Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第十四話

 それから目の前で起きた光景は凄惨でしかなかった。

 無情にも鈴に叩き付けられる腕、飛び散るISの装甲。そして何よりプライベート・チャネルを通して聞こえてくる鈴のうめき声が俺の精神を切り刻む。

 

「がはっ……おえっ」

「鈴……頼むからもうやめてくれ! お前の狙いは俺じゃねえのかよ! おい!」

 

 必死に懇願するが謎のISは俺のほうなど見向きもせず鈴に拳を叩きつけていく。

 何度目かのトライをするがスラスターは原型を留めなくなるほどに破損しており、推進力など得られるはずもなかった。

 

『いち……か』

「鈴!? 鈴!」

 

 プライベート・チャネルから鈴の声が聞こえてくる―――でもそれはあまりにも小さく、今にも消えてしまいそうなくらいに弱々しいものだった。

 

「待ってろ! 俺が今すぐ」

『だいじょうぶ、だから』

「っっ!」

 

 今にも殺されそうになっているというのに鈴は助けを乞うどころか俺を安心させるような言葉を口にする。

 

『あたしは大丈夫だから……こうやってこいつがあたしに向いていればあんたは助かるでしょ。それに先生たちが来る時間も稼げるし』

「何言ってんだよ! それじゃお前が」

『痛い……痛いよ、一夏……でもね』

「え?」

『あんたが死ぬのに比べたら全っっ然痛くないの……』

 

 鈴の声に俺は歯を噛み砕くほどの強さで食いしばり、爪が食い込んで血が滲むような強さで拳を握りしめ、今からでも弱い自分自身を切り殺したかった。

 目の前で幼馴染が一方的に殴り続けられているのに俺はただジッと鎖に縛られているだけで鈴を助けようと行動を起こし切れていない。

 

「う、うっぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 俺の怒声と共に再びスラスターが勢いよく稼働し、凄まじい勢いと共に炎が噴き出して白式から見たこともない数のアラート通知が飛んでくる。

 カスタム・ウイングなど既にあまりの熱量の前に融解を始め、その姿は見当たらない。

 鎖が白式の装甲に食い込み、ミシッという亀裂が入り嫌な音が全身から鳴り響くがそんな音など無視して俺はひたすら前へと進み続ける。

 自分のことを犠牲にしてでも俺を守ろうとしてくれる大切な女の子の下へ向かうために。

 

「ぐっぅぅぉぉぉぉぉっ!」

 

 全身を感じたことがない痛みが電気の様に迸るがそれを押さえつけるように喉がはちきれん勢いで方向を上げ、それに合わせて白式のスラスターが最後と言わんばかりに全開で吹き始める。

 

「お前が! どこの誰かは知らねえ! ただっ!」

 

 鎖とISが繋がっているのか謎のISは腕を振るうのを止め、俺を視界に収める。

 直後、スラスターから噴き出す赤い炎の中に少しずつ青色の炎が混じり始めたのが見えるととともに後方から何かにひびが入る音が聞こえる。

 

「俺のっ! 俺の大事な人に手を出す奴だけは絶対に許さねぇ!」

 

 ゴォォォォッ! という音だったスラスターからの轟音が徐々にキィィィン! という甲高い音へと変わっていくとともに後方へと流れる赤い炎が青い炎へと変わっていく。

 やがてバキィッという音とともに体が前方に一歩、進む。

 

「俺の大切な人たちは」

 

 バコンッ! という音とともに俺のすぐ傍に分厚いシャッターが飛んでくるとともにまた一歩、前進する。

 相手は何も動かない―――待っているのか、それとも何かを解析しているのか。

 

「鈴もセシリアも箒も千冬姉も! 全部ッ! 全部この手で守り切ってみせる!」

 

 そしてもう一度、鈍い音がした直後―――俺の耳に届く音は全て消え去り、景色が瞬時加速の比ではないほどの速さで後方へと流れていく。

 もう一枚の分厚いシャッターが空中で転がっているのが見えるが俺があまりにも早いのか、まるで時間が止まったかのように空中でその動きを止めている―――ように見える。

 後方へ流れる青い炎は俺に絶大な推進力を与え、一瞬で相手との距離をほぼゼロにする。

 

