Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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明日から9月か~


第百五十九話

 第二回モンドグロッソ決勝戦当日、誰も知らない倉庫の中で幼い一夏は恐怖に震えていた。

 訳も分からないままに連れてこられたのは見たこともない場所であり、目の前にいる二人の男は名も知らない人物であり、その手には鉄パイプが握られている。

 

「ブリュンヒルデの弟を誘拐して本人を誘い出す。あとはブリュンヒルデも拘束してやつのISと奴自身を上層部に引き渡せば俺達は晴れて大金持ちだ」

 

 男はパイプを大きく振りかぶり、少年に最後の一言を言い放つ。

 

「じゃあな、クソガキ……あとで姉貴も送ってやるからよ」

 

 一人の男がパイプを勢いよく振りかざした瞬間、甲高い音が倉庫内に響き渡り、恐怖の限界を超えた一夏は意識を失い、目を閉じている。

 男たちは一夏が気絶したことを確認するや否や鉄パイプを放り投げる。

 それと時を同じくして一人の女性が倉庫内に入ってくると男たちはその女性に頭を下げる。

 

「オータム様。お疲れ様です」

「おぅ。で、うまくいったか?」

「ええ。傷つけずに気絶させました」

「よし。あとは本隊が到着すりゃオッケーだ」

「にしてもなんで傷つけちゃダメなんすか?」

「知るかよ」

 

 実のところオータムもなぜ、この少年を誘拐しなければいけないのかという詳細な理由を知らない。

 彼女に伝えられたのは目の前の少年を誘拐することと傷一つ付けないことの二つだけであり、それ以外の情報は全く伝えられていない。

 

「もうすこしすりゃスコールたちも―――」

 

 オータムの言葉はそこで止まる。

 その理由はこの場に似つかわしくない音楽が突如として響き始めたから。

 その音楽は幼女向けのアニメでかけられている主題歌であり、主人公の魔法少女が魔物を滅する際に必ず流れる曲であることから一部のファンからは処刑用BGMとして知られている。

 

「ダメダメだよ~」

「誰だ!?」

 

 男たちの声が響くと同時にシャッターがゆっくりと上がっていき、一人の女性の影が倉庫内に映る。

 

「確かにそれは醜い肉塊だけどさ。それを殺すのは私の仕事……君たちみたいな醜い肉塊以下の存在がやっていいことじゃないんだよ」

 

 シャッターが完全に開いた先にいたのはウサミミ調のカチューシャを頭に装着し、胸元が大きく開いたエプロンドレスを着た女性―――篠ノ之束だった。

 束は処刑用BGMを大音量でかけながら主人公が使っている魔法のステッキを器用にペン回しをするかのように指でくるくると回転させる。

 

「篠ノ之束じゃねえか! ここで捕まえりゃ!」

「おいやめ―――」

「きらきら☆ぽーん♪」

 

 男たちが拳銃を抜き取り、束に引き金を引こうとした瞬間、束の明るい声が響き渡る。

 そしてそんな明るい声とは真逆のグチャッという何かが潰されるような不快音が響くと同時に倉庫の床に血しぶきがまき散らされる。

 

「うんうん。空間圧作用兵器二号の威力は人間には十分だね」

「う、うわぁぁぁっ!」

 

 突然、出来上がった肉の球体を目の前にして発狂するかのように叫びをあげる男が拳銃を抜き、引き金を引こうとした瞬間、倉庫の天井をぶち抜いて黒い機影が一つ、落ちてくる。

 それに向けて弾丸が数発放たれるが傷一つつかない。

 

「あ、IS!? しかも全身装甲だぁ!?」

「悪は滅殺なのだ! ババババババババッ!」

 

 束が両手で銃を作って子供のおふざけのように銃を撃つそぶりを見せる。

 試作型無人機IS―――ゴーレムゼロの手のひらに開かれた無数の銃口から弾丸がマシンガンのように放たれて一瞬にして男の肉体はハチの巣どころか肉片となって消え去ってしまった。

 

「っふっふっふ~♪。一件落着……ってもう一人どこかに行っちゃった。ま、いっか」

 

 束はそう言うとステッキをくるくると振り回しながら気を失っている一夏のもとへと近寄り、ステッキの先端を向けるが彼女が付けているうさ耳のカチューシャがびくびくと震える。

 

「むむっ!? これはちーちゃんの反応! まずいまずい! ここにいるのがバレたら嫌われちゃう! ゴーレムゼロ! さっさと帰るよ!」

 

 

――――――☆―――――

「つまり、自分を誘拐したのは仮面の女を完成させるため……でもそれを束さんが邪魔した」

「そうなるな」

 

 自分の記憶に微かに残っているのは姉さんに抱きしめられながら当時、大好きだったアニメの音楽を聴きながらも鉄の匂いを感じたこと。

 周りの景色を隠すように強く抱きしめられていたのはそんな凄惨な現場を自分に見せないための姉さんの配慮だったんだ。

 

「それ以来はお前に手を出すのは当面のお預けになってな。篠ノ之束と――――を相手どれるほどその時の亡国機業も戦力がなかったからな」

「今もだろ」

「てめえ……言わせておけば」

 

 でもこれで改めて亡国機業を潰す決心がついた。

 本当なら今すぐにでもオータムをナイフで切り殺したいところだけどそれをしてしまえばその辺の殺戮者と何ら変わらなくなってしまう。

 今、自分が集中するべきことは仮面の女との決着のために傷を癒すこと。

 

