Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百五十三話

 オータムのカタールが振り下ろされ、せめてもの抵抗にとありったけの殺意を込めて睨みつけていたその時、目の前で一瞬の青い閃光が発生する。

 自分の顔のすぐそこを“根元から折られた”カタールが通り過ぎていく。

 

「っっ!? こいつはっ!」

 

 折れたカタールを驚きながら見ていたオータムを他所に次々と上空から青いレーザーが降り注いで糸が切断されていく。

 真っ逆さまに落ちていくかと思った人質たちは次々とワイヤーブレードによって回収されていく。

 何が起きているのかが理解できていない自分たちにオープン・チャネルから聞きなじみのある声が響く。

 

『旦那様! 人質は全員回収した!』

『darling! 周りの避難も完了しておりますわ! これで気兼ねなくやってください!』

「く、クソガキどもがぁぁぁ!」

「オータムッッッッ!」

 

 怒りの叫びをあげるオータムとの距離を一気に詰めた自分は我慢していた怒りを爆発させて勢いのままに彼女の顔面に拳を突き刺し、そのまま一気に振りぬく。

 装甲脚からワイヤーネットが勢いよく弾丸のように小刻みに放たれるがスラスターを吹かし、縦横無尽に空を駆け回りながら回避していく。

 

「かかったな?」

 

 ニヤリとオータムが笑みを浮かべた瞬間、周囲に放たれていた糸の弾丸が炸裂するように自分めがけて糸を射出し、ありとあらゆる方向から自分を捕らえようと糸が向かってくる。

 直後、ギュォォン! というバイクの甲高いエンジン音が鳴り響くと同時にアラクネの胸部装甲に自分の拳が突き刺さり、装甲が砕け散る音が木霊する。

 

【Boost・Time】

「ごぇぁっっ!?」

「うぉぉぉぉっ!」

 

 超音速のまま腕を振りぬき、オータムを勢いよく殴り飛ばすと同時にその場から離脱し、彼女の背後を取ると背中を超音速で上空へと蹴り上げる。

 振り向きざまに裏拳の要領でカタールが振りぬかれるがもうそこに自分はおらず、ただ空しく空を切るだけ。

 

「はぁぁっ!」

「ごぅぁっ!?」

 

 超音速で踵おとしを相手の頭頂部に叩き込んだ直後に回し蹴りをわき腹に食らわせ、超音速の勢いで振りぬくと気持ちいいくらいの角度で吹き飛んでいく。

 直後、すぐさま体勢を立て直したオータムは地上に止まっていた二台の車にワイヤーネットを射出し、絡めとると鎖鉄球のようにそれを振り上げ、自分に向かって叩き付けてくる。

 その瞬間、オータムへと達する軌跡が見えた。

 

「久しぶりに見えた! 勝利への軌跡!」

 

 スラスターを一気に全開まで吹かし、二台の車の人一人分ほどのギリギリの空間を身をよじらせ、白式の装甲と車のボディを擦らせながら通り抜け、一気にオータムへの直進距離を突き進んでいく。

 Boost・Timeを使用した以上、蒼炎瞬時加速(ブルー・イグニッション)は使えないがそれでもまだ瞬時加速は使えるほどエネルギーはある。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!」

 

 全ての装甲脚からの糸を集中させて巨大な球体を作り出し、それを自分めがけて蹴り飛ばす。

 直後、球体が巨大な蜘蛛の巣状に拡散して自分を絡めとろうと迫ってくるがすでに赤炎状態へと移行している速度の前では無意味。

 小さな隙間を通過して一気にオータムとの距離を詰め―――

 

「終わりだぁぁぁっ!」

「ごぉぉっ!? ぉぉぉぉぉっぉおっ!」

 

 腹部に蹴りを加えた瞬間、一気に赤炎がスラスターから噴き出して爆発的に加速がなされて誰もいない地上へとオータムを押し込んでいく。

 周囲の空気との摩擦によって徐々に自分たちを赤炎が包み込んでいく。

 炎に包まれているせいか装甲脚から射出されるワイヤーネットは自分に届くよりもはるか遠いところで瞬時に燃やし尽くされ、焼失していく。

 

「だぁぁぁぁっ!」

 

 地上にオータムを叩きつけた瞬間、凄まじい爆音とともに大小さまざまな瓦礫があたり一面に吹き飛んでいき、自分の周囲が一瞬で土煙に包み込まれる。

 同時にアラクネの装甲脚らしきものが何本も宙を舞う。

 直後、土煙を裂くようにしてオータムの腕が伸びて自分の胸ぐらをつかんでグイっと近づける。

 

