Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百七十二話

 ―――悪夢の中継の一時間前。

 

 上空にはISを展開した状態のレイン、フォルテ、スコール、アリーシャの四人が滞空しており、その遥か下にはアメリカの象徴たるホワイトハウスがあった。

 アリーシャはあまり乗り気のなさそうな表情をしているがほかの三人はエクスカリバーという最強の兵器を経てか、それともスコールとの話を経てなのかやる気に満ちている。

 

「エクスカリバーも待機状態(スタンバイモード)に移行したわ……さ、少しの間だけ私個人の復讐に付き合ってもらうわよ」

「任せてくれ、叔母さん」

「やるときはやるっすよ」

「……」

「アリーシャ、随分やる気がなさそうね」

「私はスコールの復讐を手伝うためにこっちに来たわけじゃないからネ。やる気も出ないサ」

「そのために貴方には最初くらいしか役割を与えていないのよ?」

 

 スコールの一言にアリーシャは小さくため息をつく。

 その態度が気に喰わなかったのかレインは食って掛かろうとするがそれをフォルテが抑える。

 

「さ、行きましょう」

 

 スコールの言葉と同時に四人が降下していくがアリーシャとレインの二人は徐々に降下速度を上げていき、そして地上が見えてきたと同時にレインは犬頭から火球を二つ生成する。

 アリーシャは両手に小さな風の渦を作り出す。

 

「作戦…開始」

 

 レインとアリーシャが地上に降り立ったと同時に両手を地面に叩きつけた瞬間、風の渦と炎が混ざり合って一瞬にして火災旋風を生み出す。

 生み出された火災旋風はその大きさを拡大するとホワイトハウスを中心にして一瞬にして包み込むと外部からの侵入を阻むように荒れ狂う炎で周囲を燃やし尽くしていく。

 

「出てきたっすね」

 

 突然の緊急事態にホワイトハウスから武装した警察、そしてSPの男たちが銃をもって出てくるが待っていたと言わんばかりにフォルテが両手にマシンガンを展開し、引き金を引く。

 人に向けて撃つべきではない威力の無数の弾丸がホワイトハウスから出てきた男たちを貫き、一瞬にして血だまりを無数に作り上げていく。

 放たれた弾丸はホワイトハウスの外壁に大きな穴を次々と開けていく。

 

「さ、行くわよ。レイン、フォルテ」

 

 アリーシャにこの場を任せたスコールたちはISを展開したままホワイトハウスへと侵入する。

 露払いとしてレインが大小さまざまな火球を生み出して周辺に適当に放り投げていき、フォルテが先ほどと同様にマシンガンを適当に周辺にぶちまけていく。

 

「さてと……目指すは大統領執務室よ」

 

 スコールはそう言いながら床を強めに踏みつけると彼女の脚部装甲を伝って廊下を伝うように炎が進んでいき、一瞬にして通路を火の海へと変える。

 炎は道の流れに沿って進んでいく。

 

「これで誰も部屋からは出られない……一つずつ確かめていきましょう」

「叔母さん。大統領以外に遭遇したらどうする?」

「任せるわ」

 

 レインとフォルテは曲がり角でそれぞれ分かれていく。

 スコールも適当な部屋の扉を開けると数発の弾丸がゴールデン・ドーンの装甲をかすめていくがISに人間兵器など無意味。

 彼女は外れたと言わんばかりにため息をつきながら火球を部屋に放り投げ、扉を閉める。

 室内から男性たちの断末魔とともに窓ガラスが割れる音が聞こえるが彼女は気にも留めずに次の部屋を開けるとそこには議員らしきスーツ姿の男女が部屋の隅に固まっていた。

 

「あら。これはこれは、議員先生ではありませんか」

「き、君は一体何をしに来たんだ!」

「そ、そうよ! 世界の警察たるアメリカにこんなことをするなんて!」

「世界の警察? ふふっ、いつまでそんな設定を信じているのかしら」

 

