Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百七十一話

「ですから! エクスカリバーの報告も含め、即刻、政府高官による説明を要求しますわ!」

「で、ですのでその準備をただいま行って」

「その説明からもう何時間経ちましたの!?」

 

 セシリアは激昂し、大理石製の高級テーブルに拳を叩きつけながら呼びつけた担当官を怒鳴りつけるが担当官はただただ冷や汗をかきながら頭を下げるのみ。

 明らかに担当官の方が年上なのだがそれでもセシリアの勢いを止めることは出来なかった。

 今まで祖国のためにと戦ってきたが世界に黙って世界をも滅ぼしかねない最強の兵器を作った挙句、それをテロリストに奪われてしまった。

 イギリスとアメリカの地位は陥落したと言ってもいい。

 そんな状況だというのに代表候補生を祖国に呼び戻し、外に出るなという命令を出した政府が気に喰わず、自分の担当官を呼びつけて今に至る。

 

「た、ただいま全世界から同様の依頼が殺到しておりまして政府中枢も麻痺しているので今すぐには」

「先刻、公開されたエクスカリバーのスペックデータも所詮は表面上の数値だけ。肝心かなめの内部データはほとんど公表しておりませんし……あなた方はイギリスを陥れたいのですか!?」

「そ、そのようなことは毛頭」

「であればすぐさまエクスカリバーに関するすべての情報を世界に公開するべきですわ! 政府のことですからこのような状況のために対抗策も考えているのでしょう!?」

「そ、それを公開するにはまだ何の会議も経ておりませんので」

 

 担当官の何とも言えない態度によりイライラを募らせるセシリアの前に一杯の紅茶が置かれる。

 視線をそこへやるとまるで落ち着きなさい、と言っているかのように目線を向けてる専属メイドのチェルシーが傍に立っていた。

 

「……とにかく、すぐに対応してください。もうよろしいです」

「は、はい。それでは」

 

 ようやく解放されたと言わんばかりに担当官は安堵の息を吐きながらそそくさと荷物をまとめて応接室を後にすると室内には静寂が流れる。

 

「チェルシー……ありがとう」

「いいえ。わたくしはただいつものように仕事をしたまでです」

「……あのエクスカリバーという兵器が亡国機業の手に堕ちてしまった以上、わたくしたちの手で破壊せねば世界に示しがつきませんわ」

「……」

 

 チェルシーが急に黙ったのを不思議に思ったセシリアが彼女へ視線を向けるとどこか驚いたような表情を浮かべており、視線が合うといつもの表情に戻る。

 

「どうかしましたの?」

「い、いえ……以前までのお嬢様ならば自分の手で破壊する、と言うと思っていましたので」

「そうですわね……こんな時だからこそ仲間の手が必要だとこの半年近くで学びましたわ」

「仲間……心強い仲間がいて羨ましいです」

「何を言っていますの? チェルシーもわたくしに欠かせない仲間、ですわ」

 

 セシリアが曇り一つない笑顔をチェルシーに向けると彼女は一瞬だけどこか悲しそうな表情を浮かべるがすぐにそれを隠すように小さく微笑む。

 それはまるで巣立っていく後姿を見届ける母のようだった。

 

「今は行動できませんが……いずれエクスカリバー破壊のためにここに集結するでしょう……チェルシー、その時はとびっきりのおもてなしを頼みますわ」

「もちろんでございます。お嬢様」

 

 お互いに笑顔を浮かべたその時、扉が蹴破られる勢いで開けられたかと思うと一人の使用人が額に汗をかき、肩で息をしながら慌てて部屋へと入ってきた。

 

「何事ですか?」

「チェ、チェルシー様! これを!」

 

 使用人の一人がタブレット端末をチェルシーに渡すと彼女の表情が驚愕のものへと変わり、慌ててテレビのリモコンを手に取って電源を入れる。

 そこに映し出された映像を見てセシリアの表情も同様のものとなった。

 

「う、うそ……こんなことが」

 

 

――――――☆――――――

 

 部屋で箒とともにのんびりとしていた俺たちは千冬姉からの緊急招集のメッセージを受け、箒に車いすを爆速で押してもらいながら職員室へと向かっていた。

 一瞬、なんで職員室集合なのかとも思ったけどよほどの緊急事態なのかメッセージが何度も送られてくる。

 そして職員室が見えたと同時に山田先生の姿も見え、扉を開けてもらって職員室へと飛び込むようにして入室するとそこには楯無さんもいた。

 二人とも設置されている大型モニターをかじりつくようにしてみていた。

 その表情から察するにかなり深刻なものらしい。

 

「来たか……見ろ」

 

 千冬姉に言われて大型モニターへ視線を向けるとそこに映し出されている映像を見て思わず目を見開く。

 画面いっぱいに広がっているのは破壊しつくされた都市部の様子であり、タワーが斜めに切り裂かれたかのように破壊され、地面には深い亀裂が走っている。

 

「こ、これは」

「数分前、エクスカリバーが起動したのよ」

「標的となった場所は」

「まだ分かりません。情報が錯綜していて……それにこの映像も無理やり差し込まれているものです」

 

 いつもの平和な風景なら町並みでそれがどこの国なのかも分かるものだけど今、映し出されている風景では全てが破壊し尽くされているので予想も立てられない。

 その破壊の爪痕がエクスカリバーの破壊力を物語っている。

 その時、映像に映し出されたものが目に留まり、俺たちは言葉を失った。

 

