Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百六十八話

「……俺、この格好で帰らないとダメ?」

「ダメに決まってるでしょ。本来なら1週間は絶対安静のところを無理言ってるんだから」

 

 目を覚ましてから一日が経過した日の朝、俺は包帯ぐるぐる巻きの格好で車いすに乗せられており、千冬姉に車いすを押され、両隣には箒と楯無さんが居る。

 鈴たちは代表候補生と言うこともあって一足先に学園に帰還しているらしい。

 IS学園の状況もかなり深刻な状況らしく、今のところ無期限で休校しているとのこと。

 

「一夏、あきらめろ。楯無さんのご厚意に感謝するしかない」

「まぁ、そうなんだけどさ……」

 

 どこかのバイクに変身する不死身の警察官みたいな恰好をしているので周囲の人たちからの視線が釘付け。

 今俺たちがいるのは病院の出入り口付近なため、受診で来る人や迎えに来る人などで人の往来が多くあるので正直に言ってしまうと少し恥ずかしい。

 この状況で亡国機業の襲撃が怖いところ。

 ラウラたちのおかげでIS学園を裏切った二人の専用機は大破し、黒騎士も俺が破壊、残るはアリーシャさんとスコールの二人だけ。

 今回の一件で自衛隊のIS部隊も京都に派遣されており、さっきから上空を国産機体である打鉄がビュンビュンと飛行しているのが見える。

 

「……千冬姉」

「安心しろ……ちゃんとあいつも運ぶ」

 

 あいつ、とは亡国機業の仮面の女のことだ。

 俺が目を覚ました後にどうしてもと千冬姉に頼み込んであいつの遺体をキチンと埋葬し、自宅近くにお墓を作る予定にしている。

 たとえ世界があいつを忘れたとしても俺たちだけでもしっかりと覚えておきたい。

 この世界には確かに織斑という存在が三人、生きていたということを。

 

「あ、来たわよ」

 

 俺たちの前に静かに大型の車が停車する。

 楯無さんと男性が小声で話し合い、彼女がトランクの中を確認するとこちらの方を向き、小さく頷く。

 千冬姉と箒に介助してもらいながら車へと乗り込むと静かに車が走り出し、激闘の数日間を過ごした京都をゆっくりと離れていく。

 

「一夏、学園に帰ったら何をしたい?」

「そうだな……まずはみんなの顔を見たい……あと一週間は休みが欲しいな……色々と整理がしたい」

「そうね……私もゆっくりと休みたいわ」

 

 楯無さんもここ数日、しっかりと眠れていないのか小さく欠伸をする。

 京都に着く前の新幹線の車内から今の今まで気を張り続けていたから目に見える部分も見えない部分でも疲労困憊の状態だ。

 

「織斑先生は帰ったら……仕事がヒマラヤ山脈並みに積まれていますね」

「それを言うな、更識……だが申し訳ないが私も二日は休みをもらうぞ」

「それはもちろん。山田先生と協力して学園の仕事を片付けておきます」

「まず帰って……エドワース先生のお見舞いだ」

 

 IS学園のフォルテ・サファイアが使っていた部屋に設置されていた爆弾でエドワース先生が負傷したらしいけど治療の甲斐もあって一命はとりとめたらしい。

 ただ、ギリシャとアメリカ、そしてイタリアの三国から有望な操縦者がテロリストに寝返ったことからこの三国は世界からかなり批判の的となっているらしい。

 そして同時にIS学園と日本の管理体制についても厳しく批判されており、各国が代表候補生を呼び戻す動きをしているらしい。

 できればラウラたちには離れてほしくないが国に所属している以上、少しの間は別行動になりそうだ。

 

「一夏君の静養もそうだけど白式の整備もしないとね」

「そうですね……よろしくお願いします」

 

 あの戦いのダメージは相当大きく、おそらく一か月近くは白式の展開が制限されると思う。

 あの戦いでも最後は物理のゴリ押しで何とか勝ったようなものだし、エネルギーはもちろん尽きているし、装甲だって人の手を加えないと治せないレベルだ。

 

