Re.インフィニット・ストラトス    作:kue

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第十八話

 入院生活も終わりに差し掛かろうとしたころ、病室にお客さん―――セシリアがやってきた。

 セシリアの手には授業内で進んだ内容の共有や連絡事項などクラスのことをまとめたプリントやノートが大量にあった。

 そんなセシリアはなんともう片方の手にフルーツバスケットを持っており、景気づけにと日本人好みのサンドウィッチや本場イギリスのものまでレパートリー豊富に持ってきてくれた。

 ここ最近は点滴による栄養補給だったからこれは非常に助かる。

 

「いつも助かるよ、セシリア」

「そ、それほどでもありませんわ! それより一夏さん、お体の方は?」

「おう、もう怪我らしい怪我はないぜ。明日、診察を受けて許可が出れば退院だ」

「まあ! それは良かったですわ! きっとクラスの皆さんも喜んでくれますわ」

 

 セシリアの情報によるとあの一件に関することについては緘口令が敷かれており、観戦していた生徒たち全員が誓約書を書いたという。

 そしてあろうことかスクープを取ろうとしたのかある噂好きの1年生の子が嗅ぎまわっているのを千冬姉に見つかり、謹慎処分になったとか。

 

「で、今セシリアは何してるんだ?」

「はい! イギリスといえばアフタヌーンティー。ぜひ本場の味を一夏さんにも味わっていただきたいんです」

 

 そう言いながらセシリアはまだ湯気が立っているポットを前にし、ティーポットを持っていくが何故かそこで動きが止まってしまった。

 彼女の頭には見えないが疑問符が大量に浮かんでいるだろう。

 

「セ、セシリア?」

「な、なんでもありませんわ! オホホホホッ!」

 

 セシリアは口に手を当て、わざとらしく演技たっぷりな笑い声をあげるが再びポットの前で止まる。

 察するに彼女は目の前のポットの使い方を知らないのだろう。

 

(かと言って俺が口出したらせっかく準備してくれてるのに水差すことになるしな~)

 

 ジーッと見ているとボタンに書かれている表現でなんとなしに理解したのかロック解除ボタンを押し、お湯注ぎボタンを押すとティーポットに向かってお湯が落ちていく。

 沸いたばかりからか熱そうな湯気が立ち上る。

 

「少々お待ちくださいな、いちあついっ!」

「大丈夫か!?」

 

 どうやら自動で止まると思っていたらしくボタンを押してそのままにしていたためにティーポットからお湯が溢れてしまい、熱湯がセシリアの綺麗な指にかかってしまう。

 反射的に離してしまったことでティーポットは床へと落ち、熱湯をぶちまけてしまうが高さがそんなに高くも無かったために割れることはなかった。

 

「大丈夫か? 火傷したんじゃ」

「こ、これくらい大丈夫ですわ」

「見せてみろよ」

「っっっ―――い、一夏さん」

 

 セシリアの手を取り、お湯がかかった指を見てみると赤く腫れあがっており、すぐに冷やさないと水ぶくれになってしまいそうだ。

 俺はセシリアの手を取り、近くの蛇口から水を出し、ゆっくりと指を冷やしていく。

 

「ちょっとの火傷でも気をつけないと水ぶくれになるからな……セシリア?」

「は、はひぃっ!? な、なんでしょう!?」

「いや……黙ってたから……もしかして痛いの我慢してるんじゃ」

「そ、そんなことはありませんわ!」

 

 セシリアはぶんぶんと首を左右に大きく振り、否定する。

 顔が少し赤いのが気になるが嘘をつくような性格でもないので信じることにした。

 ある程度、冷やして腫れがひいたのを確認してからセシリアと共に備え付けの雑巾でぶちまけてしまった床を綺麗に拭いていく。

 

「申し訳ありませんわ」

「なにがだ?」

「せっかく一夏さんのお見舞いに来たというのに……一夏さんに働かせてしまって」

「何言ってんだ。これくらいは何ともないし、寝てばっかだから体動かせてありがたいくらいだぞ?」

 

 そんなことを言いながら床を吹いているときにセシリアの手と俺の手がぶつかる―――直後、見たこともない速さで手がひかれ、俺の視界から彼女の手が消えた。

 顔をあげてみると恥ずかしそうに照れているセシリアの姿があった。

 

「セシリア?」

「……」

「セシリアー?」

「……手が」

「セシリアさーん?」

「は、はひぃっ!?」

 

 ようやく俺の声が耳に届いたのか素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……私は大丈夫ですわ……あ、あのサンドウィッチを」

「お、そうだな」

 

 床も綺麗に拭けたのでセシリアが持ってきてくれたサンドウィッチを食べるためにベッドへと戻り、フルーツバスケットの蓋を開けるとそこには色・形ともに美しいサンドウィッチが並んでいる。

 ただ、余りにも綺麗に並べすぎて若干違和感を感じるのは秘密だ。

 

(……もしかしてレシピ本の通りに角度計算したのか?)

