Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百九十三話

「皆様、此度の戦いはお疲れさまでした。イギリスが誇る様々な料理をご用意しましたので存分にご堪能ください」

 

 チェルシーさんのその一言から祝勝会が始まった―――でも千冬姉や山田先生を含めても十人程度しかいないパーティーの参加者に対して用意された場所があまりにも広いため皆、呆気に取られていた。

 目の前に用意された食事も最高級の食材が使われているのは目に見えており、なかなか箸が進まない。

 

「美味い……美味いんだけど食べづらい」

「分かるわ、一夏」

 

 テーブルに所狭しと用意された高級な料理、そして壁際に待機している数多くのメイドさんたちの視線も相まって俺や鈴、箒などの一般庶民生活しか知らない三人はなかなか箸が進まない。

 簪や楯無さんでさえ、圧倒的なお金持ちオーラに若干押され気味だ。

 ラウラくらいだろうか。

 そんなオーラを気にも留めずに食事に舌包みをうっているのは。

 

「ん? 旦那様は食べないのか?」

「い、いや食べるぞ? 食べるんだけど空気がな」

「空気? ふむ……ぱくっ」

「あー! ラウラあんた! あたしが狙ってたお肉取ったわねー!」

「ふん。食事は戦場。予約制などありはしないのだ」

「きーっ! もう空気なんか気にしてられないわ!」

 

 ラウラにお肉を取られた鈴は先ほどまでのお淑やかさはどこへ消えたのか、ガツガツっといつも通りのがさつさを出しながら片っ端から食事に手を出していく。

 そんな姿を見て俺や箒も空気を気にしているのが馬鹿らしくなり、互いに笑いながら箸を進める。

 

「うん。美味しいっ!」

「イギリスは食事がまずいなどと言う話もありますがそんなことはないでしょう?」

「うまうま」

「もう、ラウラ。口にソースついてるよ」

「…美味」

「くっ。ナイフとフォークは使い辛い!」

「お箸をご用意しましょうか?」

「い、いえ! 郷に入っては郷に従え。ナイフとフォークで行かせていただきます!」

 

 ナイフとフォークに四苦八苦している姿を見てメイドさんが箒に提案するが武士気質な彼女からすればお箸で妥協するというのが気に喰わないらしい。

 しかし、ステーキを切ろうとするがうまく切れずに逆にステーキ自体が動いてしまって切れない。

 

「箒、切ろうか?」

「一夏よ。情けは無用だ」

「お、おう……でも冷えると余計にお肉固くなるぞ?」

「……切ってくれ」

「ほいよ」

 

 せっかくの上質なお肉が固くなってしまってはもったいない、と悟ったのかしぶしぶ、箒は俺にさらごとステーキを渡してくる。

 それを受け取ってちゃちゃっと一口サイズにステーキを切り分けてやるとよほど悔しかったのか口の端を震わせながらステーキを口へと運んでいく。

 こればっかりは練習して慣れていないとなかなか難しい。

 特に箒は普段から和食中心の食事だからナイフとフォークを使うことなんてない。

 

「あっちは大丈夫かな?」

「ん? ……シャル、見ない方がいい」

 

 シャルが小声で俺に話しかけてきてある方向を指さすが俺はそっと視線を外す。

 そこには高そうなシャンパンやワインなどをガンガン開けて飲み進め、顔を真っ赤にして何やら山田先生と大人な話でもしている千冬姉の姿があった。

 二人とも綺麗なドレスを着ているがその空気はどこかどんよりとしている。

 多分、子供の俺たちが触れてはならない領域だと思う。

 

「にしてもこれから世界は安定するのかしらね」

「…アメリカは陥落……イギリスもエクスカリバーのことで……社会的地位は失墜」

 

 セシリアに預けたすべての情報は彼女の判断によって全てが開示される運びとなっている。

 彼女も悩んだみたいだがイギリスに巣食う闇は吐き出すという結論に至り、セシリアの家と長年付き合いがある政治家に託された。

 エクスカリバーのことでぐちゃぐちゃになったイギリスにさらなる打撃を与えることとなるがこれもこれからの新たなイギリスのために、という意思に賛同する政治家は多数いるとのこと。

 

「イギリスも現内閣は総辞職。当分、イギリスの国内情勢も荒れるでしょう」

「クラリッサに聞いた話だが陥落したアメリカには当面、IS委員会から派遣される多国籍軍によって治安維持がされるらしい」

「あ、その話僕も聞いた。ドイツ軍もそうだし、日本からも自衛隊が派遣されるんだよね?」

「そうね……ただここだけの話なんだけど……アメリカのIS部隊に所属していた軍人が一人、行方不明になっているらしいの」

 

 楯無さんが言っていた話は俺も聞いている。

 アメリカが誇っていたIS部隊に所属していた軍人のうち、ナターシャさんは無事に保護されたみたいだけどイーリスさんだけがまだ見つかっていない。

 あの時のライブ映像にはしっかり映っていたし、ナターシャさんと同じようにイーリスさんも同じ場所で捕縛されていたはずなのに何故かいない。

 

「世界中に散らばったアメリカのISも少しずつ回収が進んでいるけど……落ち着くまではまだまだ時間がかかりそうね……一夏君も気を付けてね」

「はい」

 