「貫けえぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 相手の胸部へ俺の拳が直撃―――その瞬間に装甲は木っ端みじんに消し飛び、肘の辺りまで貫通する。

 それだけでは勢いは止まらず相手を腕にひっさげながら押し込んでいく。

 

「うおぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉっ!」

 

 青い炎とともに繰り出した一撃がアリーナの壁に突き刺さる―――その瞬間、亀裂が入るどころか一瞬にして壁が粉々に粉砕してしまう。

 その衝撃波壁を粉砕してもなお弱まるところを知らず、観客席を破壊し始め、設置されていた観客席が次々と吹き飛んでいく。

 耳をつんざくほどの爆音と無数の瓦礫が俺達に降り注ぎ、アリーナ全体が大きく揺れて至る所に亀裂が走る。

 

「…………」

 

 その中で聞こえてくるのは火花が散る音と電流が迸る音―――俺の腕は相手ISの胸部を肘まで貫通しており、長い腕がだらんと伸び切っている。

 腕の感覚はない―――折れてはいないだろう。

 ゆっくりと腕を引きぬき、相手と距離を少しずつ開けると徐々に胸部に開いた穴の異常さが見えてきた。

 貫通したと思っていたがどちらかというと俺の腕が通った部分の装甲が綺麗な円形に繰り抜いたかのように丸い穴が開いていた。

 その穴をよく見ると半球状の何かが見えた―――それは元の形とは異なる物であるのは分かった。

 相手は胸に穴を開けながらも二本の足で直立して機能を停止していた―――かに見えた。

 

「一夏離れて!」

「っっ! 嘘だろ!」

 

 響く鈴の声の後に相手ISの背部から一本の独立型補助腕(アローン・アーム)が勢い良く伸びる―――その手の平には大型のナイフが装備されており、切っ先が俺に向けられている。

 スラスターが完全に消し飛んだ俺のISではその腕の一撃を避けることはできない。

 

(死ぬっ!)

 ―――IS確認。所属イギリス『ブルー・ティアーズ』

 

 突然、現れたISの反応の直後、俺の首すれすれのところを青い閃光が走る―――直後、相手の背後で地面が爆ぜ、地面に倒れ伏した。

 一瞬、感じた“死”が消え去り、一気に全身から力が抜けてへたり込んでしまう。

 

『ワンショット。コアブレイク確認』

「セ、セシリアッ!」

 

 チャネルを通してセシリアの声が聞こえ、一気に安堵感が俺を包み込む。

 完全に相手からは反応が消え去っているのを確認した俺は白式を戻し、すぐさま倒れている鈴の下へと駆け寄っていく。

 

「鈴! 鈴! しっかりしろ!」

「イタイイタイ! 揺らさないでよ馬鹿!」

「ゴ、ゴメン! だ、大丈夫……じゃなくて生きてるか!?」

「うん……生きてるわよ……ISのおかげでね」

「そっか……良かった……本当に良かった」

 

 鈴の声が聞け、ようやく全ての意識が解れ、涙が止まらなくなってしまう。

 ゆっくりと起き上ろうとする鈴に手を貸し、立ち上がると最初は泣いている俺を見て笑っていた鈴もふっと緊張の糸が切れたのか徐々に泣き顔になっていく。

 

「何泣いてんだよ」

「う、うるさいっ……うるさい……一夏ぁ!」

「っっと」

 

 ISを解除したからか―――別の理由かは分からないけど鈴が俺に倒れ込むようにして抱き付いてくる。

 俺に抱き付きながら鈴はわんわんセシリアの目もはばからずに大声で泣き始める。

 

(そうだよな……俺達、死にかけたもんな)

 

 泣きわめく鈴の頭を優しく撫でながら俺は空を見上げる―――さっきまで響いていた非常事態のサイレンも今はやんでおり、アリーナは静かだった。

 

「セシリアもありがとな」

「良かったですわ……無事で」

 

