Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第百九十六話

「ふむ……ふむふむ」

「あの……篝火さん?」

「む? どうした? 少年」

 

 自宅の片付けも無事に終わり、IS学園へと帰ってきた俺だったがまさかの篝火さんに捕まってしまい、そのまま学園の整備室へと連れ込まれた。

 篝火さんはどうやら俺に用事があったらしく、IS学園にやってきたとのこと。

 そんな彼女は今、目の前に展開している新たな主要武装である夕凪を前にして唸っていた。

 

「さっきから何唸ってるんですか?」

「いや……有り得ないなって」

「何がですか?」

「君のISだよ。初期の主要武器は雪片弐型だったのに今は夕凪という剣に変わっている」

「よくあることじゃないんですか?」

「持ち変えることはよくあること。でも“全く別物への再構成”はないんだよ」

 

 篝火さん曰く、ISの主要武器は基本的に第二形態移行などを経たとしてもその性質などは大きく変わることはないらしく、再構成されたとしても初期の面影は残るらしい。

 でも俺の場合は雪片弐型という剣から全く別物の夕凪へと再構成された。

 それはあり得ないことらしい。

 

「例えば更識楯無の専用機である霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)―――霧幻の深淵(アビス・マーレ)は当初、ナノマシンで構成された水を使用していた。それを攻撃やヴェールとして運用していたけど第二形態移行を経て水はミストへと姿を変えた。でもナノマシン入りという括りでみれば同じなんだよ」

「はぁ」

「ほんと、つくづく君は私を普通と証明してくれるよ」

「どうも……で、俺に用事があるとか」

「あ、そうそう! エクスカリバーの戦い以来、O.V.E.R.S.はどうかな?」

 

 篝火さんに言われるまでO.V.E.R.S.の存在のことをすっかり忘れていた。

 俺は白式のコンソールを開いてみるがキチンとO.V.E.R.S.は組み込まれており、白式の処理系統にも問題は一切起きていない。

 正直、スコールとの決着をつけられたのもこのO.V.E.R.S.の存在があったからともいえる。

 

「問題はないです。もしかして返さないといけませんか?」

 

 あの戦い以後、O.V.E.R.S.を装着していた面々は篝火さんに返却していたんだけどあの戦いのゴタゴタの中ですっかり忘れてしまっていた。

 篝火さんは俺が呼び出したコンソールに映し出されている数値を見ながら小さく頷く。

 

「いんや、このまま君が持っていると良い」

「え? 良いんですか?」

「いいよ。もちろん公式の試合では使えない代物だから緊急事態用としてね」

「ありがとうございます。出来ればその緊急事態には遭遇したくないんですけどね」

「ま、亡国機業が滅んだ今、まだマシにはなると思うよ」

「だと良いんですけど」

「じゃ、私は帰るよ」

「あ、そこまで送りますよ」

 

 篝火さんと一緒に整備室を出て来客用の出入り口へと向かうが相変わらずISスーツの上から白衣を着て銛を持っているという彼女の奇抜な格好は理解できない。

 天才と天災は紙一重だと思うけど篝火さんはギリギリ前者だろう。

 でも彼女は普通を望み続ける。

 

「学園も人がいないと静かだねぇ」

「まだ休校期間中ですからね」

「いつから再開するの?」

「一応、年内は終業式だけするみたいで、定期試験はオンライン上で実施するみたいです」

「はは~ん。カンニングし放題の形式だね。私も学生のときはよくやったよ」

「って思うでしょ? 最初から持ち込み可なんですよね~」

「あ~……ご愁傷様」

 

 この前、定期試験に関する一斉メールが届いたんだけどそこに書かれていたのは全科目オンライン上で実施するということと全ての試験において持ち込みが可能だということ。

 言葉尻だけを捉えればこれ以上に嬉しい言葉はないが裏を返せば持ち込みでもしないとまともに点数が取れないと言っているようなもの。

 

「篝火さんはクリスマスとかは研究所に缶詰ですか?」

「色々と進めているものもあるしね」

「へ~。たとえば?」

「次世代型汎用ISの開発かな。フランスではリヴァイヴのバージョンアップ計画が打ち出されて政府の支援も決定したみたいだからね。打鉄もそろそろバージョンアップを図らないと国際競争に負けてしまうのさ」

 

 フランスのバージョンアップ計画の基盤となったのはシャルのリヴァイヴにおける稼働データ、そしてコスモスと融合したリィン=カーネイションの稼働データだろう。

 発表された計画では五年以内にリヴァイヴのバージョンアップを図り、第三世代相当の機体性能を実現させると言われている。

 