 スコールは火球を生み出すとそれを議員に向かって投げるがその火球は途中で勢いを失い、床に落ちて議員たちを囲うようにして床を燃やし始める。

 そこにさらにスコールは炎をつぎ足し、さらに火の勢いを強め、部屋を後にする。

 恐らく少し時間が立てば炎の熱と一酸化炭素中毒によって議員たちは惨たらしく死ぬことになるだろうがスコールにとってはどうでもいいこと。

 

「そろそろIS部隊が来る頃かしら……頼んだわよ、アリーシャ」

 

 

 

――――――☆――――――

 アリーシャの愛猫であるシャイニィが一鳴きするとアリーシャは頭を優しく撫でる。

 侵入者を阻むための火災旋風の中心でアリーシャはシャイニィとの何気ない日常の一コマを過ごしているとその視線が旋風の一か所へと移される。

 

「だらぁぁぁっ!」

 

 火災旋風に穴が開くと同時にそんな気合のこもった叫び声と同時にタイガーストライプの機体カラーのISが飛び込んできてアリーシャめがけて拳を突き出す。

 しかし、アリーシャはシャイニィを手で覆いながら危なげなく一撃を回避する。

 

「シャイニィ、陰に隠れてナ」

 

 愛猫を安全な場所へと移したアリーシャは侵入者の方へと視線を向けるとそこにはタイガーストライプが特徴のIS―――ファング・クエイクとその搭乗者のイーリスがいた。

 火災旋風に突入するという無茶をしたせいかファング・クエイクの機体には少しダメージが見られるがそんなことはお構いなしにイーリスはアリーシャに殴り掛かる。

 その拳はアリーシャが後ろへと飛びのいたことで地面に穴をあける一撃となった。

 

「挨拶もなしに殴り掛かるなんてアメリカの国家代表様は礼儀がなっていないネ」

「テロリストに堕ちたてめぇに言われたくねえよ!」

 

 瞬時加速を発動させ、爆発的な加速を持った飛び蹴りが繰り出されるがアリーシャの腕部装甲で受け止められると同時に噴き出した突風により威力を相殺される。

 アリーシャはイーリスの足を掴み、回転を加えて地面めがけて叩きつける。

 地面が爆ぜるようにして土が舞い上がるが地面にはイーリスの両手が埋まっており、今の一撃を両手だけで受け止めたのかと少しだけアリーシャの表情が変わる。

 体を回転させながらの蹴りをアリーシャの手に当てることで拘束を解き、イーリスは一度距離を取る。

 

「なんでてめえは亡国機業なんかに堕ちたんだ!」

 

 スラスターを吹かし、アリーシャとの距離を一瞬で詰めると連続的な正拳突きを放っていくがアリーシャの落ち着いたいなしによりすべて叩き落とされていく。

 ならばと言わんばかりに足めがけて蹴りを放つがそれもアリーシャの足の裏で止められる。

 国家代表という立場は同じだが相手は二代目ブリュンヒルデ。

 その実力差は目に見えていたがそれでもイーリスは攻撃の手を緩めることはない。

 

「君たちには分からないサ。私の悩みなんかね」

「悩みがどうとかじゃねえよ!」

 

 正拳付きをアリーシャが受け止めた瞬間、装甲同士がぶつかり合う甲高い金属音と火花が周囲に散る。

 

「お前は全世界の憧れを背負い、イタリアっつう一国の威信を背負っていたんだぞ!? それをいとも簡単に捨てやがって! てめえに国家代表の誇りはねえのかよ!」

「そんなものはとうの昔に消え去ったサネ!」

「っぅっ!」

 

