Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百七十五話

「さ、さむぅ!」

 

 中国は北京に降り立った俺だったがあまりの寒さに身を縮こませてしまう。

 スマホで気温を調べてみると表示されたのは二℃という俺が住んでいる地域ではあまり経験することのない低い温度が表示されていた。

 俺以外のメンバーはこれを想定してかえらく分厚い防寒着に包まれているので非常に暖かそうだ。

 対して俺は“日本の防寒具”に身を包み、千冬姉から追加でもらった分厚い手袋とマフラー、コートを着てはいるがズボンに関してはIS学園の冬ズボンなので冷気が貫通してくる。

 

「と、とにかく早く中に入ろう」

「何を言ってるの?」

「へ?」

「空港内は入れないわよ? 私たちは公式な客じゃないんだから」

「……ワッツ?」

「……今、どこの国も外国からの入国を制限している。今回は無理を言って……空港だけを借りているから……空港ロビーなんかは使えない」

 

 プライベートジェットを飛ばすのもただではないと思っていたけどまさかそんな裏事情があるとは思いもしなかったし、入国制限がかかっていることも今知った。

 恐らく俺たちの一団を入国させた罰としてエクスカリバーの標的にされたくはないからだろう。

 

「じゃ、じゃあどうやって移動するんですか?」

「もう少ししたら迎えの車が来ると思うんだけど」

 

 と、俺の言葉にかぶせるように一台の車がこちらへと向かってきているのが見えた。

 やはりその車は大きめの自家用車で普通に外から見ただけではただの自家用車にしか見えない。

 自家用車が停車すると自動で扉が開いたので俺たちは車に乗り込むと再び扉が閉まり、飛行機も何も飛んでいない滑走路内を突き進んでいく。

 

「一夏」

「はい?」

「お前はこれをつけておけ」

 

 そう言われて渡されたのは茶髪のかつらと黒ぶち眼鏡の変装セットだった。

 どうやら日本と似たような状況が中国でも起きているらしい。

 そのことを察した俺は黙ってかつらをかぶり、黒ぶち眼鏡をつけて鏡を見て見るとパッと見ただけでは俺だということは分からなかった。

 

「常に伏し目で歩くんだ。周囲の声は気にも留めるなよ……あと、IS学園の制服も着替えろ」

「……あ、あの男の俺がいるんですが?」

「これでもつけていろ」

 

 そう言われて渡されたのは千冬姉のスマホと接続されているヘッドホンとアイマスク。

 どうやら一々、停車して俺を外に出してという手順を取っている暇はないらしいので仕方がなくヘッドホンをつけてスマホから曲を再生し、アイマスクをつける。

 こうなるんだったらIS学園の制服を置いてくればよかったと思ったがこれはこれでどこかで役に立つ。

 そんなことを考えていると肩を突かれたのでヘッドホンを外し、アイマスクを外すと千冬姉も含めて全員が私服姿になっていた。

 

「んじゃ俺も」

「こ、ここで着替える……しかないか」

「まぁ、すぐ終わるって」

「そ、そういう問題ではない!」

 

 何を恥ずかしがってるか分からないまま俺が上の服を脱ぐと顔を真っ赤にした箒は外へと視線をそらし、楯無さんはニヤニヤと笑みを浮かべて俺の体を見てくる。

 ちなみに簪は小さくわざとらしい悲鳴をあげながら凝視だ。

 

「着替え完了……で、今はどこに向かってるんですか?」

「中国の代表候補生が待機している宿泊所だ。本来は代表候補生育成の場所なんだがな。今は候補生を外に出さないための監獄だ」

 

 国家からすれば代表候補生は将来の国の全てと言っても過言じゃない人材だから守りすぎて過保護と言われるくらいに守る方がちょうどいいのかもしれない。

 ただ、鈴の性格からすればそんな場所に閉じ込められていてはイライラしているだろう。

 

「一夏。お前が鳳を迎えに行け。その間に私たちは報告をする」

「分かりました」

 

 一瞬、誰に何の報告をするのか疑問に思ったけど聞いている時間もないと思い、グッとこらえる。

 すると車が少しずつ速度を落としてきたので外の景色を見て見ると前方に目的の場所らしき宿泊所が見えてくるが何やら人だかりができている。

 

「あれは?」

「代表候補生たちの親御さんです。政府は代表候補生の保護を決定しましたが保護者には何の事前連絡もなく、無理やり決めたことですので連日、親御さんが集まっているんです」

「正面から行くのは少し面倒だな……ほかに経路は?」

「もちろん用意してあります」

 

 そう言うと運転手は宿泊所を少し通り過ぎた場所で左折するとぐるっと回って宿泊所の後ろで停車すると施設職員用らしき自動扉の前で停車する。

 しかし、その扉にはシャッターが降ろされている。

 

「あそこを私が開けますのでそこからお入りください。ただし、そこまで時間はかけられません」

「分かった。山田先生と篠ノ之、更識妹はここで待機。更識姉は私と来い」

「承りました」

「織斑……鳳を迎えに行ってこい」

「はい」

 

 運転手の女性が先に降りて周囲を警戒しながらシャッターを上げると合図をしたので俺と千冬姉、楯無さんはすぐに車を降りて足早に宿泊所内へと入室する。

 二人は目的の場所へと足早に向かい始め、俺も代表候補生たちがいるであろう上階へと向かおうとするが階段を屈強な護衛の男たちが守っているのが見え、思わず身を隠した。

 

「……騒ぎにならない程度に鎮圧は無理だな」

 

 それならばと宿泊所の外を出て塀に身を隠しながら建物の周辺を観察すると候補生たちがいる部屋の窓らしきものが見えた。

 二階部分と三階部分に窓があるがおそらくどちらかに鈴がいるだろう。

 

