Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百四十七話

 第二形態への輝きが消え去るとそこに現れたのは第一形態の時とほとんど変わらない楯無のISだがその全身を包み込んでいた水のヴェールが消え去っている。

 

霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)―――霧幻の深淵(アビスマーレ)。あなたの炎、深淵に沈めてあげるわ」

「やれるものならやってみなさい」

 

 スコールの両肩から炎の鞭が二本放出され、楯無めがけて勢いよく振るわれる―――しかし、炎の鞭は楯無にあたることなく一瞬にして霧散してしまう。

 何か目に見えないものに触れただけで炎の鞭が霧散したことにスコールは驚き、距離を取る。

 

「見えない? でしょうね。じゃあ、見せてあげる」

 

 楯無の発言の直後、先ほどまで見えなかったものがその姿を現していく。

 水のヴェールがドレス状に楯無を覆っていた第一形態と比べ、ミストがまるで羽衣のように彼女の全身を包み込んでおり、左右一対だけだったアクア・クリスタルも楯無の背部にさらに二つ、増設されている。

 そして装甲の各部からはアクア・クリスタルで生産されたナノマシン入りの水がミスト状に放出されている。

 

「はい、お終い」

 

 楯無がパン、と手を叩くとともにミストの羽衣が消え去る。

 スコールはすぐさまその場から離脱しようとしたその時、楯無が腕を伸ばし、まるで彼女を掴むようにして手を閉じた瞬間、スコールの動きが止まる。

 

「なっ!? まさか!」

「逃がさないんだから……バーン」

 

 直後、スコールを掴んでいた見えない何かが大爆発を起こし、一瞬にしてスコールを爆発が飲み込む。

 プロミネンス・コートの展開を許さないほどの速度での爆発。

 爆煙を引き裂くようにスコールが飛び出てくるがそこへ蒼流旋を持った楯無が突撃し、尾と蒼流旋が激しくぶつかり合い、火花を散らせる。

 

「ミストにもナノマシンはあるのよ?」

「どれだけのナノマシンを搭載しているのかしらねぇ!」

 

 尾が勢いよく振り払われ、楯無を軽く吹き飛ばすが蒼流旋の切っ先がスコールへと向けられる。

 その直後にスコールはスラスターを前方に向けて吹かし、後方への移動を行い、すぐさま蒼流旋の攻撃範囲外まで下がる。

 

(ここまで下がれば)

「はぁぁっ!」

 

 勢いよく蒼流旋が突き出された瞬間、ゴールデン・ドーンの胸部装甲が一瞬にして吹き飛び、スコールの体も後方へと大きく押し出される。

 すぐさま両手に火球を生み出し、楯無に向けて放とうとするが火球が放たれる直前に荷電粒子砲が火球を貫き、消し去ってしまう。

 荷電粒子砲が通ってきた道を睨みつけるように見るとそこには春雷の銃口をスコールへと向けている簪の姿があった。

 

(ミストで槍を伸ばしていたのね……未来予知に近い予測をする妹に第二形態移行した姉……IS学園は世界と戦争でもはじめる気かしら)

 

 IS学園の保有戦力に驚愕しながらもスコールは手を広げる。

 彼女を囲うようにして大小さまざまな火球が生み出されていく―――しかし、一定の大きさ以上に育たない火球を前にスコールは周囲を慌てて見渡す。

 

「ま、まさかすでに!」

「言ったでしょ? あなたの炎を深淵に沈めると……あなたはすでに深淵に囚われているのよ」

 

 楯無が握りつぶすように手を閉じた瞬間、スコールの周囲に生み出されていた火球たちが次々と消失していき、ゴールデン・ドーンの装甲からも水蒸気が上がり始める。

 すぐさまプロミネンス・コートを最大展開するがすでにミストの深淵に囚われている彼女を守る炎は半減しており、防御の役割など十分に果たせるはずもなかった。

 

「これで勝ったつもり? 私を……舐めないことね!」

 

 直後、スコールの怒りの感情につられる様にゴールデン・ドーンの全身から炎が噴き出し、今まで以上に激しく燃え上がる。

 

「ゴールデン・ドーン―――フレア・ソリス。これがこの子の最大火力よ!」

 

