Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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すみませんが金曜日は更新をお休みします。


第百七十四話

 次の日の早朝、整備科の面々の後整備を終えた俺は箒とともに学園の冬服に身を包んで職員室前にいた。

 もちろんショッピングに出かけるわけでもなければ箒や楯無さんとデートに行くわけでもなく、エクスカリバー破壊作戦のためにみんなを迎えに行くためだ。

 まずは同じ国内にいる簪を迎えに行くんだけどいつにも増して激しくデモをやっている連中がいるので外に出るのも一苦労だ。

 

「それにしても……もう十二月か」

「そうだな。一月もすれば年末だ」

「今年も箒は神社の手伝いに行くんだよな?」

「その予定だが……状況がどうなっているか次第だな」

 

 現在、IS学園が置かれている状況は大変よろしくない。

 爆破テロが発生したということで警備体制が疑問視され、学園は休校が続いているし、ISというものが兵器であるという認識が広まりつつあるのでIS学園の制服が今や恐怖の象徴になりつつある。

 もちろん全員が全員っていうわけじゃないけどそんな態度を取る奴が出てきているのは事実。

 その時、職員室の扉が開くとそこから支度を終えた千冬姉と山田先生が出てきた。

 

「よし、準備は終えているみたいだな」

「もちろん……で、どんなルートで行くんですか?」

「まずは更識妹を回収する。その後は中国、フランス、ドイツ。最後にイギリスだ」

「じゃあ、イギリスでエクスカリバーを落とす」

「そうだ。今回は国家の枠組みではなく軍の枠組みでの作戦になるだろう」

 

 となるとラウラが隊長を務める黒ウサギ隊の力を借りることにもなる。

 本当だったらもっとゆっくりとした状況下で会いたかったんだけど今はそうも言ってられない。

 

「で、どこから出るんですか? 正面入り口は一夏のデモ隊が集まっていますが」

「裏に車を回してある。そこから出るぞ」

「一週間は国外での生活になりますからね。準備も万全にしていないといけませんよ? 特に十二月ですから防寒具はしっかりと用意しないと」

「そうだぞ、一夏」

「お、俺? 流石に十二月だからちゃんと入れてるよ」

「お前は日本の寒さの範疇で用意しただろう? これも入れておけ」

 

 そう言われて千冬姉から受け取ったのは下に着るヒートテックはもちろん厚手のコートやマフラー、手袋などどれも日本の標準防寒具とは一線を貸すほどに分厚い生地でできている。

 確かに三人の言うように俺は日本という島国の範疇で寒さ対策をしてしまっていたけどなぜ、三人が三人ともにそれを見抜かれたんだろうか。

 

「あ、ありがとう」

「よし。行くぞ」

 

 千冬姉の先導のもと正面ではなく学園の裏口にあたる場所から出るべく校舎内を通り、進んでいくが外からデモ隊の荒い声が聞こえてくる。

 きっとあの人たちも自分たちの生活が脅かされると思って不安なんだろう。

 裏口の扉を開けると一台の大型の自家用車が止まっており、扉を開けると一足先に乗っていた楯無さんの姿が見え、俺たちも車に乗ると静かに走り始める。

 

「もしかしてこの車、更識家の」

「そそ。いつもの車だと怪しまれるから家族用の大型車を手配したの。ちなみにテレビも見れるわよ」

 

 楯無さんが手元のスイッチを押すと天井部分から小型モニターが降りてきてニュース番組が映し出される。

 今となってはスマホやタブレット端末が広く普及しているからそんなに感動しないけど初めてこれを体験したときは心底感動したのを覚えている。

 

「まずは簪ちゃんのお迎えね。連絡はしてあるから準備は終わっているはずよ」

「みんなと会うのも数日ぶりだな」

 

 そんなとりとめのない会話をしていると車がゆっくりと速度を落としていき、どこかの敷地内へと入っていくと完全に停車した。

 

「さ、着いたわ」

「意外と近くにあるんですね。更識家って」

「まあね。ささ、一夏君がお迎えしてあげないと」

 

