試合当日、第二アリーナは満員―――とは言わないがその一歩手前の盛況ぶりを見せていた。
山田先生曰くこの行事の参加率は年によるが大体、1年生が100%、2・3年生は2割程度らしいが今回は1年生が5割。2・3年生が1割程度らしい。
なのでアリーナの観客席もセシリアとの模擬戦と比べると空席が見える。
セシリアの耳に届いている噂によれば織斑一夏は弱い、という話が回っているらしい。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる、だな」
「何言ってんのあんた?」
目の前には第三世代IS『甲龍』を纏った鈴がいる―――がその雰囲気や表情には明らかに怒りの成分がふんだんに含まれている。
あの日以来、日を増すのに比例して彼女の怒りは増大している。平日最終日に至ってはよっぽど集中しているのか誰とも喋っていないらしい。
第三世代IS『甲龍』―――赤色がかった黒の機体カラー。そして両肩には非固定浮遊部位があり、横には棘付き装甲が非常に強く攻撃性を主張している。
「白式を整備に回す覚悟はできた?」
「そんな覚悟ははなからない……鈴」
「なによ」
「この試合の後、話がある」
「……あたしに勝ったら聞いてあげる」
鈴はその手に持つ二本の大型の青龍刀の切っ先を俺に向け、そう言い放つ―――それを合図に俺達は準備完了の意思を告げる両間5メートルの位置へと立つ。
それを見たアリーナ全体に放送機器のジジッと言った接続音が響く。
『両者、配置を確認。ではただいまよりクラス対抗戦第一回戦、1組代表、織斑一夏対2組代表、鳳鈴音の試合を行います。試合―――開始!』
試合開始を告げる合図と同時に俺達は同時にスラスターを吹かし、一気に距離を詰めると互いの獲物をぶつけ合い、アリーナ内の空気を震わせる。
恐らく鈴を含めた多くの観客たちが俺が素手で戦っていることに驚いているだろう。
「あんた、あたしに素手で勝つつもり?」
「いろいろ事情があるんだよ」
「あっそ……じゃ、すぐ終わるわね!」
一閃の斬撃を回避し、戦闘距離に入ろうとするがそれをさせまいと二閃目の斬撃が俺めがけて振り下ろされる―――二閃目を落ち着いて手の平で押すことで軌道を逸らし、回避する。
「柔術ってやつ?」
「無刀流……ってやつだ」
「ふ~ん……じゃあ、それが出来ないくらいに早く切ればいいのよ!」
「っっ!」
先程とは比べ物にならない速度で青龍刀が次々に振り下ろされていく―――縦横斜めに、かつ青龍刀の持ち方を瞬時に順手逆手にと持ち替え、異なる方向から次々に青龍刀が振り下ろされる。
(目で追いきれる……でも早い―――っ!)
次々とくる斬撃をいなしていく―――突然、一本の青龍刀が鈴の手から離れ、俺の目の前でゆっくりと地面に向かって落下していく。
あまりにも突然のことに俺の視線は落ちてゆく青龍刀に注がれる―――刹那、首元に僅かな風の揺らぎを感じ、無意識に近い状態で体を後ろへと引き倒す。
ゆっくりと―――俺の喉すれすれのところを青龍刀が通り過ぎていく。
「甘いッッッ!」
「ぐふぅっ!?」
無事に回避―――したかと思えば鈴の声の直後、胸のあたりに鋭い衝撃が突き刺さり、たまらず鈴から離れようとするがそんなことを許してくれるほど甘くはなかった。
(俺の視界の外で青龍刀を拾って!)