「私に殺されてれば……楽に死ねたのにな」

 

 そう囁くと同時にこと切れたかのように体から力が抜けて地面に倒れ伏してしまった。

 風が吹き、土煙が晴れていく。

 

「……」

「darling!」

 

 上から声が降り注ぎ、見上げると上空にセシリア、ラウラの二人が滞空していて自分の姿とオータムの姿を確認するとゆっくりと降り立つ。

 

「みんな……なんでここに」

「色々と複雑な緊急事態が起きているからな。我々も合流するようにと上からの命令だ」

「あとで箒さん、簪さん、鈴さん、シャルさんも合流しますわ……学園の方の対応もありますし」

 

 セシリアに聞き返そうとしたその時、彼女たちの視線が後方へと注がれていたので振り返ってみるとそこにはゆっくりとこちらへ向かってくる“あいつ”がいた。

 あまりにも自分に似ているどころかほとんど同じな顔を持つ人間の登場に二人は言葉を失っていた。

 

「だ、旦那様がもう一人」

「そ、そんな……」

「二人とも……オータムを連れて楯無さんたちと合流してほしい……あともっと広い範囲で避難させてほしいんだ。可能な限り広く」

「……分かった。セシリア、行くぞ!」

「darling! 無理は禁物ですわ!」

 

 自分の抱えていることの闇深さや重さを察したのか二人とも深くは追及せずにオータムを抱え、楯無さんと合流するべく飛翔していった。

 ふと、あいつの手首に黒いガントレットが装着されているのに気付いた。

 

「……お前、サイレント・ゼフィルスはどうした?」

「そんなISはもうない……“俺”が生まれ変わったようにこいつも生まれ変わったんだ」

 

 邪悪な笑みを浮かべながら黒いガントレットを軽く叩く。

 自分からすべてを奪っただけでは飽き足らずにISすらも奪おうとしていることに若干の恐怖を感じながらも雪片弐型を握り締めるが状況は最悪だ。

 エネルギー残量は残り四割ほどでBoost・Timeは使い切ったし、蒼炎瞬時加速も使えない。

 使えるのは雪羅と零落白夜だけ。

 

「この世界に……――――は二人もいらない」

「っっ!」

 

 底冷えするような声が響いた直後、黒いガントレットから黒く輝く粒子が放出され始め、徐々に相手の全身を包み込み始める。

 完全に相手の体が黒い粒子に覆われたかと思った次の瞬間、一気にそれが周囲に開放される。

 

「っっ……そ、そのISは」

 

 目の前に現れたISはまさに黒式とも言える存在。

 姿かたちは完全に白式のボディカラーを黒へと塗り替え、純白の大型ウイングスラスターも漆黒へと変えただけの存在に見える。

 しかし、唯一の違いがあった。

 主要武器が剣ではなく大型のバスター・ソードとなっていること。

 

「黒式……などという低次元な存在ではない。こいつの名を黒騎士」

「く、黒騎士」

 

 ダークパープルのエネルギーが放出され始め、徐々にバスター・ソードを包み込んでいき、その姿があまりにも禍々しい姿へと変貌していく。

 相手は大剣であるはずの武器を軽々と持ち上げる。

 

「さあ……完全なる“俺”のために……死ね」

「っっっ!」

 

 試し切りと言わんばかりにバスター・ソードが振り下ろされる直前、自分は反射的に雪羅のシールドを展開するが一瞬にしてシールドが砕け散り、全身に鋭い痛みが襲い掛かるとともに血しぶきが舞う。

 その一撃で絶対防御など意味をなしていないことを理解した自分は痛みを我慢しながらその場から離脱し、上空へと舞い上がるが白式から通知が送られ、驚愕した。

 

「い、いつ後ろに」

 

 さっきまで地上にいたはずのやつはいつのまにか自分の後方へと立っており、その漆黒の装甲に見覚えのある機構が姿を現していた。

 両腕部・両脚部に超加速推進機構が生えている。

 

「ブ、ブースト・タイムか」

「お前の低次元なものと一緒にするなよ。言うならば」

 

 瞬きの一瞬で目の前から奴が消えた。

 

「き、消え」

「Quantum・Timeだ」

「っっ!? がぁぁぁっ!」

 

