Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百六十話

 決着の日まで残り六日となった日の朝、自分は仕事に忙殺されている姉さんに無理を言って旅館の一室に来てもらっていた。

 寝る間も惜しんでIS学園と京都での作戦を指揮している姉さんにどうしても話さなきゃいけない。

 

「話とはなんだ?」

「……みんなとデートしに行っても良いかな」

 

 突然の凄まじい方向の発言に姉さんは珍しく目を見開いて驚きを顔いっぱいに表す。

 IS学園でも京都でも非常事態が起きているというのにとんだ平和ボケをした発言だっていうことは理解しているし、忙しい身の姉さんに言うべきじゃないことは分かってる。

 でも―――それでも今、このタイミングじゃないとダメなんだ。

 

「そう考える理由はなんだ?」

「確証はないんだけどさ……きっと亡国機業はこれ以上、襲撃してこないと思うんだ」

「お前と仮面の女が決着をつけるまでか?」

「うん……あいつが使っていた黒騎士は……異常なスペックだった。自分のBoost・Time以上の速度を即座に起動していた。それにあの大剣も……自分を殺すことに特化していた」

 

 普通、エネルギーを高速回転させて心臓を削り続けるなんて言う武器を作ろうと思うはずがなく、どう考えても自分を殺すことに特化した武器だ。

 そんな凶悪な武器を作る人なんて考えなくてもわかる。

 

「きっと、あの黒騎士は自分を殺すためだけに作り出したんだ」

「確実に殺せるから……やつらも襲ってこないと」

 

 証拠と言えるかは分からないけど現時点で襲撃が一切ないのは証拠に近い状況だと思う。

 自分は今、全くと言っていいほど戦えないし、向こうには姉さんと互角の実力を持つアリーシャさんだって戦力に加わっているんだから襲ってくるには最高のタイミングだ。

 いくら専用機持ちのみんなが集結しているとはいえ、アリーシャさんやスコール、仮面の女、ダリルやフォルテといった実力者が揃っていれば分が悪い。

 

「だからさ……このタイミングでみんなとデートしたいなって」

「……死ぬつもりか」

「つもりはないよ……でも今回はちょっとやばいかなって思ってる」

 

 今までは心のどこかで白騎士の生体再生があるっていう考えがあって多少、無茶な戦いでも安心して全力でとびかかれていたと思う。

 でも白騎士本人から言われたように今回はその後ろ盾がない。

 となれば今までのように深い傷を負えばそれが致命傷となって死を迎えることだって十分にあり得るし、なんなら戦いの際に死ぬことだってあり得る。

 

「……怖いんだ……死ぬかもしれないって思うと」

 

 姉さんにだから今、自分が抱えている全部を吐き出すことができる。

 楯無さんには見栄を張ってああ言ったけどたった一日、決着の日が近づくだけでここまで怖くなる。

 

「だったら……せめて後悔の無いように」

 

 そこまでいったところでそれ以上言うなと言わんばかりに姉さんが自分を優しく抱きしめてくれるけど今までのように恐怖の感情が消えることはなかった。

 

「安心しろ……お前は死なない」

「……姉さん」

「奴との決着は私が付ける。お前が行く必要はない」

「……」

 

 姉さんの発言を聞いて驚きはしなかった。

 自分を何としても戦いから避けたい―――いや、自分が知ってはいけない秘密を姉さんはなんとしても守ろうとしている。

 それはきっとあいつも関係していることなんだと思う。

 

「デートはするといい。ただし、後悔しないようにするんじゃない……未来のためにするんだ」

 

 そう言って姉さんは自分から離れると優しく頭を撫でて旅館の一室から出ていく。

 

「姉弟そろって……自分のことは後回しだもんな」

 

 似た者同士だと少し笑いながら自分はあるみんなに連絡を取り、車椅子を操作して旅館の一室を後にした。

 

――――――☆―――――

 連絡を送ってから早十分ほどが経過した。

 自分は車椅子に乗った状態で旅館の前で待っていたんだけどさすがに急すぎたか、と思っていた時、旅館の扉が開いてみんながやってきた。

 