 楯無さんに急かされるまま車を降り、入り口から入って長い廊下を歩いて行く。

 更識家は日本家屋であり、うちの家みたいに鉄筋だのなんだのと変なものは使っておらず、柱の一本から廊下の床まで全てが木材で作られている。

 立派な作りを前に圧倒されていると襖の前に立っているスーツ姿の女性が見えるが俺たちの姿を確認するや否や小さく会釈してその場から離れていく。

 楯無さんがジェスチャーで襖を指さしてくる。

 

「簪~。迎えに来たぞ~」

 

 その瞬間、ドサドサ! と結構な量の本が床に落ちた音が聞こえ、ドタドタと室内を歩き回る音が聞こえるがその音もすぐに鳴りやんだ。

 そしてゆっくりと襖が開かれた瞬間、簪が勢いよく飛び出てきて俺の胸に飛び込んできた。

 

「っと」

「一夏……一夏だ……」

 

 俺がみんなと会うのが久しぶりであるのと同じようにみんなも俺に会うのは久しぶりだ。

 それに最後に出会ったのは俺が瀕死の状態で病院に担ぎ込まれたときだからこうして顔を合わせて言葉を聞きながら会うのもそうだし、生存報告だってまだだった。

 

「心配かけてごめん。無事に帰ってきたぞ」

「うん……信じてた」

 

 そう言いながら簪を優しく抱きしめてやると向こうも俺を抱きしめてくる。

 少しの間、互いに抱き合っていると簪が離れていき、部屋から大きなキャリーバッグを持ってくる。

 

「行こう……エクスカリバーを破壊しに」

「あぁ……また簪の力、借りるぞ」

「もちろん」

 

 

――――――☆――――――――

「次は中国ね……世界の弾丸ツアーになるわね」

「ゆっくり回りたいけど……状況が状況」

 

 楯無さんと簪は普段通りの様子でタブレット端末で記事を読んだり、動画を見たりしているが一般庶民である俺や箒、山田先生は人生初の自家用ジェットに乗るという経験を前に首の動きが止まらない。

 俺たちが知っている航空機内の作りをしていないのがまず衝撃的だ。

 機内は高級感あふれるテーブルをはさんで対面するような形でふかふかの高級チェアがいくつもセットされており、各座席の傍にはタブレット端末が配備されている。

 そして全員が見れる様に大型モニターまで配備されているので実質作戦室のような雰囲気だ。

 

「さっきから何をキョロキョロしてるの?」

「い、いや……これって飛行機ですよね?」

「当然……車は空を飛ばない」

「い、いやそうなんだけどさ……なぁ、箒」

「う、うむ……うむ」

 

 もう箒に至っては圧倒されて言葉が出てこないし、山田先生はさっきから口がぽかんと空いている始末。

 そんな中、千冬姉はいつも通りに席に座り、優雅に紅茶を飲みながらタブレット端末に指を走らせ、情報収集にいそしんでいる。

 

「もしかしてプライベートジェットに乗るのは初めて?」

「は、はい……一度、中学の修学旅行で沖縄に行くのに飛行機は乗りましたけど」

「……プライベートジェットじゃない飛行機が存在するというの?」

 

 簪のとんでもないお金持ち発言に思わずあの千冬姉までもがタブレット端末を手から落としかけてしまう。

 更識家でこのレベルのお金持ちと言うことはイギリスの名家であるセシリアの実家のお金持ち具合はいったいどれほどまでのレベルなんだろうか。

 学園祭の日に貸してもらったテーブルなんかを見ればなんとなくはわかるけど。

 

「大体、三時間もすれば着くから今はゆっくりしておきなさい」

「なぁ、箒。プライベートジェットでのゆっくりの仕方ってどうするんだ?」

「わ、私に聞くな馬鹿者!」

 

 

――――――☆――――――――

「みんな、作戦お疲れ様」

「これでミューゼル家の呪いもひと段落って感じだな、叔母さん」

 

 亡国機業傘下のホテルの最上階にあるVIPだけが使用を許可されるプールでスコール、レイン、フォルテの三人が慣れた表情で全裸のまま泳いでいた。

 アメリカ陥落の作戦を終えた彼女たちはしばしの休息をとっていたがそこにアリーシャの姿はなかった。

 

