「あ、あの織斑先生」
「なんだ?」
「別の任務というのは」
千冬と真耶は竹林が生い茂る中である人物を待っていた。
あらかじめ修学旅行の工程とも、亡国機業の殲滅任務ともちがう別任務があるということだけを聞いていた真耶だったが内容については何度聞いてもはぐらかされていた。
そしてたどり着いたのがこの竹林の中だった。
「真耶」
「は、はい」
「……お前は学園を守るために剣となる覚悟はあるか」
「……」
こちらを見ず、背中越しにそう語りかける千冬の言葉に真耶は真意をくみ取れないながらも自分なりの結論を探していく。
むろん、IS学園の教師となったからには生徒を、ひいては学園を守る義務も出てくることは百も承知ではあるが千冬が言っていることはおそらくそんな基本的なことではないだろう。
もっと視野を広げて考え、行きつく先にあるのはただ一つ。
ISを取り巻く世界そのもの。
「これから先、世界は混乱の渦に巻き込まれるだろう。その渦中に必ずISと……一夏がいる……今後、そんな世界でお前は学園のために剣となる覚悟はあるか?」
「……」
「無理にとは言わない。お前もこの先、家庭を持ち、幸せな人生を歩むだろう……学園の剣となればそんな人生を歩むことすら」
「覚悟の上です」
「……」
「学園の教師になった以上、世界最強の兵器の傍で働くと決めた以上は全てのことを覚悟しています」
力強い真耶の言葉を聞いた千冬は振り返る。
その時、一陣の風が吹き荒れ、竹林が揺れる中、地面に一つの影ができる。
それに気づいた真耶は空を見上げると一機のISの姿が見え、彼女たちのもとへと降り立つ。
「礼を言う……カレン、例の物は」
千冬がカレンと呼んだ女性は
名前がないのは呼びにくいということで千冬に新たな名前を授けられ、彼女の右腕として裏の世界で動き続けることとなった。
「ここに」
カレンが手を差し出した瞬間、彼女の手の中に一つのブローチが現れる。
「危うく殺されるところだったぞ」
「だが生きている。私の期待通りの働きぶりだ」
「ふ、ふん……すでに山田真耶のデータは登録済みだ。あとは」
その時、周囲の空気を切り裂くような甲高い銃声音が何発も断続的に響き渡る。
「真耶、急げ。早速仕事だ」
「は、はい!」
「カレン。真耶のISの最終調整を頼むぞ」
「了解」
真耶をカレンに任せた千冬は銃声が聞こえた方向を見るがその目に一つの曇りもなかった。
その時、千冬はスマホがポケットの中で震えていることに気付き、画面を確認した瞬間、今日初めて千冬の表情が驚愕の物へと変わった。
「……こんなにも早くアーリィを切ることになるとはな……亡国機業め」
スマホに表示されていたのは学園からの緊急事態メッセージだった。
――――――☆―――――
風が吹いたと同時に首根っこを掴まれ、後ろへと勢いよく引かれた瞬間、目の前を何かが凄まじい速度で通り過ぎていくとともに地面が軽く爆ぜる。
次の瞬間、団子屋の周辺に何かが降り注ぎ始め、地面や信号、果ては土産屋の看板などが炸裂し、周囲の人々が叫びをあげながら逃げ惑う。
すぐさま亡国機業の襲撃が始まったんだと理解した。
「見つけたわ! ―――君! 少しだけ待ってて!」
「た、楯無さん!」
楯無さんがそう叫ぶや否やミステリアス・レイディを一瞬で展開すると団子屋の天井をぶち抜きながら上空へと飛び上がり、どこかへと飛び去っていく。
「やれやれ、有名人は大変だネ」
「あ、あなたは」
自分の背後には刀の鍔を模した眼帯に胸元まで見えるくらいに着崩した着物、そして赤い髪の毛を持つ女性がのんきに自分が購入した団子を頬張っていた。
その独特な格好を一目見た瞬間、姉さんが呼んだ助っ人だと直感した。
「とにかくここから離れないと」
「そうさネ」
緊急事態だというのに女性は非常に落ち着いており、団子を平らげるとそのまま何の警戒もなしに団子屋の外へと歩きだしていく。
直後、女性のすぐ近くの地面が爆ぜるが女性は少しの驚きも見せない。
「さ、こっちに来な」
「は、はい」
女性に言われるがままに近くへ行った瞬間、自分たちの周囲を回転するかのように風が吹き始める。
直後、キィンという甲高い金属音が聞こえると同時に自分の足元に何かの金属片が転がり落ち、よく見て見ると真っ二つに切り裂かれた銃弾だった。