「こっちこっち」

「いきなり連絡よこすからびっくりしたじゃない」

「ごめんごめん」

「で、旦那様。私たちを呼んだ理由はなんだ?」

「いや、せっかく京都にいるんだし、みんなで京都散策に行きたいなって思ってさ」

 

 そういうとさっきの姉さんと同じように全員が驚いた表情を浮かべる。

 いつ、亡国機業が襲ってくるとも限らない非常事態の中で京都を回ろうなんて言うのはよっぽど平和ボケしているやつか戦い過ぎて頭がおかしくなった奴くらいだろう。

 ただ、楯無さんだけは色々と察したのかニコニコと笑顔を浮かべながら自分の車椅子の後ろに着く。

 

「みんなが行かないなら私たちで行っちゃうわよ~。ね、あ・な・た」

「ちょっ! ず、ずるいわよ! あたしも行く!」

「お姉ちゃんには……負けない」

「わたくしも負けてられませんわ!」

「ラウラ、行こっか」

「そうだな。箒、お前も行くぞ」

「あ、あぁ……行こう」

 

 と、自分から言い出したのは良いんだけど自分を含めて八人というまあまあの大所帯で歩いているとさすがに注目を嫌でも浴びてしまう。

 そりゃ、IS学園の制服を着た美少女七人が集まっていれば注目を集めるよな。

 

「さ、さすがに視線が気になるな」

「じゃあ、ペアを作ってポイントに分かれておもてなししようよ」

 

 シャルの提案に全員が賛同し、一瞬にしてペアが作られた。

 シャルは簪と組み、ラウラはセシリアと、そして鈴は箒とペアを組み、楯無さんは自分の案内役兼警護係としてこの場に残ることが一瞬で決まった。

 こういう時にみんなの頭の良さと行動力が凄いと思う。

 

「じゃあ僕たちは先に行ってるね」

「旦那様、驚くようなおもてなしをしてやるからな!」

「お、おう。控えめにな~」

 

 気合十分と言った様子でみんなが散り散りに分かれていくが箒だけは最後まで不安そうな表情を浮かべ、自分のことを見続けていた。

 

「さ~てと……なんでこんなことをしようと思ったのかから聞きましょうかね」

「ですよね~」

 

 楯無さんはそう言うと若干、怒ったような口調でゆっくりと車椅子を押し始める。

 多分、この怒りの感情はこんな緊急事態に気の抜けるようなことをしているから、ではなくてこのイベントをしようとした自分の考えに怒ってるんだと思う。

 

「六日後……すべてに決着をつけるんです」

「……あの仮面の女ね」

「はい。その戦いは今まで以上に激しいものになると思うんです……それこそ本当に死ぬくらいに」

「……」

「もちろん、死ぬつもりはないです……でも相手も強い、相手が使うISは自分を殺すことに特化している……死ぬのは怖いです……でもみんなに何も言えないまま死ぬのも……嫌なんです」

 

 すると楯無さんは立ち止まり、自分の前へやってくると何も言わずに自分の両手を優しく握りしめ、まっすぐ自分の両目を見つめてくる。

 

「まだ、私たち返事……貰ってないのよ? そんな状態で死んだら来世まで呪うんだから」

 

 冗談のように笑顔を浮かべてそういう楯無さんだけどどこかその笑顔の裏には黒いドロドロとしたものを感じ、思わず背筋が凍る。

 多分、楯無さんだけじゃなくてみんなも同じ想いだと思うから自分は七回くらい転生するまでこの呪いから逃れられないかもしれない。

 それも悪くないかな、と思っていると軽くおでこにデコピンをあてられる。

 

「悪くないな、とか思ってないでしょうね」

「あ、バレました?」

「バレましたじゃないわよ、まったく……あなたとはまだまだいっぱい、行きたいところとかやりたいことがあるんだから……必ず帰ってきて」

「はい……絶対に」

「それじゃ、準備もできたみたいだし、行くわよ」

 

