精密機械が集まっているエクス・ドーン内部だというのにスコールは尾からエネルギー弾をいくつも生成して構わずに俺めがけて放ってくる。
床を走り続けながらエネルギー弾を回避していくが埒が明かないと思い、方向を急転換させてスラスターを吹かしながらスコールへと突っ込んでいく。
「はぁっ!」
突撃の勢いを乗せた夕凪の突きを繰り出すが一本の尾に受け止められ、同時に両脇を挟み込むように尾が放たれるがスラスターを下向きに吹かし、その勢いのまま上空へと飛び上がる。
そしてその場で一回転しながら踵落としを彼女の肩へとお見舞いする。
鈍い音はするものの彼女の表情は変わらないのが見えた俺はすぐさまその場から離脱しつつ、雪羅の荷電粒子砲を置き土産のように放つ。
「もっと増やしてあげる」
両腕から剣が二本、展開されると三本の尾を振り上げながらスコールがこちらへと向かってくる。
剣の振り下ろしを夕凪で受け止めるともう一本が間を開けずに突き出されてきたので彼女の手首を空いている手で鷲掴みにして受け止める。
直後、彼女の脇の下をくぐる様にして尾が二本放たれてくるのが見え、体勢を後ろへ持っていこうとするが頭上からも尾が来るのが見えた。
俺はすぐさまスラスターを吹かし、正面への加速を得ると同時にスライディングするように彼女の足元を潜り抜け、背後を取ると夕凪を横なぎに大きく振るう。
「っと……なに? その剣、全然切れてないんだけど」
「……」
スコールの言うようにあの横なぎの斬撃は尾を根元から一本、切断するくらいのつもりで全力で振るった。
にもかかわらずゴールデン・ドーンの背部装甲には傷一つついていない。
あの夜の戦いで発揮した千夏を倒した威力には程遠いし、何より振るった際に全ての音が消え去るあの感覚がさっきの一撃にはなかった。
何かが―――夕凪の全てを生かす何かが足りないんだ。
俺は夕凪を収納し、拳を握り締めるとスコールは呆れたように肩をすくめる。
「拳一つで五つの斬撃をいなせるかしら?」
「俺の力は夕凪だけじゃない」
【Boost・Time】
機構が腕部や背部の装甲に露出し、姿勢を低くしながらその場から勢いよく駆け出した瞬間、エンジン音が甲高い叫びをあげながら吠え、超音速の加速を俺に与える。
行動範囲を潰すように四方八方から尾が三本、そして二本の剣が突き出されるが一つ一つ拳を叩きつけて軌道を変えながら彼女の懐へと入り込む。
「くっ!」
背後を突き刺そうと尾が戻って来るが超音速で彼女の足元を潜り抜け、背後を取ると同時に彼女の両足めがけて超音速の足払いをかけると体勢を崩す。
倒れていく彼女めがけて超音速で拳を突き出すとバキィッ! という破砕音とともにスコールが吹き飛んでいくが態勢を整え、壁上に降り立つ。
追撃を警戒してか無数のエネルギー弾が形成されて俺めがけて放たれるが機構を吹かしながら超音速でエネルギー弾を回避していき、小さな隙間に雪羅の荷電粒子砲を放つ。
放った荷電粒子砲はまっすぐスコールへと向かうが三本の尾が盾のように重なり合って一撃を防ぐ。
全てのエネルギー弾を回避すると同時にBoost・Timeが終了し、機構が粒子となって消え去る。
「……ちっ」
スコールはヒビが入った装甲部分に触れると痛むのか表情を歪ませながら小さく舌打ちをする。
宇宙空間でセシリアの狙撃で尾を一本破壊した時も痛みに顔を歪ませていたからISとスコールの感覚は接続されているんだろう。
だからエクスカリバーと完全に一体化することができた。
「地上のお仲間も必死みたいだけど……あと少しすれば地上は……どうなるかしらね?」
「そのために俺がここに来たんだ!」
その場から駆け出した瞬間、スコールは不敵な笑みを浮かべながら小さく指を鳴らす。
「ぅぉっ!?」
その瞬間、突如として体がふわりと浮いたかと思うと周辺の物も浮き始め、スコールだけが余裕の表情を浮かべながらその場に滞空する。
この空間が無重力になったと理解すると同時に身動きが取れない俺めがけて尾が二本放たれる。
両手で二本の尾を受け止めた瞬間、腹部に強烈な尾の一撃が直撃し、体勢を崩してしまう―――そこを突いてスラスターを吹かせたスコールが距離を詰める。
「はぁぁっ!」
「っぐぅっ!」
二本の剣が突き出されて白式の装甲に突き刺さり、無重力状態のままゆっくりと後方へと吹き飛ばされる。
何とかスラスターで姿勢を制御し、壁上に降り立った瞬間、再び指を鳴らす音が聞こえると同時に今度は重力が復活し、床に落ちてしまう。
顔を上げる寸前、白式から通知が表示され、転がりながら離脱したと同時にエネルギー弾が着弾する。
転がりながらスラスターを吹かして起き上がるが再び無重力となり、考えている以上に体が後ろへと動いてしまい、背中を壁に打ち付けてしまう。
「どうかしら!? 新感覚のアトラクションは!?」
楽しそうなスコールの声とともに二本の尾が放たれてくるのが見え、スラスターを吹かした勢いでその場から離脱して尾の突き出しを回避する。
エクス・ドーンと一体化している以上、この空間は彼女が支配している。
まずはそこから何とかしないと戦いにくい。
「……試してみるか……O.V.E.R.S.」
