Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百八十三話

 千冬とアリーシャは飛行を続け、反重力射出砲台(グラヴィティ・カノン)から遠く離れた海上地点に静かに降り立つ。

 この時を心の底から待ちわびていたアリーシャはなぜ、この場所を選んだのかという考えなどは一切なく、一刻も早く織斑千冬との戦いを望んでいた。

 

「こうしてISを装着して対面するのはモンドグロッソ以来だな」

「そうだネ。私は何年も待たされ続けたヨ……ようやく誰にも邪魔されずにあの時を決着がつけられる」

「……アーリィ。何故、亡国機業などに堕ちた」

「そっちのほうがお前と戦える可能性が高いと思ったからサ。私にとってあの日以来、何もかもが虚無になって無意味なものになったんだヨ」

 

 第二回モンドグロッソを辞退する直接的な原因は亡国機業にある、と伝えても意味がないと悟った千冬は雪片を握り締めて切っ先をアリーシャへ向ける。

 アリーシャは待っていたと言わんばかりに風を巻き起こす。

 

「来い。アーリィ……私があの日、曲げてしまった部分を直してやる……あの時のお前のように」

「私は常にまっすぐサ!」

 

 風源機構を稼働させ、風の渦を生み出してそれに乗り、突撃していきながら両腕に風を纏わせる。

 それと同時に千冬もスラスターを吹かしてその場から飛び出し、雪片を横なぎに大きく振るう。

 両者の攻撃がぶつかり合い、火花とともに金属音が鳴り響き、千冬の連続で繰り出される突きをアリーシャは両手でいなしていく。

 

「ハハハハッ!」

 

 アリーシャは楽しそうに笑い声を上げながら脚部にある局所風源機構から風を吹き出し、足に巻き付かせて風の鎌を作り出すと回し蹴りの要領で振るう。

 それを察知した千冬は体勢を低くしながら足払いをかける。

 直後、風源機構より爆発的な勢いで風が吹き出されてアリーシャの体が上空へと舞い上がり、足払いを回避すると同時に両腕に風を纏わせて小さな竜巻を二つ生み出すとそれを千冬へと放つ。

 

「―――」

 

 千冬は何も表情に感情を出さず、ただ無を貫きながら雪片を横なぎに振るい、二つの小さな竜巻を一瞬にして切り裂くと同時に突きの構えを取る。

 前方に捉えているのは右手に風のかぎ爪を装備し、急降下してくるアリーシャの姿。

 真正面から互いの得物がぶつかり合い、激しく火花を散らせるがアリーシャは風に掬われるようにふわりと不規則に浮かび上がるとタイミングをずらして追撃を行う。

 そこに左足に装備した風のかぎづめも加わり、さらに攻撃間の隙間は小さくなっていく。

 

「はぁぁっ!」

 

 右腕を勢いよく突き出した瞬間、かぎ爪の攻撃はギリギリのところで回避されると同時に右腕自体を千冬によって鷲掴みにされ、アリーシャの表情が一変する。

 しかし、千冬はすぐにその手を離す。

 腕を解放されたアリーシャはすぐさま距離を取り、千冬を視界に収める。

 そしてようやく気付いた―――今、千冬の表情には何の色もなくただ単純に攻撃をさばき、いなしているだけだということに。

 

「……なんでそんな顔をするのサ……なんでそんな目で私を見るのサ! あの時の決着がつけられるのに! お前だってあの時の決着がついていないことは心残りじゃないのか!? 何も感じていないのか!」

「感じているさ……私はあの時、何もかもを守れなかった……弟も……ライバルもな」

「私は……私はお前に守られる存在じゃないノサ!」

 

 背中にある四基の風源機構が最大稼働を始めるとアリーシャの周囲を苛烈なまでの暴風が吹き荒れ始めたかと思えば風が集まり、彼女の両隣に彼女を模した像が形成されていく。

 これこそテンペスタの単一仕様能力(ワンオフアビリティー)である疾駆する嵐(アーリィ・テンペスト)

 