「虚ちゃんと本音、それから整備科の何人かには声をかけているわ。あと倉持技研にもね」

「……ということはもしかしてあの人も来るんですか?」

 

 倉持技研の名を聞くと瞬時にあの人の顔が思い浮かんでしまう。

 あの人には感謝してもしきれないほどの恩があるのでむしろ来てほしいんだけどあのキャラの強さはなかなか出せないと思う。

 なんせISスーツの上から白衣、そして銛と淡水魚を持ってたし。

 

「IS学園は……これからどうなるんでしょうか」

「分からん……だが学園の心配よりも世界の心配をした方がいいか―――っっ!?」

 

 突如として車の右側部分で爆発が起きたかと思うと車が大きく左に揺れ動き、かと思えば左側でも遅れて爆発が起きて今度は右に動く。

 直後、運転手が急ブレーキをかけたことで車が凄まじい勢いで急停止する。

 シートベルトが体に食い込み、激痛が走るがなんとか前方を向くとそこにはISを展開したアリーシャさんとスコールの姿があった。

 

「亡国機業!」

「ま、襲撃がないわけないわよね」

「更識、篠ノ之……頼むぞ」

 

 千冬姉の言葉に二人は静かに頷くと車から降り、即座にISを展開するが突如として風が吹き荒れ始めたかと思えばアリーシャさんが風に押し出される様にして突っ込んでくる。

 箒の刀と楯無さんの槍がアリーシャさんの突撃を受け止めるがアリーシャさんから轟音とともに竜巻が生み出されて三人を包み込むと上空へと舞い上がっていく。

 

「降りるしかないようだな」

 

 千冬姉に抱きかかえられるようにして車から降りるが状況は最悪だ。

 戦える二人はアリーシャさんに囚われてすぐには戻ってこれない。

 

「ごきげんよう、織斑一夏。その姿なところ申し訳ないけれど一緒に来てもらおうかしら」

 

 スコールは余裕の笑みを浮かべながらこちらへとゆっくりと近づいてくる―――かに見えたが車に近づいたところで何故か突如としてISを解除する。

 その行動はまるで俺たちを車から離すかのようだった。

 

「と、言いたいところだけど今日の目的はそれじゃないの」

「どういう意味だよ」

「ま、言うなれば……宣戦布告、とも言うべきかしら?」

「宣戦布告って……俺たちの戦争はもう始まってるもんだろ」

 

 俺の言葉にスコールは小さくため息をつきながら首を左右に振ると車のトランクを無理やりこじ開け、その中に収められている存在を確認する。

 

「あなたとの戦争は始まっているわ……私が始めるのは……世界との戦争よ」

 

 その瞬間、スコールの後方で一筋の蒼い極大の光が走ったかと思えば大きな爆音とともに大爆発が発生し、周辺のビルが粉々に吹き飛んでいく。

 それが一度だけではなく二度三度と繰り返し行われ、周囲は火の海と化していく。

 

「な、なんだこれ……何をしてるんだお前!」

「言ったでしょう? これは世界への宣戦布告。今この瞬間をもってして亡国機業は世界に宣戦布告をする」

「世界を敵に回して一テロリスト集団が生き残れるとでも思うのか?」

「織斑千冬……あなたが言うように一テロリストだけであればね……でも我々には世界を破壊する最強の力があるの……このエクスカリバーの力をもってして亡国機業が世界の争いを管理する!」

 

 次々と降り注ぐ青い光は地上を一瞬にして焼き払い、京都の街並みを無残に破壊していく。

 

「織斑一夏。あなたの存在によって世界は争いに溢れる世界に変わるわ」

「ふざけんな! お前がそうしてるだけだろ!」

「あなたという存在さえいなければISは世界最強の兵器であり続け、女が最強であり続けた。でもあなたがいることによってISは最強の座から落ち、男も女も……関係なく争う世界が生まれる」

「お前……何言ってんだ」

「あなたには理解できないでしょうね。国家は争いを求め続ける。争いは私を殺し、国家は私を生かし続けた。こんな体にしてでもね……だったら望む世界にしてあげるわよ。世界を争いに満ち溢れる世界にしてあげる! その争いを私が管理するのよ!」