一瞬にして距離を詰められ、二本の青龍刀が俺の首元を交点にするように迫ってくる―――だから俺は逆に距離を離すのではなくスラスターを吹かし、鈴との距離を詰める。
「やっ」
「でやぁっ!」
「くぅっ!」
掌底が見事の彼女の胸部装甲に直撃し、アリーナ内に鈍い音が響き渡る。
観客たちから前回ほどの歓声は聞こえない―――ISらしからぬ静かな戦闘に飽き飽きしているのか。
「へぇ……やるじゃない。代表候補生と互角以上にやり合っただけのことはあるわね」
「言っただろ。おいそれとやられるつもりはないって」
「ふ~ん……」
鈴は器用に二本の青龍刀をそれぞれの手でクルクルと回しながら俺を見定めるように見つめる。
「ま、流石にこれくらいじゃ勝てないか……んじゃ、第二部と行こうじゃない!」
「っっ! 合体した!?」
ガシャン! という音とともに二本の青龍刀が持ち手の部分で連結し、一本の長物に成り代わると鈴の手の平で凄まじい速度で回転し始める。
本当に近接武器か、という違和感が俺を襲う。
「この双天牙月は二本一対の武器。本当は二刀流である程度削りたかったんだけど出し惜しみしてたらこっちが削られそうよ!」
「っっ!? と、投擲!?」
凄まじい回転をしている双天牙月を持ちながら腕が大きく振るわれ、まるで“ブーメラン”のように空中を進みながら俺めがけて突き進んでくる。
俺は驚きのあまり声を出しながらも落ち着いて上空へ逃げることで回避する―――それを待ち受けるように鈴が上空へと移動し、俺の進路に立ちふさがる。
俺は拳を握りしめ、鈴へと向かう―――直前、鈴の表情がほんの一瞬だけ綻んだのが見え、止まろうとするがISはそんなすぐには止まれない。
命令を飛ばしている俺の身体が既に動いているからだ。
(何かが来る)
頭では分かっていても体が止まらない―――その時、ハイパーセンサーが拾った音が俺の耳の中で嫌に大きく反響し、全身に鳥肌が立つ。
鈴の手は開かれ、まるで何かを待っているかのよ――――――
「がっ!」
完全に―――完全に意識外である後頭部から金属質な何かが直撃した凄まじい衝撃と共に頭が大きく揺れ動かされ、一瞬にして上下の感覚が逆になる。
落下している―――それを理解すると同時に青龍刀が彼女の手の中に納まる瞬間を目の当たりにする。
(ブーメランみたいに投げた時点で気付くべきだった!)
白式の自動姿勢制御により頭からの落下を防ぎ、フィールドへと降り立つ俺―――それを鈴が上空から青龍刀を回転させながら見下ろす。
「今の、結構効いたでしょ?」
「あぁ、かなり効いた……おかげで残量が5割だ」
「あたしの計画なら3割まで削る予定だったんだけどね……あんた、いつまで剣隠してるわけ?」
鈴の問いかけに俺は答えない。
相変わらず雪片弐型は俺が触れれば嫌がる様にエネルギーを無駄に消費し、白式を強制解除してしまう状態であり、とても実践で使えるものではない。
(あれは十中八九、零落白夜……でもあれだけじゃじゃ馬じゃ使えない)
「使いなさいよ。じゃなきゃあんたあたしに一生勝てないわよ?」
「……」
「だんまりか……出し惜しみする相手間違ってんのよ!」
鈴は怒声をあげながら急降下し、俺めがけて青龍刀をすさまじい勢いで乱暴に叩き付ける―――あまりの衝撃にアリーナの砂が爆ぜ、舞い上がる。
観客は待ってましたと言わんばかりの歓声を上げる。
『あんたはいっつもそうよ!』
青龍刀の突きを手の平でいなす―――直後に連結を解除した連続性のある斬撃を裁き切れず、両肩の装甲が切裂かれ、深く傷が入る。
鈴の声はコア・ネットワークを介しての通信機能であるプライベート・チャネルを通して俺の脳内に響く。
『期待させるだけ期待させておいて最後は無意識でしたってオチはもう良いのよ!』
鈴がどの話をしているかは大体分かる―――あの時の約束、のことだろう。
『あたしがこの一年間どんだけ頑張ってきたか分かる!? 一年間死に物狂いで努力して代表候補生になってやっと日本に帰ってきたのよ! それもこれも全部―――!』
連結を解除した双天牙月の振り下ろしを手で受け止めるがじりじりと力で押されていく。
『あの時の約束の為なんだから!』
「っっっ!
