Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百五十五話

「そう……オータムが捕まったのね」

「恋人が捕まったってのに意外と冷静なんだな、スコール叔母さん」

「その叔母さんってやめてくれるかしら。年齢がバレるから、レイン」

 

 京都のとあるホテル、そこのエクゼティブフロアにあるプールでダリル・ケイシーあらためレイン・ミューゼルは全裸で泳いでいた。

 スコールは注意をしながらもその視線は手にあるタブレット端末に注がれている。

 

「上手くやったじゃない。織斑千冬がいないIS学園は今、大混乱でしょうね」

「そりゃ私のフォルテがやったんだ。うまくいくに決まってんだろ」

 

 タブレット端末にはIS学園で発生した爆発事件に関するニュースが映し出されており、学園の前には多数のマスコミ関係者の姿が映し出されている。

 なんでも各国が一斉に代表候補生の帰還命令を出すことを検討しているというニュースも報じられており、日本にはその責任を問う声が上がっているという。

 

「はぁ~。これで私たちも指名手配犯っすね~」

「別にいいじゃねえか。むしろこれで二人で過ごせる」

「も、もうっ! 何言ってんっスか!」

「例の作戦も最終段階に入っているわ……これで世界、そして織斑一夏は我々の手に入る」

「そう単純にうまくいくもんかねぇ」

「あら、何か言いたそうね」

 

 一瞬だけイラつきを見せたスコールを前にしてフォルテはたじろぎ、自然に泳ぐふりをして距離を取るがレインは慣れていると言わんばかりに肩をすくめ、ため息をつく。

 その態度がさらにスコールのイラつきを加速させる。

 

「向こうには更識楯無はいるし、二代目ブリュンヒルデのアリーシャもいる。叔母さんもこの二人には勝てないんじゃねえの~」

「あら? 誰が真正面から彼を手に入れるって言った?」

「……違うのか?」

「何のためにあなたに織斑一夏をここで襲撃させたと思う? 殺すだけなら人の注目を集める場所じゃなくて静かな場所に追い込んでからの方が確実じゃない?」

「そりゃ思ったけどさ。でもあの場には更識もアリーシャもいたぜ? 離させるためにも」

「それもあるわ……もう一つ、意味があるのよ」

 

 そう言いながらスコールはタブレット端末の画面に指を走らせてアプリを切り替えるとニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

 それが気になったのはレインはプールから上がり、タブレット端末の画面をのぞき込むと画面に表示されている光景を見てドン引いた表情でスコールを見る。

 

「うわぁ……叔母さん、趣味悪すぎ」

「人間はね。正義のためなら悪にだって手を染めるのよ」

 

 

――――――☆―――――

 旅館の大広間において千冬、アリーシャ、ラウラ、セシリアの四人が集まっているがその空気は重く、誰一人として口を開こうとはしない。

 千冬は先ほどからせわしなくタブレット端末を指を走らせ、ラウラとセシリアは二人のブリュンヒルデを前にして緊張した面持ち。

 そしてアリーシャはというとキセルを咥え、煙をくゆらせながら愛猫の頭を優しくなでている。

 

「ボーデヴィッヒ、オルコット」

「「は、はい!」」

「そんなに緊張するな……お前たちもあっちに配置しておきたかったんだがな。ここでは息苦しいだろう」

「そ、そんなことはありませんわ!」

「光栄の極みであります!」

「ふっ……だ、そうだ。アーリィ」

「普段からの教育の賜物だわネ」

 

 興味のかけらもないと言いたげな言葉尻に千冬は少し表情を強張らせるがすぐにまたタブレットへと視線を落とし、各所へと指示を飛ばす。

 空気を換えようと思ったのかアリーシャがリモコンの電源を押し、テレビをつけるが映し出されたのはIS学園で発生した爆発事件のニュースばかり。

 夜だというのに学園の前には多数のマスコミが押し寄せている。

 

「ブリュンヒルデも大変さネ~」

「私には守る物が多いんだ。アーリィ、お前にも出てもらうぞ」

「それは良いけど……そんなに気をせく必要はあるのかネ~」

「ある。やつらはここで一夏を奪うつもりだ。だからダリルもフォルテもここで姿を現した……構成員の一人であるオータムは既に捕縛済みだ。残るはスコール、ダリル、フォルテの三人だ」

「数が減っている今がチャンスって訳さネ~……ブリュンヒルデが愛してやまないあの少年にそれほどの価値があるとは思わな」

 

 アリーシャはそこで言葉を止めると同時にキセルを目にも止まらぬ速さで振るうと畳に一本のボールペンが真っ二つに折れた状態で落ちる。

 そこでようやく千冬が投げたボールペンをアリーシャが叩き折ったという事実に気付いたラウラは額から冷や汗を流す。

 

(一連の動き、目で追えなかった)

(これがブリュンヒルデ同士の……次元が違いますわ)

「口を慎め、アーリィ……お前の望み、一生叶わなくなるぞ」

「それは困るさネ~」

 

 おどけたような口調で言いながらアリーシャは愛猫を抱きかかえてその小さな両手を上げさせ、降参のポーズを取らせて左右に軽く揺する。

 千冬の額にさらなる青筋が立ったのが見えたラウラは心の中でここから立ち去りたいと願うばかり。

 

