Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百七十三話

 悪夢のような中継から一日が経った。

 アメリカが亡国機業の手に堕ちたという情報は瞬く間に世界に激震を与えた。

 世界の警察と言われるほどの軍事力を誇り、多数の腕利きパイロットも抱えていたあのアメリカが完膚なきまでにエクスカリバーによって破壊された映像はまさに地獄絵図だった。

 IS委員会は亡国機業の構成員を国際指名手配し、各国の軍部に対してすぐさま作戦行動に入る様にと伝令を送ったがあの映像を見て動こうとする国家はいなかった。

 

「……今日はいつも以上に騒がしいな」

「そうだな」

 

 箒とともに学食にいるが連日、俺を亡国機業に明け渡せとデモをしていた連中の規模はさらに拡大し、今となっては自衛隊だけではなく警察も動員する事態となっている。

 分からなくはない。

 アメリカという国家が一夜にして陥落した映像を見れば自分たちが住んでいる国もそうなるんじゃないかという不安に駆られるのは誰もがそうだと思う。

 

「みんなも……戻って来る気配はないしな」

「アメリカが陥落したんだ……そう変な動きをしてやつらに目を付けられたくないのだろう」

「ほんと、ダメダメな国ね」

「……で、なんで国家代表の楯無さんは自由に動けるんですか?」

 

 代表候補生のみんながここまで自由に動けないというのになぜか国家代表の楯無さんは自由に動いている。

 そんな疑問をぶつけると楯無さんは勢いよく扇子を広げるとそこには大きく秘密、という二文字がでかでかと表示されている。

 

「というのは冗談で……向こうからは何も言われていないの。戻ってこいとも動くなともね」

「国土のように心が広いんですかね」

「むっ? なかなかいいギャグセンスじゃないの、箒ちゃん」

「た、たまたまです!」

「ふふっ……では本題に入るわよ」

 

 コロコロと話の軸が変わることにもう慣れてしまった俺たちが逆にすごいだろう。

 楯無さんはタブレット端末を開くがよく見るとオフライン状態になっており、外部接続機器を端末につなげると画面に一つのデータが表示される。

 

「あら? オフライン状態が気になる?」

「ま、まあ」

「もしかしたらデータを盗み見されることも懸念してね。ネットワークには繋いでいないの……で、これが簪ちゃんに頼んでおいたエクスカリバー破壊作戦の概要よ」

「も、もうできたんですか!?」

「ええ。大変だったわよ? ドイツから送られてきたデータを簪ちゃんにはオフライン状態で外部機器に保存するようにお願いしてそれを受け取りに行ったし」

 

 向こう側には篠ノ之束という稀代の天才がいる以上、ネットワーク上はすべて監視されていると踏んでそんな手順を踏んだんだろうけどそれを数日で仕上げる簪も凄い。

 どおりでIS学園であんまり楯無さんの姿を見なかったわけだ。

 

「作戦はこうよ。まず、イギリスが所有している電脳ダイブ装置でエクスカリバーのシステムにダイブする。その後、電脳内でエクスカリバーの射撃ポイントシステムにこちらが設定したポイントデータを登録。そこに重撃射撃(ブラストモード)の一撃を撃たせる」

「直後の冷却時間中にエクスカリバーを破壊する……ですね」

「そう。でもこれには欠点があるの。一つは電脳ダイブに一名。そしてアリーシャ、レイン、フォルテの構成員の動きを止める要因として三名を要するの」

「つまりエクスカリバー破壊に参加できる戦力は四名だけ」

「ええ。山田先生も戦力に数えることも考えたけど作戦司令部を動かす要因としてあてるから頼れないわ。アリーシャを織斑先生が担当するとして残りの二名を誰が担当するのか」

 

 この作戦の欠点は戦力が各地に分散するということにある。

 宇宙空間に浮いているエクスカリバーという最強の兵器を破壊するためには全力で挑まないといけないが四人という少数メンバーで破壊できるのかが難点だ。

 

「ですがエクスカリバーのもとにはどうやって行くんですか?」

「そこでイギリスが用意していた対策兵器がこちら」

 

 楯無さんがページを繰ると画面に一枚の写真が表示される。

 地面に設置されている巨大な甲板のような床を囲うようにして突き刺さった四つの突起物が映し出され、その隣にイメージ映像だが実際に動く様子が再生される。

 