「人にISの銃弾向けちゃいけないって習わなかったのかナ?」
少しの間、周囲で金属音が鳴り続けていたが少しするとその音が鳴らなくなった。
それを見計らうように周囲を囲うように吹いていた風が止まる。
「とにかく人がいないところに移動しないと!」
「こっちっス!」
そんな声が聞こえ、声がした方向を向くと曲がり角から身を乗り出すようにしてこちらに大きく手を振るIS学園の制服を着た女の子の姿が見えた。
自分は迷うことなくその女の子の方向へと駆け出した。
――――――☆―――――
「あらら、行っちゃった……追いかけないとブリュンヒルデが怒るネ」
そう言い、後を追いかけようとしたその時、後ろに誰かの気配を感じたアリーシャは振り返るとそこには車椅子に乗っているスコール・ミューゼルがいた。
「お初にお目にかかりますわ。二代目ブリュンヒルデ、アリーシャ・ジョセスターフ」
「その二代目っていうのはやめてくれないかナ? 殺したくなっちゃうヨ」
「これは失礼しました」
「で? 亡国機業のドンがいったい何の用さネ」
「一度、あなたとお話がしたいと思いますの。お時間、取ってくださいますか?」
「……」
「答えはまたの機会で構いません。ですが一つだけ……我々はあなたが望むステージを用意する準備を整えておりますので」
スコールは小さく笑みを浮かべながら車椅子を操作して背を向けるとそのままどこかへと去っていく。
追いかけようと思えば追いかけれたはずであり、捕縛しようと思えば捕縛できたタイミングであったにもかかわらずアリーシャは何一つ行動を起こさなかった。
「……ん? どうしたのサ。シャイニィ」
まるで主人を心配するかのようにか細い声でなく愛猫の頭をアリーシャはただ優しくなでた。
―――――☆―――――
「さ、こっちっス!」
「この前、ジュースをくれた」
「フォルテ・サファイアっス!」
「でもなんで京都に」
「話は後っス! 今は逃げるっスよ!」
ジュースをくれた先輩―――フォルテさんを先頭に自分は曲がり角を何度も曲がりながら路地裏を突き進み、人がいない場所へと走っていく。
先輩を追いかけて曲がり角をそのまま直進しようとしたその時、視界の端に何かが映ったと同時に反射的に文人と待って後ろへと大きく飛びのく。
直後、自分の目と鼻の先を白い何かが凄まじい速度で通過していき、壁をいとも簡単に貫通した。
「もう少しだったのによ。運がいい奴だ」
「オータムッッッ!」
曲がり角から出てきたのは背中からアラクネの装甲脚を部分展開したオータム。
先輩に知らせようと顔を上げたその時、違和感を感じる。
先輩は亡国機業の襲撃だというのに特段驚いた表情を浮かべずに自分の方をじっと見てくる。
「おしかったっスね」
「せ、先輩? なんでオータムの傍に」
「本当はあなたが死んでからネタ晴らしって考えてたんスけど……」
「裏切るんですか……国もIS学園も!」
「じゃあ、後は頼んだっスよ。私は先輩を助けに行くんで」
先輩はISを展開したので追いかけようとするがオータムが遮るように立ちはだかる。
IS学園と祖国を裏切ったというのに先輩の表情は後悔の念などは一切感じられず、何も言い残すことなく上空へと飛翔し、どこかへと飛んでいく。
「さーてと……
「……その名で呼ぶな……殺すぞ」
「けけっ……やれるもんならやってみろ!」
「キャー!」
「っっ!?」
突然、周囲から甲高い悲鳴が木霊したので顔を上げるとまるで糸にでも吊るされているかのように何人もの一般の人たちが上空に浮かんでいた。
直後、オータムが手を勢いよく上にあげたかと思えば周囲の壁を貫通してアラクネのワイヤーネットが地面に次々と突き刺さっていく。
「くそっ!」
ワイヤーネットを避けながら白式を瞬時に展開させ、スラスターを吹かせて上空へと舞い上がると目を覆いたくなるほどの光景が広がっていた。
上空にはいつの間に形成したのか巨大な蜘蛛の巣が生み出されており、そこから幾重にも糸が分かれて一般の人たちを拘束して吊るしている。
「お前はすでにアラクネの狩場に誘い出されていたってわけなんだよ! バーカ!」
「オータムッッッ!」
