Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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1巻の内容で15話……少ないかな?


第十五話

 IS学園には大規模な事故を想定して医療機関と同レベルの医務室と常勤医師がいる。

 その医務室ではバタバタとあわただしく医療関係者が行き交い、怒声にも近い指示が飛び交う。

 そんな戦場となってい医務室前のベンチにはにすでに治療を終え、所々に包帯を巻き、車いすに乗った鈴がセシリアと共に治療が終わるのを待っていた。

 

「一夏……」

「一夏さんはきっと帰ってきますわ」

「……うん」

 

 憔悴しきった鈴を励ますセシリアだが彼女の表情にも不安の色があった。

 セシリア自身も励ましを必要とする存在である。あの時、確かに相手のコアを撃ち抜き、全機能停止したことを確認したはず。

 ISはコアが無ければすべての機能を動かすことはできない―――撃ち抜いたというのは自分自身の勘違いではないかと自責の念を持っていた。

 

「わたくしがあの時、コアを撃ち抜いていれば」

「何言ってんのよ……あんたはちゃんとコアを撃ち抜いてた……あたしがあいつに押さえつけられてなかったら先生が来るまで時間を稼げてたのよ……」

「傷のなめ合いは止せ」

 

 お互いがお互いを励まし、そしてともに沈んでいく負のループを千冬のその一言が打ち壊した。

 後処理を一区切りつけ、慌ててこちらへ向かってきたのかその呼吸は少し乱れており、スーツも動き回っていた影響か少し皺が寄っている。

 

「織斑先生……ごめんなさい……ごめんなさいっ」

 

 一夏を守れなかったという自責の念に押しつぶされていくように一度はあげた顔をゆっくりと沈ませながら鈴は大粒の涙を流し、千冬に謝罪の言葉を吐き続ける。

 そしてセシリアがそれを見て励ましの言葉を吐き、己を責めようとしたその時、千冬が彼女たちを抱きしめ、その負のループをもう一度壊す。

 

「オルコット……お前はコアを確かに撃ち抜いていた。先程、確認した……コアは全損。最後に独立型補助腕が起動したのは別回路でエネルギーを供給していた影響だ……お前はよくやった」

「先生っ―――!」

「鳳……死の恐怖と戦いながらよく自分を強く持ち、未知のISと戦った。お前の姿が無ければ一夏も死の恐怖に押しつぶされ、より凄惨な状況になっていた」

「ちふ……ゆさんっっ」

「お前達はお前たちのやるべきことをやった。何も悪いことなどありはしない……よくやった」

 

 千冬の優しいその声にセシリアも鈴も自身に押し付けていた自責の念や不安などが全て打ち消され、大粒の涙を流しながら人目もはばからずに泣きじゃくる。

 若干15歳の少女たちには殺意を持った機械との戦いはまだ早すぎた。

 そんな光景を箒は少し離れたところで見ていた―――本来ならば自分も、と思っていたが二人の姿を見てそこへ向かう足が止まってしまった。

 完全に蚊帳の外だった。

 あの二人は現場であの謎のISと対峙し、戦場の重圧、そして一夏が目の前で倒れたという共有できるものがあり、その絆は深まっただろう。

 だが自分はどうだ―――被害が及ばない安全なところから事の次第を見ていただけ。

 あの二人の様に共有できることなど何もない。

 唯一の共通点は彼を心配しているという感情だけ。

 

(私もっ――――――私も専用機を持っていればあの場にいて……そうすればお見舞いを)

「っっっ……わ、私は」

 

 なんと自己中心的なのだろうと自分自身に失望と殺意が湧いた。

 自分も専用機を持ち、あの戦いに赴くことが出来ていれば彼が倒れた所に居合わせることが出来た、そして入院している一夏に会いに行くとまるで一夏が傷を負い、倒れたことすらも彼女と張り合うため―――それどころか自分の優位性を見せつけるための材料と考えた。

 あの場所にいる資格はない―――箒は自分自身にそう言い聞かせ、涙がこぼれないようにきゅっと唇の端を噛みしめながら気づかれないようにその場を後にした。

 

 

――――――☆――――――

「ご家族の方は!?」

 

 医務室の扉が蹴破られたかと思うほどの勢いで一人の看護師が外へと出てそう叫ぶ。

 

「私です」

「こちらに」

 

