Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百九十五話

 エクスカリバー破壊作戦が無事に終わり、日本に帰ってきた俺たちをまず最初に迎えてくれたのはIS学園の学園長やのほほんさんや虚さん、そして弾と蘭だった。

 

「かんちゃ~ん」

「ちょっと……本音…抱き着かないで」

「お嬢様もよくご無事で」

「ありがと、虚ちゃん」

 

 どうやら学園長がせっかく世界を救ってくれたのに迎えの一つもないのは、ということでのほほんさんや虚さんたちを連れてきてくれたらしい。

 弾に関しては虚さんからだろうし、蘭は弾経由だろう。

 

「よぅ! 一夏!」

「弾、来てくれてたのか」

「当たり前だろ? 俺とお前の仲じゃねえか」

「私もいますよ!」

「蘭もありがとな!」

 

 この場にセシリアたち代表候補生たちはいない。

 みな自分たちの国で報告や事後処理などを行ってから日本に合流するということになったので日本に帰ってきたのは俺、箒、楯無さん、簪、そして千冬姉と山田先生だ。

 

「山田先生、織斑先生。此度の戦いの指揮、ご苦労様でした」

「学園長も多方面でのご配慮、感謝いたします」

「無事に帰ってきました~」

 

 俺たちがそれぞれ迎えてくれた人と交流する中、箒が一人でいたのが見えたので彼女を呼ぼうとした時、箒の後ろに見知った女性が見えた。

 その女性は箒の肩を優しく叩く。

 

「ゆ、雪子おばさん!?」

「箒ちゃん、お疲れ様」

「ど、どうしてここに?」

「IS学園の人からお話を聞いてね。お迎えに来ちゃった」

 

 箒は恥ずかしそうにしながらも内心嬉しいのか笑顔を浮かべて雪子おばさんと手をつなぎ、再会を喜ぶ。

 世界を救ったから大勢の報道陣が、みたいなテレビでありそうな光景を思い浮かべていたけど意外と報道陣は塩対応らしい。

 俺たちの帰還よりもネタになる話題は今もいっぱい世界にはあるからな。

 

「京都以来だけどもう体調は大丈夫なのか? あの時はすこぶる悪そうだったけど」

「あぁ、もう大丈夫だ」

「テレビで一夏さんの話を聞いた時はもうびっくりしました。私、来年絶対にIS学園受験します!」

「おう、待ってるぞ」

「はい!」

 

 亡国機業というテロリスト集団が居なくなった今、俺に直接手を出してくる輩もいなくなったし、これからIS学園に入ろうとしてくる子たちも平和にISを学べるはずだ。

 あとは一人、決着をつければ俺自身に関係するすべてが終わる。

 

「ちょっとはゆっくりできるのか?」

「まあな。でもゆっくりするって言っても課題もあるし、家の掃除もあるし、学園の片付けもあるしでやることはてんこ盛りだけどな」

「そっか~。また食堂に食いに来いよ。その時はご飯くらいは大盛半額にしてやるよ」

「お兄」

「じょ、冗談だって」

 

 蘭の睨みとドスがかかった声に弾は縮こまってしまう。

 家の掃除が終わったら今度、千冬姉も一緒に連れて五反田食堂でごちそうになろう。

 そんなことを考えていると時間がやってきたので弾たちと別れ、空港を出ると迎えの車が用意されていてそこに乗ると車が静かに走り始める。

 

「やっと日本に帰ってこれたわね」

「……久しぶりの匂い」

「やることはいっぱいありますけど……まずは学園の復旧ですね」

「学園長の根回しもあり、正式にIS学園の再開が決まった。全体でメールを送信するが年内でやれることは終業式程度だな。もちろん期末試験は行うからしっかりと勉強しておけよ」

 

 千冬姉はそう言いながら特に俺のことを見てくる。

 年内は全て課題で対応してくれるところが唯一の救いなんだけどその肝心かなめの課題の量がエベレスト並みに積みあがっているからやばいんだよな。

 もうすぐクリスマスもあることだし、計画的にやって課題をしっかりと終わらせよう。

 

「織斑先生もしっかり休んでくださいよ~?」

「それは山田先生もな」

 

 その時、車がゆっくりとその速度を落としていくのに気付き、窓の外を見ると前方に俺の家が見えてきたので降りる準備を進める。

 かれこれ二週間近く全く家に入っていないからどんな状態になっているか分からないし、もしかしたらデモ隊の連中が何かしているかもしれない。

 そんな一抹の不安を覚えていたけどどうやらそれは杞憂だったらしい。

 家の前に車が止まり、全体が見えるようになったが特に散らかった様子も見られず、最後に家に帰ってきた時と何ら変わりなかった。

 

「私たちはここで降りる。諸君たちもしっかりと休息をとる様に」

「はい。お疲れさまでした」

「一夏、また学園で」

「あぁ。箒もしっかり休めよ」

「無論だ」

 

 俺と千冬姉が荷物をもって車から降りると扉が閉められ、車がゆっくりと走り出していく。

 車の姿が見えなくなり、家の方を向くとどこか安心感を覚える。

 

