「かんせ~~~~~~~~い!」
スコールに用意されたホテルのスイートルームの一室を勝手に魔改造を施し、自身専用の開発室としていた部屋に束の歓声が響き渡る。
叫び声を聞いた“織斑一夏”は鬱陶しそうな表情を浮かべながらも束のもとへと向かうと“彼”を発見した束が勢いよく抱き着く。
「や~ん! いっくんたら髪の毛切っちゃって!」
闇夜から現れた“織斑一夏”は以前とは違い、伸びていた長い髪の毛をバッサリと切っており、暗闇であれば男と間違えてもおかしくないほどボーイッシュになっていた。
遠めに見れば誰もが“織斑一夏”と呼んでいた
「ほらほらいっくん! 束さんにお礼は?」
「離れろ……そもそもそのいっくんというのはなんだ」
「だって君はオリジナルの“織斑一夏”でしょ? だからいっくん」
オリジナルと言われて機嫌を良くしたのか“彼”は未だに抱き着き、頬をすりすりしてくる束を邪険には扱わず少しの間、されるがままとなった。
「いや~、なんであの醜い肉塊に殺意を湧いてたのかようやく理解したよ~。君がオリジナルなんだね」
「当たり前だ。“俺”がオリジナルだからこそ奴からすべてを奪えたんだ」
「だよねだよね! 束さんの感情は正しかったってことだね! 君が正真正銘、“織斑一夏”だ!」
「それよりもさっさと見せろ」
「もう、いっくんたら……さ~てと、しかとご覧あれ!」
束がそう言いながら勢いよくカーテンを取り払った瞬間、月夜に輝く漆黒の騎士が姿を現し、その姿を両目に収めた“織斑一夏”は妖しい笑みを浮かべ、体を震わせる。
それはようやく殺せるという嬉しさからか、それとも別の何かなのか。
「これこそまさに白をこの世から滅する黒の騎士! その名も黒騎士!」
「
「どうして~? 君がオリジナルなんだから気にしなくていいじゃん。醜い肉塊は所詮、偽物なんだからさ」
「……まあいい。本当にこれで殺せるんだろうな」
「もちろん。移行時間のいらない亜光速飛行、制限時間のない超音速飛行、そして醜い肉塊を殺し続けるための武器。そのすべてのスペックが白を超える最強のISさ」
黒騎士に触れると絶大な力を感じ取った“彼”は笑いを抑えられず、室内に高らかと笑い声を響かせる。
「素晴らしい力だ! こいつがあれば“俺”はようやく本物になれる!」
「そうだよ。君こそがオリジナル。千一番目なんだからさ……さっさと醜い肉塊を消してね」
「無論だ。やつの存在そのものが“俺”の全てを奪っている……その存在さえ奪えれば正真正銘、“俺”こそが“織斑一夏”となるんだ」
その時、扉が開く音が室内に響き渡るが二人とも誰が入ってきたのか姿を見ずとも理解しているのか入室者の方を見ようともしない。
入室者は二人―――一人はオータム、もう一人はオータムに車いすを押されているスコールだった。
「あら、完成したのね。篠ノ之博士」
「ぶいぶい! 束さんにかかればこんなの朝飯前なのだ!」
「サイレント・ゼフィルスの面影が全くねえな……魔改造っていう言葉がぴったりだ」
「何をしに来た」
「内通者からの報告……と紹介をね。まずは織斑……じゃなくて
「ほぅ……“俺”たちを誘っているのか」
「そうかもね。私はまだ動けないから……今回はオータムとあなたに任せるわ……“織斑一夏”」
そう言われ、“彼”はニヤリと笑みを浮かべながら黒騎士へと乗り、
「そしてもう一つが……入りなさい」
スコールの言葉の後、再び扉が開かれて二人の少女が入ってくる。
オータムは一人の少女の顔を凝視しており、その視線は明らかに不審者を見るような眼をしているがスコールに軽く小突かれてしまう。
「へぇ……新人ってわけか」
「そう。おそらく学園側……とくに更識楯無と織斑千冬には内通者のことはバレている……でも彼女たちももう一人のことまでは気づいていないはずよ。そこを叩く」
