Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百四十五話

「どらぁぁぁ!」

「食らうかバーカ!」

 

 装甲脚から射出したワイヤーネットを滑りながらイーリスさんの拳を回避し、さらにワイヤーネット同士を接合して複雑な蜘蛛の巣を形成していく。

 オータムが生成するワイヤーネットはただのワイヤーではなく、硬質化させることも可能らしく海中深くに突き刺したり、母艦に突き刺すことで延伸を繰り返していき、徐々に巨大な巣が出来上がろうとしている。

 

「あぁもうくそ! 邪魔すぎるだろ!」

「イーリスさん伏せて!」

 

 イーリスさんが伏せた瞬間、雪羅の荷電粒子砲が放つ。

 ワイヤーネットを切断しながらオータムに向かっていくが八本の装甲脚から同時に一か所にワイヤーネットが射出され、巨大な球体が生成される。

 それが一気に広がったかと思いきや壁となり、荷電粒子砲を防ぐ。

 

「んな能力うちのアラクネにはなかっただろおい!」

「こっちに来てから改造してんだよ! うちらの技術なめんじゃねえ!」

 

 装甲脚からワイヤーネットが再び射出され、自分とイーリスさんはスラスターを吹かせて回避行動をとるけど周囲をワイヤーネットが無数に伸びているせいで自由に動き回ることができない。

 あの粘着性に捉えられたら最後、良い具合に調理をされる未来しか見えない。

 徐々に獲物の動くスペースを狭めながら絡めとっていく姿はまさに蜘蛛だ。

 

「あははははっ! 新しいアラクネの前に死ね!」

 

 高笑いしながらワイヤーネット上をスラスターを全開に吹かしながら滑っていく。

 ワイヤーネットは複雑に組み合わさっていることもあって思いもよらないところで曲がったり、一時停止したりとISの動きとは少し違う動きを見切れない。

 

「ははははっ!」

「くぅっ!」

 

 振り子のような動きに瞬時加速を上乗せしたことで普段のISでは見られない奇妙な動きの前になかなか攻撃に転ずることができない。

 それにワイヤーネットは射出以外にも引き戻しもでき、既に引いているワイヤーネットに新しいものをくっつけてそれを用いて体を引き寄せることで通常のスラスター以上の速度で動き回る。

 徐々に自分たちを囲うように巨大な蜘蛛の巣が完成形へと近づいていく。

 

「そらよっと!」

「ヘ、ヘリコプターを投げる奴があるかぁ!」

 

 母艦めがけてワイヤーネットを射出したかと思えば母艦に降りていたヘリコプターが勢いよく引っ張り上げられて自分たちめがけて放り投げられる。

 イーリスさんの拳と自分の雪片弐型で粉々に粉砕した瞬間、炎を上げて大爆発を起こし、火の粉や機体の破片などがワイヤーネットにくっついていく。

 その時、ワイヤーネットの一部に付着した火の粉が燃え広がっていき、その部分があっという間に焼き切れてしまったのが見えた。

 

(火に弱いのか)

「さっさとこの巨大な巣をなんとかしねえと閉じ込められるぞ!」

「……イーリスさん」

「あ?」

「自分がこの巣を一瞬で壊せるとすれば……オータムを一撃で倒せますか?」

 

 自分の挑発ともとれるような発言にイーリスさんは一瞬、イラついたような表情を浮かべるがすぐに面白そうなものでも見つけたような顔へと変え、自分の頭を軽く小突く。

 

「年上の姉さんに言う言葉じゃねえな……一撃で仕留めてやろうじゃねえか」

 

 作戦は決まった。

 イーリスさんは気合を入れるためか拳同士を打ち付けあい、金属音を響かせるが余裕の表情を浮かべるオータムはそれを見てにやりと自分たちを見下すような笑みを浮かべる。

 もうじき自分たちを捕らえる巨大な蜘蛛の巣が完成し、勝利が見えてきていることがそれほど嬉しいみたいだけどそう易々と勝利をあいつに渡す気はない。

 イーリスさんは準備に入ったのか腰を低く下し、拳を握り締めてスラスターの調整に入る。

 

「あ? 降参のポーズか?」

「そんなことはない……それよりもオータム」

「あ?」

「そんなスピードで巣は完成するのか?」

「はっ! 何言ってんだてめえ? 見て分かんねえか!? もうお前たちはオータム様が作り出すアラクネの巣に閉じ込められてんだよ!」

「じゃあそのアラクネの巣ってやつを……壊してやるよ」

【Boost・Time】

 

 Boost・Timeを発動させ、それぞれの装甲からバイクのマフラーのような機構が浮き出てくるとバイクのエンジン音のような音が周囲に木霊する。

 こいつの制限時間は約十秒間。その間にアラクネの巣を破壊し、オータムまでの道を作り上げる。

 

―――ギュォォッン!