反重力射出砲台(グラヴィティ・カノン)。対エクスカリバー対策の一つとしてイギリスが用意していた兵器よ。重力アンカーによって反重力を発生させ、射出カタパルトを高高度まで射出。その後宇宙パッケージを装備したISで近づき、エクスカリバーを破壊するわ」

「対エクスカリバー兵器は複数あるんですか?」

「そう。箒ちゃんの言うようにもう一つあるわ」

 

 再びページが繰られるとそこに映し出されたのは巨大な望遠鏡のような兵器だった。

 

「絶対対空砲―――アフタヌーンブルー。BT兵器を使用するISのエネルギーを装填することで地上からエクスカリバーを狙撃するための兵器よ。言ってみれば超巨大なライフルってところね」

「じゃあ地上班と宇宙班の二手に分かれなきゃいけないのか」

「そうね。アフタヌーンブルーは確定でセシリアちゃん。亡国機業の対応で織斑先生と二名。エクスカリバーへの電脳ダイブで一名。エクスカリバーを破壊するので三名」

「選択肢があるようで無いですね」

 

 セシリアが地上班で固定されている以上、残るメンバーで考えなきゃいけないけどエネルギーの観点から箒は宇宙班に確定だろう。

 あとはスコールも恐らくエクスカリバーを守るだろうから俺も宇宙班に確定だし、簪も情報処理能力の面から考えると電脳ダイブ要因になるだろう。

 鈴、ラウラ、シャルロット、楯無さんの四人のメンバーをうまく分けないといけない。

 

「アメリカが陥落した以上、世界情勢は大きく揺れ動くでしょう。早々に動いてエクスカリバーを破壊し、亡国機業の暴走を止めないと本当に世界は終わってしまうわ」

「とはいっても今の状況では代表候補生は動けませんし、私たちも何も」

「その点は大丈夫よ……もう少ししたら動き出すわよ」

「「?」」

「今、どの国も今後の対応の協議でてんやわんやの大混乱。多少、ルールに違反した動きをしたとしてもそちらに人員を割けないわ」

 

 要するに混乱に乗じて作戦を遂行するということになるが今、みんなはそれぞれ自国に戻っているから俺たちで迎えに行かないといけない。

 以前と比べれば外で襲撃に遭うリスクは減少しているので俺が外を出歩いても問題はないだろう。

 

「一夏君、体の方はどう?」

「もう大丈夫です」

 

 休息期間の最中も少しずつだけど白騎士が力を使って生体再生を施してくれたから体の傷は完治しているし、今からでも戦うことだってできる。

 白式の整備も今日で全て終わる予定だから終わり次第、動かして明日の朝一にでも後整備をすれば完了だ。

 

「分かったわ。もう直、動くことになるから二人とも準備をしておきなさい」

「「はい!」」

 

 

――――――☆――――――――

 

 IS学園地下特別区画の一室で千冬は鎮座している愛機を前にしていた。

 愛機に触れると今までに感じなかった確かな暮桜の存在の気配を感じ、小さくその名を呼ぶと暮桜が光の粒子となって彼女の右手首に集まっていき、灰色のガントレットとなって装着される。

 

「暮桜……目覚めて早々悪いが激しい戦いになる……よろしく頼むぞ」

 

 千冬はそう呟きながらガントレットを優しく触れるとその場を後にした。

 

――――――☆――――――――

「帰ってきたね……暮桜」

 

 あるホテルの一室で束は足をぶらぶらと振りながら画面に打ちしだされている数値を前にしてニコニコと笑顔を浮かべながら膝に座らせているクロエの頭をなでる。

 この時をずっと待っていた束にとっては最高のタイミングだった。

 

「束様、とても嬉しそうです」

「もちろんだよ。久しぶりにち~ちゃんの全力が見られるし……なにより本物の零落白夜がようやく手に入る。醜い肉塊が使っていたパチモンなんかじゃない。本物で崇高で最高な力だよ」

「束様は何を集めているのですか?」

「ん~? そりゃもちろん“あれ”を完成させるためのパーツだよ~ん」

「むぎゅぅっ」

 

 両手でクロエの頬をぶにゅっと優しく潰す。

 束にとってこの世界がどうなろうがどうでもよく、千冬が自分を愛し、自分が愛する箒とクロエさえこの世界に居ればあとはどうでもよかった。

 たとえ一国が陥落し、国民同士がISを巡って殺し合いを行い、弾丸が飛び交う状態になろうが彼女にとってはどうでもいいこと。

 

