Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百五十八話

 気が付くと自分は三途の川手前のいつもの場所にいた。

 もう何度目かもわからないこの場所への来訪に驚くことはなく、同時にこの場所にいる白騎士の存在にももう慣れてしまっていた。

 

「……あの時はありがとう、白騎士」

「あなたを助けるのは約束……しかし、当分は動けない。私の力も万能ではないから」

「分かってる」

「次の戦いは治せない。現状を維持するので精いっぱい」

 

 それはつまり、仮面の女とも決着の時に死を伴うほどの傷を負ってしまえば治癒はできないということであり、今度こそ死んでしまうということ。

 ただ、そっちの方が都合がいいかもしれない。

 今度の戦いは自分という存在をかけた戦いであり、勝てばすべてを取り戻して皆との日常を過ごせるし、負ければすべてを失い、この世界から姿を消すことになる。

 永遠に。

 

「戦ってはならない。あなたが死ねば……彼女は世界を壊す」

「……」

「彼女の世界はあなた。世界を失えば彼女は全てを壊す」

 

 白騎士の言うように自分という存在を失えば姉さんは全てが壊れてしまう。

 それは比喩でも何でもなく、今までの姉さんの行動や言動を見ていれば容易に想像がつく。

 姉さんを悲しませたくはない。でもこの戦いから背を向けることもしたくない。

 この戦いは自分という存在の全てを失うか、取り戻すかの決闘であり、この決着は自分自身がやり遂げなきゃいけないことでもある。

 きっと、姉さんは白騎士と同じように戦うなと言うとともに自分の代わりに自分が戦いに行くと言うだろう。

 それはきっと、自分を失いたくないからとか守りたいとかいうそんな基本的な感情以外に自分に徹底的に隠したいものがあるんだと思う。

 

「分かってる……分かってるけど……この戦いだけは自分の手でやらなくちゃいけないんだ」

「……」

「この戦いは……自分という存在を取り戻す戦いなんだ」

「……私は最後まであなたを守ります。それが彼女との約束であり、彼女の願いでもあるから」

 

 その一言を最後に徐々に白騎士の姿が真っ白な景色の中へと溶け込んでいく。

 同時に自分の意識も水中へと沈んでいくかのようにゆっくりと落ちていくのを感じながら瞼を閉じた。

 

 

――――――☆―――――

「…………」

 

 目を開けた時、見知らぬ天井が視界に入ってくるとともに腕に温もりを感じ、視線を向けると自分の手を握りながらベッドにもたれかかって眠っている楯無さんがいた。

 楯無さんを起こさないようにとゆっくりと視線だけを動かすと壁にもたれかかるようにして箒が眠っており、その手には竹刀が握られている。

 

「……」

 

 なんで箒がここにいるのかと疑問に思っているとふすまの向こうから誰かの足音とともに聞き覚えのある三人の声が自分の耳に入ってくる。

 そして数秒後にふすまが静かに開けられると簪と鈴、そしてシャルの三人が部屋に入ってくる。

 

「……みん…な」

 

 なんとかしてカスカスの声を出した瞬間、三人が一斉に自分の方を振り向き、そして驚いた表情を浮かべると同時に安心した表情に変わり、目に涙を浮かべる。

 

「よかった……―――が生きてた」

「箒……―――が起きたよ」

「お姉ちゃん。起きて」

 

 シャルに箒が起こされ、簪に楯無さんが起こされると二人とも自分の傍までよって目を合わせると三人と同じように安心した表情を浮かべ、目にうっすらと涙を滲ませる。

 起き上がろうとした時、胸に凄まじい激痛が走り、体を支えられなくなってベッドに落ちてしまう。

 

「無理して起きないでいいから! あんたは寝てなさい!」

「鈴……傷に響く」

「か、簪……あんたねぇ」

「まあまあ……でも本当に無事でよかった」

「みんな、ごめん……楯無さん。状況は」

 

 すると彼女は一瞬だけ表情を曇らせる。

 もうそれを見ただけで状況は最悪なことになっていると理解し、同時に箒やシャル、簪や鈴がこの場にいる理由も理解してしまった。

 四人が来ているということは別の場所にセシリアとラウラもいるんだろう。

 

「状況は最悪よ……アリーシャ・ジョセスターフが亡国機業へ下ったわ」

 

 既にみんなは聞いていたのか驚きはしなかった。

 あの時、襲撃から自分を助けてくれたあの人が亡国機業へ下るとは思えず、いろいろな考えが脳内を駆け巡るが答えなんて分かるはずもなかった。

 オータムを捕縛して数を減らしたと思いきや二代目ブリュンヒルデが戦力に加わったともなれば勢力図でいえば亡国機業のほうが広くなっている。

 

