Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百五十七話

「悪く思わないでネ。少女たち」

 

 セシリアとラウラの目の前には先ほどまで味方として傍にいたはずの二代目ブリュンヒルデであるアリーシャが敵として立ちはだかっていた。

 アリーシャは数度、キセルから煙をくゆらせた直後、彼女の後方から強風が吹き荒れる。

 そして一瞬の閃光がアリーシャを包み込むとテンペスタが展開され、欠損していた右腕を機械のワイヤーが骨となり、筋肉となり、装甲となっていく。

 背中には四基の大型背部ユニットとして風源機構(エア・ジェネレーター)が浮遊しており、肩・腰・脚部などには局所風制御機構(マイクロ・スラスター)が分散配置されている。

 

「裏切るというのですか!? 今を生きる者たちから多大な尊敬を集めるあなたが!」

「尊敬ネェ……そんなもの集めて織斑千冬と戦えるのかい?」

「……まさかそのためだけに世界を裏切るのか」

「私にはそれしかないのサ!」

 

 風源機構(エア・ジェネレーター)が激しく回転を始めたかと思うと彼女を中心にして風が渦を巻いて吹き荒れ、地上の木々を薙ぎ倒していく。

 その暴風のあまりの強さにセシリアもラウラもその場に留まるので精いっぱいだった。

 これこそ織斑千冬に零落白夜を使わせ、モンドグロッソを二人だけの試合と評されるものにしたアリーシャの実力の一端だった。

 

「さあ……行くよ!」

 

 局所風制御機構(マイクロ・スラスター)が激しく回転することで風が生まれ、アリーシャを押し出すようにして凄まじい速度を発生させる。

 近づくことすら困難なほどの暴風を前に二人はその場から離脱することだけを意識する。

 

「これはっ、想定以上だ!」

「ですがここで負けるわけにはいきませんの!」

 

 セシリアがスターライトmkⅢを構え、引き金を引いた瞬間、蒼の一撃が放たれてまっすぐ向かっていくがアリーシャの作り出す暴風に触れた瞬間、あらぬ方向へと曲がり、闇夜へと消えていく。

 同時にラウラのレールカノンからの実弾もアリーシャへと放たれるがアリーシャが軽く手を横に振るうと実弾が細切れに切断されて爆発四散する。

 

「レーザーの軌道を風で曲げた!?」

風偏向(エア・シフト)サ。テンペスタの風は全てを切断し、全てを曲げる!」

 

 アリーシャが両手を大きく広げた瞬間、左右二基ずつの風源機構(エア・ジェネレーター)が回転を始めて二つの巨大な竜巻を形成する。

 その竜巻を見た瞬間、セシリアは瞬時にビットを起動させてスターライトmkⅢに装着させるとラウラにアイコンタクトを送る。

 それを受け取ったラウラはすぐさまセシリアの後方へと下がる。

 

「それが噂に聞くBT最強兵器! BT最強と世界で二番目に強い竜巻! どっちが強いかナ!?」

「Blue Tear Singularity!」

 

 極大の蒼い一撃と二つの強大な竜巻がぶつかり合った瞬間、闇夜を照らすほどの強い閃光の直後に爆風が周囲にまき散らされ、亡国機業が潜伏していたホテルの窓という窓が粉々に砕けていく。

 地上の木々は全て根元からへし折れ、吹き飛んでいく。

 

「やるねぇ。BT最強の威力は伊達じゃないネ……ウサギが一匹いないね」

 

 アリーシャがそう呟いた瞬間、爆風に身を隠しながら移動していたラウラがアリーシャの背後につき、二本のエネルギー手刀を四基の風源機構(エア・ジェネレーター)へと振りかざす。

 その瞬間、装甲の随所に搭載されている局所風制御機構(マイクロ・スラスター)が風を生み出し、一瞬にしてアリーシャの態勢を反転させ、ラウラと目を合わせる。

 

「っっ!?」

「あの爆風を隠れ蓑にする判断はいいネ」

 

 直後、アリーシャの両腕が斜めに勢いよく振り下ろされたかと思えばシュヴァルツェア・レーゲンの装甲に深い傷が入り、装甲片が舞う。

 

(両腕に高速回転の風を纏わせて切断したのか!?)

「ラウラさん!」

 

 残り二基のビットから二発の弾頭ミサイルが放たれるがアリーシャに届くよりもはるか前方で風によって真っ二つに切断されて大爆発を起こす。

 その爆煙を引き裂くように風を纏いしアリーシャが突撃をかまし、セシリアに接近する。

 

「強大な一撃の後にはインターバルがいるみたいだネェ」

 

 アリーシャの回し蹴りが放たれた瞬間、その軌道に沿って風が吹き荒れ、ブルー・ティアーズの蒼い装甲を一瞬にして切り裂いてしまう。

 体勢を崩し、落下していくセシリアにワイヤーブレードが巻き付くとラウラのもとへと回収され、二人は合流するが戦況は圧倒的なまでの不利。

 

