Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百四十八話

 秘匿母艦が沈没した連絡を受けてか前方にはヘリやら大型の艦隊やらIS数機が飛び回っており、自分たち含めてその現場にいた人間はみな、平等に聞き取りが行われていた。

 ただ、日本の代表候補生が巻き込まれているということもあってか日本側の方からも助っ人として政府関係者が来てくれたおかげで自分の聞き取りは長く続かず、すぐに終わった。

 ただ楯無さんと簪の場合はそうはいかなかったみたいでいまだに続いている。

 

「よっ、お疲れさん」

「イーリスさん」

 

 ベンチに座っていると隣にイーリスさんがやってきて冷たいペットボトルを差し出してくれた。

 正直、今回の件はイーリスさんが居てくれたからすぐに取り調べなんかも終わったので運がよかった。

 

「にしても大変な一日だったぜ。救難信号受け取ったかと思えば――――に遭遇するわ、亡国機業と戦闘になるわ見たことないアメリカの兵士の死体に遭遇するわ……疲れた」

「確かに」

「……今後、気を付けた方がいいぞ。お前」

「……」

「どうにもここんところうちの国だけじゃなくて世界的にどこの国もきな臭い動きをしやがる」

「世界的にっていうのは」

「噂だがな……アメリカとイギリスが対IS用兵器を作って宇宙に浮かべてる、とかIS学園に未登録のコアが封印されてる、とかな。どれも眉唾もんだがよ」

 

 前者はともかく後者はおそらく事実だ。

 束さんが作った完全自立型の無人機による襲撃事件の際に破壊しきれなかったコアがあることはあの場にいた奴ならなんとなしに察しはしている。

 

「で、今回の秘匿母艦もそうだ。あれは地図にない基地(イレイズド)所属だがあの中にいた連中の顔は見たことねえやつらだった。担当者を詰めたが知らねえの一点張りだし」

「イーリスさんが知らないなら……本当に何だったんですか?」

「さあな。それになんで地図にない基地(イレイズド)の船に亡国機業がいたかもわからねえ」

 

 もし、あの母艦に乗っていた人たちがイーリスさんと同じ所属部隊なら亡国機業が襲撃した、で片付くけどイーリスさんも知らないとなれば話はさらにややこしくなる。

 なぜ、アメリカの船に亡国機業がいたのか、そして殺されたあの人たちは一体何なのか。

 

「アメリカとイギリスの対IS用兵器っていうのは」

「それもあくまで噂だ。なんでもISの絶対防御を飽和させるくらいのエネルギー兵器らしいぜ」

 

 ISは世界最強の兵器ではあるけど理論上はIS以外の兵器でも倒すことは出来る。

 ただし、バカみたいな金額とバカみたいな量の人材を駆使してようやく一機のISを倒すことができるレベルだからどこも実践しようとしない。

 そんなものに投資するくらいならISに投資した方がいい。

 

「対IS用兵器か……抑止力とかですか?」

「んな一昔前の核兵器武装論じゃあるめえし。第一、IS最強論が根強い現代で対IS用兵器なんか作るのもおかしな話だぜ。だから眉唾もんなんだよ。そもそも宇宙にそんな対IS用兵器が浮いてりゃどっかの国の衛星が発見して大問題になるぞ」

「たしかに」

 

 でもふと思う。

 そこまできな臭い動きが出てきているのなら裏で国々が結託して情報を操作しているんじゃないか。

 アメリカやイギリスという世界でもトップレベルの影響力を持っている二国が手を取り合って情報統制をすれば世界レベルで世界を騙せるんじゃないか。

 そんなことを想っているとふと、懐かしい匂いが自分の鼻腔をくすぐる。

 キョロキョロと周りを見渡すとそこには―――

 

「は~い、白いナイト君」

「ナターシャさん。お久しぶりです」

「なんだナタル、お前も来てたのか」

 

 鮮やかできれいな金色の髪をたなびかせながら自分たちの方へ向かってくるのは臨海学校の時以来のナターシャ・ファイルスさんだった。

 

「国の問題だもの。私も駆り出されたわ……それにしてもあなた、随分強くなったのね」

「そ、そうですか?」

「夏に出会ったときは雰囲気が違うわ。色々な経験を積んだみたいね」

「まぁ、いろいろと……ところで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は」

「……今はお昼寝中よ」

 

