Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百七十八話

 フランスを飛び立ってから早一時間半ほど経過したが正直、俺たち一行の体力は限界だった。

 日本からスタートした組は俺を含めて瞼が重くなっており、山田先生と簪は既に気持ちよさそうな寝息を立てており、あの千冬姉でさえうたたねしているくらいだ。

 箒は『精神統一すれば問題ない!』と力強く断言して座禅を組み、目を閉じたのを最後に綺麗に寝た。

 

「まぁ、さすがに五か国弾丸ツアーは体力的にも無理よ。二か国目スタートのあたしでも眠いし」

「一夏も寝てていいよ? 僕が周りを見ておくから」

「そうしたいのは山々なんだけど……なかなか寝れなくてさ」

 

 実は言うと中国からフランスまでの長時間フライトの際にも寝れたのは二時間ほどで残りの時間はグルグルと頭の中で思考が動いていた。

 エクスカリバーや亡国機業のこともそうだけどこれからの俺の戦い方についてずっと考えていた。

 一つはメイン武器が雪片弐型から夕凪に代わったこと、そしてもう一つは白式から零落白夜という単一仕様能力(ワンオフアビリティー)が消え去っていること。

 正直、肉弾戦をメインにしているし、超加速推進機(アクセル・スラスター)蒼炎瞬時加速(ブルー・イグニッションブースト)だってあるから戦闘には大して支障はない。

 雪羅からも消えているのでクロ―モードはただのエネルギーのかぎ爪になり、シールドモードもただのエネルギー状のシールドなので燃費がすこぶる悪いだけになってしまった。

 

「エクスカリバーのことでしょ」

「……それもあるし、宇宙に行くのも不安だ」

「そうだよね……宇宙に行けば戦い方だって変わるし、何より無事に帰ってこれるか」

 

 ISでの宇宙空間の航行は現時点では何度か実験的にではあるが行われており、一定の成果は上げているとされているけどそれはあくまで安全を担保したうえでの飛行だけ。

 宇宙空間での戦闘など誰も考えていない。

 

「きっと……確実に亡国機業との最後の戦いになると思う」

「構成員のオータムはこちらが捕縛しているから残るは……裏切り者のダリル・ケイシーとフォルテ・サファイア、アリーシャ・ジョセスターフ、そして頭目のスコール・ミューゼルだね」

「歴史の教科書に残る戦いになることは間違いないわね」

 

 楯無さんの言うようにそれほど今回の戦いは大規模な戦いになる。

 九月から続いてきた因縁に決着をつけるだけのはずなのにいつのまにか世界の存亡をかけた戦いにまで発展するとは思わなかった。

 最初は学園祭でオータムと戦い、キャノンボール・ファストで仮面の女と戦い、そしてスコールとの因縁はそれ以降ずっと続いてきた。

 

「向こうに篠ノ之束博士がついている以上、戦力増強を図るはず」

「まさか全員、第四世代に乗り換えるとかないわよね」

「いくら篠ノ之博士とはいえ、この短期間で四基の最新機体を開発するのは難しいと思いたいね。全員、第四世代で来られたらかなり厳しいし」

「今や亡国機業の足取りは全世界が注目しているわ。だから陰でコソコソ動くのも難しいはずよ」

「……どんな状態で来ようが勝つのは俺だ」

「俺たちだ、だよ。一夏」

 

 無意識のうちに握り締めていた拳をシャルは優しく握りしめて優しく解いてくれ、鈴が後ろへ回ったかと思えば肩をもみ始める。

 

「はいはい、リラックスリラックス。あんたの悪い癖よ」

「……ありがとう、みんな」

 

 

――――――☆――――――――

「で、話って何かな? 今、束さんはくーちゃんとティータイム中なんだけど」

 

 明らかに不機嫌な表情を浮かべながら束は目の前にいるスコールに向けて言葉を強くぶつける。

 スコールは呆れ気味に小さくため息をつくが小さく笑みを浮かべる。

 

