Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百七十六話

「次はフランスだな」

 

 中国からフランスへ向かう飛行機の中でそう呟いた俺だったけどそんな呟きなど誰も聞いておらず、鈴は初めてのプライベートジェットに興奮しきっていろんなところを見て回っている。

 更識姉妹はお嬢様の雰囲気を醸し出しながらティータイムに勤しんでいるし、箒も慣れたようで鈴の世話役となり、千冬姉と山田先生は何やら奥で会議をしている。

 

「……ここくらいだよなぁ。平和な雰囲気なのは」

「すごー! 見て見て箒! テレビよ! テレビがにょきっとテーブルから出てきたわよ!」

「な、なんという薄さだ……ほ、本当にテレビなのか?」

「技術の進歩は凄いわねぇ」

 

 そんな技術の塊を身に着けているんだぞと突っ込みたかったけどとりあえず黙っておいた。

 今、飛んでいるすぐ真下ではエクスカリバーの脅威に晒されて不穏な状況に陥っている国家が数多くあり、暴動なども起きていることだろう。

 いつエクスカリバーに狙撃されるか、亡国機業に睨まれないようにとビクビクしながらすごしているはずだ。

 一刻も早くエクスカリバーと亡国機業を破壊しなければいけない気持ちがあるが急がば回れ。

 こんな時こそ一歩一歩着実に進まなければ意味がない。

 それに加えて不安なことがもう一つあった。それは――――――

 

「一夏……怖い顔してる」

「そうか?」

「思いつめるのは良くないわよ」

 

 楯無さんと簪に言われるのも仕方がないかもしれない。

 次に行くフランスへ迎えに行くのはシャルであり、同時にデュノア社がある場所だ。

 デュノア社と言えば俺の情報を取ってこいという命令を与えて彼女の何もかもを無視した行為を強制させた奴がいる場所だ。

 でも同時に以前、電脳空間で見た光景も気になる。

 本当にシャルに何もかもを無視した行為を強制する命令を出しやつが彼女が住んでいる場所を花を植えるなんかして綺麗に整えるだろうか。

 彼女が陽の下で生きれるという可能性を伝えた時のあの表情だってそうだ。

 

「……シャル」

 

 

――――――☆――――――――

 

「旦那様」

 

 高級スーツに身を包み、顎髭を生やした男性―――アルベール・デュノアが執事から耳打ちされると表情を一層厳しい物へと変える。

 彼の手元にあるタブレットに表示されている電子新聞には連日報道されている亡国機業のこと、そして宇宙に浮かぶエクスカリバーの写真が大きく掲載されている。

 

「中国を発ったか……奴らの影は」

「今のところ彼らの周囲に怪しいものは見られません」

「そうか……では手筈通りに頼む」

「分かりました」

 

 執事は深々と頭を下げて社長室を出ていく。

 一人となったアルベールはタブレットの画面に指を滑らせてページを繰ると今度は一夏の写真が映し出され、彼はそれを見ると深く息を吐く。

 

「織斑一夏……」

 

――――――☆――――――――

 

 中国から十一時間というあまりにも長いフライト終え、ようやく俺たちはフランスの国際空港であるシャルル・ド・ゴール空港に降り立った。

 空港に到着するや否やたたき起こされた俺たちは眠気眼のまま現地の人の力を借りて自家用車に乗り込んでフランスが誇る大企業であるデュノア社を目指していた。

 

「シャルロットを迎えに行けばあとはラウラとセシリアね」

「うむ。いつものメンバーが揃いつつあるな」

「でもそろそろ……襲撃にも気を付けないといけない頃よ」

 

 亡国機業にはあの稀代の天才である篠ノ之束が一枚かんでいるのは確かだ。

 彼女の技術をもってすればどこからでも俺たちの様子を監視することで動向を掴むことができ、それらはすべて亡国機業へと渡る。

 亡国機業も俺たちの行動を最も警戒しているだろう。

 

「やっぱりあいつらは……イギリスで潰しに来るのかな」

「だと思う……戦力の分散は……危険」

 

 簪の言うように亡国機業の戦力もそう多くはない。

 個別に襲撃部隊を送って来るよりかはイギリスに到着すると同時、もしくは作戦開始と同時に襲撃をかけて潰しにかかるのが一番効率的だろう。

 

「それと……昨晩、デュノア社社長から私宛に連絡があった」

 

