Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百三十五話

 第四の扉に入ると舞台は再び、IS学園に戻っていた。

 周囲を見渡すとスーツを着た企業の人や護衛に身を固めている国のお偉い人など様々な要人が歩いており、それらを学園の生徒たちがさばいていた。

 

「この感じ……学年別トーナメントの時か」

 

 学年別トーナメントがこの世界の中心にあるとすればここにいるのはラウラで間違いないだろう。

 となれば目指すべき場所はただ一つ。

 自分は人ごみをかき分けながら第一アリーナへと入り、観客席へと入るとフィールドには専用機を装備したラウラともう一人の自分が戦っていた。

 ただ気になるのはこの世界は今のところ元の世界と何ら変わりないように見える。

 

「……簪、この世界の分岐はどこだと思う?」

『今のところは分からない……―――もいるし、――先生もいる。他のメンバーもいるから今のところは元の世界と何ら変わらない……と思う』

 

 簪に言われ、あたりを見渡すと確かに箒やシャル、セシリアの姿が観客席に見える。

 

「様子見……で行こう」

 

 模擬戦は進んでいき、自分がBoost・Timeを発動し、超音速でラウラの周囲を移動しながら攻撃を叩きこんでいく。

 自分の戦いを第三者視点で見るというのも奇妙な感覚がするけど今のところは自分の記憶にある光景と何一つ変わらない光景だ。

 その時、ラウラが上空へと飛び上がり、自分もそれを追いかけていく。

 ラウラがエネルギー手刀を突き出すが超音速で回避されて一瞬にして彼女の背後を取られるがラウラも負けじとそれに反応し、AICで捕まえようと手を後ろへと回す。

 

「っ、場面が」

 

 一瞬のノイズが走ったかと思えばフィールドに大穴が開いており、観客たちが突然、狂ったかのように大歓声を上げる。

 砂煙の中から自分が現れたからだと理解するのに一瞬だけ時間を要した。

 その時、そんな大歓声を引き裂くかのように大穴から電流が迸り、黒い装甲を融解させて再構成させながらラウラが浮かび上がってくる。

 

「そうだ……あの時もこうやって暴走して」

 

 再構成が終わり、その手にブレードを握り締めたラウラは自分との距離を一瞬にして詰め、頭を鷲掴みにして地面へと叩き付ける。

 白式の装甲がはじけ飛ぶがここまでは元の世界線と同じ歴史だ。

 自分が怒りに狂い、ラウラに叫び散らしていくが彼女はそんなこと気にもせずにブレードをまっすぐに持ち上げ、それを容赦なく振り下ろした。

 

(ここでシャルが間に入って―――え?)

『ここが世界の分岐点』

 

 まっすぐに振り下ろされたブレードは何物にも邪魔をされずに斜めに振り下ろされ、自分の首を真っ二つに切り裂いてしまった。

 切断された首がころころとラウラの足元に転がっていく。

 

『―――くれ』

「簪、何か言ったか?」

『私は何も』

『やめてくれ』

「……まさかラウラか」

 

 確かに聞こえた絶望に満ちたその悲しい声は集中していないと聞き逃してしまうほどに小さく、周囲の騒音にも優に負けてしまうほど。

 

『もう……やめてくれ……やめてくれ』

 

 いつもの強さに満ちているラウラの声とは思えないほどに弱弱しいその声を聴き、自分は剣を握り締めながらゆっくりと観客席を覆っているバリアへと近づいていく。

 目の前ではラウラが自分を様々なやり方で殺す様がループされており、心も精神も崩壊するのは明白。

 白式のカードをかざし、装甲を纏う。

 

「行くぞ」

 

 バリアを切り裂き、空いた穴からフィールドへと降り立つと邪魔はさせない、と言わんばかりに黒い何かが地面から吹き出す。

 

「……邪魔をするな」

 

 デバイスをタッチして武器を呼び出すと自分の背後に六機×八門のミサイルポッドが出現し、一斉に四十八発ものミサイルが放たれて黒い何かを消し飛ばしていく。

 開いた道めがけて全速力で駆け抜けていき、何度殺されても復活するもう一人の自分へと近づいていく。

 

「お前は……退いてろ!」

 

 その顔面に全力で拳をねじ込み、殴り飛ばすと同時にラウラの正面へと立つ。

 あの時とは止め方が違う―――でも絶望の世界に分岐なんてさせない。

 

「ラウラ……お前には言わなきゃいけないことがあるんだ」

 

 相手が本物の自分だと判断したのか、それとも敵が手を加えたのかラウラの剣が禍々しいオーラを放ち始め、黒い何かが集まっていく。

 細身のブレードだったものが太く、突起物が多数生えたブレードへと生まれ変わる。

 