「束様。もうそろそろここともお別れでしょうか」

「そうだね~。もうちょっとしたらち~ちゃんと暮桜も表に出てくるだろうし……手に入れられたらあとはまた世界をブラブラとしながら“あれ”を完成させないとね~」

「“あれ”ですか……最近、束様は色んなものを開発しているので分かりません」

「そうだね~。ま、醜い肉塊を殺すための最終兵器だよ」

「あ~。別のあれはもうできたのですか?」

「うん。第四世代型ISで初のデュアルコア搭載型……表と裏を兼ね備えたIS。あとは時期を見て外に出してあげればあの子が勝手に動いてくれるからね」

「ついに……束様の悲願が叶うのですね」

「そうだよ~。その時はくーちゃんもお祝いしてね」

「もちろんです」

 

 

――――――☆――――――――

 

『おりむ~、白式の動きはどう~?』

 

 夜も更けた二十時ごろ、俺は白式を展開して第一アリーナの上空をスラスターを全開に吹かしながら飛び回っており、急旋回・急上昇などを入れながらスラスターの調子を見ていた。

 楯無さんの一声で集まってくれた整備科、そして倉持技研の人たちのおかげで白式の整備は完ぺきに終わっており、後整備をすれば完了だ。

 

「あぁ、完璧だよ。のほほんさん」

『うんうん。頑張った甲斐があったよ~。ふぁぁ~……ねむねむ』

「後整備は明日の朝一にまわそう。のほほんさんも寝ないと」

『んにゃ~。そうする~』

 

 そんな気の抜けた声が聞こえなくなってから少しして俺は白式のスペックデータを目の前に表示するがこれまで見慣れていたあの四文字が消え去っていた。

 零落白夜―――今まで俺の戦いを支え続けてくれていたあの力は暮桜の魂の帰還とともに白式からは消え去っており、雪羅のクロ―モードも今となってはエネルギーの斬撃と何ら変わらない。

 その事実を知っているのは俺と千冬姉だけだろう。

 今まで零落白夜に頼り切った戦い方をしていたわけではないがいざ自分の中からそれが消えてしまうと漠然とした大きな不安に駆られる。

 そしてもう一つ、大きく変わったことがある。

 

「……夕凪」

 

 手元に展開した剣は雪片弐型ではなく新たに再構成された夕凪。

 暮桜が今まで貸してくれていた剣とは違う俺本来の剣といっても過言ではないこの剣でこれからはみんなを守っていくことになる。

 

「これからよろしくな」

 

 そう言い、夕凪を収納してからÅピットへと戻り、ISスーツからジャージへと着替えてピットを後にしようとした時、ふと箒の姿が見えた。

 

「い、一夏……今帰りか?」

「あぁ……一緒に帰るか」

「う、うむ」

 

 なんで箒がここにいるのかという野暮な質問なんてしない。

 ほとんどの生徒がこの学園にいない今、どの施設も俺たちの独占使用となっている。

 最初は新鮮な気分だったけど今となってはみんながいたあのちょっとした騒がしさが恋しい。

 夜風が優しくふく静かな学園の中を彼女と歩いているとふと、立ち止まって夜空を見上げてみると箒もそれに倣って夜空を見上げる。

 

「これから宇宙に行くんだよな」

「あぁ……そうだな」

「宇宙か~。箒はどんなところだと思う?」

「ん~……何もなくて静かで冷たい場所だろうな」

「だよな~。俺も似たような感じだ」

 

 その後の会話が長続きせず、少しの沈黙が流れた時、俺は何気なく彼女の手を握るとビクッと体を震わせた彼女がこちらを見てくる。

 

「い、一夏?」

「……ちゃんとみんなに返事、しないとな」

「……」

「この一件が解決したら……みんなに伝えようと思う。俺の気持ちを」

「……あぁ」

 

 俺の考えはもうとっくに決まっている。

 でもそれを伝えるのは今このタイミングじゃなくて亡国機業という脅威を世界から取り除いてからだ。

 平和になった世界で俺はみんなと幸せになりたい。

 

「必ず……みんなで生きて戻ろう」

「そうだな。絶対だ」

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