「……やっと帰ってこれたんだな」

「一夏」

 

 ふと千冬姉に呼ばれて後ろを振り返ったその時、俺の全身を千冬姉の温もりが包み込んだ。

 京都での戦い以来、ずっと家族らしいスキンシップも取れずに激闘が続いていたことを思い出し、俺も千冬姉の背中に腕を回す。

 織斑に関わる全てのことが解決した今、俺たちはようやく何も心配せずに家族として過ごすことができる。

 それは今までと何も変わらないかもしれないけど確実に俺たちの中では変わることだ。

 織斑の生まれの全てを隠そうと考えを張り巡らせていた緊張感から千冬姉は解放され、自分自身の生まれを理解したうえで俺は千冬姉とこれからを過ごすことができる。

 

「今まで……よく頑張ったな」

「千冬姉こそ……今まで俺を守ってくれてありがとう」

「今までも……これからもお前を守り続けるさ」

「これからは千冬姉も……自分のことを考えながら生きてほしい」

「そうだな……そうしよう」

 

 もう千冬姉を縛るものは何もない。

 これから千冬姉にも自分の幸せのことを考えてもらいたいし、俺のことを第一じゃなくて自分のことを第一にして生きていってほしい。

 それが弟の願いだ。

 家族の抱擁を終え、一緒に家へと入った俺たちがまず向かったのはリビングに置かれている小さな仏壇。

 本当ならちゃんと火葬をしてここにあいつを眠らせてやりたかったんだけどスコールの所為でそれは叶わなくなったので黒式のガントレットを置いてある。

 

「……お前は嫌がるかもしれないけど……ここで休んでくれ。もうスコールもオータムも……亡国機業もこの世にはいない……織斑としてここで一緒にいてくれ」

 

 多分、あの世であいつは殺意マシマシの目で俺を睨んでいると思う。

 でも俺はそれでも構わない。

 あいつに嫌われようが恨まれようがこの世界に三人しかいない織斑として同じ家で同じ場所で、そして同じ空間で同じ思い出を共有したい。

 

「俺の勝手な考えに付き合わせて申し訳ないけど……この恨みつらみはあの世でたっぷりと聞くよ」

 

 何十年後になるかもしれないあいつとの再会を考えながら俺は手を合わせる。

 

「……じゃあまずは」

「家の片付けだな」

「あ、千冬姉は重いもの運んでほしいな」

「わ、私とて洗濯くらいはできるぞ」

「え~。千冬姉って柔軟剤とか洗剤入れずに回すからな~」

「そ、それは使い方を知らないときの話だ」

「しししっ。じゃあ千冬姉には洗濯をお願いしようかな」

 

 そう言い、千冬姉は放置されていた洗濯物を拾い上げて洗濯機の方へと向かっていき、俺は家中の窓を開けてまずは埃をふき取るところから始めた。

 窓を開けると良い風が入ってきて家の中にたまっていたどんよりとした嫌な空気が抜け出ていき、新鮮な空気と入れ替わっていく。

 

「よし……やるか!」

 

 俺は気合を入れ、家の掃除に取り掛かり始めた。

 

―――十分後、洗濯機の方からエラーの音が鳴り響いたのは言うまでもない。

 

 

――――――☆――――――

「お疲れさまでした、束様」

「く~ちゃんもお疲れ~。“あれ”はどう?」

「待機状態に移行しました。イーリス・コーリングはボロボロですが一眠りすればまた使えます」

「うんうん。お人形さんは丈夫じゃないとね~」

 

 束とクロエの二人はとある国の街中を手をつなぎながら歩いていた。

 今や世界中からお尋ね者として探し回られている篠ノ之束が悠々と歩いていても周囲を行きかう人々は気にも留めずに普段通りの生活を送っている。

 

「束様。そのデータは」

 

 クロエがそう尋ねると束はニコニコと笑顔を浮かべながらモニターに映し出されていたデータを空間投影へと切り替えてクロエにも見えるように表示する。

 そこにはとある機体のスペックデータが詳細に表示されている。

 

「紅椿もスペックですか?」

「ん~、おしい。これは紅椿であって紅椿ではない……言うなれば紅尽(あかつき)

「紅尽……」

「紅椿はあくまで仮の姿。醜い肉塊を殺すための外郭に過ぎないんだ……データはもう十分に揃ったし、そろそろ起動させようかなって」

「ついに……束様の悲願が成就する日が来るのですね」

「そうだよ~。ワンダフルでビューティフルな世界がやってくるのさ」

 

 紅尽完成のために今まで束は暗躍を続けてきた。

 入学祝いにお手製のISスーツを送るところから始まり、クラス別トーナメント戦でのゴーレムの襲撃、臨海学校での紅椿お披露目と実践データの採取。

 ゴーレムⅡの襲撃、そして亡国機業によるエクスカリバー騒動もそう。

 全ては紅尽完成のために舞台装置であり、世界は束にとっての大きな実験場に過ぎない。

 