 俺の命を積極的に狙っていた亡国機業が滅び去ったとはいえ、俺という存在に価値を見出している外部組織は表に出てきていないだけでも多数存在するだろう。

 特にその筆頭候補となる存在は―――篠ノ之束。

 世界で最も俺に殺意を抱いていると言っても過言ではない存在は亡国機業に手を貸していたとされているが現在のところ何の痕跡もなく姿を消している。

 スコールのISに改造を施したのも束さんで間違いない。

 箒をチラッと見るがその表情には陰りという物は見えないが内心、自分の姉がテロリスト集団に手を貸しているということは重くのしかかっていると思う。

 

「そう言えばエクスカリバーの破片とかはどうなったんだ?」

「おそらく大半が大気圏で燃え尽きているでしょう。今のところ被害の話も聞いておりませんわ」

「次に宇宙に行くときは平和に行きたいものだな。旦那様」

「そうだな。にしても宇宙って汚かったな~」

「あたしもそう思ったわ。話に聞いていた以上の宇宙ゴミだらけだったわね」

 

 宇宙開発の妨げになることもあるらしいが近い将来、ISによる宇宙航法に安定性が担保されれば宇宙ゴミの掃除も立案されると思う。

 戦いの最中は全く気にはしなかったけどやっぱりあのごみの量は問題だ。

 

「とりあえず日本に戻ったらまずは……勉強だよな」

 

 俺のつぶやきがどうやら皆の耳にも届いたのか全員の箸が一瞬止まり、中でも鈴に関しては余計なことを言うなという恨めしそうな表情で俺を睨みつけてくる。

 現在、IS学園は爆破テロの件もあって休校中だけど学力維持を目的に大量の課題が配布されており、それは俺たちも例外じゃない。

 ただ一週間近く課題に触れていないのでもうたまりにたまっているのだ。

 簪や箒、楯無さんのように学力が高かかったり、シャルやセシリアのように要領よく進められるやつはいいが俺のような低学力、鈴のような無計画の奴はもう破滅だ。

 ただでさえ二学期に入ってから授業内容も難化してきているというのにそこに大量の課題が降ってくればそれはもう涙が止まらない。

 

「ま、まぁ今はとにかく」

「楽しんでるか~」

 

 シャルが俺を慰めようとしたその時、後ろからワインの香りをふんだんに漂わせている千冬姉が抱き着いてきて俺の方に顔を乗せてくる。

 その表情は酔いが回っているのか真っ赤だ。

 

「千冬姉、飲み過ぎじゃない?」

「そんなに飲んでなどいない。ワインを三本、シャンパンを……何本か開けただけだ」

 

 チラッと大人席を見るとテーブルにぐでーっとなって目を回し、メイドさんたちに介抱を受けている山田先生の姿が見えた。

 この人は一体、どれだけのアルコールを体内に取り入れたんだ?

 

「お前も随分と……強くなったな」

「千冬姉」

「お前だけじゃない。この場にいるこいつらもだ……世界は安泰だな」

 

 八か月前に入学した当初から考えれば俺たちの成長曲線は見たことがない形を取っているだろう。

 いったい何人、公式試合で使用が禁止されるレベルの威力を持つ技を持っているんだと思う。

 

「にゃん! 先輩~、まだまだ飲みますよ~」

「むっ? 仕方があるまい……酔いつぶれないように私が管理してやろう」

 

 どっちも酔いつぶれてるだろと心の中で突っ込んでいるとふらふらと覚束ない足取りで山田先生と千冬姉は再び大人席へと戻り、お酒を飲み始める。

 視線を戻すとみんなの楽しそうな姿が映る。

 箒、セシリア、鈴、ラウラ、シャル、簪、楯無さん―――戦いの最中にずっと望んでいたのは彼女たちと過ごすこれからの未来。

 俺の中で結論はすでに出ている。

 でもその結論をすぐに出すことはせず、俺はしばしの間、みんなと食事を楽しむことにした。

 

 

――――――☆――――――

 

「うぅ~、飲みすぎちゃいました~」

「そうだな……久しぶりに私も飲み過ぎた」

 

 夜も更け、満月が空に浮かんでいる時間帯、千冬と真耶はおぼつかない足取りを互いに支えあいながら静かな廊下を歩いていた。

 大人がいては楽しめないだろうと思い、二人は一足先に会場を後にした。

 

「みんな……楽しそうでよかったです~」

「そうだな……」

 

 一夏の命を狙う外部組織のトップともいえる亡国機業が滅んだことにより一夏、そして彼を取り巻く戦力の大きさが知られることとなった。

 そして多くの外部組織は悟っただろう―――彼に手を出せば塵一つ残さないレベルで滅ぼされると。

 最強のBT使い、IS装甲を容易に切り裂く一撃、ISを武装として使う存在、世界で唯一の第四世代型IS、外敵を徹底的に叩きのめす黒き殺戮者、未来予知ともいえる分析、そして見えない爆発姫。

 それらの中心にいるのは自信を突け狙うテロ組織の構成員の大半を打倒し、頭目までもを打倒したことで組織自体を壊滅に至らしめた男性操縦者。

 異常なまでの戦力が揃っている集団に手を出す命知らずな存在はいないだろう―――一人を除いて。

 千冬の頭の中には唯一無二の親友の顔が浮かんでいた。

 

(束……お前は私が止めよう……唯一の友人として)

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