 千冬は二人の肩を軽く叩き、看護師に案内されるがまま医務室の奥へと進んでいく。

 先程まで慌ただしく医師たちが駆け巡っていたのか書類などが床に落ちて散らばっている―――しかし、それを拾う医師の姿も複数見られた。

 その光景を見て千冬は嫌な気配を感じた。

 歩きながら周囲を見ると看護師や医師たちが千冬の横を通っていく。

 そして気付いた。医務室が静かだと。

 その静けさは千冬に不安の感情をもたらし、それが一歩ずつ歩んでいくごとに増えていき、やがて冷たい空気感へと変わっていく。

 

「こちらです」

 

 看護師がある一室の扉を引いた瞬間、今までに感じたことのない嫌な冷たさが千冬へと降り注ぐ。

 室内に足を踏み入れるとカーテンで仕切られたその場所から冷たさが出ていることを感じ、心では見ることを拒否するが足は進んでいく。

 手が震える―――数々の場数を経験してきた歴戦の猛者の手が震える。

 優勝を目前にした決勝戦の試合前にも感じたことがないこの震えは彼女の人生で二度目。

 

(そんなことはない……ありはしない。あの時も一夏は生きていた……今もそうだ……)

 

 このカーテンの奥に一夏がいる。カーテンを開ければいつものように「千冬姉」という声を発しながら自分のことを呼んでくれる。

 幼いころから今まで呼び方は変わらなかった―――でもその三文字を聞くだけで全て戻る。

 どんなに疲労困憊な時でも、その声だけで癒された。

 カーテンを開けるために手を伸ばす―――震えは止まらない。

 布一枚など開けることなど容易いこと。しかし、今の彼女にとってはそれがとてつもなく重くのしかかる行動だった。

 

「っっ……―――っぅ!」

 

 意を決し、カーテンを勢いよく―――それこそカーテンレールから引きちぎるほどの勢いで開く。

 

「一夏っっ」

 

 カーテンを開いた先にはベッドに横になった一夏が静かに眠っていた。

 布団から見えている腕には何本もの点滴の管が伸びており、傍には彼の心臓の鼓動を示す機器が置かれている―――その機器は心臓が動いていることを示している。

 よかった、生きていた―――そう思った矢先に看護師が呼んできたのだろうか、白衣の女性医師が千冬の隣にやってくる。

 

「手は尽くしましたが……今晩が峠かと」

「…………」

 

 何を言っているのか理解が出来なかった。

 今目の前にいる一夏は生きている―――それを示すように心臓の鼓動は確認できる。

 それなのになぜ、医師はそのようなことを言うのか。

 

「未知の毒化合物がナイフから注入され、弟さんの全身に周りました。その速度がはやく……未知のものであったことから治療のしようがありませんでした」

「……ありがとう……ございました」

 

 千冬は治療のために奔走してくれた医師にお礼の言葉と共に頭を下げる。

 医師はその言葉を受け取り、病室を後にする。

 

「……」

 

 二人だけとなった病室に一夏の心臓の鼓動を示す機器の音だけが響く。

 ふらふらと覚束ない足取りで眠っている一夏のもとへと歩んでいき、その手を優しく取るとまだ彼のぬくもりがそこにあった。

 

「一夏……いつまで寝ている……」

 

 過去の記憶が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

 昔の一夏は目覚めが悪かった―――一夏が小学生の時は毎朝、中々起きない彼に四苦八苦しながらあの手この手を駆使し、起こしたこともあった。

 

「外であいつらも待っているぞ……お前は一体どれほどの女を泣かせるつもりだ」

 

 その中に自身を入れているのだろうか、千冬はギュッと一夏の手を強く握る―――先程に比べてぬくもりが遠くなっていることは気のせいだ。

 自分にそう言い聞かせ、一夏に言葉をかけ続ける。

 

「週明けは小テストだ……ただでさえ成績が低いんだ……寝ている場合じゃないぞ」

 

 少しずつ―――音の感覚が遠くなっていく。

 

「"起きろ"」

 

 一夏が起きる気配はない―――それを目の当たりにした瞬間、千冬の瞳から大粒の涙が洪水のように溢れ出し、彼女の感情が爆発する。

 

「一夏っっ! 起きるんだっっ! 私を――――――私を一人にしないでくれ」

 

 千冬は悲痛な叫びをあげながら眠っている一夏に頭を寄せ、頬ずりするように―――今の現実を否定するように首を振る。

 両親が存在しない千冬にとって一夏は唯一の家族。

 

「逝くな! 一夏っっ―――逝かないでくれ!」

 

 とめどなく溢れる涙が一夏の頬を濡らす。千冬の泣きじゃくる声の後ろで聞こえる音が徐々に間隔を広げる。

 

