第百四十二話
「……これは一体どういう状況だ?」
「あなた……さっきのシーンについてだけど」
「あ・な・た、はいあーん」
休日ということもあってか映画館は人ごみでごった返しており、それに加えてIS学園の生徒会長と世界で唯一の男性操縦者という客寄せパンダが居ればその周辺にも人は集まる。
とはいっても時折、楯無さんが見せる鋭い雰囲気によって定期的に人払いはされているので一定の距離からは近づいてこない。
「どう? おいしい?」
「んっ、さすがは期間限定のパフェですね」
「……で、あなたはどう思う? 私はあのシーンではこの必殺技を使うべきかと思う」
「ん~、自分としてもキックじゃなくてパンチにしたのは微妙だったかなって。でもサブもメインも均等の活躍シーンを描いていたからパンチにしたんじゃないかな」
「…ふむ、新しい着目点」
簪はぶつぶつと呟きながら先ほど購入したパンフレットに穴が開くんじゃないかと思うほどに視線を注ぎ、書かれている文章全てに目を通す。
今、自分は楯無さんと簪と一緒に駅前にある大型ショッピングセンターの映画館に来ており、簪とは先ほどの作品のレビューを、楯無さんとはスイーツを食べている。
まさに両手に花とはこのことだがなぜ、更識姉妹と行動を共にすることになったのか。
それを知るには四時間ほど時間をさかのぼる必要がある。
――――――☆――――――
「……暇だな~」
休日の土曜日、自分は自室のベッドでごろごろしていた。
外出してもいいんだけど何かと最近は自分関連で物騒なことが連続して起きているので関係ない人を巻き込まないためにと自室でゆっくりすることにした。
みんなを呼んでもいいんだけどみんなはみんなで代表候補生の仕事とか箒は実家の神社のお手伝いとかで外出していたりするのでそうおいそれと誘うこともできない。
「模擬戦をするにしても相手もいないしな~」
自分の強さの根源、そして戦う理由を見つけたことでようやく戦い方も安定してきたものの常日頃から模擬戦をしていなければ宝の持ち腐れだ。
でも、模擬戦をしてくれる肝心の相手がいない。
「……そう言えば簪とはまだ模擬戦していなかったな」
放課後の模擬戦の巡りも今はシャルやラウラの巡りなので簪の巡りはまだ少し先だ。
そんなことを想っていた矢先、扉を軽くノックされる。
「はいは~……って簪?」
「……こんにちわ」
「こんにちわ……で、どうかしたのか?」
そう言うと簪は少し顔を赤くしながらポケットから二枚組のチケットを取り出し、自分に見せてくる。
それは映画の優待チケットで料金が格安になるというチケットだけど最近、あまり姿を見ないからてっきり廃止されたのかと思った。
「過去の作品が……リバイバル上映されるイベントがある……ぜひ、一緒に」
行きたいのは山々だけど素直にそれを受け取れずにいた。
自分が外に出れば亡国機業なんかのテロ組織が襲ってくるかもしれないという不安に苛まれるが簪も日本の代表候補生だ。
打鉄弐式も完全に修繕は終わっているし、今の自分も戦える状態だ。
「ん、分かった。一緒に見に行こうか」
「……うん。十五分後に正面ゲートで……待ってる」
小さくガッツポーズをしながら簪は手を振りながら自室へと戻っていく。
姉の楯無さんに似てか簪もかなり可愛い―――特に恥ずかしそうにしながら小さく笑いかけるところとかがみんなにはない可愛さだ。
「……自分は一体、何人の女の子にドキドキしてんだ」
節操のない自分に突っ込みを入れながら自分は自室に戻ってお出かけの準備を始める。
だがこのときの自分は気づいていなかった―――自分と簪の会話を盗み聞きしていた存在に。
――――――☆――――――
準備を完全に整えた自分はすぐに自室を出て正面ゲートへと向かうとそこには私服姿の青髪美少女が立っていたので自分は歩く速さを速めて少女のもとへと向かっていく。
しかし、近づいていくごとに奇妙な違和感を感じ始める。
前方にいる少女は右肩を出しているシャツを着ており、スカートもいわゆるミニスカート丈で短く、茶色い帽子を深くかぶっている。
すぐ近くに到達するとその人は目元を隠すように深く帽子をかぶっている。
「……何してるんですか、楯無さん」
「あり? バレちゃった?」
自分の予想通り目の前にいたのは限りなく雰囲気を簪に近づけていた楯無さんだった。
「流石は旦那様ね。どうしてわかったの?」
「どうしてって……ファッションですかね」
「あら、そうかしら」
「…お待たせ」
今度こそ簪の声が聞こえたので振り返ると彼女のファッションスタイルを見て思わず驚いてしまう。
なんと楯無さんとほとんど同じようなファッションをしており、違うとすれば左肩を出していることとスカートではなくいわゆるホットパンツを履いている。
普段、あまり素肌を見せない格好の学園制服だからか新鮮すぎる。
「……そ、そんなにじろじろ見ないで」
「あ、あ、ごめん!」
そう言い、視線を外すと今度は楯無さんが自分の腕に抱き着いてくる。