「そしてこれも」

 

 楯無さんがテレビのリモコンを手に取り、電源をつけると日付が変わった真夜中だというのにも関わらず中継が映し出されている。

 その風景は真っ暗で怖いくらいに静かなIS学園。

 画面の右上には小さく『爆発事故。日本の責任を問う声多数』という文字が表示されおり、熱心に女性キャスターが状況を報告している様子が映し出されている。

 

「フォルテ・サファイアが亡国機業についた」

「……」

「置き土産のようにあの子の部屋に爆弾が設置されていてね……おかげで織斑先生はこっちの指揮とIS学園の指揮を同時に取る羽目になったわ」

「この爆発であたしたちも帰国命令が出てたんだけどね……学園長の命令でこっちに来たってわけ」

「この爆発事故でエドワース・フランシィ先生が重症……今も治療中みたい」

 

 その時、テレビの画面がスタジオへと切り替わると有名な評論家たちの険しい表情が映し出されるとともに立てられていた一枚のフリップが目に入る。

 その瞬間、テレビの電源が落とされ、画面が真っ暗になる。

 きっと鈴が気を利かして電源を落としてくれたんだろうけど自分はハッキリと見えた。

 電源が落とされる前に出されていたフリップに自分の顔写真や諸々の情報が掲載されていること、そして評論家たちが何を話そうとしていたのかも。

 

「あたし、あの評論家嫌いなのよね~。陰謀論とか平気でテレビで言うし」

「男性嫌いで有名……私も嫌い……」

「……自分のせいにされてるんだろうな、きっと」

 

 ぼそっと呟くと全員が気まずそうな表情をするが冗談だというように笑顔を浮かべる。

 

「冗談だって。そんな顔しないでくれ」

「あ、あんたねぇ……まぁ、そんな冗談が言えるなら当分、大丈夫ね」

「うん。でももうそんな冗談辞めてね? 僕、ちょっと寿命縮みそうだったから」

「そうする」

「よし。じゃあ、みんなはお風呂に入ってきなさい。ここは私が警護しておくから」

 

 楯無さんの提案にみんなが一瞬だけ戸惑いを見せるが時刻は日付が変わった時間帯、それにみんながここへ来るのも夜通しだったこともあって少し疲労の色も見える。

 自分は大丈夫だとブイサインを見せるとみんなが少し笑い、お言葉に甘えて、とお風呂道具をもって旅館のお風呂場へと向かっていった。

 

「……楯無さん」

「どうしたの?」

「オータムはどこに」

「……どうして?」

「聞きたいことがあるんです」

 

 楯無さんは少し考えるそぶりを見せるがすぐに結論を出したのか自分を起き上がらせてくれて歩くのを補助してくれながらオータムがいる場所へと案内してくれる。

 自分がいた一室からそれほど遠くない一室へと入ると更識家の関係者らしき武装した男性たちの姿が数人見え、楯無さんに敬礼をする。

 楯無さんが目配せをするや否や警護の人たちが部屋を出ていく。

 

「よぅ……オータム」

「ぁ? 識別外個体(アウト・ナンバー)じゃねえか。死にかけか?」

 

 両手両足を柱に縛られ、一切動けないように拘束されたオータムが目の前にいた。

 自分は楯無さんの介助のもと椅子に座る。

 

「だから言ったろ。あたしに殺されてりゃ楽に死ねたのにってな」

「今はお前と雑談しに来たんじゃない」

「……気に食わねえガキだ。知りてえんだろ……誘拐事件のこと」

 

 学園祭の時、こいつは自分が誘拐された事件のことを知っているそぶりを見せていた。

 あの時は怒りに身を任せてこいつを殴り続けていたけど今なら冷静に話を聞けるし、なにより自分に関することの全てを知りたい。

 

「姉さんをブリュンヒルデの座から降ろす……だけじゃないんだろ? 目的は」

「あぁ、そうだ……本当の目的は……うちらのエムを完成させることさ」

 

 エムというのはあの仮面の女のことで間違いないだろうけど完成させることという表現が分からなかったけど思い出すのは今の自分の状況。

 自分は自分の存在全てをあの仮面の女に奪われた。

 恐らく完成させるというのは自分が持っていた全てを仮面の女が奪うという意味合いなんだろう。

 

「正直、こっちも半信半疑だったさ。あいつから話を聞いた時はな……まぁ、計画を実行したんだが……お前を誘拐するまでは簡単だったんだ……そっからは地獄だったぜ。聞きたいか?」

 

 自分は何も言わずに静かに頷くとオータムは小さく笑みを浮かべながらあの日の真実を語り始めた。

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