Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百七十九話

 一瞬の戦闘が集結し、静けさを取り戻したプライベートジェットは徐々にその高度を降ろし始め、前方に見えてきた滑走路に向かっていく。

 滑走路に近づくにつれて見えてきたのは空港ではなく軍の基地、そして数機のEOSがプライベートジェットを誘導するために動いていること。

 EOSの誘導に従いながら俺たちが乗るプライベートジェットは危なげなく滑走路へと降り立ち、その速度をゆっくりと落としていく。

 そして完全に停止した時、全員が同時に安堵の息を吐く。

 

「ヘ、変な汗かいちゃった」

「ISの戦闘じゃなかなか味わえない体験だったよ」

「……まるで映画のようだった」

「疲れているところにこのドキドキ感は厳しいな」

 

 各々が先ほどの緊急事態を振り返りながら展開されたエアステアを降りていく。

 最後に俺が降りると視界にウサギのペイントマークをつけた数機のEOS、そしてラウラと同じように黒い眼帯で片目を隠し、軍服に身を包んだ女性が敬礼している姿が映った。

 俺たちが地上に降り立つと同時に上空から先ほどの漆黒のISの女性が降り立ち、ほかの隊員たちと同じように俺たちに向けて敬礼する。

 

黒ウサギ隊(シュヴァルツェア・ハーゼ)副隊長、クラリッサ・ハルフォーフです。皆さんがご無事にドイツに降り立てて何よりです」

「こちらこそ礼を言う。迅速な行動に感謝する」

「お久しぶりです、織斑教官……いえ、今は織斑教諭とお呼びすべきでしょうか」

「貴様はどっちでもいい」

「ふふ、そうですか……あなたが」

 

 クラリッサさんは俺の方を見るや否や小さく笑顔を浮かべながら近づいてくる。

 

「あなたが織斑一夏さん、ですね?」

「は、はい……俺を知っているんですか?」

「もちろん。隊長から学園での話は常に聞いています。色々とあなたと話をしたいところではありますが今は時間が惜しい。全てが解決してからにしましょう」

 

 クラリッサさんの話が終えるのと同時に一台の軍用車が俺たちのすぐ近くに停車し、扉が勢いよく開かれると同時に勢いよく何かが飛び出してきて宙を舞う。

 それは―――ラウラだった。

 男に抱き着くときは高いところから飛び降りるのが通例なのかと思うが俺は確かにラウラを受け止めると強く抱きしめられる。

 

「待っていたぞ……旦那様」

「ただいま……久しぶりに聞いたな、それも」

「そうだな。ずっと言いたくて仕方がなかったんだ……無事で本当に良かった」

 

 俺の顔を見上げながらラウラは満面の笑みを浮かべ、顔を俺の胸に埋めるがどこからともなくキラキラとした視線を向けられているような気がする。

 周囲を見ると黒ウサギ隊の隊員たちが憧れの眼差しでこちらを見ていた。

 

「はぁぁ~……愛する殿方の胸に飛び込みダイブ……憧れるぅ~」

「これぞまさに愛! 戦場で再会した夫婦の愛の時間は誰にも止められない!」

 

 何やら変な方向に話が進んでいるぞ、と思っていると場をただすかのようにクラリッサさんが強く手を叩くと先ほどまでのとろけた顔が一瞬にして真剣なまなざしへと切り替わる。

 

「今は一刻を争う事態だ! 腑抜けた顔を見せるな!」

「「「「「はい!」」」」」

「教官。オペレーションルームをお使いになられますか」

「あぁ。頼む」

 

 クラリッサさんの案内のもと、ドイツ軍が普段使用しているオペレーションルームへと移動すると千冬姉はすぐさま空中投影ディスプレイを広げる。

 

「これより作戦の概要を諸君らに伝える。現在、エクスカリバーはアメリカでの軌道を最後に待機状態(スタンバイモード)へと移行している。同時に亡国機業にも目立った動きはあれ以来、見られていない。イギリス本土に全戦力を固めているとみていいだろう」

 

 映像が切り替わって空間にエクスカリバーの映像、そして亡国機業の構成員たちの写真が表示される。 

 

「作戦はまず、更識妹が電脳ダイブを行い、エクスカリバーの射撃座標を固定。その後、地上のアフタヌーンブルーを使用した超長距離狙撃、および反重力射出砲台(グラヴティ・カノン)による宇宙からの攻撃によってエクスカリバーを破壊する。作戦妨害が予想されるため地上班がこれを迎え撃つ」

 

 千冬姉が指を空間に走らせると新たな映像が映し出されて俺たちの顔写真が現れ、それらがいくつかのグループに分かれて表示される。

 