 イーリスの胸部にアリーシャの蹴りが直撃し、地面を滑るように後方へと飛んでいく。

 その瞬間、アリーシャが両手を広げると彼女の手元に風が集まっていき、それらが槍の形を成すと彼女の手中に納まった。

 全身のしなりをもって二本の風の槍を勢い良く投げ放つ。

 投げ放たれた二本の風の槍を見たイーリスは一基のスラスターを吹かすことで斜めに移動して一本目を回避し、残り三基のスラスターを同時に吹かすことで勢いよく前進する。

 そして身をよじりながらスレスレのところで風の槍の攻撃を回避し、アリーシャへと突っ込んでいく。

 

「貰ったぜ! アリーシャ・ジョセスターフ!」

 

 拳が勢いよく放たれようとしたその時、イーリスは視界の端で蒼い閃光が一瞬だけ捉えた。

 全身がよけろ、と言わんばかりに鳥肌が立ち、慌てて急停止したのちにスラスターを前方へと吹かして急速な後退を行うが片腕が青い閃光に飲み込まれ、衝撃が全身を襲った。

 

「ぐぁぁっ!?」

 

 強烈な閃光とともに大爆発が発生し、イーリスの体はいとも簡単に吹き飛んでいく。

 

「……スコール、余計な真似を」

 

 勝負の邪魔をするなと言わんばかりにホワイトハウスをじろりと睨みつけるとアリーシャは肩・腰・脚部などの局所風制御機構(マイクロ・スラスター)を最大稼働させて両手、両足に風の渦を纏わせる。

 凄まじい勢いで回転する風の渦は空気との摩擦なのか動カッターのような高周波の音を周辺にまき散らす。

 

「トドメサネ」

 

 四基の大型背部ユニットである風源機構(エア・ジェネレーター)が最大稼働を始め、巨大な風の竜巻を発生させると彼女を包み込むようにして飲み込んだ瞬間、押し出すようにして吐き出す。

 暴風ともいえる竜巻の勢いを得たアリーシャは地面に深い穴をあけながら突き進んでき、すれ違いざまにファング・クエイクの装甲を右腕の渦で切り裂く。

 

「うぉぉっ!?」

 

 風の渦による一閃が直撃した瞬間、イーリスの足元で巨大な風が発生し、彼女を上空へと持ち上げる。

 慌ててスラスターを吹かして脱出しようとするが風がぶつかり合うことで推進力が打ち消されてしまい、イーリスは風の渦から脱出が出来なかった。

 

「よっ」

「ぐぅぅっ!?」

 

 上空へと舞い上がったアリーシャが両腕を勢いよく振り下ろすとその軌道に従って風の斬撃が放たれてファング・クエイクを切り裂く。

 そして風源機構から竜巻を放出しながらアリーシャはさらに上空へと舞い上がると両足に風を纏わせてまるで巨大な鳥の足のような脚部クローを形成し、イーリスめがけて急降下していく。

 

Artiglio della Tempesta(アルティーリオ・デッラ・テンペスタ)

 

 脚部クローがイーリスに直撃した瞬間、風のかぎ爪がファング・クエイクの装甲に突き刺さるとともに拘束してそのまま地面へと急降下していく。

 イーリスは何もできないまま無残にも地面へと叩き付けられた。

 

「アメリカ代表もここまでサネ」

 

 アリーシャが動かないイーリスを見ながらそう呟き、その場を離れようとした時、ほんのわずかな物音が聞こえて後ろを振り返るとボロボロの姿でありながら立ち上がるイーリスがいた。

 

「ま…てよ……まだ終わっちゃいねえぞ!」

「……もうすぐアメリカは落ちるヨ? それなのに戦う意味はないサ」

「お前にしちゃそうかもな。でもな……あたしにとっちゃ関係ないんだよ! アメリカの代表として国を守るためにもあたしが折れちゃいけねえんだよ! てめえみたいに代表捨ててテロリスト落ちするやつにゃ分かんねえだろうけどな!」

「……分からないネ」

「最後の最後までやりあってやるよ!」

 

 イーリスは拳をぶつけ、金属音を響かせながらアリーシャへと突撃していった。

 