直後、O.V.E.R.S.の起動通知が目の前に表示されるとともに七割まで減少していたエネルギーが満タンにまで回復し、持続時間が表示される。
同時に俺は
「っっ!?」
「飛んでけぇぇ!」
不意を突いた荷電粒子砲の一撃だったけど尾が瞬時に彼女の目の前に集まって盾となり、彼女への直撃を寸でのところで防いだ。
雪羅の衝撃で後ろへと下がる彼女―――そして尾が開かれたと同時に彼女の表情は驚愕の色に一変する。
なんせ目の前に瞬時加速を発動させ、さっきと同じような状態の俺がいるんだから。
「はぁぁっ!」
今度は尾が間に合わず、雪羅の荷電粒子砲が直撃して大きな爆発を上げながら数歩後ろへと後ずさる彼女を瞬時加速で追いかけ、腹部に瞬時加速の直線的加速を付加させた蹴りを突き刺す。
すぐさま尾が向かってくるのが見え、その場から離脱するとO.V.E.R.S.の持続時間が終了し、増加していたエネルギーが消失する。
しかし、増加したエネルギーが消失しただけでエネルギーの総残量は変わらない。
「瞬時加速をそれほど使っておきながらエネルギー残量に変わりはない……誰がこんなものを」
亡国機業にとって篝火さんは要注意人物じゃないことが功を奏した。
稀代の天才の束さんの陰に埋もれていたからこそ亡国機業にマークされず、O.V.E.R.S.を開発できた。
あいつがこの空間を支配し、俺を倒そうとするなら俺はO.V.E.R.S.を使ってスコールを倒す。
Boost・Timeのインターバル明けは五分後、O.V.E.R.S.のインターバル明けが一分後ではあるがまだスコールの方が有利。
この空間の支配に関してはインターバルなどという物は存在しない。
「だったらこっちにも考えがあるわ……新しいアトラクションを体験させてあげる!」
「っっ?」
どこからともなくゴゴゴゴッという地響きのような低い音が響きだしたかと思えばこの空間が傾き始め、設置されていたサーバ機器が床を少しずつ滑り始める。
スコールはそんな光景を見てにやにやと笑みを浮かべる。
「お、お前! エクス・ドーン自体を傾けるつもりか!」
「傾ける? そんなの甘いわ! 一回転させるのよ!」
スコールの宣言通り、どんどん空間全体の傾きは大きくなっていき、設置されていたサーバ機器は傾きに耐えられずに床を滑っていき、俺めがけて落ちてくる。
落ちてくるものをかわし、滞空すると今度は無重力状態となった。
エクス・ドーンが上下逆さまになった頃には無重力なことも手伝ってこの空間に設置されていたものが空間銃を漂っていた。
「さあ! この状態で集中して戦えるかしら!?」
「戦わなきゃやられるからな!」
スラスターを吹かし、向かってくる尾の一撃を回避しながら彼女との距離を詰めていく―――が、次の瞬間、突如として無重力が解除され、宙に浮いていた物たちが一斉に俺に降りかかってくる。
降りかかる物たちを回避しながら放たれたエネルギー弾の数々を回避するがスコールによって支配されるこの空間内の戦闘は俺にとって不利すぎる。
エネルギー弾を回避しながら雪羅をチャージしていると三本の尾が俺めがけて突き出されるのが見え、壁に向かってスラスターを逆噴射させて後方への加速をする。
「そんな速度で行けばどうなるか分からないの!?」
「分かってるさ!」
彼女の言う通り広くはないこの空間での今の行動は一気に壁との距離を詰めることになり、それはすなわち行動可能範囲を狭めることになる。
ただ俺は気にも留めずに後方へ加速し、そしてついには壁に背が着いた。
その瞬間、スコールはニヤリと笑みを浮かべて三本の尾が俺を突き刺そうとする―――が、俺は雪羅をチャージする手を壁へとあてると彼女の表情が一変する。
「っっ! やめっ―――」
「やめるか」
直後、雪羅の荷電粒子砲が壁に直撃する。
そして同時にエクス・ドーンの壁に大きな穴が開くと内部と外部の気圧差による吸い込みが発生して俺やスコール、挙句の果てにはサーバ機器などが一斉に外へと吸い込まれていく。
「うぉぉぉっ!?」
「くっ! 織斑一夏ぁ!」
「っと」
スラスターを吹かして横なぎに振るわれる尾の一撃を回避しながら彼女との距離を開ける。
「せっかくエネルギー弾の威力を調整していたのに無駄だったな……これで戦う条件は同じだ」
「条件が同じにあろうがエクス・ドーンの力がある以上、その差は―――」
直後、スコールの背後を極大な蒼い光が通り過ぎていく。
スコールが驚いた表情を浮かべながら後ろを振り返ると同時にエクス・ドーンに直撃してその機体に大きな損傷を与える。
「これでエクス・ドーンの小型ドローンの援護はなくなったな……ナイスタイミングだ、セシリア」
『礼には及びませんわ』
「……そうか。エクス・ドーンに入る前に回線を繋いだままにしておいたのね……でも戦闘の音だけで狙撃のタイミングを判断するなんて」
「うちの狙撃手を誰だと思ってんだ? じゃあ、第二ラウンドと行こうか!」
スラスターを吹かしてスコールのもとへと向かったその時、右側から凄まじい衝撃とともに全身に激痛が走り、大きく体が吹き飛ばされてしまう。
まさかと思い、輝きが通ってきた方向を向くとそこには銃口を俺に向けたエクス・ドーンの姿があった。