 楯無さんに車いすを押されながら京都の町を進んでいくが先日の戦いの傷がまだはっきりと残っており、観光客の姿も心なしか少ない気がする。

 改めてISは平気なんだって理解できた。

 

「お~い、こっちこっち~」

 

 考え事をしていた時、シャルの声が聞こえ、顔を上げてみるとそこにはいつの間に着替えたのか橙色の振袖を着たシャルと水色の振袖を着た簪の二人が立っていた。

 

「ここのお菓子屋さんで着物体験サービスもしてたんだ。簪なんかすごかったよ。先生の指示を聞かずに自分で着物を着ちゃったんだ」

「ベ、別にこれくらい普通のこと」

「流石は簪だな」

「……へへっ」

 

 簪は嬉しそうに着物の袖で口元を隠しながら小さく笑顔を浮かべる。

 その時、お店の奥から着物姿の店員さんらしき女性が出てくる。

 その手にはお皿があり、シャルは嬉しそうにしながら店員さんからそれを受け取り、自分に見せるように近くへ寄ってくる。

 お皿の上には笠をかたどったお菓子が四個、綺麗に置かれており、簪が一つを取って半分に割ると中には粒あんがたっぷりと入っていた。

 

「阿闍梨餅……比叡山で修行をする高僧…阿闍梨の網代笠をかたどった半生菓子……とっても甘い」

「へぇ……いただきま~す」

 

 一つ取ろうとした時、シャルの手が伸びてひょいっと阿闍梨餅を取るとニコニコと笑顔を浮かべながら自分の口元に近づけてくる。

 

「mon chéri、あ~ん」

「あ、あ~ん」

 

 楯無さんや簪から羨ましそうな視線を向けられながらも自分はパクリと一口いただくと粒あんの優しい甘さと生地のもちもちとした食感が口いっぱいに伝わる。

 コンビニとかで売っているような強烈な甘さとは比較にならないくらいの自然で優しい甘さだった。

 

「うん、美味しい……やっぱりみんなといると楽しいな」

「……何か……言いたいことが……あるんでしょ?」

「僕たちを急に誘ったのも……それを伝えたいから?」

 

 二人が気付いているということは他のみんなも気づいているだろう。

 むしろ気づいてくれている方が自分としては伝えやすい。

 

「……自分を取り戻しに行ってくる」

 

 それがどんなに難しいことか、そして危険なことなのかは二人も理解しているのか、さっきまでの楽しそうな雰囲気は消え去り、どこか悲しい雰囲気になる。

 

「そっか……行くんだね」

「私たちは……止めない……それがあなたの決意なら」

「……ありがとう」

「でも約束……絶対に帰ってきて」

「帰ってきたら……またあなたと映画に行きたい」

 

 それぞれの想いを自分の手を握りながら伝えてくれる。

 それに応えるように自分は彼女たちの手を優しく握り、今できる精いっぱいの笑顔を彼女たちに向けると彼女たちも精いっぱいの笑顔で返してくれる。

 

「さ、写真撮るから近寄って」

 

 楯無さんの突然の提案にも拘らず簪とシャルはすぐさま行動に移し、自分の両脇を固めると腰を下ろして抱き着くような格好を取りながらピースをする。

 自分も精いっぱいの笑顔を浮かべながら楯無さんが構えるスマホに向かってピースを向けた。

 

 

――――――☆―――――

 楯無に車いすを押され、次の場所へと向かう一夏の背中をシャルと簪は見ていたが我慢できなくなったのかシャルの瞳から涙がこぼれる。

 

「きっと……帰ってくるって思ってるのに……泣いちゃうな」

「……今は……あの人を信じるしかできない」

「うん……僕たちは彼の居場所だから……帰ってくる場所が弱音はいちゃだめだよね」

「でも……今は……」

 

 簪も必死に我慢していたが限界が訪れ、涙がこぼれ落ちる。

 これが最後のデートにならないように、最後の彼との楽しい思い出にならないようにと何に祈るわけでもなく彼女たちは願い続けた。

 これからも彼と過ごせるように、と。

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