Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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意識していないと設定を忘れてしまいます。


第百四十三話

 なんとかキングサイズ三つ分のパフェを制覇した自分たちだったけどあまりに糖分を取りすぎたためか胸やけを起こしてしまい、ベンチに座り込んでいた。

 三人とも水をがぶ飲みしているけどまだまだ胸焼けは収まりそうにない。

 

「流石に食べ過ぎた」

「……お腹が重い」

「あははっ……さすがにね」

 

 二人とも呆れながらもこの状況もまた楽しいのか笑みを浮かべ、自分の肩に頭をのせてくる。

 腕に抱き着かれ、肩に頭を置かれてドキドキしない男はいないだろうが自分のドキドキはきっとほかの男とは違う種類なんだと思う。

 

「―――は……楽しい?」

「もちろん」

「……私も…楽しい。―――に助けられた……あの日から」

「あらあら、簪ちゃんったら愛の告白?」

 

 楯無さんがいたずら心満載にそう尋ねると簪は顔を真っ赤にし、恨めしそうに軽く楯無さんを睨みつけながら自分の方に顔をうずめる。

 そんな楯無さんも自分の手を握る。

 

「でも私も……あなたに助けられてから……本当の自分を出せている気がするわ」

「……」

「あなたがみんなを巻き込まないようにって考える気持ち……分かるもの」

「楯無さん……」

 

 彼女が本当に心を許し、一人の少女として生きることができるのは布仏姉妹と簪くらいだっただろう。

 更識という特別な家に生まれ、IS学園の生徒会長としても活躍し、まさに二足の草鞋を履いている彼女は誰とも本当の意味で話ができなかったと思う。

 

「あなたは私にとって……素を曝け出せる唯一の外の人……それだけで生活が楽しくなったわ」

「自分はそんな大逸れたことしてませんよ」

「それでいいの……あなたは何も気にせずにいつも通りに私に接してくれればいい……あなたは簪ちゃんにとってのヒーローであり、私にとっての白馬の王子様だから接してくれるだけで……救われるもの」

 

 でもそれと同時に自分だって彼女たちに救われている。

 箒や鈴、セシリア、シャル、ラウラ、簪、楯無さん―――みんなが自分の居場所になってくれているからすべてを失った今でもこうやって自分を保てている。

 もし、みんなが居なかったらまともに生きていけていないだろう。

 

「自分もみんなと話ができるだけで救われてますよ……簪と映画見たり、楯無さんとバカやったり」

「ちょっと~、なんで私のやることが馬鹿なのよ~」

「……誰もロイヤルパフェのキングサイズを三つも注文しない」

「だ、だってロイヤルパフェが一番おいしそうだったから」

「多分、ロイヤルパフェ一つで三人分に相当しますよ、あれ」

「……当分の間は甘いもの禁止」

「たしかに」

「え~、模擬戦すれば帳尻合うわ」

 

 楯無さんと模擬戦をすれば帳尻合うどころか一か月分くらい消費しそうだ。

 結局、楯無さんと模擬戦らしい模擬戦をしたのは簪の一件の時くらいだし、あれも途中で終わっているから結局一戦もやっていないのとほとんど同じだ。

 

「楯無さんも簪とも模擬戦、してみたいです」

「あの時は途中で終わっちゃったしね」

「……私も実力を上げたい」

 

 その時、楯無さんの温もりがふっと消えたので彼女の方を見ると秘匿回線通話でも入ったのか楯無さんは周囲に気を配りながら小さな声で誰かと話す。

 その雰囲気はさっきまでの甘い雰囲気とちがう、仕事モードの雰囲気だ。

 

「分かりました……すぐに向かいます」

「楯無さん」

「お仕事、入っちゃった。楽しかったわ、あなた」

「自分も行きます」

「ダメよ。もうこれ以上、あなたを裏に引き込むわけには」

「もう全身、ずぶずぶですよ」

 

 楯無さんを救うと決めた時からもう自分は裏にずぶずぶに浸かっている。

 あの時の殺人は学園の力か、それとも更識の家の影響力か分からないけど誰からも何も言われず、不問にふされている。

 あの後、すぐに現場を見に戻ったけど一滴の血の跡も残っていなかった。

 

