Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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おまもり厳選……沼る


第百四十六話

 火球と超高圧水榴弾がぶつかり合い、周囲に爆風と水蒸気がまき散らされ、海面が激しく波打つ。

 余裕の表情を浮かべて髪を手でといているスコールめがけて二連の荷電粒子砲が放たれるが巨大な尾が鞭のように振るわれて叩き落す。

 

「更識楯無。あなたの水じゃ私の炎は消せないわ」

 

 スコールが手をかざした瞬間、火の粉が集まって一つの火球となり、楯無に放たれる。

 楯無はそれを蒼流旋で真っ二つに切り裂くと二つに分かれた火球が楯無の後方へと落ちていき、背後で爆発を起こすが楯無の表情は芳しくない。

 蒼流旋の周囲に螺旋状に纏っている特殊ナノマシン入りの水が蒸発しており、アクア・クリスタルから随時、補充されるがいつまでも続くわけではない。

 

「あなたの水は私のプロミネンス・コートで防げるけどあなたの水のヴェールでは私の炎は防げない」

「そうね……でも防げなくても倒せないわけじゃないわ」

 

 楯無の言い返しにスコールは小さく笑みを浮かべると両肩から炎を噴き出し、二対の炎の鞭を作り出すと簪と楯無めがけて勢いよく振り放つ。

 互いにスラスターを駆使して回避行動をとり、炎の鞭の一撃を回避していくが徐々に攻撃の速度が速くなっていき、さらにそこに火球も加えられる。

 

「どこまで耐えられるかしら!?」

 

 楯無は炎の鞭を回避しながら背中をつけるようにして海面を滑るように旋回すると蒼流旋を横なぎに大きく振るい、ナノマシン入りの水を炎の鞭に打ち付ける。

 直後、炎の鞭の上で爆発が何度も発生し、炎がその形を崩して霧散する。

 

「あなたの炎の熱でナノマシンも一瞬で起動できる。だから隙間なく爆発できるわ♪」

「そう何度も―――」

 

 スコールはそう呟きかけた時、尾を自分にまきつかせる―――同時に上空から二連の荷電粒子砲が放たれ、尾に直撃して爆発を起こす。

 上空には春雷を展開した簪が滞空しており、動く隙を与えんと荷電粒子砲を連続で放っていく。

 

『簪ちゃん、そのまま留めておいて』

『了解』

 

 簪はその場にとどまらず、スコールの周囲を旋回するようにしながら春雷を連射し続けるが我慢の限界に来たスコールはその場で一回転すると周囲に無作為に大小さまざまな火球を放っていく。

 簪からの荷電粒子砲の連射が一瞬止まるとスコールは簪を対象とし、その場から動き出そうとした瞬間、蒼流旋に搭載されたガトリングガンから無数の弾丸が放たれる。

 しかし、それらの弾丸はすべてプロミネンス・コートによって焼き尽くされてしまう。

 ただそれでよかった―――楯無の狙いはスコールをその場にとどめておくこと。

 

「いい加減にしないと怒るわよ?」

「怒ると皴が増えるわよ? お・ば・さん」

 

 直後、スコールの頭上に巨大な火球が一瞬で生成される。

 

「あら、図星?」

「いずれあなたもそうなるわ」

 

 スコールが巨大な火球を放とうと手を振りおろそうとしたその時、突然その動きを止め、楯無のある一点を凝視して周囲を見渡す。

 その隙をつぶすかのように楯無は瞬時加速を発動させ、スコールとの距離を一気に詰める―――その手には既にミストルテインの槍を起動させた蒼流旋が握られている。

 槍の周囲には多量の水が螺旋状に激しく回転しており、先ほどの回避行動の際に回収した海水をも使用したことは明白だった。

 

「やらせるものか!」

「っっ!」

 

 ミストルティンの槍が放たれようとしたその瞬間、スコールの頭上で浮いていた巨大な火球が勢いよく膨れ上がり始め、楯無とスコールを飲み込んでいく。

 

「お姉ちゃん!」

 

 こちらへ来ようとする簪をその手で静止する―――ミストルティンの槍がゴールデン・ドーンの装甲に直撃すると同時に巨大な火球が大爆発を上げ、二人を一瞬にして飲み込んでいく。

 簪の叫びは爆音によって一瞬にしてかき消されていく。

 爆煙の中をミステリアス・レイデとィゴールデン・ドーンが海面めがけて勢い良く落ちていくが途中で体勢を立て直し、海面近くで停止する。

 

「ハァッ……ハァッ」

「あら? あの程度の爆発で音を挙げちゃうの?」

「ははっ……あなたのゴールデン・ドーンも音をあげたかってるようだけど?」

 