「バレていないという根拠はあるのか? “千冬姉”を甘く見ているのであれば殺すぞ」
「根拠はあるわ……なんせ亡国機業入りが今日だもの」
「……どうだか」
一人の少女はこのような空間に慣れていないのか不安そうにもう一人の少女の手を握り締めるがそれを少女は受け止め、頭を優しくなでる。
「相手は更識楯無、そして
「ん~。もう少しで終わるんじゃないかな~」
「そう、ありがとう……やつらの京都入りが三日後。それまで各自、準備を仕上げてちょうだい……京都で
――――――☆―――――
その日の晩、自分は姉さんの部屋の前に立っていた。
その理由は言わずもがな例の作戦のことに関してだろうけどどうも入るのを躊躇っていた。
「……変に緊張するな」
姉の部屋に入るのにこれほど緊張したのは初めてだが心を落ち着かせ、扉をノックしようとした時、ドアノブがガチャリと回り、ゆっくりと扉が開かれる。
タイミングの良さはまるで覗き穴からでも見ていたかのようだった。
「入れ」
「う、うん」
何を言われるのかとドキドキしながら案内されるがままにベッドに腰を下ろすと姉さんが何も言わずに隣に座るが一言も話さない。
奇妙な緊張感が部屋を包み込んでいき、額からは汗が流れ落ちる。
「お前は何もしなくていい」
「……え?」
「京都での話だ。亡国機業の殲滅は私たちがやる」
「い、いや。でもこの作戦の要は」
「お前にはもう……傷ついてほしくないんだ」
姉さんは今にも泣きそうな表情を浮かべながら自分の頭を優しくなでる。
この半年間でどれだけの悲しみや迷惑をかけてきたのかがその表情に込められているんだと思うと自分の心が鷲掴みにされる様に痛い。
二度の死亡判定に亡国機業との度重なる戦闘。
その度に自分は大きなケガを負い続けてきた。
「この作戦……私はお前を失う気がしてならないんだ……どれだけの準備をしようとも、幾重にも作戦を練ろうにもお前を失うという可能性が消えないんだ」
「……」
「もう……お前には命しか残っていないんだ」
「っっ」
全くバレていないとは思ってもいないし、多少なりともは感づかれているとは思っていたけど今の言い方から察するにもうすべてバレている。
自分が名前を失っていることも、姉さんを失っていることも、自分の全てを失っていることも。
あと奪われる可能性があるものは―――この命しか残っていない。
「私は……お前を失いたくない」
もう我慢が出来なくなったのかまるで栓が壊れたかのように姉さんの瞳から大粒の涙があふれ出し、ベッドのシーツを濡らしていく。
「お前は私の全てだっっ……お前を失ってしまえば……私は……生きる意味を失うんだ」
「……」
「本当はっっ……お前を連れて行きたくはない。だが私だけが行っても亡国機業は出てこないだろう……だからお前は京都にはいるだけでいい……私が」
「ごめん……それはできない」
「……―――」
姉さんが何を言ったのかは聞き取れない。
でもきっと自分の名前を呼んだと思う。
「姉さんの言うように自分はすべて奪われた……だから取り戻したいんだ。自分を、姉さんを……自分は絶対に死なない。死んでしまったらみんなとも幸せになれないし……姉さんとももっといろんなことをしたい」
「……」
「だからごめん。今回ばかりは姉さんの言うことは聞けない……亡国機業の殲滅は……自分も行く」
「……そう言うと思っていたさ」
「……姉さん」
「何があってもお前は戦いの場に現れる。私が策をどれだけ考えても……お前は現れる」
姉さんは涙をふくと自分を優しく抱きしめてくれる。
名前を失ったとしてもこの温もりだけは手放したくない―――仮面の女にも、亡国機業にも誰にも奪わせたりなんかしない。
「生きて帰るぞ。必ず」
「うん……絶対に帰ろう」