第百六十九話
俺たちは無事にIS学園に帰ってきた―――でも事態は最悪の状況だった。
IS学園は無期限の閉校へと追い込まれたままであり、代表候補生は自国への帰還命令が発令されており、一般生徒は学園が用意したホテルに滞在中。
それはもう少ししたら解除される予定だったけどもう一つの事態が発生したことでそれは放置されている。
『
「こんなニュースを見ていると気分が陰鬱になってしまうな」
「そうだな……つっても」
箒からリモコンを貰ってチャンネルを回していくがどのチャンネルも緊急報道番組が編成されており、その内容はどれもが亡国機業に関することやその構成員たちの話ばかり。
ネット上でも亡国機業に関する話や構成員の過去を暴こうとする動きがあるみたいだけどどれもガセネタばかりでつい最近には無関係の一般人の個人情報が亡国機業の構成員としてSNS上に上がった。
そのガセネタは瞬く間に拡散され、警察が動く事態にまで発展した。
「みんなはまだ帰ってこれないし、千冬姉や山田先生も仕事にかかりっきり」
「それに……」
箒がチラッと壁に取り付けられた大型モニターへと視線をやる。
そこには正門前に集まっている無数ともいえるほどの数の報道陣やデモ隊が映し出されており、何やらしきりに叫んでいる様子が見える。
報道陣の目的はIS学園の対応や責任追及、デモ隊の目的は―――俺の引き渡しだ。
連中は俺さえスコールに引き渡せば事態は丸く収まると思っているみたいだけどそんな単純な話ではないし、おそらく俺をスコールに渡したとしてもエクスカリバーの脅威は消えない。
「耳障りな連中だ。私が一喝入れてきてやる」
「何言ってんだよ箒。自衛隊が学園を警護してくれてるんだから大丈夫だって」
「そ、それはそうだが……聞いている身としては」
今にも連中のもとに行こうとする箒の手を取り、無理やり座らせる。
座らせてもなお手を離さないでいると箒の顔が徐々に紅潮していき、恥ずかしそうに顔を伏せながらも俺の手を握り返してくる。
「お前に傷つかれたら……俺が悲しくなる」
「そ、そうだな……う、うむ」
「それにしても……静かだな」
俺たちがいるのは食堂だがいつもならおばちゃんたちの姿が見えるがそれも一切なく、テレビの音くらいしか食堂には響いていない。
今、俺たちが飲んでいるお茶も冷蔵庫から勝手に拝借している。
「それもそうだろう。代表候補生は自国に帰還、一般生徒もホテルでほとんど軟禁に近い状態だ」
「こっちにいるのはのほほんさんや虚さんの整備科チーム、倉持技研の人たちくらいだもんな」
「ほかのみんなは大丈夫だろうか」
「簪は更識家、ラウラは軍があるから場所には困らないし行動も自由だけど」
「鈴やセシリアは難しいだろう」
鈴やセシリアは言ってみれば後ろ盾が国家しかない状態だ。
だから国家が言うことがダイレクトに影響し、行動を大きく制限されてしまう。
連絡手段も絶たれているのでスマホのメッセージはもちろん、IS同士の交信すら不可能な状態になっており、彼女たちの安否が心配だ。
「簪はもう少しで戻ってくるだろうけど……ラウラは当分、難しそうだな」
「ラウラは軍の隊長……国の防衛にあたっているだろう。シャルロットはどうなんだ?」
「メッセージも送ってみたけど音沙汰なしだ」
正直、シャルロットの安否が一番心配だ。
なんせデュノア社はシャルロットに俺のデータを取ってこいと伝え、学園に潜り込ませた。
もちろん彼女が怪我をするような事態にはならないと思っている。
その証拠となるのは以前、電脳ダイブした際に彼女の世界で見た彼女の住処やその周辺の環境。
正直、あの光景を見てからデュノア社がそんなに極悪非道な存在なんだろうかという疑問が出てきた。
「……あれからスコール荷動きはないな」
箒の言う通りあの宣戦布告の映像以来、スコールたちに目立った動きはない。
小さな戦闘はあったみたいだけどスコールやアリーシャさん、エクスカリバーが出る間もなく学園を裏切ったあの二人に制圧されたとのこと。
「あれだけの兵器だ。やろうと思えば一瞬で世界を焼き尽くせるだろうに……何故、何もしないのだ」
「国もいつ、京都を焼き払ったあのレーザーが飛んでくるか分からないから動き出せてないしな……そんな状況下でよくデモ出来るな」
学園の門前を移す映像にはいまだに叫び続けているデモ隊の姿があった。
学園を警備してくれている自衛隊の人たちもその光景に慣れてしまっている。
「世界は……どうなるのだろうか」
「さあな……でも俺たちがやることは一つだ」
亡国機業を、そしてスコールを倒す。
そのために千冬姉や山田先生、そして国家も水面下で動き出している。
俺にできることは整備中の白式のように先の戦いで負った傷を癒すことに集中することだけ。
「一夏。白式の様子でも見に行くか」
「そうだな。頼む」
箒は立ち上がり、車椅子を押しながら俺とともに白式が整備されている整備室へと向かった。
――――――☆―――――
「で、これからどうするんだよ。叔母さん」
「そう焦らないの。今はレインとフォルテは露払いをお願い」
「それは構わないっすけど……エクスカリバーなんて派手なものがあるなら」
「派手に動けばいいって? 若いわねぇ」
優雅にモーニングを食べながらそう言うスコールはワインを一口飲むとテーブルにグラスを置く。