 一瞬にして巨大な火球が生み出され、尾によって楯無めがけて打ち出されると楯無はすぐさまその場から飛び上がることで火球の一撃を回避する。

 

「確かにその火を貰うのは第二形態移行しても厳しいわね……でも言ったはずよ? 深淵に沈めると」

 

 楯無はその場に止まり、手をスコールに向けて伸ばす。

 その瞬間、何かの危機を察知したスコールがその場から瞬時加速で離脱しようとするが足を取られたように体がガクンと落ちる。

 肉眼でもISのセンサーでも何も検知されない状況にもかかわらず足が何かに取られたスコールはすぐさまゴールデン・ドーンの火力を全開放し、周囲に火球を無数に作り出していく。

 

「燃え尽きなさい!」

 

 無数の火球が楯無めがけて放たれる―――だが次の瞬間、全ての火球一つ一つに楯無の後方からミサイルが突っ込んでいき、火球に着弾するや否や大爆発を上げる。

 スコールが視線を向けた先には山嵐を起動させ、球体キーボードを合計八枚展開している簪がいた。

 

(火球一つ一つに正確にミサイルをぶつけたというの!? あの子は!?)

沈む床(セックヴァベック)

「っっ!? し、沈んでいく!?」

 

 徐々にスコールが、ゴールデン・ドーンが見えない深淵へと沈み込んでいく。

 センサーにすら映らないミストが作り出す超広範囲指定型空間拘束結界により、ゴールデン・ドーンはおろか周囲の空間そのものが沈み込んでいく。

 脱出できるのは光のみ。

 トドメと言わんばかりに蒼流旋を握り締めた楯無はミストルティンの槍を起動させる。

 蒼流旋にミストが集まっていき、巨大な槍を形成するとともに超高速回転し始め、ミストに凄まじいまでの加圧がなされていく。

 

「気化爆弾なんて生易しい物レベルじゃないわよ……それ」

「私は生徒会長であり、更識楯無。国を、世界を、IS学園を守る使命がある……でもそれよりも前にあの人の居場所を守りたい! あの人の居場所を壊すあなたを排除する!」

「無駄よ! 私が倒れても世界はあれの存在を放っておきはしない! 世界の悪意があれを狙っているのよ!」

「世界? あの人の居場所を守るためなら世界の悪意とすら戦ってやるわ!」

 

 巨大な槍が形成し終わり、瞬時加速を発動させてミストルティンの槍と一体化しながら楯無はスコールへと突っ込んでいく。

 回避を諦めたスコールは全ての火力を防御にまわしたプロミネンス・コートを最大展開し、火の繭を作り出してその中へと籠るがミストによって半減している防御力に意味はなかった。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 ミストルティンの槍が炎の繭に直撃する瞬間、白い何かが火球を覆い隠すようにして現れるが楯無はお構いなしに最強の一撃を打ち付ける。

 一瞬の静寂の後に衝撃波が周囲の物を全て吹き飛ばし、海面を激しく打ち付けて一瞬にして荒れ狂う海域へと変える。

 荒れ狂った波が打ち付けられた秘匿母艦はその衝撃の強さに耐えることができずに傾いていき、膨大な量の水しぶきをあげて転覆してしまった。

 

――――――☆―――――

「ちょっとどこ触ってんすか!」

「うるせえ! 触りたくて触ってんじゃねえよ!」

 

 オータムが吐き出した糸をなんとか切断したものの自分とイーリスさんを繋げている糸が切れずじまいでそのまま楯無さんたちのもとへと向かっていた。

 さっきの凄まじい衝撃は絶対に楯無さんの攻撃だろうけどもう破壊兵器並みの威力だった気がする。

 まだ周囲に爆煙が漂っている中を進んでいくとハイパーセンサーが簪と楯無さんの反応をキャッチし、二人がいる場所を示す。

 

「「……」」

「あ、あの……なんで二人ともそんな変な目で見るんですか?」

「……まるでラノベにありがちな……手錠に繋がれている主人公とヒロイン」

 

 確かに、と思っているとやれやれと言いたげな表情の楯無さんが人差し指をすっと縦におろすとワイヤーネットを一瞬で切断してくれてようやく解放された。

 よく見てみると楯無さんのISの形態が変わっているのに気付いてまじまじと見ていると何故だか楯無さんは顔を赤くして自分の身を包み込むようにして抱きしめる。

 