鈴の肩アーマーがスライドした瞬間、腹部に見えない拳で殴られたかのような鈍痛と衝撃が俺を襲うとともに後方へと大きく吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。
(残量3割! レッドゾーンだ!)
遅れてやってくる痛みに意識を取られる前に即座にその場から離脱―――直後に地面や壁に見えない何かが着弾したかのように連続で爆風と爆音が発生する。
上空へと上がり、勢いはそのままに鈴の方へ視線をやると俺を睨み付けながら見えない何かで攻撃し続ける彼女がいた。
(とにかく避けるしかない!)
――――――☆――――――
「な、なんだあれは!?」
ピットからモニターで試合を観戦していた箒が驚嘆の声を出す。
「衝撃砲ですわね。空間自体に砲身を生成し、余剰で生じる衝撃を砲弾として打ち出す兵装ですわ。わたくしのブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵装です」
「弾が見えない大砲ということか……それじゃ避けようがない」
「見る限り
「……いや、一夏ならば」
「ええ。あの方ならばなんとかしてみせますわ」
セシリアの一言に箒が少し驚きながら彼女を見るとたまたま目が合う―――そして自分が言い放った言葉を思い出したのかセシリアは一気に顔を赤くする。
「ち、違いますわ!? こ、これはあくまでIS技術を指導した指導者の立場としての見解ですわ!」
「……そうだな。そのようにしておこう……今は一夏を共に見守ろう」
「わ、わたくしは」
セシリアは恥ずかしそうにしながらもモニターに映る一夏へと視線を戻し、一瞬でその動きに彼女の全ての感覚は囚われていく。
(あぁ……良い動きですわ……)
一夏の回避行動や掌底による打撃など行動の全てを見てもあの時戦った素人感は微塵も感じられない―――だが今のセシリアの目は全て一夏の表情へと注がれている。
凛々しい表情や時折見せる険しい表情。その全てが今まで出会ってきた男には感じてこなかった何かを彼女の心にもたらしていた。
(……一夏……さん)
――――――☆――――――
「ハァッ……ハァッ」
「あの一発で仕留めきれなかったこと、後悔してるわ。同じ戦い方はあんたには通用しない……理解してたはずなんだけどな~」
鈴のISの主力装備である衝撃砲『龍砲』の砲身も砲弾も見えない不可視の攻撃に俺は回避することだけを専念していた。そのおかげもあって少しずつ感覚を掴めている。
(何も見えない……でも一瞬だけ空間が歪むのは検知できる。それにあくまで俺めがけて単発で撃ってくるから動き回っていれば直撃の回数は減らせる……ただこのままじゃじり貧だ)
残り残量は二割。セシリアに教えてもらった瞬時加速を使うにしても使いどころを見誤れば軌道予測からの衝撃砲でドカン、ゲームオーバーとなる。
俺に残された攻撃手段は拳による打撃と雪片弐型による斬撃だが後者の選択肢は今のところ選ぶ可能性はほとんど0だ。
「でもこれで終わり……これであんたをブッ飛ばしてやるんだから!」
(俺がとる選択はただ一つ!)