 後方から声が聞こえた瞬間、脇腹から見たことがないほどの血しぶきが舞い、口からも大量の血反吐が栓が狂ったかのように吐き出される。

 あまりの激痛に叫んだことがないようなレベルの絶叫が勝手に口から出ていく。

 

「痛いか? 貴様の零落白夜がエネルギーを切り裂くならば私の赫災黎明は生身を切り裂く」

「ぐぅっ! ぜ、絶対防御を完全に無視して」

 

 脇腹からあふれ出てくる血を止めようと手で止めるがそんなことは意味を成さないことは理解していた。

 その時、視界に漆黒の装甲が現れ、反射的に雪羅のクローで切り裂こうと腕を横なぎに振るうが一撃は空を切り、同時に自分の体が後ろへと引っ張られる。

 胸部を殴られたと理解したのは数秒後だった。

 

「ハハハハハハッ!」

 

 相手の笑い声が聞こえてくるが体勢を立て直す間も与えられないほどに断続的に全身を相手の殴打がぶつけられ、まるで空中でバウンドしているかのような状態だ。

 ハイパーセンサーの検知能力ですら捉えられないほどの速さ、十秒以上の継続。

 どれをとっても自分のものを超越していることが分かった。

 

「ぶふぉぁっ!」

 

 腹部に強烈な一撃が加えられた瞬間、再び大量の血反吐を吐く。

 同時に前方にようやく相手の姿が現れるが反撃を考える余裕なんて今の自分にはない。

 

「これで……なるほど、反動か」

 

 そんな言葉が聞こえ、顔を上げると相手の右腕がダランと完全に力を失ったように垂れているが相手は躊躇なく右腕をもって聞きたくない音を立てながら腕を元に戻した。

 

「……ぶふぅっぁ!」

「っっ!?」

 

 突如、相手の口の端から血が流れ落ちたかと思えばあり得ない量の血反吐を吐いた。

 口からだけではなく両耳、両目、鼻、挙句の果てには下半身からも血を流しており、明らかに体が悲鳴を上げている異常な状態だった。

 

「はっ……過ぎたる力にはそれ相応の代価が付く……ということだな」

「お前……どうしてそこまで」

「お前は理解できないだろうな……本物の存在でありながら偽物の存在の烙印を押される気持ちが」

「何を言って」

「知る必要はない……お前はここで死ぬのだから!」

 

 相手は未だにありとあらゆる個所から血を流しながらもバスター・ソードを握り締めて自分に切りかかる。

 その一撃を雪片弐型で受け止めた瞬間、凄まじい衝撃が走って全身をすさまじい激痛が迸るが歯をくいしばって耐え、いなすと負けじと一撃を与えるべく横なぎに振るう。

 お互いに剣をぶつけ合うたびに苦悶の表情を浮かべ、まさに寿命を削りながら戦っていた。

 

「「おぉぉぉぉっ!」」

 

 お互いの装甲に刃が直撃し、火花が散ると同時に剣を振り下ろした瞬間、肩から斜めに切り裂かれてお互い同時に血しぶきをあげながら後ずさる。

 理解できないのはこいつがここまでして自分を殺しにかかる理由、戦う理由。

 何かを守るためでもないこいつの戦いの目的が全く理解できない。

 

「なんでっ……なんでお前はそこまでして戦うんだ!」

「死人に口なし! これから死ぬお前が知る必要はない!」

 

 剣をぶつけ合い、つばぜり合いをしていたその時、突如として相手の視線が自分から外れたかと思えばニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

 直後、相手は剣を力任せに弾き飛ばしてくるが痛みをこらえてその場にとどまり、雪片弐型をまっすぐに振り下ろした。

 

「っっっ!?」

 

 しかし、相手はその一撃を剣で受け止めはせず、なんとその身で受け止めた。

 肩部を切り裂かれた相手は血を噴き出し、手で押さえるがその顔からは笑みが消えない。

 

「ど、どういう意味だ」

「理解しなくていい……止めを刺してやる」

 

 そう言いながら相手は距離を取るように後方へと大きく下がると大型ウイングスラスターを最大稼働させ、トップスピードで自分に向かってくる。

 自分も負けじと残っているエネルギーをほぼすべて瞬時加速へと注ぎこみ、一気に加速して相手めがけて剣を握り締めながら突っ込んでいく。

 

「うぉぉぉぉぉっ!」

「止まれ! 一夏ー!」

 

 その瞬間、全ての時が止まった。

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