「……そうね。あの時、私を助けてくれた時からもう……分かったわ。ただし、やばいときは逃げるのよ」

「もちろん」

「簪ちゃんも……良いわね?」

「うん」

 

――――――☆――――――

 自分たちは一度IS学園へと戻り、制服に着替えて学園にほど近い臨海公園に集合していた。

 IS学園の制服を着ていれば学園関係者となり、IS学園の不可侵性の恩恵を受けることができるんだけどそれを使わないといけないほどの非常事態なんだろう。

 

「楯無さん」

「ISスーツも大丈夫ね?」

「もちろん。で、これからどこに」

 

 自分の質問に楯無さんは何も言わずに水平線の向こう側を指さす。

 その方向を目を凝らしてよく見てみるけど肉眼で見える範囲には何も見えない。

 

「ここから数十キロ離れた先にアメリカ所属の秘匿空母が停泊しているの……そこから日本政府に対して救難信号が発せられたらしいの」

「……秘匿空母が発するということは手に負えない状況が」

「そう。秘匿空母はアメリカにとっても曝け出したくないはず。でもそれを無視して救難信号を発するということは日本に借りを作ってまで守りたいものがある」

「……まさか亡国機業じゃ」

「それはまだ分からないわ。日本政府からの指示はまずは状況確認……戦闘許可も出ているわ」

 

 その言葉を聞いて自分と簪に緊張感が走る。

 あまり想像はしたくないけど亡国機業との戦闘になればISが出張ってくるだろうし、本土にも近いから最悪の場合、地上戦だってあり得るかもしれない。

 

「とりあえず見に行きましょう」

「分かりました」

 

 白式を展開しようとした時、こつんとこめかみのあたりを何かで突かれたのでそちらを向くと閉じた扇子の先端がこちらに向いていた。

 

「だ~め。ISの許可が出ているのは戦闘時だけよ」

「じゃ、じゃあどうやって近づくんですか?」

「決まってるじゃない。泳ぐのよ」

「……お、泳ぐ!? 数十キロも!?」

 

 何を言っているんだと言いたげな楯無さんに視線を向けられ、慌てて助けを求めようと簪の方を向くが彼女はすでに準備体操を始めていた。

 代表候補生は様々な訓練をしているとは聞いているけど遠泳できるほどの体力訓練もあるのか。

 お前もさっさとやれと言わんばかりに楯無さんも準備運動を始めたので自分も仕方なく、準備運動を始めるが正直数十キロも泳げるか不安だ。

 

「お、泳ぎ切れるかな」

「大丈夫よ。あれだけ激しい戦闘をしているんだから体力もついてるはずよ」

 

 確かにそうだけどあれはISの補助機能の上に成り立っている体力だから不安はぬぐい切れない。

 授業内でも基礎体力向上っていう名目でトレーニングはあるけどそれでもランニングと泳ぎじゃ体力の消費の仕方だって違う。

 

「よし……じゃあ行くわよ」

 

 楯無さんの合図で海に飛び込み、数十キロ先のまだ見えぬ秘匿空母に向けて泳ぎ始める。

 簪も楯無さんも服を着ながら泳いでいるとは思えないほどにスムーズに泳いでいる。

 

(自分、生きて空母までたどり着けるかな)

 

 

――――――☆―――――

「ここまでは順調ね」

「…一人、死にかけてる」

「ぜぇっ……ぜぇっ……はぁっ……な、なんでっ……げほっ……二人とも……げぇっっほっ!」

 

 息も絶え絶えで死にかけている自分に対して簪も楯無さんも息一つ乱れておらず、余裕の表情で海水を吸った制服を絞っている。

 楯無さんは実力も化け物染みているから分かるとしても簪まで体力お化けとは思わず、改めて代表候補生たちのポテンシャルの高さを思い知らされた。

 今、自分たちがいるのは秘匿空母内にある調理室だ。

 

「……誰もいない」

「変ね。空母内に誰もいないのは流石に……」

「というかかなり焦げ臭くないですか?」

 

