Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百四十話

 IS学園全体を巻き込んだ特殊作戦から数日が経過した日の休日、自分は生徒会室の扉の前にいた。

 生徒会室には箒、セシリア、シャル、ラウラ、簪、そして楯無さんの六人が一足先に生徒会室に集合しており、今か今かと待っているはずだ。

 彼女たちを呼んだのはもちろん、今の現状を伝えるため。

 本来なら家族に姉さんにも伝えるべきなんだろうけどただでさえ二度の死亡判定や裏に関わるなどのことで心配をかけて過ぎているのでこれ以上、心配をかけるわけにはいかない。

 

「……ふぅ……」

 

 緊張から震える手を抑えながらゆっくりと扉を開けると生徒会室で待機していた全員の視線が自分に向けられ、虚さんが自分を座席へと案内してくれる。

 そして役割を終えたように虚さんは深々と頭を下げると生徒会室から出ていく。

 

「みんなに伝えておきたいことがあるんだ」

「―――、―――さんはいいの?」

 

 鈴がこちらを見ながら何かを言ったような気がするけど内容が全く理解できず、話を出せずに生徒会室に嫌な沈黙が流れ始めてしまう。

 

(文脈的に誰かの名前を言ったから……姉さんのことか? 最初はさんがついていなかったし……多分、最初の言葉は自分のことだろ)

「あ、あぁ……姉さんは良いんだ」

 

 ようやく言葉を紡ぎだすがさらに皆が驚いたような表情をして自分のことを見てくる。

 ただ、そんな無限ループしそうな状況を打破するかのように楯無さんがパンパン、と手を叩く。

 

「今日は彼を質問攻めする日じゃないの……彼の話を聞きましょう」

 

 楯無さんに軽く会釈をし、お礼を言いながら深呼吸をして緊張を抑えようとする。

 

「みんなも薄々、気づいていると思うけど……今の自分の状況についてなんだ」

 

 それから自分はあの日にあったことを包み隠さずにみんなに伝えた。

 箒とのディナーの後に亡国機業の仮面の女に襲撃を受けたこと。

 仮面の女の顔が自分と全く同じだったことやそいつに自分を表現する言葉や名前、そして姉さんに対する言葉すらもすべて奪われてしまったこと。

 自分のアイデンティティーを失い、精神的に不安定になっていることなど今の自分の状況を包み隠さずみんなに話した。

 

「……非科学的な現象」

「自分もそう思う……でも本当に話せないし、聞き取ることができないんだ。だからみんなが自分のことを呼んでも反応が遅かったり、何も反応できなかったりしたんだ」

 

 その時、すっと鈴が立ち上がったかと思うと自分の手に手を重ねてくる。

 それを真似てかみんなも自分の傍にやってきて手を重ねていくとみんなの温もりが伝わってきて体の奥底から全身に何か心地いいものが広がっていくような気がした。

 

「話してくれてありがと」

「不安だっただろう……だが安心しろ」

「わたくしたちはずっとあなたのお傍にいますわ」

「僕たちはあなたの帰る場所だよ」

「だから……少なくとも私たちが傍にいるときは安心してほしい」

「……あなたの不安は共感できない……でも安心する居場所や空気は……作れる」

「あなたは一人じゃないわ」

 

 みんなからの言葉を聞き、自分はようやく全身に流れていく心地いいものの正体が分かった。

 安心してるんだ―――みんなの温もりに、みんなが感じさせてくれるこの空気に。

 今まで周りは真っ暗にしか見えなかったし、自分一人だけだと思い込むくらいに自分を追い込んでいた。

 でも、みんなが傍にいてくれればそれだけでそこが居場所になってここにいて良いんだって思えるし、何より自分の存在をより強くしてくれる。

 久しぶりに自分の存在をはっきりと認めてくれる感覚に自然と涙がこぼれてきて止まらなくなってしまう。

 

「ありがとうっ……みんなっ……ありがとう」

「バカ、何泣いてんのよ」

「そう言う鈴さんだってちょっと目が潤んでますわよ?」

「そう言うセシリアも」

「……みんな……泣いてる」

 

 何故かみんなまで泣き始めたのをみて思わず泣きながら笑ってしまう。

 それにつられてみんなも笑顔を浮かべる。

 みんなは自分の名前の傍にいるんじゃなくてみんな、自分という存在の傍にいてくれている。

 

「だが名前を聞き取れないのであればどう呼べばいいものか」

「……私に良い考えがある」

 

 簪が小さく手を上げてそう言うと全員が彼女のもとへと顔を寄せ、自分には聞こえないようにコソコソと何やら共有し始めると途端にラウラ以外のみんなが顔を赤くし始める。

 そしてなぜかラウラは勝ち誇ったような顔を浮かべ、腕を組む。

 

「あ、あんた本気で言ってんの?」

「…本気と書いて……マジと読む」

「で、ですがそれを実践すれば確かにスムーズですわ」

「何を皆恥ずかしがっているのだ。見ろ、旦那様がキョトンとしているぞ」

 

 ラウラの一言に全員が自分のことを見てくると思えば意を決したように頷きあう。

 

「で、では……あ、あなた」

 

 箒が顔を真っ赤にして自分のことを見ながらそう呼ぶ。

 イントネーション的に妻が旦那のことを呼ぶときの言い方なのでおそらく、ラウラがいつも自分のことを旦那様と呼ぶのを取り入れたんだろう。

 ただ、全員が全員そう呼ぶと紛らわしいので呼び方を変えると。

 

「お、おう」

 

 一言だけで反応するや否や箒の顔から火が出るほどに真っ赤になり、彼女は恥ずかしさのあまり両手で顔を隠してしまう。

 そんな反応をされるとこっちまで恥ずかしくなってしまう。

 

「じゃ、じゃあ次はあたしね……我爱人(ウォー・アイレン)

「そ、それも」

「ちゅ、中国語で……そ、それ以上言わせないで!」

 

 その続きを言おうとしたが彼女の臨界点が突破したのか顔を真っ赤にしながら机に突っ伏して足をバタバタとしながら悶えはじめ、それを見た全員が次は自分かと拳を握り締める。

 これはこっちも覚悟しないとやられるな。

 

「で、では次はわたくしが……Darling」

「お、おう」

「ぷしゅー」

 

 セシリアは穴という穴から空気を大量に放つかのような音を立てて机に突っ伏してしまった。

 

(今、ごんっって言ったけど大丈夫か?)