「で、ここからどうするサ。織斑千冬はIS学園の対処の指示で当分動けない。ここに残っている戦力だけで亡国機業を叩くには戦力が足りない気がするけど」

「亡国機業の潜伏先は既に突き止めてある」

「そ、そんな簡単に分かるのですか?」

「学園所属のISは全て抑制仕様。それを外部からの手で無理やり限定解除仕様にした際、こちらに信号が送られるようになっている。五分前、その信号をキャッチした」

「で、ですがそれは向こうも理解しているのでは?」

「そうだ……だからこそだ」

 

 そう言いながら千冬はタブレット端末をセシリアとラウラの近くへと滑らせる。

 二人は近くへと投げられたタブレット端末を覗き込むと一枚の地図が表示されており、あるポイントが赤い丸で強調されていた。

 聞かずともそれが何を示している場所かは理解できた。

 

「おそらく奴らは敢えてこの地で限定解除仕様にしたんだろう。そうすれば我々がそこへ戦力を集中させると見越して……オルコット、ボーデヴィッヒ、アーリィの三名で突入する。ダリルとフォルテの捕縛はオルコット、ボーデヴィッヒの両名で行い、スコールの殲滅をアーリィに任せる」

 

 重要な局面の作戦であることはこれまでに場数を踏んできた彼女たちであればすぐに理解でき、彼女たちを強い緊張感の空気が包み込む。

 ここで作戦が失敗すれば二人の専用機が向こうへ渡り、こちら側の戦力が大幅にダウンする。

 

「darlingのためにも」

「ぁ」

「ぇ……ぁぅっ」

 

 最近の癖でそう呼んでしまったセシリア。

 瞬時に状況を把握したラウラは突然、両目を強く閉じる。

 直後、セシリアの頭を千冬の手がガシッと強く鷲掴みにするとどんどんその距離を近づけていき、近づくたびにセシリアの表情が青くなっていく。

 

「オルコット」

「は、はい!」

「貴様はいつから一夏のことをダーリンと呼ぶようになった? 私はまだ結婚など認めたつもりはないぞ?」

「こ、これは……その……」

「……この作戦を成功させれば考えてやろう」

 

 その瞬間、セシリアの表情がぱぁっと一気に明るくなるとともにやる気に満ち溢れていく。

 そしてなぜか最初からそこに居ましたと言わんばかりに正座でラウラがセシリアの隣に座っており、こちらもやる気に満ち溢れた表情をしている。

 

「ありがとうございます! 教官! いえ! 義姉様!」

「……とにかく頼んだぞ」

「「はい!」」

「お前もな、アーリィ」

「はいはい」

 

 

――――――☆―――――

「オータムは助けに行かなくていいのか? 叔母さん」

「きっと私が助けに行けばオータムは怒るわ……なんで作戦を進めなかったんだってね。だから作戦を進め、全てを手に入れた後にオータムを迎えに行くわ」

「ふ~ん……で、この後はどうするんだ? あいつら、来るぞ」

 

 亡国機業の技術者の手により、ダリルとフォルテのISは制限仕様から限定解除仕様へと改造されているがその代償として全ての情報が向こうへと流れている。

 スコールは車椅子を押しながらある扉の前へと向かう。

 

「そうね。でもここに来るのは精々三人」

「その中に(テンペスタ)のアーリィとかいうやばい奴がいるんスけど」

 

 シャワーを浴び終えたフォルテが着替えを澄まし、シャワールームから出てきながらそういうとスコールは小さく笑みを浮かべながら扉を開く。

 扉の向こう側はホテルのVIPフロアとなっており、広い空間が広がっている。

 そしてその空間を埋める勢いで多数の武装が収められた箱が並べられており、その数を前にしてダリルもフォルテも驚いた表情を浮かべる。

 フォルテは近くにあった箱を開けた瞬間、驚きの声を上げる。

 

「四二口径アサルトライフル《アルト・アサルト》っす! 対IS弾を百発も装填できるやばい代物っスよ! 確かこれは条約で生産が中止されたはずじゃ」

「そういうものを作って流すのも亡国機業の仕事なのよ? 世界は求めてるのよ、闘争を」

 

 フォルテは箱を次々と開けていき、中に収められている最凶レベルのIS武装をまるでプレゼントを与えられた子供のようにはしゃぎながら走り回るがそれでもダリルの表情は変わらない。

 

「いくら強い武器があっても(テンペスタ)はやれねぇぞ?」

「誰があなた達に(テンペスタ)を任せると言ったのよ」

「……でも叔母さん、まだ戦えないじゃん」

「覚えておきなさい、レイン。戦いっていうのはね、なんでもかんでも血を流せば良いってものじゃないのよ。戦いに必要なものは闘争心や技術、武器もそうだけど……経験値もいるのよ」

 

 スコールが考えている道筋がうまく見通せないダリルだったがはしゃいでいるフォルテに呼ばれ、スコールの傍を離れていく。

 

「私には見えているのよ……我々の勝利の未来が」

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