「そんなに女の子の体をジロジロ見ちゃだめよ」

「あ、すみません」

「ま、まぁあなたになら……見せても……」

「お姉ちゃん……いやらしい」

 

 そんなことを言いながら簪は自分の腕にぴとっとくっつき、抱き着いてくる。

 

「あら、簪ちゃんったら大胆ね」

「……戦闘後の栄養補給」

「じゃあ私も」

「両手に花たぁ、このことだなおい。ナタルが気に入るわけだ」

 

 楯無さんも自分の腕に抱き着いてきて頭を肩に乗せてくる。

 その様子を見たイーリスさんはニヤニヤしながらそう言ったその時、白式から別のIS反応が示され、一斉に後方を振り返るとボロボロのアラクネを纏っているオータム、そしてオータムに抱かれているスコールがいた。

 でもスコールの左肩から先は吹き飛んでおり、バチバチッと火花を散らせながら機械仕掛けの部分が露わになっていた。

 

「やっぱり……スコール・ミューゼルは機械義肢(サイボーグ)

「てめえら……この借りは必ず返す」

「逃がすと思うか!」

 

 雪片弐型を握り締め、スラスターを吹かして距離を詰め、二人めがけて剣を振り下ろす―――しかし、何もないところを切ったかのように感触がなかった。

 そこにはゆらゆらと揺れ動く二人の幻影のようなものがあるだけだった。

 

「ま、幻!?」

「上だ!」

 

 イーリスさんの叫びで全員が上を見上げると上空にオータムとスコールを抱きかかえたゴスロリ衣装の少女が浮かんでいた。

 ISを部分展開しているのか装甲らしきものは見えず、傍から見ればただの人間が宙に浮かんでいるようにも見え、一瞬驚いてしまう。

 それに加えて彼女の顔を見た瞬間、ラウラに近しい何かを感じた。

 

「この能力……学園を無力化した襲撃者だと思う」

「そうか……お前がみんなを」

「自己紹介がまだでしたね。私はクロエ・クロニクル。篠ノ之束様を主とするあの人の駒……――――、あなたは必ず殺します。それが我が主の願いだから」

「その前にみんなを傷つけたお前を消してやる」

「……ではまた次の機会に」

 

 ゆらりとクロエ・クロニクルの姿が揺れたかと思うと煙のようにその場から消え去ってしまった。

 ハイパーセンサーで周囲を探索するけど反応らしいものは何も出てこず、本当に煙のように周辺海域から姿を消してしまった。

 

「クロエ……クロニクル」

 

 

――――――☆―――――

 ホテルの一室にて時折、電気が迸っている。

 自分の左肩から先が消えているさまとそこから見えているスパークを見てスコールはため息をつきながら力なくベッドに横たわる。

 

「あの戦いで墓場は沈んだ……これ以上、私の情報があそこから漏れることは無くなったけど……更識楯無に知られたのは少々、面倒くさいわね」

 

 あの秘匿母艦こそアメリカという国の闇の墓場であり、用済みとなった名もなき兵たち(アンネイムド)の処分場でもあった。

 表向きは地図にない基地(イレイズド)所属としておけば海域内にアメリカの母艦があったとしても怪しまれることは少なくなる。

 今回の予想外の事態は処分中に救難信号を発した名もなき兵たち(アンネイムド)がいたこと。

 それにより、日本政府に知られることとなり、更識楯無や織斑一夏などのIS学園勢力が来たこと、もう一つはそれを本国のイーリス・コーリングが受信してしまったこと。

 

「もう少し……もう少しで世界を手に入れられるのよ……こんなところで立ち止まるわけには」

「少し休もう、スコール」

 

 そんな優しい声をかけながら闇の中からオータムが現れ、彼女を抱きしめる。

 

「例の作戦は進んでる……だから今は休め」

「……そうしましょうか」

 

 スコールはオータムに寄りかかると目を閉じる。

 

「ねえ、私の体を見てがっかりした?」

「いいや。スコールはスコールさ……どんな体かなんて関係ない」

「あら、良い言葉ね」

 

 どちらからともなく顔を近づけあい、二人はキスをした。

 

(織斑一夏は必ず殺す)

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