「ぼ、僕はだね……ふぅ……mon chéri」

「は、はい」

「ぐふっ!」

 

 シャルはまるで頭を打ち抜かれたかのように背もたれにもたれかかって動かなくなってしまう。

 

「ふふっ、私はもちろん旦那さまだ。旦那様!」

「お、おう!」

 

 ラウラだけいつもの呼び方なので非常に明るく、胸を張り、そして満面の笑みを浮かべながら余裕の表情で自分のことを呼んでくれた。

 ただ、少しだけ顔が赤いのは秘密だ。

 

「……私も……あなた」

「お、おう」

「……なかなかの威力」

 

 簪はずれた眼鏡を整えながらも火照る頬をぺちぺちと叩いていると楯無さんがずいっと近づいてくると自分の腕に抱き着き、肩に頭をのせながら勢いよく―――

 

「あ・な・た❤」

「は、はい」

「へへっ」

 

 さすがは年上と言うべきか、楯無さんは悶え苦しんでいるみんなとは違って完全に耐えきっており、みんなに対してふふん、と余裕の表情を浮かべるほどだ。

 しかし、なぜか楯無さんの顔を見るみんなの表情はどこか「お前もだな」と言いたげであり、その視線は顔ではなく一部分を凝視しているように見える。

 そしていち早く気づいたのが妹の簪だった。

 

「……お姉ちゃん、鼻血出てる」

「う、うそ!?」

 

 どうやら本人の中では耐えきった感覚だったのか慌ててティッシュで鼻をふき取ると確かに薄く鼻血が出ており、その事実を目の当たりにした楯無さんはほかのみんなと同じように顔を真っ赤にし、悶える。

 いや、悶えたいのはこっちなんですが、と言いたい気持ちをグッとこらえる。

 

「あと……このことは姉さんには秘密にしておいてほしい」

「それは教官を悲しませないためか」

 

 ラウラの一言に自分は頷く。

 恐らく、いや確実に姉さんは自分の不調を感じ取ってはいるだろうけどどこまでのレベルなのかは把握できかねているはず。

 少しの間、不安にさせ続けてしまうのは心苦しいけどみんなの協力があれば自分は今まで通りに笑いながら学園生活を送ることができると思う。

 そんな姿を姉さんに見せることができれば姉さんをこれ以上、不安にさせることはないと思う。

 その間にもう一度、仮面の女と戦って自分のすべてを取り戻す。

 

「姉さんを悲しませたくないんだ……姉さんに全てがバレる前に自分は……自分の全てを取り戻す……だから姉さんに何を聞かれても自分の状態は言わないでほしいんだ」

 

 自分の言葉にみんなは頷いてくれた。

 

(姉さん……必ずすべてを取り戻す……取り戻した時はまた……今までのように呼びたい)

「じゃ、ここからは楽しくお菓子パーティーと行きましょうか! 虚ちゃーん! 本音ちゃーん!」

 

 楯無さんの号令の下、ガラッと勢いよく生徒会室の扉が開かれると布仏姉妹が現れ、その手には美味しそうな手作りお菓子の数々が並べられているカートが握られている。

 全員が配膳されるお菓子に釘付けになっているとさらにテーブルには数々のジュースが置かれていく。

 

「クイニーアマン……今晩の夕ご飯を少なくして明日、運動頑張ればいいよね」

杏仁豆腐(シンレンドウフ)じゃない! あたし大好き!」

Trifle(トライフル)まで……さすがは生徒会長ですわ」

Schwarzwälder Kirschtorte(シュヴァルツヴェルダーキルシュトルテ)か。侮れないな」

「……羊羹……じゅるり」

「お団子まである……な、なんというレパートリーだ」

「さてさて、皆々様ジュースをもって!」

 

 楯無さんの合図で自分を含めた全員が飲み物が入ったグラスを掲げる。

 

「ささ、あなたが音頭を取って」

「じ、自分ですか?」

 

 楯無さんに言われるがままに立ち上がると全員が自分の方をワクワクしているような表情で見つめてくるので少し緊張してしまう。

 こほん、と一度咳払いをする。

 

「今までも激しくて戦いも多かったし、これからも今まで以上の戦いがあるかもしれない……でも、みんなとなら絶対に乗り越えられるって信じてる。これからもこの“居場所”を守るためにも今は楽しもう! 乾杯!」

「「「「「「カンパーイ!」」」」」」

 

 生徒会室にグラスが軽くぶつかり合ういい音が木霊し、自分をみんなの楽しくて明るい声やこの場の最高の雰囲気が包み込んでくれる。

 自分だけじゃなくてみんなと一緒にこの居場所を守っていきたい。

 

(そのためにも……自分の全てを取り戻すんだ)

 

 決意を新たにした自分はしばし、全てを忘れて皆とのパーティーに包まれていった。

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