 楯無のその一言の直後、ゴールデン・ドーンの腕部装甲に亀裂が入り、粉々に砕け散っていく。

 忌々しそうに砕けた装甲を見ながらスコールは舌打ちをうつ―――直後、スコールの背後で海面が爆ぜたかと思うと一瞬にして彼女の全身が水の球体に包み込まれる。

 

清き熱情(クリア・パッション)

 

 スコールが次の行動へと入る前に楯無が指を鳴らした瞬間、水の球体が大爆発を起こして一瞬にしてスコールを爆煙が包み込んでいく。

 必殺の一撃が決まり、簪は喜びを見せるがそれに対して楯無の表情は硬い。

 爆煙に見えたそれは水が蒸発する水蒸気へと変化しており、その中から最大火力のプロミネンス・コートが展開されてスコールを包み込んでいた。

 並みの搭乗者ならばあの一撃で終わっていたがあの一瞬で防御策を講じることができるスコールの操縦技術の高さがうかがい知れる。

 

「なるほど。さっき鞭を避ける際に海中に水のヴェールを沈ませていたってわけね。水のヴェールが海水を取り込み、その大きさを増して私を飲み込んだ……でも残念。私の炎はこれしきの水では消せないわ!」

 

 スコールの感情の高ぶりに合わせて両肩から炎の鞭が形成されるや否や尾からも業火が放たれて巨大な一つの火球を生成するとそれを上空へと放つ。

 そしてその巨大な火球から次々と海面めがけて火柱が次々と降りていく。

 それに合わせるように炎の鞭が蜘蛛の巣状に広く展開され、それが上空へと放たれると火柱と接合されるとさらにそこからも火柱が伸びていく。

 

「くっ! なんて強い炎!」

「これは……逃げ場が狭まっていくっっ!」

「これこそ黄金の夜明け……夜の闇を照らす最強の炎よ」

 

 次々と落ちてくる火柱を二人は回避していくが彼女たちを覆うようにして火柱が継続して生み出されており、その勢いはとどまるところを知らない。

 既に空はスコールが生み出した炎によって埋め尽くされるほど広範囲に広がっており、徐々に彼女たちを火柱が包み込んでいく。

 そして完全に周囲を取り囲まれた簪と楯無―――二人めがけて上空に浮かんでいた巨大な火球が凄まじい速さで落ちてきていた。

 

「……簪ちゃん。海面に逃げなさい。海面からなら炎の檻から出られるはずよ」

「で、でもあの大きさの火球の爆発じゃ……お姉ちゃんまさか」

 

 楯無は黙ったまま海面に蒼流旋を突き刺すと海水を取り込み、瞬時にして巨大な水の槍が形成され、さらにアクア・クリスタルからも多量のナノマシン入りの水が供給される。

 しかし、迫りくる火球と比べればその大きさは歴然の差。

 

「無茶だよ! あの大きさの火球を真正面からぶつかり合うなんて!」

「無茶でもやるのよ……あの人ならそうするわ。早く行きなさい!」

 

 簪を置いて楯無は迫りくる火球へまっすぐと突っ込んでいき、蒼流旋を強く握りしめる。

 あの大きさの火球と正面からぶつかれば無事ではすまず、装甲は破壊され、絶対防御は確実に発動するだけではなく生身にもその熱が届くかもしれない。

 

「最大稼働―――ミストルティンの槍!」

 

 蒼流旋と巨大な火球がぶつかり合った瞬間、鼓膜を破るほどの爆音とともに強大な爆風が周囲一帯に襲い掛かり、海面が激しく波打つ。

 炎に飲み込まれていき、ミステリアス・レイディの装甲が砕け散っていく中、楯無の脳裏には簪の顔、そして一夏の顔が浮かんでいた。

 

(ごめんね……簪ちゃん……一夏君……)

 

 

――――――☆―――――

 

 海中に逃げていた簪にもその爆風は襲い掛かり、まっすぐに移動ができないほど。

 なんとか体勢を保ちながら炎の檻から脱出し、海上へと浮上してすぐさま楯無の居場所を探すとセンサーにミステリアス・レイディの反応を検知する。

 慌ててその方向を見るとそこには海面に浮いている楯無の姿があり、スラスターを起動させて彼女のもとへと急ごうとするがそこにスコールが降り立つ。

 

「ボロボロになりながらも妹は守ろうとする……でも残念ね。所詮、あなたはIS学園という狭い囲いの中での頂点。浅瀬で遊ぶような抑制仕様(リミテッド)のISじゃ私には勝てない」

 

 その手に火球を生み出し、楯無に止めを刺そうとしたその時、横なぎに薙刀が振るわれ、尾とぶつかり合うと薙刀の超振動によって激しく火花が散る。

 

「お姉ちゃんは……やらせない!」

「美しい姉妹愛ね。でもあなたじゃ私には到底及ばない」

 

 炎の鞭が一瞬にして生成され、簪めがけて振るわれていく。

 スラスターを駆使しながら炎の鞭を回避していくがそこへ火球も継ぎ足されていき、徐々に打鉄弐式の装甲に攻撃が掠り始める。

 

(なんとしてもっ! 何としてもお姉ちゃんから離さないと!)