「一夏! 一夏ぁ!」

 

 千冬の絶望の叫びを掻き消すように無情にもその時はきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――絶望は希望となる。

 

「っっっ!」

 

 薄暗い医務室を一つの強い光が明るく照らす。

 その発光源は一夏の右腕に装着された白いガントレット―――白式の待機形態であるそれは強く光を発しながら一夏の全身へと光を走らせる。

 

「……まさか」

 

 千冬はその光に見覚えがあった。しかし、すぐに頭に浮かんだ考えを掻き消す。

 

「あり得ない……もう"あいつは"いないはず」

 

 彼女が"あいつ"と言葉を発した瞬間、ガントレットから光が散ったかと思えば同時に医務室に強い風が吹き荒れ、彼の身体に刺さっていた全ての管を吹き飛ばした。

 

「だ、大丈」

 

 突然の出来事に飛んできた看護師は言葉を失った―――そして千冬も目の前の光景に言葉を失い、目を見開いている。

 

「……?」

「い……ち…か」

 

 

 

 

――――――☆――――――

 

 心地いい風と光に溢れる場所を俺は歩いている―――気がする。

 目を開けているはずなのにその景色を俺は景色として理解することが出来ず、ただ眩しくも心地よさを感じる優しい光に俺は包まれている―――気がする。

 どれだけ歩き続けただろうか。いや、歩いてたのかも分からないが少ししたころ前方に三つの人影が見えた。

 何故かその三つの人影がある場所だけハッキリと景色を理解できた。

 水辺だろうか―――光が反射し、眩しく感じる場所で三人の人物がいた。

 一人は全てが白の鎧を着た女性。

 もう一人は柔らかな灰色の鎧を身に纏った女性。

 そして最後の一人は白色のワンピースを纏い、麦わら帽子を深くかぶった少女が俺に背を向け、何もないはずの場所を見つめている。

 俺はしばし、少女と同じ場所を見つめることにした。とは言っても少女と同じ方向を見ているが別に景色が変わるわけでもなく、何か面白いことが起こることも無かった。

 すると柔らかな灰色の鎧を纏った女性がすっと立ち上がるとこちらへ近づく。

 

「―――剣」

 

 その一言だけ発すると俺のすぐ傍に雪片弐型が地面に突き刺さっていた。音の一つもたてず、まるで最初からそこにあったかのように。

 女性は声を発さずに雪片弐型へ手を伸ばす―――しかし、横から白い鎧に包まれた腕が伸びて来て剣を掴もうとする手を止めた。

 

「―――約束」

「―――時は満ちた」

「―――否」

 

 二人の女性は互いに見合いながら言葉数は少ないが言い合いを始める。しかし、すぐに結論が出たのか二人は黙ってしまう。

 そんな二人の間を通っていつの間にかワンピースの少女が俺の目の前に歩み寄る。

 

「まだ、こっちに来ちゃダメ」

 

 先程の二人とは違う自然体な会話に少し驚いてしまう。

 

「全部、終わったらその剣を彼女に返してあげて。それまでは……君の剣だよ」

 

 少女はそう言うと柔らかな灰色の鎧を纏う女性に視線を向けると納得したのか、はたまた仕方なしなのかは知らないけど女性はくるりと背を向け、柔らかな光の中へと消えていく。

 白の女性も一件落着と言わんばかりにこの場を離れ、柔らかな光の中へと消えていく。

 

「またお話ししよ」

 

 トン、と優しく両手で俺の身体を少女が押した時、ゆっくりと俺の身体は落ちていく。

 浮遊感などはなく、すーっと何かに溶けていくように体が落ちていき、そのまま俺は身を任せて目を閉じた。

 

 

 ――――――☆――――――

「……?」

 

 目を開けるとまず飛び込んできたのは白い天井。次に俺の鼻孔に消毒液の匂いが入り込んできて半分寝惚けている俺の意識を叩き起こす。

 ぼやけていた視界が徐々にクリアになっていくと千冬姉の顔がそこにあった。

 

「い……ち…か」

 

 先程まで泣いていたのか千冬姉の目は酷く赤くはれていて今もまた泣きそうになっている。

 ゆっくりと上体を起こそうとすると千冬姉が手を入れてくれる。

 

「……ただいま」

「……バカ者が」

 

 千冬姉は俺の胸に顔を埋めると小さく肩を震わせ、泣きじゃくる。

 俺は泣きじゃくる千冬姉の頭を優しく撫でる。




色々変えて見て進めてようやく1巻が終わりに近づいています。
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