Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百四十四話

「オータムっっ!」

 

 オータムはだるそうに装備していたステルスマントを脱ぎ捨てると装甲脚で床に転がっている軍人たちを邪魔だと言わんばかりに蹴り飛ばす。

 その時点で殴り掛かりそうになっているイーリスさんを何とか止める。

 

「この軍艦を襲ったのはお前たちだな。殺す建前はできたってわけだ。それにそのIS、うちから強奪した第2世代型のアラクネだろ」

「そうだな。いい具合になじんでるぜ?」

「それも返してもらう」

「やれるもんならやってみなぁ!」

 

 オータムが装甲脚を広げた瞬間、その先端にある砲門から粘着性エネルギーネットを放出し、壁のあちこちに付着させると装甲脚を器用にひっかけ、まるで滑るようにスムーズに移動していく。

 糸を伝っての体当たりを回避し、互いに展開するが絶妙に狭い調理場ゆえに思うように攻撃をあてられない。

 

「こいつ、前に会った時から」

「そうさ! 今じゃアラクネは第3世代の力を得た! これで他の奴らと同じようにぶっ殺してやるよ!」

 

 糸を滑りながらカタールを振り回してくるので雪片弐型でそれを受け止めると自分の肩を足場にイーリスさんがオータムめがけてとびかかり、拳を振りぬくが装甲脚のカタールで防がれる。

 同時にイーリスさんめがけて糸状のエネルギーネットが放たれる雪羅のクローで切り裂く。

 

「ちっ。相変わらず面倒くさい単一仕様能力を持ちやがって」

 

 前回、戦った時は装甲脚の砲門からエネルギーネットを放出していなかった。

 コアを抜いて自爆してから新しく付け加えたと思うけど全ての装甲脚にそんな能力を、しかも数か月という短期間で付け加えることができるのかが疑問だ。

 テロリストとはいえ戦闘部隊とそれを支援する部隊に分かれているのは予想はつくけどそれほどに高い技術を有しているとは思えない。

 世界基準で見れば第三世代のISを作るのに年単位で時間をかけてるというのにたった数か月で完成するものなんだろうか。

 

「死ねぇ!」

 

 再びワイヤーネットが複数の方向から射出され、身をよじりながらワイヤーを寸でのところで回避するが耳に物体を貫通する音が鳴り響く。

 そして着地するよりも早くアラクネの糸を伝った体当たりが迫ってくるのが見える。

 ここでスラスターを使えばワイヤーネットの粘着性にとらわれて動けなくなるだろうし、このまま体当たりを受ければ大ダメージは必至だ。

 

「よっ!」

 

 地面に雪片弐型を突き刺し、剣の柄を軸に片腕で倒立する。瞬間、肘を深く曲げる――そして勢いよく伸ばすとその反動で身体が浮き上がり、オータムの攻撃が空を切る。

 

「ちっ! 器用に避けやが―――」

「おらぁぁっ!」

 

 自分が着地すると同時にオータムの装甲脚とイーリスさんの拳がぶつかり合う金属音が調理場に木霊する。

 雪片弐型を握り締め、オータムめがけて振り下ろすが装甲脚に阻まれ、まるで糸に引っ張られるようにオータムの機体が天井へと戻っていく。

 自分たちをおちょくるかのように倒立の状態で装甲脚から糸を伸ばし、自分たちを見下ろしてくる。

 

「お前、死んだ奴らのこと知らねえのによく怒れるな」

「この船にいるってことはアメリカ所属だろ。アメリカ所属なら仲間なんだよ」

「はっ! 仲間ねぇ……“存在しない”やつをよく仲間って言えるな」

「存在しない? 現にここにいたじゃねえか」

「分かってねえなぁ……ゴミを仲間って言えるなって言ってんだよ」

「てめえ」

 

 イーリスさんは怒りに表情を歪ませながら膝を軽く曲げ、意図に気付いた自分もそれに倣うように雪羅を起動させてエネルギーのチャージを始める。

 

「教えろ……なんで亡国機業がこの秘匿艦を襲った」

「教えると思うか? バーカ」

「あぁ、そうかよ。てめえはここでぶっ潰す……表出ろよ」

 

 その言葉の直後、チャージが完了した荷電粒子砲を真正面に適当にぶっ放した瞬間、凄まじい爆音とともに母艦全体が大きく揺れ、調理場の壁にぽっかりと外へとつながった大穴が開く。

 間髪入れずに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させたイーリスさんがオータムめがけて突撃の拳を打ち込み、真正面からぶつかり合いながらスラスターを更に吹かせる。

 その言葉通り、オータムを外へと押し出したイーリスさんを追いかけて自分も穴から飛び出した。

 

(頼みましたよ! 楯無さん! 簪!)

 

――――――☆――――――

 母艦全体を大ききくゆらすほどの衝撃を簪と楯無も感じていたが艦内は相変わらず沈黙を貫いており、非常事態というのにサイレンの一つもならない。

 簪と楯無がいるのは艦内のセントラルルーム。

 そこのシステムを簪が使用し、艦内の状況や情報の検索を行っていた。

 

「どう? 簪ちゃん」

「……お姉ちゃん、これ」

 

 楯無がモニターに目をやるとそこには一時間前の調理場の様子が映し出されており、たった一人の女性に制圧されていく軍人たちの姿が映し出されている。

 その女性こそ亡国機業の構成員が一人、オータムだった。

 その映像を見た瞬間、楯無は少しだけ眉間にしわを寄せる。

 

「簪ちゃん、止めて」

 

 映像が一時停止されると楯無の視線は襲撃を受けている軍人の服装に注がれる。

 映し出されている服装はつい最近、IS学園を襲撃した名もなき兵たち(アンネイムド)と酷似しており、戦い方も一般の軍人とは一線を画している洗練された動きだ。

 

(なぜ、名もなき兵たち(アンネイムド)がこの秘匿空母にいるのかしら……彼らは国籍も宗教も何も持たず、与えられた任務だけを遂行するいわば裏の軍……そんな集団がアメリカの公式な軍隊の空母に乗船するの?)