「それは失礼しました、博士……実は折り入ってお願いがありますの」

「結論だけ言ってよ」

「私のIS……ゴールデン・ドーンを“私ごと”改造してほしいの」

 

 その一言に束の表情が確かに変化する。

 スコールの体は既に機械義肢になっている以上、どう弄ろうが生身の人間とは違って叫びもしないし、失敗することもない。

 

「この戦いで私は織斑一夏と決着をつけることになる。でも今のままじゃ彼には勝てない……だから私は人間を辞めて倒すの」

「ふ~ん……じゃあその体、好きにしていいんだ」

「ええ、もちろん……ただ人の形と顔はそのままにしてちょうだいね」

「いいよ。ただし、途中で泣き叫ばないでね。面倒だから」

――――――☆――――――――

 

―――ビー、ビー、ビー!

 

「な、なんだなんだ!?」

 

 ようやくうとうとしてきたところで突然のけたたましいサイレンで目が覚めてしまい、周囲を見渡してみるとほかのみんなも同じ状態だった。

 

「何事だ!」

『本機がロックオンされています!』

 

 慌ててウインドウシェードを上げて外を見るが特に機体の周辺には敵影らしき存在は確認できない。

 恐らく地上、もしくはこの機体からかなり距離を取ったところに敵機が位置付けているんだろうが問題はその敵機の所属がどこかだ。

 亡国機業か、それとも亡国機業に堕ちた国家の軍隊か。

 

「更識、この機体にフレアは」

「もちろん搭載しています。ですが軍用ではないのでそう長くは」

「各自、いつでもISを展開できるようにしておけ……ここからは何が起きるか分からんぞ」

 

 千冬姉の言葉の直後、白い煙を上げながら強い光を発するいくつもの発行体がばらまかれていく光景が見えたかと思うとプライベートジェットのすぐのところを何かが凄まじい速度で飛んでいく。

 それが弾道ミサイルだということに気付いたのはそれが通り過ぎて爆発してからだった。

 

「パイロット! ドイツ空域まで全速で飛ぶんだ!」

『もちろんです! 皆さん何かにつかまっていてください!』

 

 プライベートジェットが大きく右に傾いたかと思えば今度は真下から数発もミサイルが白い煙を上げながら空に向かって飛んでいく。

 

「地上からの対空ミサイル!? どうなっているんだ!」

「きっと亡国機業に触発された別のテロリスト集団が手あたり次第に暴れまわってるのよ!」

 

 直後、再びフレアがばらまかれたかと思えば機体のスレスレのところを五発のミサイルが飛んでいき、上空で大爆発を起こして機体が大きく左右に揺れる。

 プライベートジェットである以上、軍用機のように迎撃用の兵器を積んでいないし、フレアなんかの自衛手段も最低限しか積んでいないはず。

 

「私が地上に降りて叩き潰してやる!」

「その必要はないわ、箒ちゃん」

 

 楯無さんがそう言うや否やあれほど頻繁にフレアがばら撒かれていたというのにそれが無くなるとともにミサイルの飛翔もピタッと止まってしまった。

 何も事態を理解できていない俺たちとは違い、顔を見合わせる千冬姉と楯無さんは互いに頷く。

 

「ね、ねえ! あれ見て!」

 

 鈴が窓の外を見ながら声を荒げたので全員が同じ方向から窓の外を見て見ると一機のISが飛行しているのが見えたが機体には国を表すデザインが施されている。

 そのデザインは―――つい先日、亡国機業によって陥落したアメリカだった。

 そしてそのISを駆っている女性のISスーツの胸にも同様に星条旗を模したデザインが施されており、一目で軍人だということが分かった。

 

「星条旗……元アメリカ所属のISか!」

「アメリカの軍人すらも寝返る状況……まさに世紀末だね」

 

 そのISを纏った人物が手を広げた瞬間、粒子が集まっていき、二丁もアサルトライフルが展開されて銃口がプライベートジェット機に向けられる。

 軍用機相手であればフレアも一定の効果を発揮しただろうけどISに対しては無力だ。

 同時にプライベートジェット程度であれば目の前のISによって金属の塊へと変えられてしまう。

 