「私はお前を狩る存在! 今のお前と今の私は同じなのサ! 大切なものを失い、全てを捨てた! どちらかが守る守られる話じゃないノサ!」

「そうだな……私は大切なものを失った……だがすべてを捨てたつもりはない」

「何を持っているというノサ!」

 

 風の像である二人が同時に攻撃を仕掛けるが千冬が後方へ飛びのいたことで振り下ろされた拳が地面に叩きつけられるがその一撃が地面に深い亀裂を生む。

 その隙を狙ったかのようにアリーシャが風の槍を勢い良く投げ放ち、回避の隙を与えんと風の像たちが風の鎌を左右同時に放つ。

 

「桜花―――初桜」

「っっ!?」

 

 その呟きとともに一瞬、雪片を持つ千冬の腕がぶれたように見えた。

 次の瞬間、全方向から槍に小さな斬撃が走っていき、軌道が大きく逸れるとあらぬ方向へと飛んでいき、地面に突き刺さった。

 同時に風の像にも小さな斬撃が全体を走り、体勢を崩して千冬の両横を通過して海面を滑っていく。

 

「出たネ……織斑千冬の剣術が……懐かしいサネ」

「あの時は互いに手の内を出す前だったな」

「……何が言いたいのサ」

「お前も理解しているはずだが?」

「っっ!」

 

 アリーシャが表情を強張らせながら指を鳴らした瞬間、二体の風の像が同時に起き上って千冬を後方から拘束しようと勢いよくとびかかる。

 しかし、千冬は雪片を握り締め、振り返りざまに横なぎに一閃する。

 

「桜花―――満桜」

 

 二体の風の像が真横に切り裂かれた瞬間、その斬撃に呼応するかのように風の像の内側から斬撃が飛び出してきて全身をズタズタに切り裂く。

 切り裂かれた像はその姿を維持できなくなり、風となって消失していった。

 

「分かっているはずだ、アーリィ……この戦いがお前が求めていたレベルではないと」

「っっ!」

 

 薄々気づきはしていたが気づかないふりをしていた―――それを言い当てられたアリーシャは否定するかのようにさらに風源機構を爆発的に稼働させるとともに各部の局所風源機構をも起動させる。

 

「違う! 私は! 私はお前との戦いを望んでいたんだ! この戦いは私が望んでいたものだ! 全てを捨ててまで望んだ戦いだ!」

 

 アリーシャの両隣に竜巻が発生すると周囲の莫大な量の海水をいとも簡単に吸い上げると風に纏わせて巨大な海水による竜巻を作り上げる。

 吹き荒れる竜巻を前にして千冬は再び雪片を握り締める。

 

「思い出させてやる……お前が背負っていたものは何だったのか! あの時と今のお前の違いを!」

「黙れェェェェェェ!」

 

 アリーシャが両腕を大きく振るった瞬間、二つの竜巻が千冬を挟み込むような軌道を取り、海面を抉りながら突き進んでいく。

 千冬は回避するどころか二つの竜巻がぶつかり合う交点へとスラスターを吹かして突撃していく。

 

「だぁぁっ!」

 

 二つの竜巻と雪片がぶつかり合った瞬間、凄まじい突風が周囲に放たれて海面を大きく揺らす。

 拮抗していた二つの攻撃だったが徐々に水の経つんかいが震えるように軌道がおかしくなっていく。

 

「うえぁぁぁぁっ!」

 

 怒号を上げながら雪片を無理やり横なぎに振りぬいた瞬間、竜巻が真っ二つに切断されて消失する。

 驚きを通り越して驚愕の表情を浮かべるアリーシャのもとへと千冬は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰め、そして―――

 

「桜花―――初桜」

「くぅっ!」

 

 アリーシャの全身を無数の小さな斬撃があてられ、テンペスタの装甲に小さな亀裂が走る。

 すぐさま距離を取ろうとするアリーシャだったが二度目の瞬時加速によって距離を一瞬にして詰められ、その両手に風を巻き起こそうとするが風は生まれなかった。

 

(風源機構の過熱起動(オーバーヒート)!)