「紅椿はじきに目覚めるよ……すべてを終わらせるためにね」

「……ではなぜ、束様は今の行動を行っているのですか?」

「良い質問だね~」

「むにゅっ」

「あいつの周りにはうざったい奴らがいるからね……排除しやすくするために頭数は用意しておかないとさ」

「にゃるほど」

 

 頬をむにゅむにゅと揉みくちゃにされながら歩いていると目的の場所にたどり着いたのか歩みを止める。

 束の目の前には宮殿が聳え立っており、警備兵が腰に銃を装備して厳重に警戒しているのだが彼らのすぐ近くにいる束には一切気に留めない。

 束はニコニコと笑みを浮かべながらクロエの手を握り、門へと歩き始めると警備兵たちは慣れた手つきで門を開き、彼女を宮殿内へと通す。

 ここは東欧の小国―――ルクーゼンブルク。

 ISのコアとなるレアメタルが豊富に採掘される世界で唯一の場所なのだがコアを創れるのは束のみとなっているので実質、束の取引相手ともいえる。

 

「大きな建物ですね」

「そう~? 古臭い建物だよ」

 

 長い廊下を歩き続ける間にも何人もの宮殿関係者が束の姿を確認するのだが誰も彼女の歩みを止めることなく一切触れることもしない。

 まるでそこにいない扱いをしているかのように。

 束は悠々自適に歩いていると一際大きく、そして荘厳な作りをしている扉の前に立つと彼女は慣れた様子でその扉を強く蹴り開ける。

 扉が開かれ、目の前に広がる景色を目の当たりにしてクロエは少し驚いた表情を浮かべる。

 そこにはこの国のトップを務める男性、そして多数の部下らしき男性たちは膝まづきながら待機しており、一人の男性が布を被せた箱を束へと差し出す。

 

「お納めください……篠ノ之束様」

 

 束は男性の言葉などに耳を貸すこともなく布を取り払うとそこにはISコアの材料となるレアメタルが大量に入れられており、輝きを放っていた。

 だが束は不満げな表情を浮かべる。

 

「ねえ。先月よりも数、少なくないんじゃないかな?」

「申し訳ございません。エクスカリバー騒動の煽りを受けまして我が国でも暴動がありました故、そちらの対処を優先的に」

「はぁ?」

 

 彼女の不満に満ちた声が宮殿内に響いた瞬間、天井を突き破って一機の無人機が降り立ち、無機質な音を立てながら束の近くにいた男性を軽く殴り飛ばす。

 無人機によって殴り飛ばされた男性はいとも簡単に吹き飛んでいき、窓ガラスを突き破ってそのまま断末魔を上げながら落ちていった。

 そんな悲惨な光景を目の当たりにして周囲の男性たちが次々と束に許しを請うように頭を下げ始める。

 

「お許しください束様!」

「ご慈悲を!」

「王様」

「は、はい。ここに」

「君たちの存在価値はなに?」

「束様に時結晶(タイム・クリスタル)を収めることであります!」

「だよね? そのためにこの束さんが無人機を何機も渡してるよね? だから今回のエクスカリバーの騒動でも一瞬で暴動を鎮圧できたんだよね? 誰のおかげでこの国の内情が外に漏れないようになってるの?」

 

 怒りを滲ませながら束は王を蹴り倒すと腹部を踏みつける。

 周りの男たちは王が殺されないようにと祈る様に必死に束に許しを請うように声を上げる。

 

「束さんのおかげでこんなちっぽけで辺鄙な国が今の今まで生き残れてきたんだよね?」

「さ、左様でございます!」

「じゃあ時結晶を束さんに収めることを最優先にして動いてくれないと困るんだよね」

「も、申し訳ございません。以後このようなことはっっ……ないようにいたします!」

「次同じことがあったら……この国の政治家、全員殺して私が支配するから」

 

 束はそう告げるとともに王から降りると脇腹を蹴り上げ、背を向けると時結晶を回収し終えたクロエが彼女の傍へと駆け寄ってくる。

 クロエの頭を優しく撫でると束は扉を抜け、外へと出る。

 

「束様の命令を二の次にするなど愚の骨頂。極刑がふさわしいです」

「流石はく~ちゃん。わかってるねぇ~」

「それほどでもです」

「ふふふっ」

 

 束は先ほどとは打って変わってニコニコと笑顔を浮かべながらクロエとともに歩んでいく。

 このルクーゼンブルクは既に束によって支配されており、時結晶を採掘するためだけに存在しているようなものだった。

 だから国民は束が我が物顔で歩いていても何も言わないし、何もしない。

 何故ならこの国の真の支配者は彼女なのだから。

 ルクーゼンブルクは時結晶を束に収め、束は渋々無人機を提供することによってこの国は周囲の外敵から身を守ることが出来ている。

 逆を言えば無人機が国を囲っているが故に表の世界では決して名は売れず、誰もこの国の内情に気付くものは存在しない。

 

「さ~てと次の場所に行こうか」

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