Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百八十四話

「そこをどけぇ!」

 

 炎をまき散らしながら犬頭が楯無めがけて突き進んでいくが楯無が手を犬頭たちに向けた瞬間、突如として爆発が連続して発生し、軌道がそれていく。

 レインは忌々しそうに舌打ちをしながら犬頭を呼び戻し、火球を形成してそれらを楯無めがけて蹴り放つが楯無に近づくにつれて火球のサイズが小さくなっていく。

 そして楯無のもとへ着弾する頃にはほんの小さな火の粉になっていた。

 

「随分と焦っているみたいね、先輩」

「てんめぇ、思ってもねえこと言いやがって!」

「あら、バレました?」

「バレバレだ!」

 

 レインは両手を広げ、対IS用兵器のショットガン二丁を展開し、楯無めがけて引き金を引こうとするが指が引き金にかかる前にショットガンが爆散する。

 

「っっ! ミストで爆発とか回避しようがねえだろうが!」

「私もそう思うわ」

「だったらちょっとは自重しろ!」

「テロリストに配慮はいらなくて?」

 

 再び火球を生成しながら後方へと下がりつつ、楯無めがけて放っていくが蒼流旋によってすべて叩き落されていき、その距離も徐々に詰められていく。

 レインはあるだけの武器を展開し、楯無めがけて放っていくがすべてミストのヴェールや蒼流旋によって無力化されるか叩き落されていくだけ。

 

(んなの勝てるわけねえだろ!)

「今、勝てるわけないって思いました?」

「っっ!? んなわけあるかぁ!」

 

 両肩の犬頭から炎を一か所に吐き出し、巨大な火球を生み出すとそれを殴りつけることで楯無に放つ。

 しかし、楯無は蒼流旋を収納すると右手を下から上へと勢いよく振り上げた瞬間、その軌跡に従ってミストのヴェールが刃となって振り上げられ、一瞬にして火球を真っ二つに切り裂いた。

 

(じ、次元がちがう)

 

 今までの更識楯無の立っている位置はまだレインの視界に入る範囲のものだった。

 しかし、今目の前にいる更識楯無の立ち位置は全く見えないところであり、まさに異次元の実力差が今目の前に広がっていた。

 もうIS学園の生徒会長などという小さな肩書では収まらないほどの実力。

 

「あなたはなぜ、フォルテ・サファイアを引き入れたの?」

「あぁ? 決まってんだろ。フォルテと一緒に世界をひっくり返すためさ」

「ひっくり返した後の世界であなたは幸せ?」

「あぁ、幸せだね」

「じゃあ、お相手さんは? その世界はお相手さんが望む世界になるのかしら」

「なるね。オレはフォルテを幸せにする。どんな場所でもな」

「そう……その世界でそれを祝福してくれる人はいるのかしら」

 

 楯無の質問にレインは黙りこくる。

 全てをひっくり返した世界などレインにとってはどうでもよく、隣に愛するフォルテが居ればそれだけで幸せであり、後のことはどうにでもなると思っていた。

 それは今でも変わらない。

 ただ、楯無に言われてようやくレインは自分とフォルテ以外の外の景色に目をやる。

 そこに広がっているのは戦火か、もしくは鉛が飛び交っているか、もしくは人の断末魔が響いているかであり、到底祝福の言葉など聞こえてくるはずもない。

 そんな世界で―――フォルテは幸せを感じるだろうか。

 

「私は今の世界で一夏君と幸せになりたい。でも私は友達も傍にいてほしいの。愛する二人しかいない世界なんてつまらないわ。きっと一夏君と家庭を築きながらみんなとわいわいしている方がもっと幸せな気がするわ」

「んなおこちゃまみたいな幸せハッピーエンドがあってたまるかよ!」

 

 再び犬頭を解き放ち、炎を吐き出していくが楯無の手に蒼流旋が握られた瞬間、双頭のこめかみ部分から真横に槍が貫通して二つを串刺しにする。

 同時に蒼流旋を投げ捨てながら楯無が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させて一瞬にしてレインとの距離を詰めて懐へと入る。

 

「っっ!」

「幸せって……みんなと作るものでしょ?」

 

 楯無が拳を振り上げた瞬間、ミストのヴェールが勢いよく振り上げられてレインの専用機である『ヘル・ハウンド』を切り裂く。

 激しく火花を散らせながらレインは地上へとゆっくり落ちていく。

 

(オレが……間違っていたのか)

 

 これまでの自分を振り返ってみるが隣には必ず愛する彼女がいて、そしてレインの脳裏に刻まれている彼女の表情はいつだって笑顔だった。

 その笑顔を守るためだったらなんだってする覚悟だったはず。

 それなのに負けてしまった。

 実力は格下だと思っていた一年生のラウラに敗北し、二年生の楯無にも敗北を喫したうえに自らの愛を否定されて完膚なきまでに叩き潰された。

 

(……いいや、間違っちゃいねえ)

 

 レインの中にある彼女の表情はいつだって笑顔だった。

 

(フォルテはオレが幸せにする……何も間違っちゃいねえ……ただ唯一、間違っているとすれば……)