「……この場所は」

 

 ようやく箒が言葉を紡いだがもう全員の頭に目の前の場所の名前が浮かんでいることだろう。

 モニターに映し出されている映像には松明を持った右手を空に掲げてはいるが肩から斜めに切り裂かれたかのようにそこから上が存在していない。

 その像はある国の象徴ともいえる像。

 

「アメリカが……堕ちたっていうのか」

 

 そう―――映像に映し出されているエクスカリバーによって破壊し尽くされた場所は世界でも有数の軍隊を保持しているアメリカ合衆国だった。

 再び映像が切り替わると大量の何かが山積みにされたシーンが映し出され、そこに拘束された女性が横たえられている。

 

「こ、これは……全部IS!?」

「アメリカが所有している全てのISが亡国機業の手に堕ちたか」

 

 その時、画面外から爆発音が響いたかと思えば映像が切り替わる。

 そこに映し出されたのは風を纏って上空を縦横無尽に飛行するテンペスタとタイガーストライプが特徴的な一機のISがぶつかり合っていた。

 

「あれは……ファング・クエイク」

「イーリスさんだ!」

 

 暴力的な風を纏ったテンペスタと真正面からぶつかり合うファング・クエイクだけどその機体はボロボロに破壊されており、戦況はどう見てもイーリスさんが劣勢だった。

 それでも倒れないのはアメリカ代表としてのプライドからか。

 その時、ファング・クエイクの背部装甲から四つの火が噴き出すのが見えた。

 

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)をする気か」

 

 テンペスタを駆るアリーシャさんも距離を取り、さらに風の勢いを強めて己に纏わせる。

 そして互いが同時に飛び出そうとしたその瞬間、イーリスさんを空から降り注いだ蒼い閃光が一瞬にして飲み込んで地面へと激しく叩きつけた。

 同時に爆発が発生する。

 

「あ、あれがエクスカリバーの単一射撃(シングルモード)の威力か……ISを地上に叩きつけるほどの威力」

単一射撃(シングルモード)でも直撃すれば大ダメージ……」

 

 再び映像が切り替わると地面に叩きつけられたイーリスさんがISを解除した状態で横たわっている。

 撮影者は気を失ったであろうイーリスさんに近づくと小型の蜘蛛にも似た兵器を取り出し、それを彼女へ放り投げると兵器が足をイーリスさんの腕に固定する。

 そしてほんの一瞬、イーリスさんの体がビクついたかと思えば彼女の体からISの展開時に放出される光の粒子にも似たものが放たれる。

 そして彼女の近くにファング・クエイクが搭乗者もなしに展開され、地面に横たわる。

 

「あれは剥離剤(リムーバー)!」

「知っているのか一夏」

「あぁ。学園祭の時にオータムに俺も使われた奴だ……でもあの時はISのコアを分離するだけだったはず」

「亡国機業が開発したいわば発展型かしらね」

 

 その時、映像が切り替わるとアメリカの政治の拠点であるホワイトハウスが映し出されるがエクスカリバーによる射撃によっていたるところが無残に破壊し尽くされており、火の手が上がっている。

 そしてそこにはスコールの姿もあった。

 

『この中継を見ている全世界の人たち。ごきげんよう、亡国機業のスコール・ミューゼルよ』

「スコールっっ!」

『この日、この瞬間をもってしてアメリカという国は我々の手に堕ちたわ。でも安心して。私たちは国民を皆殺しにしたりなんかしない。国民にはこれまで通りに暮らしてもらうわ……唯一、変わるとすれば……日々の暮らしに争いが加わる、くらいかしら』

「こいつは……何を言っているんだ」

『我々の手にはアメリカが所有していた全てのIS……そして裏ルートで手に入れたISコアを用いて開発された裏の部隊が所持していたISもあるわ……これを分配してあげる』

 

 この場にいる誰もがスコールの言っていることを何一つ理解できないでいた。

 

『もちろん数は限られている……だから私たちのもとにたどり着いた人にこのISをプレゼントしようと思うの。もちろんそのISを使って私たちを殺しに来てもいいし、国の外に出て暴れまわっても構わない。犯罪者であろうが主婦であろうが子供であろうがテロリストであろうが私たちのもとにたどり着いた者にISをあげる。もちろん男性が来てもISをあげるわ。それをテロ組織に売り捌いて法外な金を受け取るもいいわ』

「そ、そんなことしたらアメリカが……滅茶苦茶になってしまいますよ!」

「こいつはそれを望んでいるんだ……争いを管理するとはこういうことなのか」

『ただし、つまらない行動をとった者には……それ相応の処罰をしようと思うの。たとえば私に対してこれまでに非道な行いをしてきた……この国のようにね』

 

 スコールが指をパチンと鳴らした瞬間、彼女の後方を蒼い閃光が一色に染め上げると同時にホワイトハウスを一瞬にして爆発が飲み込んだ。

 爆音と同時に大量の瓦礫があたり一面にまき散らされていく。

 

『さあ、争いを求めなさい! 我々を楽しませてちょうだい! 私はそれを望んでいるのだから!』

 

 その高らかな宣言を最後に映像は途切れ、元の放送へと戻ってしまった。

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