「ん? じゃあ打鉄のバージョンアップのためのデータはどこから?」

「君のデータを拝借したのさ」

「あ、そうなんですか」

「学園どころか世界を見渡しても君ほどの潤沢で質も素晴らしい戦闘データは見当たらない。それに君の白式には色々と積んでいるからね」

超加速推進機(アクセル・スラスター)、ですよね」

「そう。さすがにあれをそのまま搭載するのは使い手が限られるからね。汎用的に使えるまで性能を落として打鉄に組み込む予定だ」

 

 超加速推進機(アクセル・スラスター)にもどれだけ助けられたか分からないし、これからのISの発展のためだったら俺のデータくらいはいくらでも使ってほしい。

 ただ不安なのは大きすぎる力は時として人を傷つけてしまう。

 汎用機体に超加速推進機(アクセル・スラスター)という大きな力を搭載するとそれは果たして汎用機体と言えるレベルの性能なんだろうか。

 

「君の不安も分かるよ」

「え?」

「ただの汎用機体に超加速推進機(アクセル・スラスター)という大きな力を組み込めばそれは汎用的と言えるだろうか? そう考えているんだろう?」

「……正直に言えば」

「安心したまえ。使用時間は君の半分にするし、最高到達速度も何段階も落とす。言ってみれば瞬時加速(イグニッション・ブースト)に変わる高速機動システムになる予定だ」

「そうですか……」

「私は普通だからな」

 

 いつのまにか来客用の出入り口に到着し、篝火さんが受け取れと言わんばかりに淡水魚を渡してくる。

 少し考えた後に仕方がなく受け取ると篝火さんは満足そうに笑顔を浮かべ、俺に小さく手を振りながらペッタペッタと奇妙な足音を立てながら学園を後にした。

 

「……世界は平和になるんだろうか」

 

 

 

――――――☆――――――

「まさか本当に会いに来てくれるなんてネ」

「私は一度言ったことは守る主義でな」

 

 今、千冬がいる場所はIS関係する犯罪を犯した者だけが収監される刑務所であり、彼女が面会している相手は元イタリア代表で元二代目ブリュンヒルデのアリーシャ・ジョセスターフ。

 ある程度、自由が保証されているのか彼女の膝には愛猫のシャイニィが静かに寝息を立てている。

 

「居心地はどうだ?」

「うむ。罪人にしては随分と住みやすいネ。一日一時間ほどの事情聴取が終わればその後は刑務作業をやってそれも終わればあとは自由気ままに、だネ」

「お前であれば刑務作業などものの五分で終わるだろう。一日、何をして過ごしているんだ」

「最近はもっぱら本を読んでいるサネ。ここのところ読書に没頭するなんてことをしてこなかったからネ。織斑千冬は電子書籍派か? それとも書籍派か?」

「私はどちらもだ」

「風情がないネ。私は断然、書籍派だヨ」

「そうか」

 

 その後も他愛のない話が続くが二人の間に会話が尽きることはなく、やれシャイニィの寝顔が、やれ義理の妹が一気に七人も増えた、など最近の話がとめどなく二人の間を行き来する。

 それはまるで長年の友人のような会話だった。

 千冬の表情はどこか満足げな表情をしており、これこそ彼女が望んでいた対等な友人関係かもしれない。

 

「スコールは死に、オータムも死んだんだネ」

「まあな。レイン・ミューゼルとフォルテ・サファイアはどうした? 同じ刑務所だろう」

「あの二人は知らないサ。これでも私は模範囚なのさ」

「そうか……アーリィ。一つ聞きたいことがある」

「なにサ?」

「束は何を企んでいる」

 

 ずっとシャイニィの頭をなでていたアリーシャの手が止まり、もっとなでろと言わんばかりに主人を見上げるとシャイニィは小さく泣き声を上げる。

 

「私も向こうにいるときに篠ノ之博士と話をしたのは数回だけサネ。あいつが何を考えているかなんてこれっぽっちも分からなかった」

「そうか」

「ただ……ろくでもないことを企んでいるのは確かさネ」

「……」

「あいつは……私から風を奪ったのサ」

 

 後ろに手記係の看守がいることからなのかアリーシャは直接的な表現を避け、まるで詩のような表現をするが千冬はそれを一瞬で理解する。

 言い換えればテンペスタから単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)である疾駆する嵐(アーリィ・テンペスタ)を奪ったということ。

 普通に考えればそのようなことは出来るはずもないのだがISを生み出した稀代の天才であり、天災となった彼女の手にかかれば朝飯前なのだろう。

 

「織斑千冬も気をつけな……あいつはお前が知っている存在じゃないかもしれない」

「……」

「そうだな……気を付けるとしよう」

 

 そう呟く千冬の表情は先ほどとは打って変わってどこか悲しそうなものだった。

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