「や、やっと着いた」
「疲れたわね~」
「五か国弾丸ツアー、お疲れ様。一夏、みんな」
「ここがイギリスか……静かなものだな」
ラウラがぼそっと呟いたように今、俺たちはイギリスの空港の搭乗口を出たところにいるが職員以外と警備員以外の人間の姿が一人も見当たらない。
亡国機業に睨まれたくないという考えからみんな、自分の家に引きこもっているんだろうか。
「目的地に着けばまずは休息をとるからそこまではがんばれ」
「は、はい~……で、イギリスのお迎えはいずこに?」
「集合は外のロータリーだ」
千冬姉先導のもと誰もいない静かな空港施設内を歩いて行き、外へ出るや否やメイド服を着た女性たちがずらーっと並んで道を作っていた。
イギリスと言えば執事やメイドが有名だし、爵位なんかの貴族階級も形を変えて残っていると聞くので日本では考えられないレベルの金持ちがいる。
多分、このメイドさん御一行もその考えられないレベルのお金持ちなんだろう。
そんなことを思いながら進もうとするが千冬姉が急に立ち止まってしまう。
「千冬姉? 迎えの場所までいくんじゃ」
「ついたぞ」
「……へ?」
千冬姉の視線の先にはずらっと並ぶメイドさんたちの列。
左右一列ずつに並んだメイドさんは総勢二十四名であり、その全員がぴしっと背筋をまっすぐに伸ばし、数分の胃が身も見当たらないほどに綺麗な列をなしている。
「一夏さーん!」
メイドさんの奥より俺の名前を呼びながら金髪の髪を揺らす女性―――セシリアが全力で走りながらこちらへと向かっていた。
セシリアは満面の笑みを浮かべながら俺に勢いよく抱き着く。
「っと……セシリア!」
「よかったですわ……一夏さんがご無事で……おかえりなさい、一夏さん」
「あぁ、ただいま……セシリア」
そう言いながらセシリアの頭を優しくなでてやると彼女は顔を赤くしながら照れくさそうに微笑み、それを隠すように俺の胸に顔をうずめる。
再会を喜んだのも束の間、セシリアは俺から少し離れると一変して表情を曇らせる。
「この度は我が祖国の失態のしりぬぐいを手伝わせてしまい、申し訳ありません」
「な~に言ってんのよセシリア!」
「ちょっ!? 鈴さん!? 髪の毛で遊ばないでくださいまし!」
曇った表情を吹き飛ばそうというのが鈴の考えなのかセシリアの背後を一瞬でとるとセシリア自慢の金髪の髪の毛を二束鷲掴みにするとなぜかクルクルと勢い良く回転させる。
「別にあんたが国家元首なわけじゃないんだし、あんたが謝らなくたっていいのよ」
「り、鈴さん」
「鈴の言うとおりだ、セシリア。これはイギリスだけの問題ではない。ドイツやフランス、日本、ロシアと世界各国が共通する敵が起こした問題だ。我々も対処するのは当然だ」
「みなさん……ありがとうございます。チェルシー」
セシリアが名前を呼ぶと列の中から代表して一人のメイドさんが出てくると俺たちにうやうやしくお辞儀をし、俺たちの方を見る。
「初めまして。オルコット家のメイドをしておりますチェルシー・ブランケットと申します。これより皆様方をイギリス空軍基地まで安全に案内させていただきます」
チェルシーさんがそう言いながら手を軽く上げるとメイドさんたちが散開して行動をはじめ、俺たちの大きな荷物を預かると止められていた大型車にてきぱきと乗せていく。
用意されている大型車も今までの隠密を目的とした自家用車ではなく、セシリアの家が用意してくれたであろう超高級車だった。
「リ、リムジンだ……おい箒、リムジンだぞ!」
「う、うるさい! 大きな声ではしゃぐな!」
もうイギリスのどこかに亡国機業が隠れているということで隠そうが何しようが襲撃のリスクは避けられないという考えからなんだろうか。
「さ、皆さん乗ってください」