 セシリアも別で行動してくれていたんだろう。彼女も指で目じりに溜まった涙を拭っている。

 

「一夏ぁぁっ!」

 

 キーンというハウリングの後にアリーナ全体に箒の叫び声が木霊する。よく見ると放送席からマイクを片手にこちらに手を振っている箒と千冬姉、山田先生の姿が見えた。

 ようやく“日常”が帰ってきたんだと実感できた俺達は箒の叫び声に三人で笑顔を浮かべながら――――――

 

 

――――――☆――――――

 

「一夏さん?」

 

 最初に異変に気付いたのはセシリア―――そしてその声に引っ張られるように鈴も異変に気付き、一夏の顔を覗き込む。

 先程までの普段通りの表情ではなく、血の気が引いた最悪の表情で目に生気を感じられなかった。

 

「一夏っ」

 

 鈴が一夏に触れようとした瞬間、通り過ぎるように彼の身体がゆっくりと落ちていく―――倒れ行く中、見えたのは一夏の背中に深々と突き刺さった小型ナイフだった。

 最速でセシリアがレーザーライフルを展開し、一瞬で射撃モードへと移行させて敵へと向けると同時に引き金を引く。

 敵の最後の姿は背部からもう一本の独立型補助腕を伸ばした姿だった。

 レーザーが着弾すると同時に明らかに着弾以上の爆発が連続して敵IS内部で発生し、火柱を上げて粉々に全てが砕け散った。

 

「一夏……ねえ、約束したじゃない……酢豚、食べるって……ねえ、一夏」

「鈴さん!」

 

 虚ろな目をし、ブツブツと呟く鈴の視界を遮るようにセシリアが間に入り、鈴を抱きしめる。

 

「早く……早く救護を!」

 

 セシリアが叫んだ直後、アリーナの全ての扉のロックが解除され、一気にISを纏った上級生たちで構成された部隊が雪崩れ込んでくる。

 そのタイミングはまるでどこかからかその様子を見ているかのように完ぺきだった。

 

「担架に乗せます!」

「救護室と担当医は!」

「確保済み!」

「行きましょう!」

 

 担架に乗せられ、運ばれていく一夏を前に鈴は放心状態、セシリアはそんな彼女を支えるので精一杯だった。

 ようやく訪れた日常は一瞬にして打ち砕かれ、悲劇が幕を開けた。

 

「一夏……やだ……やだよ」

 

 

 

 

 

 

 

――――――☆――――――

 白いうさぎが悲劇をその目で映し、映像をある人物の下へと送る―――その人物は送られてきた映像を見てこの上ない喜びに満ちた笑顔を浮かべている。

 

「残念だったね、ちーちゃん。ちーちゃんがどれだけ強くても周りが弱かったら意味がないね……あーあ、ちーちゃんも箒ちゃんも悲しんでるだろうな……でも大丈夫! ちーちゃんも箒ちゃんもこの天っ才発明家の束さんが抱きしめてあげる! だから泣かないで! 悲しまないで! 二人は私がずぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと愛してあげるから! 今日の事なんか一瞬で忘れるくらいに愛してあげるから!」

 

 ISを生み出した世界の天才―――篠ノ乃束はまるでダンスを踊るかのようにクルクルと回る。

 

「あとは“あのIS”を完成させて~、箒ちゃんに会いに行って、それからそれから~」

 

 束はまるで幼い子供が夏休みの予定を立てるかのように笑顔でこれからの日々に思いをはせる。

 

「あ~! 楽しみだな~! 束さんとちーちゃんと箒ちゃんとのワンダフルラブストーリー!」

 

 この世界の全ては彼女の手の平の上―――束はふと動きを止め、天井を見る。

 

「ん~……でもなんでいっくんがIS動かせたんだろ。なんであの欠陥機ごときが零落白夜と雪片のパチモンを作り出したんだろ……許せないなぁ……あれはちーちゃんのものなのに……やっぱ潰しちゃおっか」

 

 さっきまでの笑顔はどこへ消えたのか。今浮かべている彼女の表情は殺意そのものであった。

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