「でもそんな状態のお前じゃ言葉は届かない……だから!」

 

 自分も剣を強く握りしめた瞬間、相手とは相対するように輝きを放ち始め、黒い何かたちが輝きにあてられて一瞬にして消滅していく。

 そこへ本物の自分を殺そうと勢いよくブレードが振り下ろされる。

 しかし、振り下ろされたブレードの一撃を自分は片手で受け止めると全力ではじき返し、ラウラの体勢を大きく崩すと前方に一歩、大きく踏み込む。

 想いのこもっていない剣で殺せはしない。

 

「帰ってきてくれ! ラウラ―!」

 

 

――――――☆――――――

「もう……やめて……やめてくれ」

 

 涙も枯れ、声も蚊の鳴く程度にしか出せなくなったラウラの精神は完全に崩壊しているがそんな彼女に追い打ちをかけるように何度も愛する人の殺しをループさせる。

 もう何度目になるかもわからない人殺しをさせられ、ラウラの心はほとんど黒い何かに支配されていた。

 ゆっくりと腕が上がっていくのを感じるがもうそれに抵抗するほどの力も気力も残っておらず、ただただ懇願するように声を発するだけ。

 

「いやだ……殺したく……ない」

 

 最後に思い出せる彼との会話が喧嘩の様子しかなく、ラウラは後悔の念に駆られていた。

 何故、苦しんでいる彼の心にずかずかと土足で入っていくような真似をしたのか。

 何故、そっとしてやれなかったのか。

 ただ、一人で孤独に居ることの辛さはラウラが一番知っており、自分たちまで離れてしまえばきっと彼は何も話さず、巻き込まないために姿をも消すと思った。

 

(……一夏……一夏……会いたい……会いたい……)

 

 そんな思いを裏切るように腕が動き始め、ブレードを真上へと上げていく。

 もう何度目かなど記憶にもない彼女はせめて殺しの景色を見まいと目を閉じる。

 

(一夏……大好きだ)

 

 振り下ろされるブレード。

 そして数秒後には肉を切り裂く感触がブレードを伝って―――

 

「っっ」

 

 今までにない感触がブレードから伝わったラウラは慌てて目を開くと目の前には闇に包まれたこの世界を照らし出すかのようにひときわ明るい光があった。

 その光は徐々に姿を現していく。

 

「帰ってきてくれ! ラウラ―!」

「一夏ー!」

 

 確かに聞こえた愛する者の声。

 その直後にラウラの目の前の空間に縦一直線に亀裂が入り、そこから光が漏れ始めたのでラウラは必死にその光を掴むために手を伸ばす。

 光に触れた瞬間、亀裂からもう一つの手が伸び、自分の手を握り締める。

 その手が持つ温もり、力強さの持ち主は一瞬で分かった。

 互いに強く手を握り合った瞬間、向こうへと強く引っ張られ、ラウラを覆っていた闇を引き裂きながら外の世界へと脱出を果たした。

 同時に少しの浮遊感の直後に心の底から欲していた温もりがラウラの全身を包み込む。

 

(あぁ……これだ……私は……これが欲しかったんだ)

「一夏……一夏」

「ラウラ……ごめんな」

「何を謝る必要がある」

「……ラウラは自分のことを心配してくれていたのに……それを無碍にしたから」

「私も……お前の辛さを考えずにずかずかと入っていってしまった」

「……向こうに戻ったら伝えたいことがある……ラウラにも、みんなにも」

「あぁ……分かった」

 

 徐々に黒い何かで構成されていた世界が崩壊を始める。

 ラウラは温もりに身を任せるように目を閉じた。

 

――――――☆――――――

 崩壊が終わり、扉の前へと戻ってくると四つ目の扉が粒子となって消え去る。

 

「―――、行くのだな」

「あぁ……箒を助けて最後だ」

「―――、私は先にお前に伝えたいことがある」

「なん―――」

 

 ラウラに尋ねようとした瞬間、自分の頬に柔らかい感触が伝わる。

 

「大好きだ……私はお前を愛している」

「……ラウラ」

「私を助けてくれたあの日からずっと……人生をかけてお前を愛したい」

「……」

「私は寛大だからな。浮気は許すぞ」

「何言ってんだよ」

「お前がどんな結論を出そうとも……私はお前を愛している……先に帰ってるぞ」

 

 最後にラウラは今まで通りの最高の笑顔を自分に向けながら元の世界へと帰っていった。

 

「……そろそろ答えを……考えないとダメだよな」

 

 自分にそう言い聞かせるようにつぶやき、最後の扉をくぐった。

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