「そういや二代目ブリュンヒルデはどこに行ったっスカ?」

「野暮用、とだけ言って出かけていったわ」

「ふ~ん」

 

 そんな会話の最中、突如としてフォルテやレインの表情が驚きへと変わり、スコールの後方を凝視する。

 疑問に思ったスコールもその視線の先を振り返るとそこにはクロエと手を繋いでいる束の姿があり、つまらない物でも見ているかのような冷めた目でスコールたちを見下ろしていた。

 

「あら、篠ノ之博士。博士も泳ぎますか?」

「束さんはそんなことに体力を使う気はないよ」

「ではここへはどんなご用事で?」

「一人さ、実験に付き合ってくれる人材が欲しいんだよね。ちょっとくらいの負荷には耐えられるやつがいいんだけどいない?」

 

 束の話を聞き、少しばかり考えるスコールだったがすぐに彼女の頭に適任な人物の顔が思い浮かぶ。

 スコールは立ち上がり、バスローブを羽織ると束についてくるようにと視線を送り、プールを後にして彼女たちをどこかへと案内する。

 エレベーターに乗り、最下層である地下二階まで降りるとそこは薄暗い部屋。

 

「ここは?」

「先の作戦で捕らえた捕虜の置き場、ですわ」

 

 三人はそれ以降一切、言葉を出さないまま進んでいくと扉が見えてきた。

 スコールがその扉をドアノブを握り、勢いよく開けるとそこには壁からかけられた手錠や足かせで拘束され、全身傷だらけのイーリス・コーリングが座り込んでいた。

 

「彼女なんかどうです? イーリス・コーリング。元アメリカ代表操縦者ですので肉体的な強さでは彼女がトップ層かと思いますが」

「……」

「お気に召さないなら違う部屋にテストパイロットのナターシャ・ファイルスもいますが」

「……いや、こいつでいいや」

「我々は彼女がどうなろうが構いませんが……いったい何をなされるんですか?」

「ちょっとした実験かな」

「…好き勝手言ってんじゃねえよ」

 

 突然聞こえてきた言葉にスコールは少し驚きながら彼女の方を振り向くと口の端から血を少したらしながらも最大の敵意を向けてくるイーリスと目があった。

 

「あら。少しの間、目が覚めないように少し痛めつけたはずなのに……もう目覚めたのね」

「けっ……あの程度の殴る蹴るが痛めつけに入るとはな……亡国機業がとんだホワイト企業様だ」

「それだけ減らず口が叩けるなら十分ね。博士、彼女を実験体にしてはいかがですか?」

「そりゃいい……実験したけりゃ私にしろよ。ナタルはひ弱ですぐ弱音を吐くからよぉ」

「ま、私からすればどっちでもいいんだよ……結果さえ出せば実験動物なんてどれも同じだからさ」

 

 束はポケットから首輪のような道具を取り出すとそれをもってゆっくりとイーリスのもとへと向かう。

 

「一応、言っておくけど……叫ばないでね。く~ちゃんに迷惑だから」

 

 そう言った直後、イーリスの首元に首輪がはめられた。

 その瞬間、思わずスコールやクロエが耳を抑えてしまうほどの断末魔が地下室一体に響き渡り、同時にIS展開時に放出される粒子が放たれて辺りを明るく照らす。

 

「ほぅ……これが博士が開発した」

「そ……最適化(パーソナライズ)はいらないんだけど毎度、初期化(フィッティング)が必要だからさ。これが面倒なんだよね」

「今これは何を?」

「この子の脳にこのISのスペックデータや戦い方を電気信号として刻み込んでるんだよ。これでどんなドジっ子さんでもたちまち最強のIS使いになるってわけさ!」

「ある種の洗脳ですね」

 

 イーリスが激痛のあまりに鎖を限界にまで引っ張りながらのたうち回っている姿をスコールも束も涼しい表情をしながら見ている。

 地下室が再び静かになるまでの間、ずっとイーリスの断末魔が響き渡っていた。

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