 千冬姉の一言に車内にいた全員が驚きのあまり言葉を詰まらせた。

 連絡が来たということはデュノア社社長は俺たちの動向を把握しているということ。

 考えたくはないがすでにデュノア社が亡国機業の傘下に落ちているとすれば俺たちの動向は全て向こうに筒抜けの状態だろう。

 つまり、デュノア社に到着すると同時にハチの巣になる可能性だってある。

 そんな俺たちの不穏な空気を察知したのか千冬姉は小さく笑いながら手を横に振る。

 

「安心しろ。お前たちが思っているようなものじゃない」

 

 千冬姉の言葉に皆が安堵の表情を浮かべるがすかさず言葉が紡がれる。

 

「デュノア社社長が一夏との対談を希望しているだけだ」

「お、俺?」

 

 全員が俺の方を一斉に見てくる。

 こちらとしても話をしたかったから好都合と言えば好都合なんだけど正直、不安な要素がありすぎるのがみんなの考えだと思う。

 

「どうする?」

「……俺も社長に聞きたいことが山ほどあります……その対談、引き受けさせてください」

 

 

――――――☆――――――――

「……」

 

 軟禁にも似た状況になってから早一日が経過したシャルは満開に咲き誇るコスモスに水を上げながら朝日の眩しさに目を細める。

 

「おはようございます、お嬢様」

「おはよう……ねえ、僕はいつまでここに居ればいいの?」

「……」

 

 シャルロットの質問に執事の男性は何も答えない。

 恐らくあの人から口を滑らせるな、とでも言われているんだろうと彼女は自己解釈していると執事の男性が彼女の傍へとやってくる。

 

「お嬢様……ラファール・リヴァイヴをお預け願いませんか」

「……それはどうして? あの人の命令?」

 

 シャルロットの言葉に執事の男性は何も言わずに小さく頷くと彼女は小さくため息をつき、リヴァイヴの待機形態であるネックレスを外し、男性に預ける。

 本当であれば預けたくもないがこの監獄にも似た場所にいる以上、あの人の命令に逆らうことは何人たりとも許されることはない。

 

「ありがとうございます、お嬢さま……ではまいりましょう」

「え?」

 

 執事の男性が小さくお辞儀をしながら手を向けた先には一台の車が止まっており、扉にはデュノア社のロゴが刻まれている。

 シャルロットは少し驚きながら執事とともにデュノア社の迎えの車へと向かった。

 

――――――☆――――――――

「ここが……デュノア社」

 

 汎用機であるラファール・リヴァイブを開発したことで世界シェア第三位を獲得した超大企業の社屋はまさに超大企業という冠に相応しい規模だった。

 本社ビルを中心にして大小さまざまな施設が集結したそこはデュノア社という一つの会社というよりかは一つの地域にも見えた。

 いうなれば城下町。

 エクスカリバーの一件で厳戒態勢を敷いているのかゲートの警備にあたっている警備員は防弾チョッキを装着して銃を携帯しているレベルだ。

 

「流石は世界のデュノア社ね~」

「とても経営危機に陥っているとは思えんがな」

 

 箒の言うように外から見ただけでは確かに経営危機に陥っている風には見えない。

 そんなことを考えていると検問をパスしたのか車が動き始めてゆっくりとデュノア社の敷地内へと入っていき、後ろでは正面ゲートが閉じられていくのが見える。

 警備員の指示に従い、車は地下駐車場へと入っていき、少し進んだところで停車する。

 

「ここからは一夏だけの行動となる」

「は、はい」

「粗相をしないようにな」

 

 千冬姉の言葉を胸に刻み、車から降りると執事の男性が一人、俺の傍へとやってくると深々と頭を下げた。

 

「ようこそいらっしゃいました、織斑一夏様」

「よ、よろしくおねがいします」

「ではこちらへ。旦那様がお待ちです」

 

 男性に案内されるがまま地下正面ゲートからデュノア社へと入り、すぐのところにあるエレベーターに乗り込んで目的の場所へと向かう。

 恐らくそこにはシャルがいて、シャルの親父さん―――つまり、彼女をIS学園へと送り込んだ全ての元凶たるデュノア社社長がいる。

 

「長旅、お疲れでしょう」

「ま、まぁ……さすがに十一時間のフライトはつらかったです」

「中国からフランスまでを弾丸で飛んだわけですからね」

 

 そんな他愛のない話をしているとエレベーターは目的の階に到着し、扉が開かれる。

 執事の案内に従って進んでいくと多数の社員の方々とすれ違うがすでに話が通っているのか全員、二度見はすれど怪しむことはなかった。

 その時、前方に一際大きな扉が見えてきた。

 扉のつくりや上部に設置されているプレートから察するにここに目的の人物がいるんだろう。

 