 

 バスケット内の並べ方は通常の食事の際には見ない形をしており、どちらかというとレシピ本の様に見栄えを良く見せるための並べ方をしている。

 完全理論派のセシリアならばやりそうなことだ。

 

(でも大事なのは味、だよな)

「さ、お召し上がりくださいませ♪」

「どれから食べようかな~」

 

 パンに挟んでいる具材は見るからに卵・ベーコン・チーズなどの王道具材もあればサンドウィッチでは見慣れない緑色の何かも挟まっている。

 

「セシリア、この緑色は?」

「それはきゅうりですわ」

「きゅ、きゅうり!?」

「はい! その昔、イギリス貴族はきゅうりに強いあこがれを持ち、そこからキューカンバーサンドイッチが生まれたとされておりますの!」

 

 確かにそう言われると日本ではあまり見ないセットに俺は強い興味を抱いた。

 王道のベーコンや卵のサンドも良いがまずはキューカンバーサンドウィッチを食すとしよう。

 

「いただきまーす!」

「めしあがれ♪」

 

 語尾に音符が付きそうなくらいに上機嫌なセシリア―――だが俺はそんなセシリアに謝らなければいけないのかもしれない。

 正直に言えば―――

 

(あ、味がない……キュウリの瑞々しさはしっかり感じられるから素材は良い……良いんだけど本当に何の味もしない。マジでこれ、パンにキュウリ挟んでいるだけだ)

「どうですか? 一夏さん」

 

 俺が一口食べて黙っている様子に不安げな声色と若干の涙で潤った上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。

 普段の凛々しい彼女とは違い、まるで子犬の様な可愛さがあった―――あったんだがパンinキュウリの衝撃が強すぎて俺の頭は爆発一歩手前だ。

 

(多分、塩とか故障とか使って多少なりとも味付けをするんだろうけど……皆無だな)

「では続いてジャパニーズサンドウィッチのエッグサンドをどうぞ!」

「…………」

「一夏さん?」

「あ、あぁ貰うよ」

 

 セシリアが持ち上げたエッグサンド。上のパンは綺麗なんだがよく見ると下のパンは卵の黄身をこれでもかというくらいに吸っていてジュワジュワだ。

 恐らく卵を焼いたは焼いたんだろうが半熟、もしくはほとんど火が通っていなかったんだろう。

 

(まぁ、パンに黄身をひたして焼く料理もあるからそれはいいんだけど……パンから滴り落ちてるぞ)

 

 ちょん、ちょん、とパンでは吸いきれなかった黄身が滴り落ちている。

 俺はセシリアから受け取り、黄身のしずくを落とさないように気をつけながら一口で頬張り、もしゃもしゃと租借をするがパンの素材の味と黄身のほんのりとした味しかしない。

 

(まるでフレンチトーストの下ごしらえの素材を食べてる気分だ)

 

 不味くはない―――これでも俺は料理の腕には絶対な自信を持っており、美味しくない料理には美味しくないと言うようにしている。

 それが料理人への礼儀だと俺は思っている。

 でもセシリアの料理は美味しい、や不味い、の次元ではない―――無。

 そう、何も無いのだ。

 料理の奥に隠れている素材を租借し、噛みしめながら探すことを楽しむ時間も無ければ純粋に味を楽しもうとする意欲も出てこない。

 

「では続いてチーズサンドをどうぞ」

 

 流石にチーズサンドは大丈夫だろう。なんせチーズなのだから。

 そう思いながらセシリアから受け取ったサンドウィッチを一口食す。

 

(……チーズと言われたらチーズだ……ただ……なんだろう。このピザ感半端ない感覚は)

「セシリア。どんなチーズを使ったんだ?」

「はい! 購買で探していましたらこのようなチーズがありましたの!」

 

 ゴソゴソと手荷物から出してきたのは思いっきり挿絵にピザの絵が描かれたピザチーズ。

 そう。パンの上に乗せてケチャップなどをかけてオーブンで焼くとピザ風のトーストが楽しめるというあのピザチーズだ。

 どうやらセシリアはそれを普通のチーズと勘違いしてしまったらしい。

 

(まぁ、食べれなくはないな……ほとんどパンの味しかしないけど)

「では最後は私オリジナルのサンドウィッチですわ!」

「……」

 