――――――☆――――――――

「見~つけた♪ 大統領」

「ひっ!」

 

 楽しそうな声を出しながら最後の部屋の扉を開けたスコールはついに目的の人物を見つけ、傍まで寄ると隠し持っていた拳銃が発砲される。

 しかし、ISの装甲には傷一つつかない。

 

「き、君は一体何をしに来たんだ!」

「何をしに? 決まってるじゃない……ミューゼル家の復讐よ」

「ミュ、ミューゼル家の!? わ、私は何も」

 

 その時、扉が開かれてレインとフォルテもスコールと合流する。

 

「ちょうどいいわ。この人、そこの椅子に拘束しちゃって」

「は、放せ!」

 

 二人はスコールの指示に従って大統領の両腕を掴むとそのまま引きずって近くの椅子へと座らせ、大統領の顔近くに銃口を向ける。

 

「さて、大統領閣下……ミューゼル家の呪い、知らないとは言わせないわよ?」

「わ、私が決めたのではない!」

「確かに。でも……名もなき兵士たち(アンネイムド)の存続はあなたが決定したはずよ」

「っっ……そ、それは」

「名もなき兵士たち……あれは暗殺や襲撃を主任務とする組織。でもその実態は幼いころから傭兵として生きることを強制された者たちの集まり……そしてある程度、任務をやらせたのちに全てを無かったことにする」

「き、貴様たちもいわば同罪だ! 名もなき兵士たちの殺処分を金で引き受けていたのだからな!」

 

 スコールは小さく笑みを浮かべたかと思えばハンドガンを展開し、銃口を大統領の頭部へと密着させる。

 

「ひっ」

「言ったでしょう? ここへ来たのはミューゼル家の復讐だって……始まりは私たちミューゼル家だった。過去の戦争孤児だった私の母を始まりの兵士とする集団……それが名もなき兵士たち。あなたは知らないかもしれないけれど私の母それはそれは優秀な兵士だったそうよ。自分を救ってくれた祖国のためにと言って色々な汚れ仕事を請け負い、闇の世界で名を馳せた……でもあなたたちはそれを利用した」

 

 徐々にハンドガンを持つスコールの手に力が入っていく。

 

「強き兵士から生まれる子もまた素質を持つ……そんなバカげた理論を掲げて私の母に子を何人も生ませた。私は父親が誰かは知らない……そしてあなたたちは……名もなき兵士たちの更新に入り、母を殺した」

「わ、我が国が世界で覇権を持つための必要な犠牲だったんだ」

「必要な犠牲…ね。あなたたちはそう言って私にも同じ目に遭わせた……IS適正が高かった私を生かせるために機械の体にしてまで……私は名もなき兵士たちを抜け、亡国機業へと入った……それでもあなたたちは私に仕事を回してきたわね? 名もなき兵士たちの殺処分を……自分たちの手を汚さないためにと」

「……それがミューゼル家の呪い」

「ミューゼル家の人間は父親を知らない……だから愛の対象が女に向かうのよ」

「だ、だから何だというのだ!」

「ミューゼル家に一生、解けない呪いをかけたあなたたちアメリカは……消えてもらうのよ。破滅が決定しているミューゼル家と同じようにね」

 

 スコールはそう言い放つとハンドガンの銃口を下げ、大統領の両足めがけて迷うことなく引き金を引くと発砲音とともに大統領の断末魔が響き渡り、床が血で汚れる。

 あまりの激痛に椅子から転げ落ちた大統領は血だまりの中でのたうち回る。

 

「大統領……今日をもってアメリカという国は亡国機業の支配下に入るわ」

「ふ、ふざけるな! 貴様らテロリスト風情がこの世界で生きれると思うなよ!」

「そんな世界に変えるのよ……アメリカのように争いを求める国家はいるのだから」

 

 スコールはそう言い残して二人を連れて大統領執務室を後にする。

 このすぐ後、悪夢の中継が始まり、アメリカという国家は陥落した。

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