 呼吸も落ち着き、ゆっくりと立ち上がって周囲を見渡してみるけどついさっきまでこの調理室には人がいたことを表すように包丁や食材などが放置されている。

 火もつけっぱなしでさっきからスープが危険なくらいにぐつぐつ煮立っている。

 

「この秘匿空母……無力化されてるわね」

「……誰かに襲撃を受けた?」

 

 コックと言えども軍に所属している軍人の一人だから基礎的な訓練は受けているはず。

 でもこの調理室の状況からは争った形跡は感じられない。

 

「おーい、腹減ったぞー!」

「「「っっ!」」」

 

 突然の声にこの場にいる全員が肩をびくつかせ、楯無さんや簪はすぐさま物陰に隠れるけど自分は敢えて隠れずにその辺に並べられている数品の料理をもって待機する。

 何をしているんだと二人から視線を送られるけどいったんはそれを無視する。

 

「なんか作ってくれよー」

「はーい! 余り物で作りましたけど良かったらどうぞ」

「おう、ありがとな」

 

 ダイバースーツのような全身型のISスーツを身にまとい、サバサバとした男勝りな喋り方の女性が入って来るや否や自分が渡した食事を受け取り、行儀悪く手で口へと運んでいく。

 よっぽどお腹が空いていたのか女性は侵入者である自分に何も突っ込まない。

 

「まっず。うちの軍の飯は何でこんなまずいんだよ」

「ちょっと待っててくれたら美味しいもの作りますけど」

「そうか。あ、ニンニク多めのガツンと来るようなやつで頼む」

(アメリカでもニンニクマシマシ信者はいるのか)

「ほかに何か注文はないですか?」

 

 必死に女性との会話を引き延ばしていると自分の意図を察したのか楯無さんと簪がバレないように調理室からそそくさと脱出し、別の場所へと走っていく。

 

「麵がいいな! ほら、日本のラーメンってあるだろ!? あたしあれ食べたいんだよ」

「ラーメンは流石に……あるかなぁ」

 

 日本の軍艦ならいざしらず、ここはアメリカの秘匿空母だから用意している食材は全部、アメリカの食材だろうから麺類はないはず。

 一から麺を作る暇もない。

 

「まぁ、とりあえずガツンと来るやつ、用意してくれよ」

「畏まりました」

 

 調理室へと戻ろうとしたその時、後ろからカチャッと無機質な冷たい音が聞こえ、ゆっくりと振り返るとそこには銃をこちらに向けている女性がいた。

 軍人としては当然の反応だと思う。

 

「で、お前は何でここにいるんだ」

「……」

「あたしも救難信号を受けてよ、様子を見に来たんだが」

 

 そう言われてふと違和感を感じる。

 この人はおそらくアメリカの軍人だろうから救難信号を受けるのは自然の流れだけどどうして日本政府にまで救難信号を送っているんだろうか。

 秘匿空母であればまずは国に救難信号を送るはず。

 

(襲撃された際に慌てて同時にしたとかか?)

「まさか……お前がやったのか?」

「……」

「いやな……噂によれば、だがよ。アメリカ所属の軍隊が消されたって話があるんだ……まぁ、軍隊が消されりゃ戦争なんだがそんな話も一切上がってこない」

「……」

「となればだ。うちの国が隠したがる裏の軍隊ってことになる。で、これまた噂なんだがそれをやったのがただの高校生だの生身でISと戦う鬼だのとわけの分からない噂が錯綜してんだ……お前だろ、――――」

 

 後者は理解しがたいが前者は自分で間違いない。

 ただ、目の前の女性には怒りや憎しみと言った負の感情は感じられない。

 

「自己紹介がまだだったな。あたしはイーリス・コーリング。アメリカの国家代表だ。ナタルが世話になったようだな」

「……銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の操縦者の」

「そうだ。あいつがやけにお前を気に入っててな」

「そ、そうですか」

 

 するとイーリスさんは銃を降ろし、自分の肩をポンポンと軽く叩く。

 