「ん~……あいつ二組だし二番目の幼馴染だから二階だ!」

 

 そんな安直なつなげ方をしてすぐそばの地面に落ちていた小石を拾い、軽く投げて二階の窓にあてる。

 待つこと数秒―――

 

「あーもうさっきからうっさい……え、えぇ!? い、一夏!?」

 

 ガラッと勢いよく窓が開くと同時に怒鳴り声をあげながら鈴が顔を出すが俺と目があった瞬間、表情を一変させて目を見開いて俺を凝視してくる。

 どうやら完全にどこかのクソガキのいたずらか外に集まっている保護者たちだと思っていたらしい。

 

「よっ。迎えに来たぞ」

「む、迎えに来たって……ちょ、ちょっと待ってなさいよ!」

 

 そう言うと鈴は室内へと戻り、外にいても聞こえるくらいの慌てっぷりの足音を響かせながら何やら走り回って再び顔を覗かせた時には何やら大きな荷物を抱えていた。

 

「ちょっとそこ退いて!」

「お、おう」

 

 指示に従ってその場から数歩後ずさると何の躊躇もなく荷物を二階から地面へと投げ落とす。

 

「ってお前は階段で降りて来いよ」

「外には護衛がいるから無理なの……行くわよー」

 

 小さな声で叫びながら鈴が二階から勢いよく俺に向かって飛び降りたので慌てて彼女を受け止める体制を作るとスポッとうまい具合に俺の手の中に彼女が納まる。

 これぞまさに空から降ってきた美少女だ。

 

「お、お前危険なことして」

「一夏ッ!」

「っとぉ」

 

 彼女を降ろすや否や俺に抱き着くとギューッと強く抱きしめてくる。

 きっと鈴も俺と対面するまで本当に生きているのかと不安な日々を過ごしていたんだと思う。

 俺は何も言わずに鈴を優しく抱きしめる。

 俺が生きてみんなのところに帰ってこれたのはみんなが俺のことを想って支えてくれたからであり、みんなが居なければ俺は死んでいただろう。

 これからも――――俺はずっとみんなと一緒に居たい。

 

「待たせて悪かったな、鈴」

「ほんとよ……ずっと待ってたんだから……バカ」

「……行こう。エクスカリバーを破壊しに」

 

 俺の言葉に鈴も頷き、手をつなぎながらこの場を離れようと振り返ったその時、俺たちの視界に一人の男性の姿が入り、思わず動きが止まる。

 その男性は何か重い病気でも患っているのか頬がかなり痩せこけており、骨と皮だけという表現に近い状態の体つきをしていた。

 でもなぜか俺は目の前の男性に見覚えがあった。

 どこかで出会ったような気はするがこれほどまで病的に痩せこけている男の人は知らない。

 

「い、一夏か?」

「ぇ……ぁ……っと」

 

 今の俺はお尋ね者ではないにしろあまりよく思われていない存在なので正体をバレたくはないんだが変装している俺をなぜこの男性は一発で見破れたんだ。

 不思議に思っていると鈴が一歩前に踏み出し―――

 

「お、お父さん」

「……ぇ? ってことは……楽さん?」

 

 正直、鈴のその言葉を聞いてもなお俺はそれを信じられなかった。

 俺が知っている鈴のお父さん―――楽さんは筋骨隆々という言葉がぴったりで中華料理屋では大きな中華鍋を両手で持って振り回していた剛腕の持ち主だ。

 でも目の前にいる男性の腕はとても細く剛腕だった、なんて言われても信じられない。

 

「な、なんでここに居んのよ……ここは立ち入り禁止の場所じゃない!」

「お前……父親に黙ってどこに行こうとしてるんだ」

「そ、それは……」

「昔から言ってんだろ。出かけるときは場所と帰る時間を言えって」

「……え?」

「ゴホッゴホッ! お前の生き方はお前が決めればいい……ただ親を心配させないでくれ。お前は大丈夫だって言っても……心配する人はいるんだよ」

 

 それはきっと鈴のお母さんのことだろう。

 別れても連絡を取り合っていた二人はきっと鈴が心配で仕方がなかったんだ。

 だから楽さんは父親として―――病気に蝕まれて辛いであろう体に鞭を打ってここまで鈴の顔を見に来た。

 

「一夏……鈴のこと、頼んだぞ」

「もちろんです……鈴は俺が守ります。それにまだ死なないでくださいよ……まだまだこれから見せたいものがたくさんあるんですから」

「はははっ! そうだな! よし! 鈴! 行ってこい!」

「……うん! 行ってきます!」

 

 俺は鈴の手を強く握りしめ、彼女とともにみんなが待っている場所へと向かった。

 

 

――――――☆――――――――

「ゴホッ……あんなこと言われちゃぁ、俺もまだ死ねないな」

「そんなこと言えてるならまだまだ死なないわね」

「……来てたのか」

「当たり前でしょ……あたしがあんたの考えに気付いていないとでも思ってるわけ?」

「……昔から全部、見透かされてたしなぁ」

「多分あの子も気づいてるわよ。あたしたちが離婚した理由」

「……強くなったな。あいつも、一夏も」

「あんたにも強くなってもらわないといけないのよ。ほらさっさと行くわよ」

「お? 病院に連れて行ってくれるのか? 久しぶりに手でもつなぐか?」

「バカ言ってんじゃないわよ!」

 

 元嫁の強烈なローキックを食らい、楽音は本気で痛みに悶えながらも彼女とともに歩き始めた。




果たしてこの展開でよかったのかと悶々としておりますが自信をもって突き進んでいきます。
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