「君たちは確かに強い。同世代と比べれば命を懸けた戦いに慣れているし、場数も踏んでいる。ただ、世界にはもっと強い奴がいるのサ」

「これが……織斑先生と渡り合った者の強さ」

「まさかそんな強さを持つ存在が裏切るとはな……想定外だ」

「んじゃ、そろそろ……終わりと」

 

 アリーシャがトドメの一撃に移行しようとしたその時、彼女の前方に数個の四角いブロックのようなものが放り投げられる。

 直後、それらが爆散してアリーシャの視界を爆煙が潰す。

 

「んんっ? そちらさんの戦力はもうないんじゃなかったかな?」

 

 この戦場にいる者のISが新たなISの反応を検知する。

 ISが示す場所を三人の視線が向くとそこにはウイング状に繋がった巨大なシールド四枚を装備した特別製のラファール・リヴァイブが闇夜に佇んでいた。

 その搭乗者はIS学園、一年一組副担任の山田真耶。

 

「や、山田先生!? そのISは」

「話はあとです! 今はこの状況を押えますよ!」

「山田真耶……あぁ、そう言えば日本の代表候補生にそんな子がいたネ……確か銃央矛塵(キリング・シールド)とかいう名前があったような」

「昔の話です……さ、行きますよ! 二人とも!」

 

 真耶が両手にアサルトライフルを呼び出すと同時にアリーシャめがけて引き金を引き、同時にセシリア、ラウラも自身の得物を撃ち放っていく。

 無数の弾丸、そして砲弾とレーザーがアリーシャに向かうがそれらは全て生み出される竜巻によって叩き落されていく。

 

「無駄だヨ。テンペスタの前に実弾も砲弾もレーザーも効かない」

「それはどうでしょうかね!?」

 

 真耶は自信ありげにそう言い放つとともに一丁のショットガンを収め、それを竜巻を纏うアリーシャに銃口を向けると引き金を引く。

 引き金が引かれた瞬間、弾丸は突き進んでいくが一瞬にして風によって切断される―――次の瞬間、一瞬の赤い閃光が放たれたかと思えば竜巻が一瞬にして火を纏う。

 

「こ、これはっ」

「灼裂弾。着弾時に炸裂し、内部の内部の燃焼剤が空気と反応して炎を放出する特殊弾です」

 

 真っ赤に染まり、燃え盛る竜巻はアリーシャのコントロール下にはあるが想定していない炎の熱によってテンペスタの機体に少しずつダメージが入る。

 

「これ、あげるヨ」

 

 そんな軽い言葉の直後、竜巻が移動を開始し、三人に向かってくる。

 すぐさまその場から三人が離脱した瞬間、竜巻が爆発を起こして周囲に炎をまき散らしながら周囲を一瞬にして火の海と変えてしまう。

 

「大人が入っても私にはまだまだ届かないサ」

「もちろん。あなたを倒せるとは思っていません……ですが!」

 

 直後、いつのまにか真耶の機体から射出されていた四枚のシールドがアリーシャを包み込むと同時に真耶が有線接続操作の銃(ワイヤード・ガン)を隙間に投げ入れる。

 一瞬の隙間を与えることなく真耶が両腕を引いた瞬間、サブマシンガンの引き金が引かれて無慈悲なまでの弾丸がシールド内に撃ち放たれていく。

 シールド内を跳弾する無数の弾丸が捉えた獲物の装甲をズタズタにする。

 これこそ絶対制空領域(シャッタード・スカイ)

 

「オルコットさん! ボーデヴィッヒさん! 撤退しますよ!」

「くっ! せっかく捕縛したというのに!」

「今は戦力温存だ! 行くぞセシリア!」

 

 真耶の指示に従い、セシリアとラウラはアリーシャに背を向けると同時にスラスターを全開に吹かして戦闘空域からの離脱を行った。

 

 

――――――☆―――――

 三人が戦闘空域を離脱した十数秒後、シールドが光の粒子となって消え去り、中から暴風を全身に纏わせたアリーシャが姿を現す。

 多少の傷は見えるものの戦闘不能に陥るほどのダメージは見られない。

 

「……少しさぼりすぎたかネ」

 

 織斑千冬が辞退したことによって彼女の胸の中に一つの穴が開いた。

 あの日から再び織斑千冬と戦うことだけを目指して動いてきたが彼女の耳に飛び込んできたのは織斑千冬の現役引退とIS学園へ教師として赴任するという事実。

 その日からアリーシャにとって全ての戦いが無価値で無意味なものとなってしまった。

 そんなときにスコールからもたらされた作戦はアリーシャにとっては魅力的なものに見えた。

 織斑千冬とさえ、戦うことができ、あの日の決着さえつけることができれば彼女にとってこの世界がどの組織の手に落ちようが構わなかった。

 

『お疲れ様。十分すぎるくらいの戦果だわ』

「もし、望むステージが出なければお前を亡き者にするから覚えておくのサ」

『もちろん。約束は守るわ。じゃあ、レインとフォルテを回収してちょうだい』

 

 既に対等な仲間として扱われているのか先ほどまでの敬語が消え去ったスコールの話し方に若干のイラつきを覚えながらもアリーシャは地上に転がる二人のもとへと向かっていった。

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