人生で初めてのリムジンに乗車するとドラマなどでよく見る縦に長い空間に高級ソファーやモニターが設置されており、中央には小さなテーブルまで設置されている。
更識家のプライベートジェットですでに耐性が出来ていたと思っていた庶民代表の俺と箒は本物のお金持ちの世界を目の当たりにし、思わず目が点になってしまう。
案内されるがままにリムジンへと乗り込むと静かなエンジン音を奏でながら発車する。
「長旅でお疲れでしょうし、イギリス空軍基地に到着するまでの間、ゆっくりとお休みください」
「お言葉に甘えて」
セシリアに甘えて背もたれに身を任せて目を閉じるとふかふかの座席があまりにも心地よく一瞬にして俺は睡眠の湖へとダイブしていった。
――――――☆――――――――
「そう……ありがとう」
亡国機業の構成員からの報告を受けたスコールは構成員を下がらせると気になったのかレインとフォルテの二人が彼女のもとへとやってくる。
「叔母さん、あいつらが着いたのか」
「ええ。織斑一夏たちがイギリス入りしたわ」
「じゃあ始めるんすね」
「エクスカリバーは既に射撃準備に入っているわ」
「直接、撃ちぬくんすか?」
フォルテの質問にスコールはタブレット端末であるデータを開き、彼女たちに見せる。
そこには
「おそらく彼らはこれを使ってエクスカリバーのもとへと向かってくるはず……だから彼らがこれを使う前にエクスカリバーで破壊するわよ」
「宇宙に到達できなくなればもうこっちのものだな」
「彼らを宇宙へなんか行かせない……地上で全て終わらせるわよ」
――――――☆――――――――
「―――夏! 一夏!」
「うぇ……もう……着いたのか?」
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないわよ! 急ぐわよ!」
鈴に腕を引っ張られながら大慌てな様子でリムジンから降りるとすでにみんなは降りて前方を走っており、周囲の軍人らしき人たちもあわただしく走り回っている。
その様子は明らかに非常事態だ。
「何かあったのか?」
「エクスカリバーが起動したのよ!」
「っっ!? 狙撃ポイントは!」
「ここよ!」
鈴の言葉を聞き、思わず顔をこわばらせてしまう。
今俺たちがいる場所を狙撃ポイントに選んだということは完全に俺たちの動向は向こう側にバレているということだが今はそんなことどうでもいい。
問題は準備を負えるまでに圧倒的に時間が足りないということ。
ようやくみんなに追いつくと同時に軍施設内へと入ると先導の軍人とともに簪が別の方向へと走っていく。
「簪!」
「っっ」
「頼んだぞ!」
簪は声を上げることなくただ静かに手を上げ、軍人とともにエクスカリバー専用の電脳ダイブマシーンがある場所へと走っていく。
「俺たちがすることは!?」
「あたしたちは今から特殊外装パッケージとかいいうやつをつけるらしいわよ」
「なんだそりゃ」
「詳しい説明は後でするって」
鈴からの説明を聞きながら走っているとみんながある部屋へと入っていったので俺たちもそれに倣って部屋へと入った瞬間、目の前にいた人物を前に思わず立ち止まってしまう。
その人はISスーツの上から白衣を着て銛を持ち、淡水魚を五匹ほど持った女性。
「か、篝火さん!?」
「やぁ、少年。本調子に戻ったみたいだね」
「篝火さんが何でここに」
「私もこの作戦にお呼ばれしたのさ」
「織斑、席につけ」
千冬姉に言われて慌てて鈴とともに空いている席へと座ると前方の空間に映像が投影され、見たこともない機械が表示される。
映像の端には『Output.Variable.Energy.Reverse.System』と表示されていた。
「これより本作戦について説明する。現在、更識妹はエクスカリバー専用ダイブマシーンにてエクスカリバーへと電脳ダイブ中だ。このダイブにより、エクスカリバーの狙撃ポイントの変更・固定を行う。そこへ重撃射撃を誘発させる」