 

 簪はスコールの攻撃を必死に回避しながら少しずつ、ゆっくりと楯無から離れていく。

 そして離れていきながら今、自分の状況の全ての情報を打鉄弐式に収集させてそれを拾い上げ、積み上げていき、この先の未来を見据えていく。

 

(もっと……もっと情報がいる! 炎の威力、これまでの鞭の軌跡、そして相手の性格や言動、気温、湿度、ゴールデン・ドーンのスペック……そのすべてを拾い上げる!)

 

 簪の想いに応えるように打鉄弐式は彼女が望むありとあらゆる環境情報や相手のデータを読み取っていき、それを簪へと届けていく。

 簪はそれを受け取り、積み上げていく。

 全ての情報は積み上げていくことでこれまでに通った道筋を示してくれる。

 ならばあとはその行き着く先を見据え、未来を―――予測する。

 

「耐えるわね。じゃあこれを」

 

 スコールが両手に火球を生み出して放とうとした時、簪は春雷を瞬時に起動してスコールの両手に生成された弐つの火球めがけて荷電粒子砲を放つ。

 スコールの性格からして一刻も早く楯無を始末したいのは明らかであり、お邪魔虫に時間をかけすぎるほど余裕を持っているとは思えない。

 ならばお遊びはほどほどにして止めを刺しに来る―――予測は未来へと変わった。

 

「あなた……まさか私の行動を先読みした?」

「私には……お姉ちゃんや一夏のような高い実力もない……でも受け取った情報を処理して組み立てることはできる……あなたが上を行くならば……私はその未来を見据え、一歩先を進む」

 

 簪は両側から迫りくる火球を見向きもせずに春雷で打ち抜く。

 そして拾い上げた情報たちはもう一つの未来を予測し、簪の目の前に現れていた。

 それは――――――

 

「お姉ちゃん……動くよ」

「っっ!」

 

 突如として海面が爆ぜたかと思うと動かないでいた楯無を水が意思を持つかのように包み込む。

 そしてミステリアス・レイディの装甲が光の粒子となって消え去ったかと思えば再構成が始まっていき、徐々に新たな姿へと変貌していく。

 

「これはっっ……第二形態移行(セカンド・シフト)っっっ!」

 

 

 

――――――☆―――――

 真っ暗な空間の中で楯無はその身を任せていた。

 スコールの強大な一撃を食らい、ミステリアス・レイディの装甲はほぼすべてが破壊され、絶対防御うが発動したことで生身は守られたがエネルギーはほとんど残っていない。

 

(結局……誰も守れないかぁ)

 

 生徒会長であり、楯無でもある彼女にとって守らなければいけないものは多い―――しかし、それを守り切れるほどの力を有していないことは痛いほど理解した。

 スコールが言うように自分はあくまでIS学園という狭い檻の中での頂点気取りであり、抑制仕様という玩具のようなISで最強を気取っているだけ。

 しかし、一つの解が楯無の頭に浮かぶ。

 

(守れないなら……守れるように強くなればいい……あの人のように諦めない心をもって)

 

 どこかで生徒会長という肩書を手に入れ、ゴールにたどり着いたと思い違いをしていたのかもしれない。

 更識という家に生まれ、幼いころより厳しい鍛錬を行ってきた自分は何よりも強く、生徒会長という肩書を手に入れた自分は最強だと勘違いをしていた。

 

(私が見ていた景色は……いわば川……川の先にはもっと広く、大きな海が存在する……私よりも強い存在はこの世界にごまんと存在する。私は更識楯無……最強の槍として……あの人の居場所を守る一員として! より高みへと目指す! 私はこんなところでとどまってはいられない! みんなに追い越されないためにも! 彼に大好きだっていうためにも!)

 

 何もなかった空間に一つの光が浮かび上がり、楯無はそれを力強くつかんだ瞬間、極大の輝きが彼女の周囲を明るく照らす。

 

「行くわよ! ミステリアス・レイディ!」

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