識別外個体(アウト・ナンバー)、聞いたぜ? エムと決着をつけるんだってなぁ」

「……だからなんだ」

「偽物が本物に」

 

 直後、自分のすぐ横を楯無さんが通っていったかと思えばその顔面に膝蹴りを容赦なく叩きこみ、それ以上の言葉を紡がせなかった。

 一瞬で意識を刈り取られたオータムの首は力なく垂れ落ちる。

 それと同時に更識家の警護の人たちがぞろぞろと部屋に入ってくると楯無さんの指示が飛び、オータムの口をふさぐように布があてがわれてぐるぐる巻きにまかれる。

 

「あなたは何も気にしなくていいから。さ、部屋に戻りましょう」

 

 楯無さんの肩を借りながら立ち上がり、彼女の介助のもとゆっくりと元居た部屋へと歩いて行く。

 きっと、あれ以上の言葉を聞くことはこれからの自分に少なからず影響が出たと思う。

 だから楯無さんはあれ以上、言葉が出される前にオータムの意識を奪った。

 

「……楯無さん」

「どうしたの?」

「一つ……お願いを聞いてくれませんか?」

 

 歩きながら楯無さんに自分のお願いを伝えると彼女は驚いた表情を浮かべ、自分の方を見てくるが自分の顔を見て本気であることを感じてくれたのか小さく首を振ってくれた。

 

「用意はする……でもこれだけは約束して……死なないで」

「もちろん……死ぬつもりはさらさらありません」

 

 

――――――☆―――――

「歓迎するわ。アリーシャ・ジョセスターフ」

 

 某ホテルの一室において規模は小さいながらもアリーシャのための歓迎会が行われていた。

 しかし、その雰囲気は歓迎会というには殺伐としており、その原因はレインとフォルテの視線の先にあるベッドに横たわったままの“織斑一夏”だった。

 

「それよりも叔母さん! どういうことなんだよ! なんで識別外個体(アウト・ナンバー)を捕まえにいかないんだよ!」

「あら? 伝えたはずよ? 識別外個体(アウト・ナンバー)をやるのは“織斑一夏”の仕事よ。私たちはここでそれを見届ける」

「叔母さんだって戦えるようになったんだし、ここで一気に攻め込めば」

「もし仮にそんな任務をやったとしてもあなたたちはお留守番よ」

「な、なんでだよ!」

 

 納得がいかないとばかりにレインはスコールに詰め寄り、フォルテは必死にそんな彼女を落ち着かせようとするが頭に血が上っているレインには届かない。

 スコールは騒がしい子供を宥めるかのように落ち着くように諭すとレインにジュースを渡す。

 

「IS学園の代表候補生ごときに敗北したあなた達ではまともな戦果は上げられないからよ」

「なっ……あ、あれは」

「コンビネーションを発揮できなかったからと言いたいの? でもそれは目に見えていた状況のはず」

「そ、それは」

「二人と戦ってどうだった? アリーシャ」

 

 突然、会話に参加させられたアリーシャは面倒くさいと言わんばかりにキセルを吹かし、煙を吐き出すと一口、ジュースを口に含む。

 

「ま、スコールの言う通りサ」

「……」

「場数が違うんだな、場数が。新世代たちは命のやり取りが発生する極限の戦いに何度も身を投じている。とてもじゃないけどスパイ活動しかしていない奴とその尻しか追いかけていなかった奴には無理サ」

 

 そんなことを言われ、額に青筋を立てたレインは怒りのままにテーブルに拳を激しく叩きつけるとグラスが床に落ちていき、粉々に砕けていく。

 床に広がった飲み物に近寄ろうとするシャイニィをアリーシャは抱きかかえて優しくなでる。

 

「今はやめときなさいナ。君たちの出る幕はないのサ」

「納得がいかねえ! 俺とフォルテのコンビは最強だ! 識別外個体(アウト・ナンバー)は俺たちがぶっ殺してここに持ってきてやる! 行くぞ、フォルテ!」

「ちょ、ちょっと先輩っ」

 

 レインが怒りのままにフォルテの手を取り、出口へと向かおうとしたその時、ヒュッ! という風を切る音とともにレインのすぐそばを黒い何かが通り過ぎていく。

 そして部屋の壁に深々と突き刺さる。

 壁に突き刺さったのは黒いバスター・ソードであり、レインが後ろをゆっくりと振り返ると瀕死の状態で眠っていたはずの“織斑一夏”が起きていた。

 

「て、てめえっ」

「奴は俺が殺す……それを守らないというのであれば貴様らから殺してやる」

「やれるもんならやってみろ!」

 

 レインは怒声をあげながらヘル・ハウンドを完全展開し、“織斑一夏”に襲い掛かろうとしたその時、レインの体に巻き付くようにゴールデン・ドーンの尾が巻き付く。

 そしてレインの眼前に尾に搭載されているクローが展開される。

 

「いい加減にしなさい、レイン……おいたが過ぎるわよ」

「わ、分かったよ……叔母さん」

「素直な子は好きよ?」

 

 そういうとスコールはレインを床へと起き、ゴールデン・ドーンを解除する。

 レインもそれに倣ってヘル・ハウンドを解除する。

 ようやく静かになったと言わんばかりに“織斑一夏”はベッドに横になって再び深い眠りにつく。

 

「決着がつくまでの間、各自やり残したことがあればやっておきなさい」

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