気もどこか大人びたものを感じる。

 

「ん~……今日もいい天気だよ、お母さん」

 

 そう言いながらシャルは胸元に視線を降ろす。

 

(そうだ……シャルのお母さんはもう亡くなって……つまり、ここはシャルが日本に送られなかった世界線……自分がISを動かさなかった世界か)

「あ、そうだ……今日お誕生日だ……十八歳か」

 

 自分に確認するようにそう呟いたシャルは少し肩を落としながらも中へと戻る―――同時にどこからともなく三人の男性たちが扉が閉まる前に小屋へと侵入する。

 直後、小屋からシャルの苦悶に満ちた声が聞こえ、自分もあわてて小屋へと突入しようとするがドアノブに触れた瞬間、電流が迸る。

 

「今じゃなかったらいつだっていうんだよ!

『もしかしたらこの小屋がシャルの世界分岐の鍵じゃないのかもしれない』

「じゃあいったい何が鍵だっていうんだ!」

『この世界は……あなたがISを動かしていない世界だと推測すれば……』

「……デュノアの社長がISを動かす男がいると認知すればいいのか!」

 

 小屋の中から聞こえてくる耳を塞ぎたくなるような男たちの下劣な話し声に殺意を抱きながらも近くにそびえたっている本宅らしき建物へと急いで向かう。

 近くの窓を割りながら中へと飛び込むと真っ先にドレスを着た綺麗な女性に遭遇する。

 

「社長はどこにいますか!?」

 

 女性は何も言わずにある方向を指さしたので自分はその方向へと走り始めるがほんの少しだけ気になり、走りながら後ろを振り返るとすでに女性はいなかった。

 

『……この世界は敵が創造した世界……どうして対話ができたの?』

「さ、さあ……自分にもわからない」

 

 理由が分からないことをいつまでも悩んでいたも仕方がないので自分は思考を捨て去り、社長室へとめがけて走っていく。

 その時、曲がり角から洪水のように黒い何かが自分めがけて流れてくる。

 

『こんなときはこれを』

 

 目の前に実体シールドとエネルギーシールドが二枚ずつ展開され、壁のように黒い何かをせき止める。

 

「シャルのガーデン・カーテンか!」

『そう……そしてもう一つ』

 

 簪のつぶやきの後、背中からワイヤー・ブレードが四本射出されたかと思えば二本が天井に突き刺さり、その長さを縮ませて自分を上空へと引っ張り上げる。

 そして残り二本が前方の床に突き刺さり、縮むことで黒い何かを飛び越えることができ、全速力で一本道を駆け抜けていく。

 

「見えた! 社長室!」

『後ろも気を付けて!』

 

 振り返ると濁流のように黒い何かの塊が追いかけてきていて全速力で駆け抜けていく。

 ワイヤー・ブレードを社長室の扉に突き刺し、扉を無理やり開けると同時にそこへと飛び込むと断絶された空間内に入れない黒い何かが流れ去っていく。

 

「あ、危なかった……」

「小僧! どこから入ってきた!」

 

 顔を上げると顎髭を生やし、高級スーツに身を包んだ男性が驚きを露わにしながらこちらを厳しい眼差しで見ており、一目でシャルの父親だと分かった。

 自分はカードケースから白式のカードを一枚取り出し、見せつけると一瞬にして白式の装甲が自分を包み込み、展開が瞬時に完了する。

 するとシャルの父親はあり得ないものでも見ているかのような目で自分を見て、狼狽し始める。

 

「お、男が……男がISを起動した……だと」

「そうだ。本来の世界ならあんたは自分の情報を探らせにシャルを日本に送り込むんだ! そこで自分とシャルは出会って……あの子は明るい人生を送ることができるんだ!」

「シャルロットが……明るい人生を……娘が」

「っっ!」

 

 シャルの父親の口から娘という単語が出てくると思わなかった自分は驚きを隠せなかった。

 あんなひどいことを命令したやつだからシャルのことを娘だとも思っていないと思っていたのに―――シャルにすら隠している秘密があるのか。

 

「娘が太陽の下で……暮らせるというのか?」

「そうだ……自分と出会ってからシャルは友達もいっぱいできたんだ……だからこんな嘘で塗り固められた世界からは早く消えた方がいい」

「そうか……そうか」

 

 シャルの父親は二度、そう呟くとその姿が徐々に崩壊をはじめ、光の粒子となって消えていく。

 直後、建物全体が黒い何かに崩壊を始めていき、一瞬にして床が崩れ落ちるが上空へと飛翔すると世界そのものが崩れかかっており、暴風が荒れ狂う。

 

『―――! 世界―――始め―――気を―――』

 

 簪との通信も途切れ途切れとなるほどに激しい嵐の中、自分は目的のものを見つけ、そこめがけて一直線にスラスターを吹かせて突っ込んでいく。

 

「シャルー!」

 

 力の限り彼女の名前を叫ぶとゆっくりとその目が開いていき、自分の姿をとらえると自分が伸ばした腕に向かってその手を伸ばす。

 そして彼女の手をしっかりと握り、引き寄せて抱きしめる。

 

「―――、待ってた」

「遅くなってごめんな、シャル」

「ううん……僕の方こそごめんね」

「……シャル」

「苦しかったよね。悩んでたよね……でも僕は君を傷つけたくないからって君を一人にさせた……僕たちは君に助けられたっていうのに」

「……そんなことねえよ」

 

 そう言いながら優しく抱きしめると自分たちを中心に閃光が走り始め、周囲を包み込んでいく。

 全てを巻き込んでいた轟音の暴風が一瞬にして止み、ゆっくりと目を開けると扉の前に戻っており、シャルの世界の扉が粒子となって消滅する。

 

「みんながいてくれるから……自分は強くなろうとしたんだ」

「……僕たちを守ってくれるなら……僕たちはあなたの居場所を守りたい。たとえ苦しんで悩んで辛くても僕たちのところに返ってきたいって思えるように……僕たちが――の居場所になりたい」

「ありがとう……シャル……先に戻っててくれ」

「うん……向こうで待ってる」

 

 シャルはそう言いながら自分の頬にキスを一つ落とし、最後は笑みを浮かべながら光の粒子となって元の世界へと帰っていった。

 

「……あと二人だ」

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