 

 裏で動き、殺人をも厭わないであろう集団が表向きの軍隊と同じ行動をするとは思えない楯無は簪に指示を飛ばし、さらに深い情報を探らせる。

 

名もなき兵たち(アンネイムド)は前回の任務を失敗した……アメリカとしても足元をすくわれる要因は残しておきたくなかった……だから処分するために……でもどうして亡国機業がここに? たまたま? たまたまにしては状況が出来過ぎている……まさか)

 

 暗部に対抗するために対暗部として存在している更識家のように裏の任務に失敗した者たちを始末する存在こそが亡国機業ではないのか。

 そう仮定すればアメリカのアラクネ、イギリスのサイレント・ゼフィルスなどのISがいとも簡単に強奪された状況も一つの道筋が出来上がる。

 

(そもそも亡国機業はアメリカが創設……いいえ、名もなき兵たち(アンネイムド)のようにアメリカの裏の部隊の一つとして亡国機業が創設された……ゴールデン・ドーンという強力な第三世代のISを所持しているのも、アラクネを所持しているのもすべてはアメリカの筋道……)

「簪ちゃん、スコール・ミューゼルの情報を調べて」

「うん」

 

 楯無の突然の指示にも簪は戸惑うことなく指を走らせ、情報を吸い上げていく。

 そして目の前のモニターに楯無が望んだ情報がすぐさま開示されるが示された情報を前に楯無は表情をこわばらせる。

 そこに表示されていた情報は確かにスコール・ミューゼルの情報だったがその情報が保管されているファイル名があり得ない場所にあった。

 

「死亡者……リスト」

「お姉ちゃん……スコール・ミューゼルは十二年前に死亡していることになってる」

 

 死亡しているならばキャノンボール・ファストの時に遭遇した彼女はいったい誰なのか。

 この世に存在していないのであればあの日のディナーの際に横やりを入れた彼女はいったい誰なのか。

 亡国機業の名の通り、国によって亡き者とされた存在が集まった場所―――それが亡国機業。

 

「あらあら」

「「っっ!」」

 

 突然の声に楯無と簪は身構え、声がした方向を向くとそこにはこの場には相応しくない豪勢なドレス姿のスコール・ミューゼルが立っていた。

 その表情は懐かしいものでも見るかのようなものだった。

 

「なかなかの腕前ね。秘匿母艦のセキュリティを突破するなんて」

「……若い」

「スコール・ミューゼル……どうしてあなた、十二年前の写真よりも若いの?」

「あら? 知りたい?」

 

 モニターに表示されている当時の写真と目の前にいるスコールの顔つきは明らかに違っており、写真よりも目の前の実物の方が数段、若々しい。

 それこそ二十代後半と言われても納得するレベルだ。

 

「まさか名もなき兵たち(アンネイムド)どもが救難信号を発していたとはね……面倒くさいこと」

「やっぱり……この秘匿空母はアメリカにとって用済みとなった存在の処分場」

「あら、もうそこまでたどり着いちゃったの?」

「でも解せないわ。亡国機業がそんな仕事を引き受けるなんてね。お国が忘れられないのかしら」

「はぁ? 国のことなんかどうでもいいわ。私たちはただ単に金でつながっているだけよ。金を支払えば私たちは何でもする……あくまで国は客。それ以上でも以下でもない」

 

 金だけのつながりとはいえ、楯無の中に一つの結論ができた。

 アメリカと亡国機業は繋がっており、そのつながりはまるで蜘蛛の巣のように亡国機業を中心として世界中の国に繋がっている可能性がある。

 

「アメリカと少なくともイギリスとも繋がってるわね。アラクネとサイレント・ゼフィルスは仕事の報酬としてでも受け取ったのかしら?」

「国の汚れ仕事を引き受けるだけでIS一機貰えるのであれば最高の仕事じゃない?」

(どおりでアラクネとサイレント・ゼフィルスが強奪されて世界が騒ぎ立てないわけね……イギリスに関しては隠しきれなかったみたいだけど)

「ま、おかげでISが四機もつれちゃったわ……もらい受けるわ」

 

 スコールの腰の辺りから巨大な尾が展開されたかと思うと腕のようにしなやかに振るわれ、一つの火球が生成されて簪めがけて放たれる。

 しかし、その火球に一本の槍が突き刺さり、かき消した。

 

「仕事中なの。見えない?」

「守り切れるかしら? 更識楯無!」

 

 槍と尾がぶつかり合い、激しく火花を散らせる。

 楯無はすぐさま完全展開し、水のヴェールで空母の壁を鋭く斜めに切り裂くとスコールの尾を脇で抱えて振り回し、壁にぶつけると大きな穴をあける。

 

「良いわ、乗ってあげる」

「ここであなたを倒す」

 

 海面めがけて落下していくスコールからいくつもの火球が放たれる―――しかし、楯無の背後から荷電粒子砲が連射され、正確に火球を撃ち落としていく。

 

「私も……戦う」

「ふふっ……姉妹の初めての共同戦線といきましょうか」

 

 楯無の視界に別のISの反応を検知したことが示されるがそれを無視する。

 

(一夏君。そっちは頼んだわよ)

 

 秘匿空母という巨大な壁で分け隔てられた戦闘空間で二つの戦いが始まろうとしていた。

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