「おっと。動くなよ?」
「ひっ」
雪片弐型を展開し、オータムに切りかかろうとするが近くにいた女性の首筋にアラクネの装甲脚が向けられ、思わず立ち止まってしまう。
「お前が少しでも反抗的な態度を見せれば……こいつら殺すぜ? こんな風に」
オータムが下卑た笑みを浮かべながら指をパチンと鳴らした瞬間、不自然に垂れていたアラクネの糸が一気に収縮を起こして大爆発を起こした。
その光景を見た一般の人たちは次は自分かと恐怖で叫び始めてしまう。
「あはははっ! 良い叫びだよなぁ。お前が何もしなけりゃこいつらは殺さないでいてやるよ」
「き、君! 頼むから余計なことはしないでくれ! まだ死にたくないんだ!」
「あんた男なんだからあたしをなんとかしなさいよ!」
Boost・Timeを使って一気に距離を詰めたとしても他の人質のワイヤーを爆破されれば意味がない。
のこのこと先輩についていった自分の浅はかさを呪いながらも自分は雪片弐型を収納するとオータムはニヤニヤとしながら近づいてくる。
「そうそう。それでいいんだぜ? お前はここで私に殺されてぐっちゃぐちゃに解剖してやるからよぉ!」
オータムの両手にカタールが現れ、勢いよく自分に向かって振り下ろされた。
――――――☆―――――
「やっぱりあなたが内通者だったのね……ダリル・ケイシー」
「ハァッ……ハァッ……あ、ありえねえ強さだろ」
ダークグレーの装甲を持つダリルの専用機―――ヘル・ハウンドの両肩にある犬頭からは先ほどまで呼吸するように火炎が噴出していたが今は見る影もなかった。
犬頭は見るも無残に破壊されており、全身の装甲もボロボロで主要武器である双刃剣の『黒への導き』も根元からおられている始末。
「第二形態移行したとは聞いていたが何だこの強さはっっ!」
「あなた……いつから学園と国を裏切っていたの?」
「いつから? んな分かり切った質問してんじゃねえぞ!」
最後のあがきと言わんばかりに砕けた犬頭から火炎が吹き荒れ、火球が生み出されようとするが楯無が手を握った瞬間、火球が一瞬にして消失する。
ダリルは驚きを露わにするが全身が何かに握られているかのように強張ってしまう。
「ミストで拘束ってどんな理論してんだ!」
「さあ? とにかく……IS学園に亡国機業を招き入れ、情報を流していたあなたはここで終わりよ」
「はっ、終わりだぁ? 終わらねえよ!」
ダリルが勇ましく叫んだ瞬間、楯無の頭上を一つの巨大な氷塊が降ってくる。
その場から飛びのくこともなく手を軽く振り上げた瞬間、氷塊全体を覆うように次々と爆発が起きていき、数秒経たずに巨大な氷塊が砕け散ってしまった。
「あんまり驚かないんスね」
呆れたように言いながら楯無とダリルの間に立ちふさがる様にして上空からフォルテ・サファイアが降り立ち、楯無を睨みつける。
「……正直、驚いてはいるのよ? あなたは全くの無警戒だったから……何故、あなたまで?」
「私の髪を編んでくれる人の傍に居たかったから……それだけっスよ」
「はっはははっ! 愛してるぜ! フォルテ!」
最後のあがきと言わんばかりに残った犬頭から火炎が噴き出すと同時にフォルテの手から冷気が放出されて一瞬にして炎を凍結させる。
それを見た楯無はすぐさまミストを前面に最大展開し、防御態勢を取る。
「「
一つの氷塊が地面に落ちた瞬間、その衝撃をもって氷が砕けると同時に炎が周囲に勢いよく放たれて辺り一帯を爆風が包み込んでいく。
氷と炎―――相反する者同士で無理やり抑えていたものを一気に解放することによる広範囲攻撃方法。
それがベストパートナーである二人の最強の合体攻撃だった。
「行くっスよ先輩!」
「おうよ! 更識楯無! じゃあな! 最低最悪の京都旅行を楽しめよ!」
爆風が晴れたころには既に楯無の索敵範囲内からは二人の姿はなかった。
「……考えうる中で最悪の事態ね」
亡国機業側につき、IS学園にいるはずの二人が京都にいるということはIS学園は今、何かしらの最悪な状態に陥っているのは間違いない。
楯無はすぐさま作戦用のスマホで端的に内容をまとめ、それを千冬へと送った。
「一夏君。今行くから!」
楯無は全開にスラスターを吹かし、愛する一夏のもとへと急いだ。