「スコール!」

「まず手始めに……あなたとの争いを管理するわ」

「な、なにを言っ―――」

 

 直後、スコールのすぐそばで青い光が走ったかと思えば車が一瞬にしてその姿を消し、代わりに赤い炎と爆風が俺の視界に映りこむ。

 少し遅れてようやく空から降り注ぐ青い光が車を―――彼女を乗せていた車を消し飛ばしたんだと理解した。

 

「火葬代……浮いたわね、織斑一夏」

「スコォォォォォォォォォォォォォル!」

「ダメだ一夏! その体じゃ無理だ!」

 

 車いすから飛び出そうとする俺の体を抱きしめて必死にスコールにとびかかろうとするのを抑える千冬姉。

 激痛など無視して今すぐにでも目の前の存在を亡き者にしたかった。

 

「殺す! お前だけは! お前だけは俺の手で絶対に殺してやる!」

「いいわ、その憎しみ、殺意。このエクスカリバーがあればあなたのように憎しみも殺意も、争いをもすべて管理することができる……次に戦うときが楽しみだわ、織斑一夏」

 

 スコールがそんな言葉を残した直後、彼女の隣に上空からアリーシャさんが降り立ち、同時に俺の傍にも箒と楯無さんが戻ってくる。

 

「次、会うとき……必ずあなたの命を頂くわ。あなたの存在こそが私が望む世界を生む鍵になるから」

 

 そう言い、スコールはISを展開するとアリーシャさんとともに上空へと舞い上がるとスラスターを吹かしてどこかへと飛び去って行った。

 空から降り注いでいた蒼い光はスコールが消えるとともに降り注がなくなったが代わりに火の海、そして人々の悲惨な叫びが俺の耳に木霊していた。

 

「お、お嬢様! これを!」

 

 更識家の従者の男性がスマホを楯無さんに見せるや否や彼女の表情が一変する。

 俺たちもそのスマホを覗き込むとそこには先ほどまでたスコールが豪勢なドレスを身に着けて映像に映りこんでいた。

 

『私は亡国機業、実働部隊【モノクローム・アバター】のスコール・ミューゼル。今、この映像が公開されているということは京都が火の海になっているころでしょう』

「この映像……全てのスマホや映像機器に無理やり流しているのね」

 

 楯無さんがそう言いながら作戦用のスマホを目の前に差し出すと画面には全く同じ映像が映し出されており、俺たちのも出すと同じ状況だった。

 こんなオーバーテクノロジーなことをやるのは世界でただ一人だけ。

 

『京都を襲った蒼い光……それは宇宙に浮かぶ対IS用兵器である高度エネルギー収束砲【エクスカリバー】から放たれたものよ。この兵器はアメリカとイギリスが世界に黙って開発したもの。いずれISを巡る戦いが起こることを予見し、開発されたISをも破壊できる最強の力。でも残念。今は我々の支配下にあるわ』

「イーリスさんが言っていたことは……事実だったのか」

『ほんとずるいわよね。アメリカとイギリスだけがこんな力を持つなんて。どうせ世界の覇権は我々が、なんて魂胆なんでしょうけど……やはり人間は……争いを求めるのね』

 

 スコールが呆れ気味にそう言うや否や映像に割り込む形である映像が映し出される。

 

『世界に伝えるわ。我々はこれより世界を争いで埋め尽くし、全ての争いを我々が管理する。争いを起こすのも我々、終わらせるのも我々。別に我々を殺しに来ても構わないわ……ただし、国が地図から消える覚悟をもってかかってきなさい……これを見ているであろう……織斑一夏に告げるわ』

 

 突如として映像内で俺の名前が呼ばれ、心臓が締め付けられる。

 

『私はあなたを欲している。あなたの行動次第で……全てが変わると思いなさい。さあ、世界をあなたたちが望むものに変えてあげるわ! 争いが絶えない世界! 人々の悲鳴が木霊する世界! そんな世界を望んだのはあなた達よ? 国のお偉いさんがた』

 

 スコールは小さく、そして不気味に笑みを浮かべると映像はそこで途切れた。

 今この瞬間、世界は火に包まれた。

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