 

「き、きえっ―――」

 

 自然発火するほどの勢いで超音速飛行へと移行した自分は呆気に取られているオータムを置き去りにし、自分たちの周辺を囲おうとしていたアラクネの巣を次々に破壊していく。

 オータムはすぐさま直そうと糸を射出するが射出された糸すらもすれ違いざまに切り裂き、アラクネの巣の補修を断ち切る。

 

「バ、バカな! 私の! 私のアラクネの巣が壊れていく!」

「おぉぉぉぉっ!」

 

 十秒という限られた時間の中でアラクネの巣を破壊しながらオータムにもダメージを与えることはエネルギー効率的にも時間的にも不可能だ。

 でも今は自分一人じゃない――――イーリスさんという心強い味方がいる。

 

(だから自分はアラクネの巣だけを壊すことに集中すればいい!)

 

 雪片弐型と雪羅のクロ―モードの二本を駆使しながら超高速飛行で飛び回って次々にアラクネの巣の柱部分を切り裂いていくと徐々に崩壊が始まっていく。

 そして最後に母艦とアラクネの巣を繋いでいた一際太いワイヤーネットを切り裂いてオータムの背後へと回った瞬間、Boost・Timeが終わりを告げるように機構が消失する。

 オータムはまだ自分が背後に回っていることに気付いていない。

 

(いける!)

 

 最後の一撃として雪片弐型を振り下ろそうとした瞬間、装甲脚のうち一本がこちらへと銃口を向けたかと思うとワイヤーネットが射出され、自分の腕を絡めとる。

 慌てて雪羅で切り裂こうとするがさせまいと左手にもワイヤーネットが直撃し、同時に高速でワイヤーネットの柱が形成されてそこと接続されて磔状態となってしまう。

 

「死ねぇぇぇぇ! ――――!」

 

 勝利を確信したオータムはすべての装甲脚にカタールを装着させて自分めがけてとびかかってくる―――しかし、その表情はすぐさま一変する。

 その理由は彼女の背後にスラスターを全開に吹かし、瞬時加速を発動させているイーリスさんが拳を振りかざしていたから。

 

「しまっ―――」

第一加速(ファースト・イグニッション)!」

「ぐぅぇっ!」

 

 背部に瞬時加速の勢いのままの拳を突き刺され、背部装甲の破片を飛び散らしながらオータムは苦悶の表情を浮かべるが次の攻撃はすでに放たれていた。

 

第二加速(セカンド・イグニッション)!」

 

 二基のスラスターが同時に瞬時加速を発動させ、目にも止まらない二連撃の正拳突きが繰り出されてアラクネの装甲脚が二本、根元から粉砕される。

 やばいと思ったのかオータムは自分に背を向け、イーリスさんを叩き落そうとする。

 

(今だ!)

 

 その隙を狙って両足を高く振り上げると同時に瞬時加速を発動させ、振り下ろす速度に瞬時加速の勢いを加えた両踵落としを振り下ろし、一撃のもとで残りの装甲脚を叩き割った。

 ふざけるなと言わんばかりに憎しみを込めた表情を自分に向けてくるがそれはすぐさま苦悶の表情へと切り替わる。

 

第三加速(サード・イグニッション)!」

「ぐぅぇぇっっ!」

 

 三基のスラスターが瞬時加速を発動させ、三連撃の正拳突きが目にもとまらぬ速さでオータムの全身に全て叩き込まれてアラクネの装甲の破片が吹き飛んでいく。

 オータムはすぐさまその場から離脱しようとするがもうすでに最後の一撃の準備は整っていた。

 

個別連続(リボルバー)

「ま、まっ」

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!」

 

 四基のスラスターが個別に、そして同時に瞬時加速を発動させ、四連撃の正拳突きがオータムの全身に叩き込まれて一瞬にして装甲が砕け散っていき、大量の破片が宙を舞う。

 通常の瞬時加速以上の一撃を四連撃も直撃し、絶対防御が発動したアラクネにはもう戦うエネルギーは残されていないだろう。

 その証拠にISが強制解除され、オータムの体は海面へと真っ逆さまに落ちていった。

 

「てっきりお前なら助けに行くと思ったんだけどな」

「……今は両手が塞がってるんで」

「ははははっ! それもそうだな……というかISが解除されたのに消えねえのか」

「みたいですね」

「さっきみたいに切っちまえよ」

「そうしたいのは山々なんですけど……もうエネルギーが」

 

 Boost・Timeに加えて雪羅のクロ―モード、零落白夜の連続発動をしたおかげでもうエネルギーは一割程度しか残っていない。

 もしエネルギー効率を見直していなければエネルギー切れになっていたことだろう。

 

「仕方ねえな、切ってやるからちょっと待ってろ……向こうにも早く合流しねえとな」

 

 イーリスさんが見る方向は母艦の向こう側。

 向こう側でも戦闘が始まったのか先ほどから爆音が鳴り響いており、白式のセンサーがミステリアス・レイディと打鉄弐式、そしてゴールデン・ドーンの三機のISを捕捉している。

 

(楯無さん……簪……頼んだぞ)

「あっ!」

「……」

 

 イーリスさんの大きな声が聞こえ、振り返ると彼女の片手と自分の手がワイヤーネットによってくっついており、ぐいぐいと引っ張りが外れる様子は見られない。

 

「「……」」

 

 後ろから聞こえてくる爆音を聞きながら自分たちは少しの間、黙りこくっていた。

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