 一瞬、彼女の陰った表情を見てそれだけで察してしまった。

 あの時の暴走でナターシャさんの手元から離れたあげく、何の関係もないIS学園の自分たちと戦闘を繰り広げればそんな決定にもなる。

 

「ナタル、結局あの船はどうすんだ? 沈めたままか?」

「さあ?」

「さあって何しに来たんだよ」

「私たちは国に言われて現場の調査をしに来ただけよ」

「調査にしちゃ大規模な編成だな、おい」

 

 私に言われても、と言いたいげな表情で肩をすくめるナターシャさん。

 イーリスさんの視線は若干の怒りがこもっており、前方に展開されているアメリカの艦隊たちに向けられていてそれはどこか睨みつけているようにも見える。

 

「さ、戻るわよ。イーリス」

「へいへい。あ、――――。機会あればお前と一戦交えたいな」

「ありがとうございます」

「じゃあな」

 

 そう言ってイーリスさんとナターシャさんは迎えのヘリへと乗り込んでいった。

 

「あ~ん、もう疲れたー」

「……へとへと」

 

 そんな声が聞こえ、振り返ると凝り固まった体を伸ばしながら楯無さんと簪がこちらへと向かってきており、その表情は疲れの色で染まりあがっている。

 簪は日本代表候補生だし、楯無さんに至っては代表候補生じゃなくて代表。

 取り調べの質も長さも一般人の自分と比べれば長大にもなる。

 

「お疲れさまでした」

「ほんとよ~。ちなみに明日はロシアの開発チームが来るからその対応」

「あ~、第二形態移行(セカンド・シフト)しましたもんね」

「……お腹もすいた」

 

 簪の言うように時間はすでに十九時だ。

 いつもなら既に学食で晩御飯を食べ終わって自室でゴロゴロしている時間帯だ。

 恐らく今日のことで学園からも聞き取りがあるだろうから明日は丸一日、取調室に拘束されるのは目に見えているし、確実に自分の担当は姉さんだろう。

 

「今から帰っても食堂、閉まっちゃうしね~」

「コンビニで何か買いましょうか」

「……一食抜いても問題はない」

 

 と簪は自信ありげに言うがお腹の虫はそうは許さなかった。

 辺りに鳴り響くお腹の虫を聞き、とりあえず近くのコンビニに寄り、適当な菓子パンを三つほど購入し、海を見ながらベンチに座って軽くディナーとすることにした。

 

「ん、久しぶりにコンビニのパン食べたけど……」

「味が……濃すぎる……」

「学園の食堂の栄養管理、凄いんだな」

 

 IS学園という施設のすばらしさを再認識した瞬間だった。

 

「……そういえば今日、あなたの話が出てきた」

「へ? 自分の?」

「そう……なんでも代表候補生に据えたいみたい」

 

 実のところ現在、自分の所属は決まっていない。

 国籍は日本だし、生まれも育ちも日本だから日本に所属するべきだろうと思うんだけど世界で唯一の事例ということもあってお偉いさん方の話し合いは長引いているらしい。

 ただ正直な話、代表候補生の誘いが来たとしても自分は断るつもりだ。

 自分自身を失っているということもあるけど一番の理由は自分という存在が普通ではないから。

 この前の襲撃の際に一瞬だけ見たどこかの研究室の光景、そして試験管に貼られていた自分を示す名前を見た時からその疑念はふつふつと自分の中にある。

 

「そっか……でも当分は受ける気はないかな」

「それは自分のことが理由?」

 

 言い当てられ、一瞬ドキッとしてしまうが何も言わずにいると楯無さんが優しく自分の手を握ってくれた。

 

「確かに今、あなたは自分自身に疑念が出てきてると思う……でも時には地位があなたを守ってくれることもあるってことを覚えておいてちょうだい」

「地位……ですか」

「IS学園も影響力はある……でも最終的には……国家の保護がある候補生が強い」

 

