Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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毎日投稿もいつまでできるか不安です。


第十三話

 突然の出来事にアリーナは酷く静かだった。

 観客の大勢が何も知らない新入生だったということもあるんだろうが少なくとも誰もが今、目の前にいる存在を説明することも、理解することも出来なかった。

 

 ――――――敵ISによるロックを確認

 

「一夏!」

「俺か!」

 

 だらんと伸ばした腕が俺に向けられた瞬間、両拳にありえないほどの大きさの大穴が見え、その奥から淡い輝きが見て取れた。

 俺はすぐさまその場を離脱する―――直後、二本の熱線が放たれてアリーナの壁に直撃し、一発で大型モニターを木っ端みじんに破壊してしまう。

 

『AAAAAAAAAA――――――!』

「きゃぁっ!」

「な、なんだこの音!?」

 

 耳を抑えなければ鼓膜が爆発するんじゃないかと思うほどの悲鳴にも似た高周波の音が放たれた直後、アリーナ全体に非常サイレンの音がけたたましく鳴り響き、非常事態モードへと移行する。

 非常事態モードへと移行したことでアリーナを保護するものがエネルギーバリアに加えて分厚い防護シャッターも適用され、それらが自動で降り、観客席を覆い隠す。

 その状態に満足したのか謎のISは咆哮を止める。

 

「一夏! あたしの後ろにいなさい!」

 

 残量が残り少ない俺をかばうように鈴が前に出る―――直後、鈴の隣を猛スピードで謎のISが通り過ぎていき、鈴のことなどいないかのように無視して俺めがけて突っ込んでくる。

 

「狙いは俺か!」

 

 アンバランスな体を支えるためだろうか全身に不気味なほどに開いたスラスター口を目の当たりにし、ぞくっと鳥肌が立つ。

 その場から後ろへと飛び退いた瞬間、俺がいた場所に両拳がハンマーの様に振り下ろされ、地面に着弾するや否や凄まじい爆風と共に地面が爆ぜる。

 

「うぉ! よっと!」

 

 長い腕をまるで鞭のように撓らせながら地面に叩き付けてくる―――加減など知らないとでも言わんばかりに全力で叩きつけられていく地面には巨大な穴が生まれる。

 気のせいか、その穴からは殺意を感じる。

 

「っと! 隙あり!」

 

 長い腕の振り下ろしを前方に飛び込みながら回避し、間合いに入ると同時に相手の胸部へと掌底を叩きつけるが相手には効いていないのか、それとも無視しているのか一切の反応はなく次の攻撃態勢に移るだけ。

 直後、謎のISの背部で複数の不可視の砲弾が着弾し、体勢を崩す―――その隙に距離を離し、鈴と合流する。

 

「あたしだっているのよ!」

 

 謎のISは鈴の方をチラリと見るがただ見るだけでまた俺に視界を戻す。

 

「鈴!。こいつの狙いは多分俺だ。今のうちに逃げろ」

「バーカ。一般人を置いて代表候補生が逃げる訳ないじゃない」

「……だよな。言うと思った」

 

 俺達の掛け合いをよそに謎のISはのっそのっそと向かってくる―――俺だけをただ見ながら。

 

「だから無視してんじゃないわよ!」

 

 青龍刀を連結させ、勢いよく投げつける―――強烈な打撃音がアリーナ内に響き渡るが謎のISは痛みを感じさせる素振りすら見せず歩みを止めない。

 その雰囲気、そして姿はまさに異形の物という表現がぴったりだ。

 人の姿は全身装甲だから見えない。ISはシールドエネルギーによって生態を保護しているから全身を装甲で覆う必要性がない。

 仮に人が乗っていないISだと仮定しようとしてもその仮定自体が成立しない―――なぜなら現時点で無人、もしくは遠隔で操作できるISは開発されていないから。

 

「あれ、本当に人が乗ってるの?」

「……乗ってないように見えるな」

「ねえ、さっきから先生たちにプライベート・チャネルが繋がらないんだけど」

「緊急事態に対応しきれていないか、あいつが何かしてるかだな」

 

 あの時、謎のISは高周波の叫びをあげた。その直後にアリーナの緊急事態の機能が作動していたから十中八九、目の前の敵が何かしたんだろう。

 それに緊急事態であるにも関わらず先生たちが駆け付ける様子も見えない。

 

「もしかしてあたしたち、閉じ込められてる?」

「かもな……」

 

 ふと鈴の姿を見た時、彼女の手が小さく震えているのが見えた―――代表候補生の鈴は俺よりも遥かに場数も踏んでいるし、経験値も違う。

 それでも不安で震えてしまう。

 俺は何も言わずに彼女の手を取った。

 

「一夏?」

「……俺も怖い。あいつ、明らかに俺を殺しに来てるだろ」

 

 何度かの俺に対する攻撃で分かったことがある。あいつは競技の範疇で攻撃をしてくるんじゃなくて俺を殺す勢いで攻撃を仕掛けている。

 あのフィールドの大穴を見れば一目瞭然だ。

 

「俺も怖い……お前と一緒だ」

「……一夏」

「でも俺はここで人生を終える気はない……お前の酢豚も毎日、食べたいしな」

「っっ! そ、それって」

「来るぞ!」

 

 俺達の間を引き裂くように謎のISが飛びかかってくる―――互いに左右に分かれて攻撃を回避した瞬間、相手の背部で一瞬、光の線が走ったかと思えばパカツと装甲が開く。

 次の瞬間、俺めがけて黒く発光する物が射出される。

 

「しまっ! うわっ!」

「一夏!?」

 

 射出された黒い何かは俺に巻き付くと先端が背後へと伸びていき、観客席を護る分厚いシャッターに突き刺さり、俺を一瞬で拘束してしまった。

 

「こんの!」

 

 スラスターを吹かせ、引きちぎろうとするが防護シャッターと固定されているせいか多少軋みはすれど引きちぎれる基など微塵も感じない。

 動けない俺に向かってゆっくりと謎のISは迫ってくる。

 

(ヤバイヤバイッ!)