俺は手を伸ばす―――同時に手の中に瞬間的に光の粒子が集まっていき、一瞬にして剣が現れるが俺はそれを握ることはない。
剣はゆっくりと重力に従って落ちていき、ようやく出したか、と言わんばかりの表情をしていた鈴の顔がなんで? とコロコロ表情が変わる。
彼女の隙を作るにはこれで十分だった。
(
爆発的な加速は鈴の視界から外れるには十分なものだった。ゆっくりと落ちていく雪片弐型を置き去りにしながら爆発的な勢いで距離を積めていき、拳を握りしめる。
確かに加速中は凄まじい重圧がかかり、方向転換をすることは今の俺にはできない―――でもこの加速を攻撃手段に転用することはできる。
(この加速を乗せた拳の一撃!)
鈴が察知し、龍砲を放とうとするが既に彼女の間合いに深く入り込んでおり、砲弾が放たれるよりも俺の拳の方が届く距離。
「ぜやぁぁっ!」
「ぐっぅぅぁっ!」
鈴の腹部に俺の拳が深く突き刺さると同時に瞬時加速の勢いがそのまま威力へと転換され、彼女のISに大打撃を与えながら後ろへと引きずっていく。
「らぁぁあっ!」
「きゃぁっ!」
腕を勢いよく振り抜いた瞬間、彼女の一瞬の悲鳴の後、目では追いきれない速度で吹き飛んでいき、観客席を護るエネルギーバリアに叩き付けられる。
また一つ、見えた俺の新しい戦い方。瞬時加速の勢いを攻撃へと転用する。
「けほっ……瞬時加速を攻撃に転用するなんてね……おかげで絶対防御発動して残量減っちゃったじゃない」
「ミシミシって聞こえたからな……俺だって今日の試合に勝つために努力してきたんだ。勝つまで噛みついてでもしがみついてやる」
(まぁ、残量あと1割なんだけど)
「ふん……でも勝つのはあたしだから。どうせあんたのエネルギー、1割でしょ?」
流石は代表候補生。相手の残量の把握もお手の物らしい。
俺は肯定の返事の代わりに拳を握りしめると鈴もニヤリと笑い、青龍刀を強く握り直す。
「第四部の」
「はじまりよっ!」
互いに得物を叩きつける―――はずだった。
――――――所属不明ISを確認。
「「っっっ!」」
お互いのISから送られてきた通知を受け取った直後、バリバリッ! という嫌な音が天井部分から聞こえ、俺達は互いに動きを止め、同時に空を見上げる。
IS学園のアリーナは天井部分は遮断シールドで覆われている。この遮断シールド、アリーナに使っているために名称が変わっているが実際の性能はISの絶対防御と同じだ。
故によっぽどのことがない限りは遮断シールドが破壊されることはない。
よっぽどのことがなければ――――――
「シールドが」
「割れてる?」
天井から降り注ぐシールドの細かい粒子。シールドは完全に破壊されてはおらず、外からの強い衝撃を受けてひびが入っている。
「な、何が起きてるんだよ」
――――――熱源を確認
「一夏! 離脱!」
「っっ!」
鈴の咄嗟の指示により後ろに大きく飛び退いた瞬間、熱源反応を感知するメッセージと共にシールドを粉々に粉砕して熱線がフィールドに着弾する。
凄まじい爆音と爆風により、フィールドが破壊され、大穴が生まれる。
「ば、爆発?」
「遮断シールドを破るくらいの威力なんてそうそう出せるはずないわ」
白式はさっきから爆煙の奥に潜む何かを捉え、俺に情報を送ってくる―――でも文字化けを起こしているのか表示される文字は判読することが出来ない。
その時、爆煙の中から地面を踏みしめる重低音を響かせながら一機のISが姿を現した。
「「…………」」
俺達を含め、アリーナにいる人物は誰もが言葉を発せないでいた。
そこには深い灰色のカラーに、異常に長くつま先よりも伸びた腕を持ったIS。
そして強烈な特徴がもう一つ―――それは
「肌が……見えない」
完全全身装甲だということ。
最近、1時間ごとのアクセス数をよく見ているんですが更新時は89近くあったのが今日は60,でも周辺のアクセス数は20~30。これはその時間に集中していたのが周囲に散らばっただけ?