「俺が行く!」

「ダメよ! あんた自体病み上がりでしょ! あたしがいく!」

 

 鈴がそう叫び、甲龍を展開しようとしたその瞬間、突如として外に位置付けていたアメリカのISが爆発を起こし、プライベートジェットから離れていく。

 何事かと俺たちの視線が外に集中していると逆側から一機の黒いISが景色に映りこむ。

 そのISは漆黒の装甲からいびつな突起がいくつも生えており、その姿はまるで一本の幹から無数に生えている枝のようにも見えた。

 

黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)……ラウラか!?」

「似ているけど違うよ……もしかして黒ウサギ隊(シュヴァルツェア・ハーゼ)?」

 

 外にいる漆黒のIS駆る女性はプライベートジェットを一瞥するや否や襲撃者へと突撃していった。

 

 

――――――☆――――――――

「邪魔をするな!」

「ここはすでにドイツの空域だ……これから世界を救う存在を傷つけさせるわけにはいかん」

「世界を救う? 世界を救ってくださるのはスコール様ただ一人だけ! スコール様が世界に君臨することで全ての争いは管理され、世界は素晴らしい物へと変わるのよ!」

「はっ……テロリストが管理する世界に魅了されるとは……さては貴様、アメリカの部隊でもISを与えられないほどの弱者だな?」

「黙れ!」

 

 狂乱の襲撃者は両手を広げるや否やその手中に四十五口径アサルトライフル《デスタイム・バレット》を展開して容赦なく目の前の敵―――クラリッサ・ハルフォーフへと引き金を引く。

 銃口からISの装甲すら直撃すれば破壊すると言われる対IS用の弾丸が無数に放たれていく。

 

「テロリストに堕ちた哀れな兵士……ここで眠るがいい」

 

 漆黒のIS―――黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク)より二十ものワイヤーブレードが勢いよく射出されて激しく振りかざす。

 激しく振りかざされるワイヤーブレードによって迫りくる無数の弾丸はクラリッサに届くこともなく真っ二つに切断されながら地上へと落ちていく。

 

「戦いを好んで何が悪い! ISの力は全てを支配するための力だ!」

「そうか。ISの存在がミステイクなのではなく貴様の存在自体がどうやらミステイクのようだ」

「死ね! 死ね死ね死ね死ね!」

 

 クラリッサは放たれ続ける弾丸を切り落としていきながらもスラスターを全開に吹かして敵めがけて突っ込んでいく。

 

「あ、ありえない! 弾丸を切りながら!」

 

 直後、弾切れを起こしたのか銃口から弾丸が姿を見せなくなった―――その隙をついてクラリッサは瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させ、一気に敵との距離を詰めて懐へと飛び込む。

 新たな武装を展開しようと敵はするがすでにクラリッサのトドメの一撃は準備を終えていた。

 

「っっ!?」

「悪いが貴様に時間をかけるつもりはない―――死ね」

 

 黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク)から生える鋭い棘が勢い良く伸び、相手のISを貫くと同時に装甲が一瞬にしてはじけ飛ぶ。

 ラウラの専用機―――黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)の姉妹機である黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク)にも同様にAICが搭載されているがラウラのそれとは違い、攻撃性に特化している。

 棘を相手に差し込むことで装甲内部で力場を発生させ、相手の装甲を刳り貫く事が可能。

 一瞬にして叩きのめされた相手はボロボロのISとともに地上めがけて落ちていく。

 

「安心しろ。地上で黒ウサギ隊(シュヴァルツェア・ハーゼ)が誇るEOS部隊が貴様を回収する。貴様が手に入れたアメリカのISとともにな」

 

 クラリッサは落ちていく哀れな敵に対して最大限の侮蔑の眼差しを送り、目的地へと向かう一夏たちを乗せたプライベートジェットの方向へと飛翔していった。

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