 簪の言うように国家の保護は一人間としては最強のカードだと思う。

 今回のように国が絡んでくる事件に巻き込まれた場合は確実に一般人であることよりも国というバックがあるかないかで結果は変わってくる。

 男性IS操縦者なんてものは地位でも何でもない。

 

「ただあなた自身のことが解決するまでの間は……更識が守るわ」

「楯無さん……」

「守られてばかりじゃ……更識の名が泣く」

「簪……」

「あなたは私を助けてくれた白馬の王子様であり」

「私を助けてくれたヒーローであり」

「「私の大好きな人だから」」

 

 二人の言葉が重なった瞬間、両頬に柔らかい感触を感じた。

 自分の心臓は強く鼓動をうち、顔に熱が集まってきて二人を見ることができない―――でもこの時間が、この瞬間が何よりも幸せを感じる。

 自分の居場所を守ってくれる人たちがいて、自分の全てを守ってくれる人がいることが、そして自分の存在全てを証明してくれることが何よりうれしい。

 何も言わなくていい、と言わんばかりに二人は自分の手を優しく握りながら肩に頭をのせる。

 

「あなたに出会えて私は幸せよ……本当の自分を曝け出せる」

「……あなたに心を満たされて……私も幸せ……ありがとう」

 

 近いうちに自分は彼女たちに対してハッキリと答えを出さなくちゃいけない。

 それは最初にセシリアの告白を受けてから考えてきたことであってまだ自分の中で明確な答えが出せているわけじゃない。

 でも姉さんはどんな形であれ幸せになれと言ってくれた。

 そもそも自分の存在自体が常識から外れているんだから自分の幸せの形が常識外れになってしまったっておかしなことじゃない。

 ただもう少しの間だけはこの幸せを享受していたい。

 自分はこれからの道を考えながらも二人の手をそっと握った。

 

 

――――――☆―――――

「ふぅ、書類整理も終わりました~」

 

 夜もどっぷりと更けた時間帯、薄暗い職員室で真耶は机の上に山積みになっていた膨大な量の書類整理を行っていたがようやく終わり、椅子の背もたれにもたれかかる。

 ここ何か月とアクシデントや新しい行事などが急遽、組み込まれることが多かったためそれに比例して書類提出も膨大な数となっていた。

 

「私はまだマシかな~」

 

 そう言いながらちらっと隣を見てみると机の上に積み上げられた書類のタワー、そして密かに地下室と表現されている机の下にも積み上げられている紙の書類。

 それは一組担任の千冬のデスクだった。

 

「先輩の机……紙の重みで壊れないかな」

 

 そんなことを不安に思っていた時、一枚の封筒が真耶の視線を釘付けにし、思わず手に取ってしまった。

 それは日本政府からの通達文。

 何故、そんな超重要書類がただの封筒で送られてきているんだとも疑問に思った真耶だったが嫌な胸騒ぎがしてあまりよろしくはないが許可も取らずに封筒を開けてしまう。

 

「政府からの封筒ということは代表候補生のことかな~……それならいいけど」

 

 学園には簪をはじめとする日本の代表候補生は多数在籍している。

 それに関する通知書であれと祈りながら取り出した封筒を上から見ていくとそれは一枚の通達文だった。

 

「織斑一夏との面談についての文書……だけじゃない」

 

 一枚目は面談に関する通達文、そして二枚目にも文書はあるのだが何故かそれを見ようとしない真耶。

 その表情はひどく緊張しており、額からは嫌な汗が伝っていく。

 意を決して二枚目の文書に目を通すとそれは学園向けの決定通知書であり、極秘の文書。

 

「え……え? う、ウソ……こ、これは一大事」

 

 真耶は二枚目の書類を手にしながら急いでスマホを手に取り、千冬のもとへと連絡する。

 その書類に書かれてあった内容―――それはまさに常識破りな存在にピッタリな常識破りの内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       【決定通知書】

               表記のことについて下記のように決定したことを通知する。

      1.織斑一夏の多重婚を認める。ただし、極秘事項であるため口外はしないこと。

      2.ただし、後の近親婚を避けるために一組につき一人の子どもまでとする。

      3.織斑一夏の所属については当面の間は日本国とする。

      4.専用機『白式』についても3と同様とする。

      ただし、上記の決定については変更となる可能性もある。

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