 どうやらさっきまでのレパートリーは彼女の中では既製品の扱いらしい。

 最後に出てきたのは何の変哲のないベーコンサンド。

 まず違うのはとてつもなくバニラエッセンスの香りがする―――本来、バニラエッセンスは香りづけやソースやドレッシングに隠し味として使うことで甘さと香りに深みを出すもの。

 ここまでバニラエッセンスが己の存在を強調しているのは見たことがない。

 

「さ、どうぞどうぞ♪私の自信作ですわ!」

 

 そしてもう一つ。パンから姿を覗かせているベーコンに塩らしき白いものが振りかけられているんだが俺の脳が『それは塩ではなく砂糖だ!』とサイレンを鳴らしている。

 チラッとセシリアの方を見ると不安そうな表情をし、祈るように手を組んでいる。

 

(料理人として正直に評価を伝えることは重要だ……でも、男たるもの女を泣かせてはいけない。俺の生きざま、見せてやる!)

 

 セシリアからそれを受け取り、もしゃもしゃとそれを租借するととてつもない甘さが喉を通っていくが通過するたびに胸やけに近いものが引き起こされる。

 恐らくベーコンにバニラエッセンスを油の様にかけて焼いたのだろう―――しみ込んでいる。

 

「ど、どうですか?」

「……ごっくん……う、美味かったぞ」

 

 その瞬間、セシリアの表情が一気に明るいものへと変貌する。

 

「それはよかったですわ! やはりわたくしの料理の才能は確かですわ!」

「こ、今度俺もセシリアに料理をごちそうするぞ」

「はい! 楽しみにしていますわ!」

 

 そう言い、セシリアはご機嫌上機嫌ルンルンの舞を踊りながら笑顔をのぞかせた。

 

 

 

 

――――――☆――――――

「ふふん♪」

 

 いつも以上に上機嫌に、時折スキップを織り交ぜながらセシリアは寮への道を歩いていく。

 時間は30分ほどだったがセシリアにとってはこの上ない幸福の時間だった。

 一夏と一緒に入れる時間が、一夏と同じ気持ちを共有できる瞬間が、そして一夏に触れることが出来る瞬間がこの上なく彼女に幸福をもたらしていた。

 

「一夏さん」

 

 彼の名を呼ぶと自然と胸が高鳴る。

 

「一夏さん」

 

 幸せをかみしめるように少女は歩んでいく―――彼女が自身の思いに気付くのも近いのかもしれない。

 

――――――☆――――――

 

「答えてもらおうか……我々は篝火ヒカルノとの面談を要求したはずだが」

「そ、それがですね……その……えっと……所長はですね……漁に出かけました」

「舐めているの貴様」

「申し訳ございません! 私は所長を連れてこようとしたんですが逃げられてしまいました!」

 

 恐らく営業部門の職員であろう女性が大粒の涙を流し、げっそりとした表情を隠すことも無く惜しみも無い土下座を千冬に披露する。

 これほどまでにきれいに土下座に移行した人物はなかなかいないだろう。

 

「……で、篝火ヒカルノから渡された物を使って白式を整備すると」

「はい……所長が織斑様から提供していただいた映像を基に作成されたISソフトウェアとパーツの方を持ってきましたのでぜひとも我々の方で整備をさせていただきたい所存であります」

 

 確かにIS学園の整備科の生徒では白式の損壊を修復できないという結論が出ている以上、白式の開発・最終調整を行った企業に任せるほかない。

 

「所長からこのパーツを使って白式を修繕してこないと社宅に入れさせないと漁に行く直前に言われたので許可を頂くまで土下座を辞めません!」

「貴様は悪徳セールスマンか……断るつもりはない。我々ではこれ以上進まない……整備の方、よろしくお願いします」

 

 千冬がそう言うや否や営業マンの女性はパァッと表情を一気に明るくし、感涙の涙を流しながら千冬の両手を握りしめ、何度も頭を下げる。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! これで社宅に帰れます!」

 

 営業マンの女性はすぐに指示を飛ばし、現場スタッフが台車でいくつものパーツを白式が担ぎ込まれた室内へと入っていく。

 

(白式はもともと倉持技研が開発したが欠陥機として凍結されていた……それを束が完成させた……のちに最終調整を篝火ヒカルノが行った……あのバカはともかく……)

 

 白式があの戦闘で発揮した超高速戦闘ともいえる挙動は通常のスラスターなどのパーツでは実現することはできないもの。

 一夏が土壇場で成功させたと考えるよりも様々な機能を隠れ蓑にし、姿を隠していたところを一夏が引っ張り上げたと考えるのが自然だ。

 

(どいつもこいつも何故、一夏を戦場に駆り立てる)

 

 千冬が危惧している状況がもうすぐそこまで来ていた。

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