 

 レインは唯一の過ちを思い浮かべ、シャルロットと戦闘を繰り広げている愛するフォルテを視界に収め、ゆっくりとその腕を伸ばす。

 

(オレがミューゼルの名を受け継いじまっただけの話だ)

 

 

 

――――――☆――――――

 空間に氷柱がいくつも形成されると勢いよく射出され、シャルロットへとまっすぐ飛んでくがシャルロットの手中に納まったショットガンが氷柱を打ち砕いていく。

 そしてショットガンを一瞬、離したと同時に手中にサブマシンガンが収まり、無数の弾丸がフォルテめがけて放たれるが形成された氷壁によって防がれる。

 

「手品が得意みたいっすね!」

高速切替(ラピッド・スイッチ)って言ってくれるかな?」

 

 スラスター・ウイングで上空へと飛翔し、氷壁を飛び越えるといつのまにかサブマシンガンはアサルトライフルへと切り替えられていた。

 フォルテはすぐさま氷柱を形成し、シャルロットへ放とうとする。

 しかし、瞬きしない間にシャルロットの目の前にエネルギーシールドが展開されて氷柱を防ぎきるとエネルギーシールドを砕くようにしてシャルロットが瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰める。

 その両手にはデュアルパイルバンカー・グレー・スケールⅡが握られていた。

 

(あの一撃は受けたくないっすね!)

 

 フォルテは後方へ大きく下がる加速を行い、シャルロットとの距離を大きく突き放す。

 当然、その距離を詰め直そうとシャルロットは加速してくるのでそこを狙い撃ちして対IS用兵器をぶつければダメージを与えられる。

 そう思い込んでいたフォルテの目の前には動きを止め、こちらに二丁の銃を向けるシャルロットの姿。

 

「痛いけど……痛みは一瞬だけだから」

 

 その一言の直後、弾丸を包んだエネルギー弾と実弾を組み合わせたハイブリッド弾が無慈悲にも連射され、フォルテの専用機『コールド・ブラッド』に直撃する。

 ボディの各所に施された水色のクリスタルが無残にも砕け散っていく。

 

(なんで……なんで勝てないんっすか! 相手は一年生のはずなのに!)

 

 フォルテはハイブリッド弾の直撃を受けながらも頭上に冷気を凝縮させて巨大な氷塊を生み出すとそれをシャルロットめがけて放り投げる。

 

「私は負けないっす! あの人と新たな世界で幸せになるためにも!」

 

 巨大な氷塊がシャルロットを押しつぶそうとした瞬間、氷塊が一瞬にして真っ二つに切り裂かれた。

 左右に分かれていく氷塊の間に立つのはその手に巨大な剣を持ったシャルロット。

 その剣はシャルロットのもう一つの専用機であるコスモスが形態変化させ、剣の形へと変化させた武器。

 

「なっ……ぁ」

「土壇場だけど……成功したね」

「な、なんスカその剣は! そんな装備……いったいどこで!」

「コスモス【モード・エペ】……あなたを打ち砕く剣!」

 

 シャルロットはウイング・スラスターを最大稼働させ、フォルテのもとへと向かっていく。

 

「私は……私はあの人と幸せになるんっすよ! それを邪魔するなぁぁぁぁ!」

 

 対IS用兵器のジャック・デニムを展開し、シャルロットめがけて容赦なく引き金を引くがウイングスラスターによる縦横無尽な動きを前に弾丸はかすりもしない。

 

「ほかの人の幸せを無碍にしている時点で本当の意味で幸せにはなれない!」

「っっ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 勢いよく剣が振り下ろされた瞬間、展開された氷壁ごとフォルテが切り裂かれてコールド・ブラッドの装甲が砕けて破片が無数に飛んでいく。

 コールド・ブラッドの破片とともにゆっくりとフォルテの体が落ちていくとともに彼女の脳内でシャルロットの言葉が嫌に強く反響する。

 

(本当の幸せってなんすか……じゃあ世界を裏切った私たちは……)

 

 フォルテはともに落下していくレインに向けて手を伸ばす。

 

(ミューゼルの名を持ってしまった先輩は幸せになれないってことっすか)

 

 それが無性に腹立たしかった。

 生まれた家のせいで幸せになれないというのか。

 フォルテは怒りのままにスラスターを稼働させて落下の速度を緩め、シャルロットを視界に収めながら怒りのままに叫び散らす。

 

「私たちとお前たちの何が違うっていうんすか! 私もお前も幸せを望むのは同じはずなのに! 生まれた家が幸せになれない原因なんっすか!?」

「他人の幸せを壊し、自分の幸せだけしか見ていなかった……だと思うよ」

「……はっ」

 

 シャルロットの最後の言葉にフォルテは言い返すのをやめ、小さく乾いた笑みを浮かべるとそのまま地上へと向かって落下していった。

 そして一瞬の砂煙が立ち上がるのを見たシャルロットはこうつぶやいた。

 

「少しでも……自分以外の幸せを願えたら……きっと変わってたと思う」

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