視線は自然と腕に当たっている柔らかい感触に向けられ、自分の視線の位置からはそれはもう立派な谷間が見えており、魅惑的すぎる。
「……お姉ちゃんはずるい」
「あら、簪ちゃんも?」
簪は不機嫌を現すように口を尖らせながらも自分の空いている右腕に抱き着いてきて上目遣いをしてくる。
楯無さんにはない小動物のような可愛らしさに加えて上目遣いという可愛さを更に引き立たせる先方の前に自分の心臓ははじけ飛びそうなくらいに鼓動を強く打つ。
自分は今日、死ぬのだろうか。
「……今日は私が誘った……どうしてお姉ちゃんまで」
「良いじゃない。私も旦那様とお出かけしたいの。ね? 良いでしょ?」
「……優先権は私にある。それだけは忘れないで」
「は~い! じゃあ、レッツゴー!」
そんな感じで突如として始まった美少女姉妹を両腕に侍らせてのダブルデート、と言っていいか分からない状態のデートが始まった。
まずは簪が持っていた優待券を使っての映画鑑賞だがちゃんと弁えているのか楯無さんはいらぬちょっかいは一切かけず、映画に集中していた。
簪に見えないところで自分の手を握っていたのは黙っておこう。
「……やはり過去の作品は……ロマンが詰まっている」
「分かる……なんでだろうな。久しく感じていなかった……熱いたぎりを感じたぜ」
「簪ちゃん、あっちにパンフ」
楯無さんが言い切る前に簪は両眼をキラーンと光らせながら飛び込むようにして駆け出していき、リバイバルパンフレットたちに囲まれていく。
多分、一時間は帰ってこないだろう。
「じゃあ、その間に私たちはご飯食べましょう、あ・な・た」
「そ、そうですね。何食べますか?」
「ん~、じゃあパフェでも食べましょうか」
というわけで自分が場所取り、楯無さんが注文へ行くという風に役割を分担させていると何やら周りから視線を感じ、さりげなく周囲を確認する。
一瞬、亡国機業の類かとも思ったけどそんなことはなく、単純に自分という有名な存在を見ていただけ。
IS学園に入学した当初よりかは落ち着いたとはいえ、いまだに街を歩いていれば視線を感じるし、時々サインを求められる時だってある。
正直、近づいてこられると身構えてしまうからやめてほしい。
「お待たせ~」
「は~……で、でか!?」
「あははっ、三人分のロイヤルパフェキングサイズを頼んじゃったらこうなっちゃった」
店員さんも三人分も作りたくなかったんだろう、一つの超巨大なパフェグラスにそれはもう所狭しとフルーツや生クリームなどを詰め込み、ちょっとした名物タワーになっている。
そのあまりの高さに周囲の人も写真を撮るくらいだ。
「……ただい……お姉ちゃん、また面白いことに首を」
「まあまあ。ほら、三人で食べましょう」
楯無さんに促されるがままにそれぞれスプーンを手に超巨大パフェタワーを食べ始める。
簪とも先ほどの映画のレビューをしあいながらもタワーを食べ崩していくがやがて簪の手がゆっくりとなっていき、終いにはパンフレットへと集中する。
まだ、三分の一程度しか食べれていないので自分と楯無さんで食べきれるか不安だ。
「ん~! 美味しい! たまにはこういうのもありね」
「楯無さん、口元ついてますよ」
「ぁ」
楯無さんの口元についていたクリームを指の腹で拭ってあげると何や楯無さんはポケーッとし始め、徐々に顔を赤くしていく。
そこまでしたところでいつもの癖で指で拭ってしまったことに気付いた。
いつも姉さんにしている癖がここで出てしまった。
「紙ナプキンで」
「あんっ」
「っっっ!?」
紙ナプキンで拭きとろうとしたその時、楯無さんが自分の腕を掴んだかと思えばそのまま生クリームが付いている自分の指をくわえ、舐めてしまう。
突然のことで驚き過ぎてしまい、次の行動が移せないでいると楯無さんの口から自分の指が解放され、ツーっと唾液の糸が伸びる。
(や、やばい……ド、ドキドキする)
「うん……美味しいね」
顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに小さく笑みを浮かべる彼女を前にして自分の心臓は鼓動を強く打ち、別の何かが体の奥底から込み上げてくる。
するとツンツンと肩を突かれ、そちらの方を向くと簪も同じように口の端に生クリームをつけ、早く取れと言わんばかりにスタンバっている。
もう一度するのかと思いながらも小さく震える指でなんとか生クリームを拭ってやると簪の手が自分の手を取るがほんの一瞬だけ動きが止まる。
「……はむっ」
「ぅぅっ」
顔を真っ赤にしながら簪は自分の指を少し見つめたのち、楯無さんと同じように自分の指を口に咥え、生クリームをペロッと舐めとってしまう。
二度目であっても自分に降りかかる衝撃は変わらない。
簪や楯無さんに対しても箒や鈴たちのように傍にいるとドキドキする。
恐らくきっと―――自分は彼女たちのことを――――――
「……―――のクリーム……美味しい」
小さくはにかみながらそう言われ、傍から聞けば勘違いされそうだと思いながらもパフェへと手を伸ばすのであった。