「桜花皆尽」

「っっ!」

 

 気づきたくないことに限って人間は気づいてしまう。

 第一回モンドグロッソの決勝戦でアリーシャに対してトドメの一撃となったのは零落白夜による斬撃であったがこの戦いで千冬は零落白夜を“一度も発動していない”。

 

「―――暮桜」

 

 まっすぐ振り下ろされた斬撃が装甲を切り裂いた瞬間、小さな亀裂内部から斬撃が全体へと走り、斬撃が斬撃と結合して一瞬にしてテンペスタの全装甲を粉々に切り裂いた。

 小さな斬撃を残す初桜、そして初桜で与えた斬撃を内部で個別に開放する満桜、そして初桜で与えたすべての斬撃を同時に開放し、全てを一瞬にして塵と化す最大の一撃。

 それが桜花皆尽―――暮桜。

 

(あの時と―――何が違うっていうのサ)

 

 自分はテンペスタを纏い、千冬は暮桜を纏っていた。

 それぞれの全力を出してぶつかりあって全てをかけて―――

 

(私は今……何をかけている?)

 

 第一回モンドグロッソでは何をかけていたのか、第二回ではどうなのか、そして今は何をかけて織斑千冬と戦っているのか。

 そんな自問自答が彼女の頭の中で何度も反響する。

 

(私は何をかけて……織斑千冬は何をかけて)

 

 テンペスタが砕け散って強制解除されて全ての支えを失ったアリーシャがゆっくりと海面に向けて生身のまま落下していく。

 その構図はまさにすべてを捨てた者と一つの信念を貫いた者。

 

「っっ!」

 

 突然、千冬は距離を詰めるとアリーシャの腕を掴むとそのままその場に滞空する。

 

「……何故、助けたノサ」

「届くところにいただけだ」

「……所詮、私は全てを捨てた哀れな人間サ……助けても意味はない」

「私にとっては意味がある。これ以上、周囲の人間の手をつかみ損ねるのはごめんだ」

 

 その表情にはどこか後悔の色にも似たものが出ており、彼女の脳内に誰かしらの顔が浮かんでいるのだろうがそれは千冬にしか分からないこと。

 

「アーリィ。お前は聞いたな……今の私が何を持っているのかと……今の私が持っているものは全てを捨て去ってでも守り通したいと思うものだ」

「……」

「昔のお前にもあったはずだ……だから私はあの時、お前には零落白夜を使ったんだ」

 

 あの時、自分が持っていたものは何だったのか。

 それをゆっくりと自分に問いかけると思い出してくるのは自分を信じ、支え、応援してくれる国の人々、そしてずっとそばに居続けてくれたシャイニィ。

 

「よっと」

 

 千冬は荷物を持つようにしてアリーシャを肩で抱えるとそのままスラスターを最大限吹かし、その場から最大速度で離脱を始める。

 

「っっ。どこに連れて行く気なのサ」

「ここはもう直、エクスカリバーの重撃射撃(ブラストモード)で射撃される」

「こんな辺鄙な場所をカ?」

「重撃射撃の一番の脅威はレーザーの爆発ではない……周囲にまき散らされる爆風だ」

 

 千冬のその一言でアリーシャは全てを理解した。

 地上を射撃すれば都市部やインフラが集中しているため、人的被害・経済的損失が甚大となるが海面であれば大きな津波や衝撃波などの影響はあるが“直接的で確実な壊滅”は避けられる。

 

「……全部、失った私をここへ置いていかないのカ?」

「生憎、私自身がそれを望んでいないのでな……もう一度、一からやり直せ。アーリィ」

「……」

「自分がやったことを償って……もう一度、私の前に来い」

「どれだけの年数がいると思っているノサ」

「さあな。何年でも待ってやるさ……全ての償いが終われば……その時こそ決着をつけるぞ」

 

 千冬の言葉に対してアリーシャは何も言わず黙ったまま。

 千冬はそんなアリーシャに対してそれ以上の言葉はかけず、黙って飛行し、作戦本部へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――そして十分後、簪により設定されたポイントへ重撃射撃が放たれた。

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