「ナタルが気にいる奴に悪い奴はいねぇ。それにあたしも会いたかったんだよ……蒼炎瞬時加速(ブルーイグニッション)、見せてくれよ」

 

 まさかアメリカの国家代表にまで知られているとは思いもしなかったがよくよく考えれば以前、ラウラがドイツの軍でも噂になっていると言っていたのを思い出した。

 ドイツが知っていれば世界最大の軍事力を持っているアメリカが知らないはずないよな。

 

「ま、それは後にするとして……なんか匂わねえか?」

 

 イーリスさんに言われ、匂いを嗅いでみると確かに調理場からではない別の匂いを感じる。

 ただ、それと同時に調理場からの異様な焦げ臭さが際立っているのに気付き、イーリスさんと見合うと恐る恐る調理場へと戻る。

 

「……ここ来た時からこの匂いか」

「はい……火は全部つけっぱなしでした」

「それにしても焦げ臭ぇな。肉でも焼き過ぎてんのか?」

「オーブンとかですかね?」

 

 フライパンなどには肉の類は見当たらないのでおそらく大型のオーブンなんかに入れられている肉のブロックなどが入れっぱなしなんだと思い、オーブンを探す。

 ちょうど見つかり、電源が入れっぱなしだったので電源を落とし、取っ手の部分を握った瞬間、べちゃっという不快な感触が指を通して伝わる。

 思わず手を引くと指にどす黒い血が付着していた。

 

「お~い、あったか」

 

 イーリスさんにどす黒い血が付いた自分の指を見せつけると一瞬にして彼女の表情が一変し、大型オーブンの前にやってくるが二人してそこで立ち止まってしまう。

 さすがに今の自分にこのオーブンを開ける勇気はない。

 

「お、おいおい……冗談だろ」

「思いたいですけど……」

「お前は下がってろ……あたしが確認する」

 

 流石に未成年の自分に見せられないと判断したのかイーリスさんが自分を離し、大型オーブンの取っ手を部分を持つが軍人のイーリスさんでもすぐには開けられない。

 何度か深呼吸をし、意を決してイーリスさんがオーブンを開いた瞬間、吐きそうになるくらいの最悪の匂いが充満し始め、思わず鼻を制服の袖で覆う。

 中に何があったのか、そんなこと言葉にせずともイーリスさんの表情だけで分かった。

 

「……ほかのやつらはどうなってんだ」

 

 静かに呟くイーリスさんの言葉尻には確かな殺意や怒りが込められている。

 仲間をこうも無残に殺されて何も思わない人はいないだろう。

 

「……」

 

 ずっと気になっていたのは向こうの設置されている大型の冷蔵庫だ。

 軍艦とだけあって設置されている冷蔵庫もかなり大型で正直、嫌な予想だけど人を入れようと思ったら入れられるほどの大きさだ。

 嫌な予感を抱きながらもその冷蔵庫へと近づき、ゆっくりと扉を開けると―――

 

「っっ!」

 

 ドシャッと音を立てながら二人の軍人が冷蔵庫の中から落ちてくる。

 物音に気付いたイーリスさんもこっちに合流し、首筋に手を当てようとするけどこめかみのあたりに見えている傷を一目見て手を戻した。

 

「こいつら誰だ」

「え? 仲間なんじゃ」

「仲間の顔を忘れるかよ」

 

 その時、視界の端に小さな埃のようなものが落ちてきているのが目につき、それを手に取ってみるとそれは埃ではなかった。

 まるで蜘蛛の糸のように細く、そしてねばついている。

 嫌な予感がして思わず上を見上げる前にイーリスさんの肩を掴んでその場から飛びのいた瞬間、巨大な何かが天井から舞い降り、床に無数の脚を突き刺した。

 

「くそがっ。外したじゃねえか」

 

 巨大な何かはIS―――そしてその機体は背中から八つの装甲脚を伸ばしており、その姿は現実の蜘蛛の姿に酷似している。

 そしてその装甲脚の全てにカタールが装備されている。

 

「オータムっっ!」

「よう、――――」

 

 そいつは亡国機業の構成員が一人、オータムだった。

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