ここは亡国機業の傘下にあるホテルであり、テロリストとして大々的に報じられている彼女がいても誰一人として騒ぎを立てることはない。
「エクスカリバーはあくまで抑止力。京都を焼き払った威力を見た首脳陣たちはそう簡単に動くことはないし、我々に近寄ってくる国もあるでしょう。特にISを持たない弱小国家はね……それにこの間に落としたい国がいくつかあるから」
「落としたい国……ルクーゼンブルクか?」
「あ~。あそこはISコアの材料になる鉱石があるっすもんね」
「それもあるけど……まずはアメリカ」
スコールが出した国名を聞いたレインは思わずパンを運ぶ手を止めてしまう。
テロリストに寝返ったとはいえ、自分が生まれ育った国を自らの手で滅ぼすという覚悟までできていない彼女にとってはそれは大きなものだった。
「アメリカにある全てのISを頂きましょう……それとちょっとした復讐もね」
「復讐……それは叔母さんの体のこと?」
「それとミューゼル家の呪い、かしらね」
スコールはそう言いながら席を立つ。
「ミューゼル家の呪いって」
「ん? あぁ、そんな大層なもんじゃねえよ……簡単に言っちまえばアメリカがミューゼル家にしてきた仕打ちって感じかな」
「仕打ち……それとあの人の体が関係してるっスか?」
「オレも詳しくは知らねえけどよ……軽々しく聞けるもんじゃねえってことは確かだ」
――――――☆―――――
「急に集まってもらってごめんね、一夏君」
俺たちのもとに楯無さんからの招集メッセージが届いたのは十分前のこと。
箒と一緒に生徒会室へと入るとそこには山田先生と千冬姉も同席しており、様子からしてただ事ではないのは空気から察することができた。
「お前たちに集まってもらったのは他でもない……亡国機業とエクスカリバーのことだ」
「何か分かったんですか?」
「エクスカリバーのほうはある程度はな……山田先生」
千冬姉の言葉の直後、空間に映像が投影されてエクスカリバーの全体図が表示されるがそのあまりのでかさに俺も箒も驚きを隠せない。
全長十五メートルほどのそれを目にした時、まず飛び込んできたのは異様なまでに長い砲身だ。
地上まで届かせる威力のレーザーともなればそれ相応の規模が必要だけど俺の予想よりもはるかに長く、大きいそれはまさにすべてを破壊する兵器。
そしてもう一つ気になるのは長い砲身の先に形成されている部分であり、まるで鍔のない刀の持ち手部分にも見えてしまう。
「高度エネルギー収束砲エクスカリバー。アメリカとイギリスが来るISを巡る騒乱のために極秘裏に開発された対IS用兵器です。現時点では目立った動きを見せていませんがエネルギー充填状態を見る限り、いつでも発射が可能な状態だと思われます」
「そんな物騒なものをアメリカとイギリスが……みんなに広めればよかったのに」
「一昔前の核爆弾と同じよ。抑止力として使い、自らが世界の頂点に立つ……ISが出てきてから変わらなかった唯一の部分よ」
「なぜ、極秘裏に開発されていたもののことを亡国機業が知っていたのか。なぜ、それを一テロリスト集団がハッキングに成功し、支配下に置けたのかは分からんがいずれにせよ破壊しなければならん」
エクスカリバーがスコールの手中にある限り、世界は彼女に支配されたも同然だ。
世界を彼女から解放すること、そして俺たち織斑の想いを無にしたあいつを許すわけにはいかない。
でもむやみにスコールを叩きに行こうとしてもその動きを察知されてしまえば京都で見せた最強の力が発動して日本という国が世界地図から消えるだろう。
「エクスカリバーを仮に破壊するとすれば……宇宙に行くんですよね?」
「そうだ。ただ現状、おいそれと派手に動けない。派手に動けばスコールたちにそれを察知され、エクスカリバーを起動されるだけだからな……エクスカリバーを止めるには作戦の同時進行が必要だ」
「亡国機業を止める作戦とエクスカリバーを破壊する作戦……ですね」
「そうだ。作戦がないわけではない……が、難しいだろう」
俺と箒の頭上に疑問符が浮かんでいるのを察した千冬姉が山田先生に視線を送ると映像が切り替わり、エクスカリバーの詳細なスペックデータが表示される。
「これは先日、イギリスより公開されたエクスカリバーのデータです。これによれば
「……ろ、六百kmって言うと」
「国家消滅級の一撃、と言えばわかるか?」
千冬姉の一言に俺たちの間に衝撃が走る。
正真正銘、エクスカリバーは国家そのものを消滅させることができるほどの力を持つ兵器であり、まさに世界の存亡がかかっている。
「だがエクスカリバーも完全ではない。一度射撃ポイントを定めれば変更は不可能かつ
「つまり冷却時間中の隙をつけばエクスカリバーは破壊できる」
「理論上は、ね。そんなことを亡国機業も許さないでしょうからアリーシャやダリル、フォルテなんかの戦力が投入されて作戦の邪魔をするでしょう」
「ダリルやフォルテはともかく……アリーシャを止められるのは」
全員の視線が千冬姉のもとへと向く。
千冬姉は分かっていると言わんばかりに小さく微笑む。
「皆まで言うな……だが今すぐに動くことはない。外部のうるさい連中はお偉いさん方に任せてお前は体を休めて傷を癒せ。白式も当面は動かせん」
「もちろん……です」
「情報が判明次第、また招集をかける。いつでもメッセージを確認できるようにしておけ」