「こちらに旦那様がいらっしゃいます」

「……」

 

 執事の男性が静かに扉を開け、後を追いかけるように室内へと入ると高級チェアーの座り、顎髭を生やした厳しい雰囲気を醸し出す男性がいた。

 その人こそ以前、電脳空間で遭遇したシャルの父親だ。

 

「貴様が織斑一夏だ」

「はい……そう言うあなたはシャルロットのお父さん……ですよね」

「いかにも。デュノア社代表取締役社長、アルベール・デュノアだ」

「そんな大企業の社長さんが……なんで俺と話なんか」

「……単刀直入に言う。お前にとってシャルロットはなんだ」

 

 予想にもしなかった質問が突然飛んできて思わず言葉を詰まらせてしまう。

 もっと道具扱いしかしていないような言葉だったり、酷い言い方なんかが飛んでくるかと思ったけどますますこの人の考えが分からなくなった。

 

「シャルロットは……今まで共に戦ってきた仲間であり……友だちであり……守るべき存在です」

「お前がシャルロットを守るというのか」

「はい」

「お前がシャルロットを守れるという確証はどこにある」

「……」

「今貴様は亡国機業が名前を出すほどの危険な存在だ。男性でありながらISを起動し、たった八か月少しでテロリスト集団と真正面からやりあおうとするいわば危険な存在だ。そんなやつがいったいどうやってシャルロットを守れるというのだ」

「……それは」

「口では何とでもいえる。たとえ貴様がどれほど強かろうが貴様は常に狙われている。そんな状態でどうやって守るというのだ」

 

 確かにアルベールさんの言うように俺は亡国機業をはじめとして様々な組織に狙われている身だ。

 俺の傍に彼女が居ればいつかは危険な目に遭う―――いや、既に危険な目に遭っている。

 

「今やテロリストとの戦争に突入しようとしているじゃないか。そんな危険な場所に居ながらお前がシャルロットを守れるという確証はなんだ」

 

 目の前の男にはっきりと言い返せる言葉、表現、言い方を俺は知らない。

 確証はなんだと言われても具体的にこの場で示せるものなんてないし、仮に俺のこれまでの戦績を示そうがアルベールさんは納得しないだろう。

 必死に頭の中で考えを張り巡らせていたその時―――

 

「確証ならある!」

 

 そんな強い言葉とともに扉が勢い良く開かれる音が室内に木霊する。

 後ろを振り返ればそこにはシャルの姿があり、ゆっくりとこちらへ近づいてくると俺に小さく笑顔を向けながら俺の隣に並び立つ―――そして俺の手を握った。

 

「シャルロット……入って来るなと命じたはずだが」

「確かに命じられました……でも僕はその命令を無視してでも一夏を守りたい」

「……」

「今まで僕はあなたの言いなりだった。言われたようにテストパイロットを務め、言われたようにデータを取るためにIS学園へと転入した……でも今は違う。僕は今、あなたの命令を無視してここに来た。一夏が僕を守ってくれてるって思っているから……この人のためなら僕は何だってできる」

「シャル……」

「一夏が僕を守ってくれるように僕は一夏の居場所を守りたい……同時に一夏の居場所でありたい。たとえ傷ついて帰ってきたとしても僕の……私の隣にいて安心してほしい。そんな存在に私はなりたい」

「その男は一生、狙われる存在だぞ? いつか必ずその危険な存在がお前にやってくるかもしれない」

「一夏とだったら乗り越えられる……私はこの八か月間で何度もそれを経験した」

 

 シャルロットの言葉に俺はもちろんアルベールさんも何も言わずにただ聞くだけ。

 発言すら許さないほどに彼女の言葉は強く感じた。

 

「私は一夏と一緒に人生を歩みたいと思ってる。彼の隣にいて……みんなと一緒にいて笑いあいながらこれからの人生を歩んでいきたい。あなたの命令をただ聞くだけのシャルロット・デュノアはもういません……ここにいるのは織斑一夏を愛しているシャルロット・デュノアという女です」

 

 それが彼女の全ての覚悟。

 彼女の全ての覚悟を真正面から受けたアルベールさんは顔を伏せ、数秒間何も言葉を発さないでいるとすっと立ち上がった。

 

「織斑一夏」

「はい」

「貴様は危険な存在だ……だがそれと同時に……人々を惹きつける存在だ……見せてもらったぞ。確かな貴様の影響力、そして娘の覚悟を」

 

 アルベールさんはそう言いながらデスクから離れ、俺たちの横を通り過ぎていくと扉を開く。

 

「ついてきなさい」

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