「その変更後のポイントというのは?」
「……君たちは知らなくていいことだ」
珍しく千冬姉が抽象的な表現で明言を避けた。
俺たちは腑に落ちないところがあるものの時間がないこともあって誰も追加の質問はしない。
「変更後のポイントへ射撃を誘発させたのち、三時間の冷却時間中に宇宙空間へ進出し、地上のアフタヌーンブルーとともにエクスカリバーを直接叩き潰す。オルコットはこれよりアフタヌーンブルーとの接続を、宇宙班はこの場に残って特殊外装パッケージを適応させろ。デュノア・更識姉は補助を行え」
千冬姉が一通りの指示を発したのち、入れ替わる様に篝火さんが俺たちの前に立ち、空間に投影されている機械についての説明を始める。
「これは私が開発した通称―――『O.V.E.R.S.』。簡単に言えば少量のエネルギーを過剰活動させて一時的なエネルギー増大をはかる機械だよ」
「私の絢爛舞踏のような機械だ」
「そうだね。紅椿をモデルにしたんだけど……普通たる私にはエネルギーの純粋な増大化は出来なかったんだ。この『O.V.E.R.S.』の利点はエネルギーがゼロにならない限り、使用できるということ。ただし、増大させたエネルギーが持つのは一分。それを過ぎれば増大分は消失してしまう」
「でもゼロにならなければ何度でも使えるというわけだな」
ラウラの一言に篝火さんは小さく頷く。
エネルギー残量さえキチンと管理していれば紅椿とは違う方向性で無限のエネルギーを得ることができるけど継続性は遥かに劣るというわけか。
それでもエネルギーを限定的とはいえ、増幅させることができるのは凄い。
「この『O.V.E.R.S.』を宇宙に進出するメンバーのISに適応させる。ただし、紅椿だけはまともに起動できるかが不明なままなんだ」
「唯一の第四世代だからですね」
「だからこれを適応させるのはそれ以外のメンバーでお願いしたい」
「承った。ではこれより各員準備にかかれ! 準備が完了し、電脳ダイブが成功次第、出撃する!」
――――――☆――――――――
「よっと……ここがエクスカリバーの……電脳空間」
専用ダイブマシーンを使用し、エクスカリバーへと通じる電脳空間へと到達した簪は体の調子を確かめつつ、周囲を見渡し、状況を確認する。
周辺はトンネルのような作りになっており、まっすぐに続く道がひたすら続いている。
「……来て……打鉄弐式」
簪の言葉に呼応するように彼女の専用機が一瞬で展開される。
「……システム問題なし……打鉄弐式のデータだけのダイブもできた」
簪はほっと一安心しながらスラスターを吹かして長く続いている道を突き進んでいく。
エクスカリバーが単一射撃の準備を終えるのが約三十分である以上、簪はそれよりも早い時間でこの任務を終わらせる必要があった。
焦りは禁物―――しかし、急がなければならない。
周囲を警戒しながら道を進んでいたその時、打鉄弐式からの通知が彼女の視界の端に表示されると同時に姿勢を低くする。
次の瞬間、彼女の首があったところを鎌の鋭い一撃が通過していく。
「ちっ……外しましたか」
「あなたは……あの時の……主犯格」
簪の目の前にいるのはゴスロリ衣装に銀色の髪を持つ少女―――クロエ・クロニクル。
その手には体格に見合わない巨大な漆黒の鎌が握られており、ゴスロリ衣装も相まってどこか命を刈り取る死神少女のようにも見えた。
「エクスカリバーの元へは行かせません……我が主の命にかけて」
「あなたの主のことなんて……知らない……私は一夏の想いのために戦う」
簪は手に夢現を、クロエは巨大な鎌を握り締めて同時にその場から駆け出し、互いの得物を容赦なく同時に叩きつけあった。
世界の命運と決めると言ってもいい戦いが幕を開けた。