 

 命の危機を本気で感じ、必死に鎖をどうにかしようとするがギリギリと白式の装甲に食い込むだけでどうにかできるようには感じなかった。

 その時、謎のISの前方で地面が連続して大きく爆ぜ、相手の視界を潰すように砂煙が立ち込める。

 その砂煙の中を鈴が猛スピードで突き進み、俺の目の前に降り立つ。

 

「大丈夫一夏!?」

「俺は大丈夫だ!」

「こんな鎖、すぐに引きちぎってやるんだから!」

 

 鈴は鎖を掴み、引きちぎろうとするがびくともせず、青龍刀で切断しようとしても傷一つ付かない。

 その時、砂煙の奥から怪しく光るいくつかの赤い光が見えた。

 

「鈴! 離脱しろ!」

「え? きゃぁっ!」

 

 砂煙から長い腕が伸びて来て彼女の腕を掴んだかと思えばそのまま勢い良く後方へと腕を撓らせて彼女を振り回し、そのまま地面に叩き付けた。

 

「鈴! おいやめろお前!」

 

 相手に呼びかけるが先程とは打って変わって一切の返答を見せず、そのまま伸ばした腕を引き戻して鈴を自身の近くへと引きずる。

 相手はゆっくりとその長い腕を振り上げる。

 

「おい……やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉ!」

 

 鞭のように長い腕が振るわれ、拳が鈴に叩き付けられ、甲龍の装甲が弾け飛ぶ。

 

「げほっ! ぐぅぅっ」

 

 鈴の苦悶に満ちた呻き声が俺の耳に反響する―――しかし、相手は一発では終わらせるつもりはなくもう一度腕を振り上げる。

 

「がはっ!」

「鈴ー! うおぉぉぉぉぉぉっっ!」

 

 このままでは鈴の命が危ない―――俺は白式のアラートを無視してスラスターを全開で吹かし、鈴の下へと駆け寄ろうとするが鎖が白式に食い込むだけ。

 限界を超え、吹かし続けていたスラスターが徐々に赤熱化していき、噴射口からは時折、火が噴き出し、カスタム・ウイングも熱にやられて小さな火が出始める。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 

――――――☆――――――

 数刻前、ピット内。

 

「こちらIS学園! もしもし!? 聞こえてますか!?」

 

 ピット内に緊迫した真耶の怒声にも近い声が響き渡る。先程から非常事態を告げるけたたましいサイレンが鳴り響き続けている。

 セシリアも箒も緊急事態の緊迫した空気に重い表情を浮かべるが千冬は腕を組んだまま微動だにせず、モニターに映し出される映像をじっと見続ける。

 

(束……これがお前のやり方か)

 

 千冬の脳裏にはこの事件の元凶たる女性の顔が浮かび上がる。

 一夏のエネルギー残量が1割になった頃合いの乱入や学校行事であることから千冬のいる場所が固定されている時の乱入など全て彼女の手の平の上。

 

「織斑先生! 私に出撃許可を! お二人のエネルギー残量ではもうもちませんわ!」

「そうしたいのは山々だが……みろ」

 

 千冬がタブレット端末を数回叩き、情報を表示させるとそこには第二アリーナのステータス状態が現れ、セシリアはそれを見た途端、表情を一変させる。

 

「遮断シールドがレベル4!? それに全ての扉がロックされて」

「今、学園の3年生の精鋭共がシステムクラック中だ。クラックが済めば部隊を突入させる」

「そ、そんな……それでは間に合っっ!」

 

 セシリアはそこで言葉を止める――――――先程まで正常に情報を表示していたタブレット端末にいつの間にか無数のヒビが入っている。

 その始まりは明らかに千冬の指。

 これ以上、触れてはならないとセシリアは引き下がる。

 

「どうにかしてフィールドに突入できれば」

「……放送席」

「え?」

 

 箒の今にも消え入りそうな小さな声が真耶の耳に届いた。

 

「そうですよ! 放送席ならピットからの入室ができます! それに放送席のシステムはアリーナのシステムとは独立しています!」

「……山田先生。オルコットに帯同し、放送室の遮断シールドを解除」

「はい!」

「オルコット」

「はい!」

「放送室より侵入後、相手のコアを撃ち抜け」

「コ、コアですか!?」

 

 セシリアは千冬からの突拍子もない指示に驚きを隠せないでいた。ISの心臓部であるコアはその重要性から装甲の内部に位置し、さらにそこから幾重にも防護手段で護られている。

 

「安心しろ……その時は必ず来る。決して精神を乱すな。分かったな」

「は、はいっ!」

 

 セシリアと真耶はピットの扉を手動でこじ開け、放送室へと向かう。

 

「……篠ノ乃。生きているか」

「……はい」

 

 今にも消え入りそうな声しか発さない箒の表情は酷く沈んでいる。

 見る人からすれば死んでいるのではないかと思うほどに。

 千冬はそんな彼女の姿を目に入れると彼女の隣に立ち、肩を優しく抱き寄せる。

 

「あいつとの契約により、直接私は手出しできない……安心しろ……あいつが死なない状況を私が作り出す。あいつは絶対に死なせない」

「……一夏……死なないでくれ」

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