「指令班として山田先生」

「はい」

「更識妹はイギリスに到着次第、エクスカリバー専用のダイブマシンを使い、電脳ダイブによってエクスカリバーの射撃ポイントの確定、および固定化を行ってもらう」

「…はい」

「エクスカリバー破壊部隊には織斑、ボーデヴィッヒ、篠ノ之、鳳を任命する」

「「「「はい!」」」」

「更識姉とデュノアは私とともに地上に残り、襲撃が予想されるダリル・ケイシー、フォルテ・サファイア……そしてアリーシャ・ジョセスターフを迎え撃つ」

「「はい!」」

「ドイツ軍の協力もあり、既にイギリス軍が作戦の準備を開始している。我々は到着次第、作戦を即座に開始させ、エクスカリバーを破壊しにいく」

 

 その時、ふと一つの疑問が頭に浮かび、手を上げる。

 

「どうした、織斑」

「先生は指令班には入らないんですか?」

「私は……」

 

 千冬姉は少し考えた後、着ていた長袖を軽くまくるとそこにあった物の姿にこの場にいる全員が驚きの表情を浮かべてそれに見入ってしまう。

 千冬姉の手首に装着されていたもの―――それはISの待機形態であり、それがどんなISなのかは質問しなくたって全員が理解していた。

 

「アリーシャ・ジョセスターフを私が討つ。この暮桜とともに」

 

 

 

――――――☆――――――――

 

「……今日の風は何とも言えないネ」

 

 愛猫のシャイニィもそれに同意するかのように小さく泣き声を上げるとアリーシャは小さく微笑みながら頭を優しく撫でる。

 イタリア代表という座を捨てテロリストに堕ちたとしても叶えたかった望みがもうすぐ叶う。

 彼女はそれを風を受けてなんとなく理解していた。

 彼女の時間は織斑千冬が辞退し、ブリュンヒルデの座をなし崩し的に与えられたあの時から止まっており、何一つ変わっていない。

 彼女にとってはあの日以降、全ての戦いは虚無に等しかった。

 織斑千冬と違って決勝戦で戦わずして得た称号は彼女には何ももたらさず、ただただ虚しさだけが彼女の心の中を支配していた。

 

「なんと言われようとも……織斑千冬との決着をつける……」

 

 織斑千冬が現役を退き、教師の道へ進んだ時には彼女の目には何も映らなくなった。

 イタリア代表という称号も二代目ブリュンヒルデという称号も彼女の目には何も映らず、片目片腕を失ったとしてもそれは変わらなかった。

 

「シャイニィ……私は変わろうともお前は変わらないでいてくれたネ……ありがとう」

 

 共に生きてきた家族ともいえる存在にアリーシャは優しくキスを一つ落とした。

 

――――――☆――――――――

 

「フォルテ」

「ん? なんすか」

「この作戦が成功したらさ……また旅行でも行くか」

「どうしたんっすか急に」

 

 IS学園を、祖国を裏切って亡国機業に参加した二人はだだっ広いだけのプールサイドで寝そべりながらそんな他愛のない話をしていた。

 婚前旅行と称してフォルテを連れて行ったあの日、ダリルは全てを告白した。

 自分がIS学園の情報を亡国機業に横流ししていたこと、自分がダリル・ケイシーではないこと、そして自分が世界の敵であること。

 全てを告白してもなお傍にいてくれた彼女には感謝の念しかなかった。

 

「ここんところずっと働きづめだったしよ……息抜きでもしようぜ」

「良いっすね! でもうちら指名手配中っすから行けるとこ少ないっすよ?」

「バーカ。指名手配だろうと世界のお尋ね者だろうと行きたいところに行くんだよ」

「ん~、じゃあどこ行くっすか?」

「つっても将来的には中国もフランスも日本もイギリスもドイツも消えてなくなるしな……」

「あ、じゃあギリシャなんかどうっすか?」

「お? フォルテの故郷か~。そういや行ったことねえな」

「どうせうちの国は亡国機業に参加すると思うっすからうちの国じゃ指名手配もなくなってるっすよ」

「よし! じゃあこの作戦が終わったらギリシャに新婚旅行に行くか!」

「もう先輩ったら!」

 

 二人は笑顔を浮かべながらグラスを軽くぶつけあった。

 

――――――☆――――――――

「もうすぐ……ですわね」

 

 イギリス軍より連絡を受け、担当者からエクスカリバー破壊作戦の概要を聞いていたセシリアは窓の外からエクスカリバーが浮かんでいるであろ宇宙を見上げる。

 自身の役割は地上よりアフタヌーンブルーを使用して超長距離射撃によるエクスカリバーの破壊。

 アフタヌーンブルーのシステムについても聞きはしたが実際に動かせるのは本番だけであり、実質上のぶっつけ本番。

 

「祖国の失態は……わたくしが拭ってみせますわ……仲間とともに」

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